スーファミ版『幽☆遊☆白書』と“放課後暗黒武術会”に学んだ、「面白ければ支持される」という忘れがちなこと

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2019年04月21日 08:11  リアルサウンド

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 「面白い」は、強く、すべてに優先する。今回の記事では、このシンプルな、しかし忘れがちなことを痛感した思い出話をしたい。あれは私が小学生の頃。まだゲームは家庭用ゲーム機、スーパーファミコンが主流だった時代の話だ。私は1本のゲームと出会い、「面白い」の強さを知った。ナムコの『幽☆遊☆白書』(1993年)である。


(参考:『スターフォックス64』が教えてくれた“対戦”の楽しさ 学校の看板を賭けた隣町の少年との勝負


 90年代ジャンプ黄金期を支えた大ヒット作であり、今日でも強烈な影響を与え続けている『幽☆遊☆白書』。霊界探偵の浦飯幽助が、個性豊かな妖怪たちと戦うジャンプの王道的バトル漫画であり、冨樫義博先生ならではのダークなスパイスも効いた説明不要の傑作だ。本作はそのゲーム化作品である。バトル漫画が原作であるから、もちろんジャンルは対戦ゲームだ。当時は対戦格闘ゲームが大流行しており、同じくジャンプで連載していた『ドラゴンボール』の対戦ゲームなども既に存在した。私は対戦ゲームが当時から苦手だったのだが、『幽☆遊☆白書』は大好きだった。ゲーム単体というより“『幽☆遊☆白書』に関する何か”として、どうしても欲しくなり、『ミナミの帝王』の負債者ばりに両親に土下座。発売日には手にすることができた。


 そして開封の日。今では信じられない話だが、私はこのゲームが対戦形式らしいという情報以外、どういうゲームかほとんど把握していなかった。「『幽白』のゲームが出るらしい」と知ったときから、恐らく既存の対戦格闘ゲームに近い形だろうと(ネットもない時代で、ファミ通も読んでいなかった)勝手に予想していたのだ。しかし……実際にゲームを起動してみて驚いた。全然違ったのである。それは生まれて初めて触れるシステムであり、それ以降も触れることのない極めて独特なシステムだった。


 本作は「ビジュアルバトル」というシステムを採用している。しかし、このシステムを文字だけで完全に説明するのは非常に難しい。正直、YouTubeでプレイ動画を見てもらうのが一番だろう。ざっくり説明するなら、対戦格闘ゲームでありながら、『ストリートファイター』のような格闘ゲームではなかったのだ。ゲーム上には自分と対戦相手の絵が表示され、ゲージが溜まれば何らからのアクションを行えるようになり、コマンド操作によって攻撃/防御/必殺技を出し合う。プレイ感は対戦格闘ゲームよりもコマンド選択/ターン制のRPGに近い。あまりに触れたことがないスタイルのゲームだったので、最初はかなり戸惑った。自由に遊ぶには覚えることが多く、まずは独特なシステムを理解し、自キャラ/敵キャラの技を覚え、相手の行動を先読みすることが求められた。「難しい」「分かりづらい」そう思ったのは事実だ。それでも続けられたのは、原作の再現度の高さと、つまるところ面白かったからだ。今でも昇竜拳が出せない私だが、このゲームの技は出せた。覚えることは多いが、操作性はシンプル。このバランス感覚に救われた。ストーリーモードの難易度も程よく、クリアしたときは思わずガッツポーズをした記憶がある。


 そして、このゲームを面白いと感じたのは私だけではなかった。大ヒット漫画のゲーム版であるから、もちろん同級生たちも本作をプレイしていた。彼らも買った当初は一様に「難しい」「ワケわからん」と不満を口にしていたが、気がつけば互いに攻略法をシェアするなど、やり込むようになっていた。見事なまでの手のひら返しである。しかし、この変化を目撃したとき、私は「面白い」ということの強さを痛感した。やがてゲーム熱はクラスを覆い、対戦格闘ゲームらしく、放課後に誰かの家で集まって「大会」が開かれるようになるのだが……。これが悲劇の始まりだった。


 『幽遊白書』には“暗黒武術会”というイベントが出てくる。幾つかのチームがトーナメント形式で命を賭して競い合う、ジャンプ伝統芸のトーナメントだ。ゲーム版も、この暗黒武術会がメインになっているのだが、アニメや原作では主人公らのチームは完全なアウェイ扱いを受ける。会場を埋め尽くす観客たちは「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!」とコールを送るわけで、この物騒な言葉遣いも私たちの心を掴んでいたのだ。当然、放課後の暗黒武術会は、誰かの家で小学生男子たちが「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!」と騒ぐ狂気の空間と化した。みんな『幽白』が大好きで、純粋に「コ・ロ・セ!」コールで盛り上がりたかった、それだけだったのだ。しかしピュアな小学生に対し、毎日毎日「コ・ロ・セ!」と猛り狂う子どもを見た親たちが、「大丈夫かよ」と心配するのは当然だった。しょせんは小学生である。親の命令と圧力は絶対だ。「うちはダメだよ」「〇〇の家も無理だって」放課後暗黒武術会は開催場所を失い、誰もが保護者への不満を口にしたが、やがて自然消滅してしまった。今でも思い出すと少し悲しい気持ちになる。


 今になって思えば、子どもが10人くらい集まって「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!」と拳を突き上げながら騒いでいるのを目撃したら、親が心配するのはわかる。同じく暗黒武術会に影響され、劇中に登場する“ナイフエッジ・デスマッチ”を実際にやった同級生もいたので(開始10秒で両選手の「痛い」という申し出でノーコンテスト)、子を守る“保護者”としてやるべきことをやったともいえるだろう。しかし、もう少し許してほしかったなと思うのも事実だ。きっとこの問題に正解は出ないだろう。ただ、ゲーム『幽☆遊☆白書』が複雑で独特なシステムをしていたにも関わらず、私を含めた子どもたちの心をガッチリ掴んだこと。面白ければ支持されるということだけは間違いない。


(加藤よしき)


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