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USJ、変動価格制でGWの入場券8900円に…利益&顧客満足の極大化で再成長へ

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2019年04月21日 09:11  Business Journal

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写真ユニバーサルスタジオジャパン(「Wikipedia」より)
ユニバーサルスタジオジャパン(「Wikipedia」より)

 わが国では、これまで経済環境を反映して価格を変化させる、いわゆる「ダイナミック・プライシング(変動価格制度)」という発想はほとんどなかった。メーカーや小売業者など(供給者)が希望する価格の固定水準を設定し、消費者はそれを受け入れてきた。セール等の影響はあるが、価格は一定であることが多い。それがわが国の常識だった。


 しかし今、価格に関する常識が、大きく変化している。需要の動向に応じて、価格を変化させるダイナミック・プライシングへの注目が、急速に高まっている。


 大阪にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の取り組みは、ダイナミック・プライシングを考える良い例だ。2004年に、USJは存続の危機に立たされた。その後、米大手投資銀行の下でUSJは再建を進めた。入場者数は増加傾向を維持している。その上で、さらなる収益の獲得のために、USJはダイナミック・プライシングに注目し、導入した。


 冷静に考えると、ダイナミック・プライシングは、経済合理性にかなった部分がある。同時に、わが国では価格が変動することになじみが少ない。特に、人々は値上げに対して強い抵抗感を持っている。企業がダイナミック・プライシングという新しい発想を用いて成長を目指すためには、いかにして消費者などの納得感を得るかが重要だ。


●ダイナミック・プライシング導入でさらなる成長目指すUSJ
 
 USJはよくここまで経営を立て直したものだ。2001年に開業したUSJは、初年度こそ約1100万人の入場客を集め、滑り出しは好調に思われた。しかし、その後、急速にUSJの入場者数は減少した。火薬使用量の超過や期限切れ食材の使用といった不祥事の発覚が経営悪化に追い打ちをかけた。
 
 当時、USJに行ったことのある学生によると、「テーマパークとしての活気は停滞し、なんとなく雰囲気も暗かった」とのことだ。当時のUSJは、官民からの出向者が運営を担当する“寄合所帯”だった。見方を変えれば、魅力あるテーマパークを目指し情熱を傾ける人材がいなかった。その結果、テーマパーク運営は迷走した。


 2009年以降、USJは米ゴールドマンサックスの傘下に入り、再建を進めた。アトラクションの新設などが人々の心をつかみ、2013年度の入場者数は1000万人台を回復し、業績も右肩上がりの展開に回帰した。


 USJがさらなる成長を目指すためには、入場者数を増やすことや、客一人当たりの単価引き上げが重要だ。その結果としてUSJの売り上げが増加し、収益性がさらに改善すれば、より積極的に設備投資を行い、テーマパークの魅力を高められる。USJはこの目的を達成するために、ダイナミック・プライシングに着目した。


 テーマパークに行く際の動機は十人十色だ。また、企業が設定した入場料金が、すべての入場者にとって納得のいくものとも限らない。チケット代が安いと思う人もいれば、高いと思う人もいる。USJが人それぞれに異なる入場の動機に配慮するために、ダイナミック・プライシングは有効な策といえる。ポイントは、価格が変動する=一定ではないということだ。価格が変動することにより、消費者は自分自身に合った行動をとりやすくなる。その効果は大きい。1月、USJが変動価格制を導入し事実上の値上げに踏み切った後、入場者数は大きく減っていないようだ。


●USJが変動価格制度に着目した理由
 
 ダイナミック・プライシングは、経済学の基礎である需要と供給の関係を体現した価格設定の発想だ。需要が増えれば、価格は上昇する。一方、需要が減少し供給超過の状態が発生すれば、価格は下落する。この考え方を踏まえると、USJは需給メカニズムに基づいて、より最適な経営資源の配分を行うために、ダイナミック・プライシングを導入したと考えられる。


 USJの場合、春休み期間中の1日券の価格は、12歳以上で税込8,700円だ。4月後半の平日の1日券の値段を見ると、12歳以上のチケット価格は税込7,400円に低下する。


 この意義を、需要者と供給者の立場から考察すると、次のようになるだろう。


 消費者は、ダイナミック・プライシングのもと需要動向に応じて価格が変化することにより、自分自身の価値観に合わせてチケットを手に入れることができる。テーマパークに行ってみたいとは思うものの出費も抑えたいという人は多い。そうした人にとって、平日の入場者が少ない際に、より安い価格でチケットを買えるメリットは大きい。それは人々の満足感を高めるだろう。


 一方、どうしてもUSJに行きたい人は、多少の値上げには抵抗を感じないだろう。所得水準が高い人にとってみれば、「海外のテーマパークを考えればまだ安い」と映ることもあるだろう。


 供給者の立場からダイナミック・プライシングの効果を考えると、需要の平準化が期待できる。USJは、行楽シーズンのチケット金額を引き上げることで、過剰な需要を抑制できるだろう。それは、人手の確保や適切なサービスの水準の維持・向上に重要だ。また、平日など入場者数が少ない時に料金を引き下げることは、従来にはなかった需要の発掘につながる可能性もある。


●重要なポイントは消費者の納得感
 
 USJ以外にもスポーツ観戦や音楽コンサートなど、ダイナミック・プライシングを導入する企業は増えている。すでにサッカーJリーグに所属する横浜F・マリノスは、1試合ごとにチケット価格を変えている。具体的には、人工知能(AI)が曜日、対戦相手、チケットの売れ行き、天候などを分析し、入場者数と売り上げの極大化を目指す。この結果、入場者数と売り上げが共に増加した。ダイナミック・プライシングの効果は相応にあるようだ。


 同時に、気をつけなければならないこともある。わが国では人々が、価格が変動することに慣れていない。いつも同じ席で試合を見ているのに、曜日や天気によってチケットの値段が変わるのは納得がいかないという人もいる。また、デフレ経済の下、家計は値上げへの抵抗感を強めている。


 企業は、そうした心理を軽視してはならない。需給のメカニズムに応じて価格が変動することへの納得感を、消費者から得なければならない。そのためには、消費者が「どうしても使いたい」、あるいは「欲しい」と思ってしまうモノやサービスのヒットを生み出すことが欠かせない。その上で価格の引き上げが行われるのであれば、消費者の納得感を獲得することは可能だろう。反対に、企業が新しい取り組みを進めずに提供価格だけを引き上げるのであれば、客足は遠のく恐れがある。


 今後のUSJの取り組みには大いに注目したい。同社は自社のテーマパーク運営にかなりの自信を持っているようだ。それだけ、アトラクションやイベントが入場者の満足感を高めることができると考えているのだろう。


 5月の連休期間、USJの1日入場券は税込8,900円(12歳以上)に達する(3月25日時点)。追加的な値上げを行ったうえでも、入場者数と売り上げの増加が実現できるのであれば、同社は人々から相応の納得感を得ることができたと考えてよい。それは、わが国の企業がダイナミック・プライシングの導入を考えるための、重要なケーススタディになるはずだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)


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