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「怒りに気づくのは希望」角田光代と売春宿に売られた女の子たち

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2019年04月23日 14:51  ウートピ

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写真「怒りに気づくのは希望」角田光代と売春宿に売られた女の子たち
「怒りに気づくのは希望」角田光代と売春宿に売られた女の子たち

女の子たちが自信を持って生きるには何が必要なのか——。

「国際女性デー」の前日である3月7日、東京ミッドタウン(東京都港区赤坂)で『国際女性デー2019』トークイベントが開催されました。

主催は、国際NGOプラン・インターナショナル(以下、プラン)。ウートピでは、このイベントで基調講演を行った国際協力・ジェンダー専門家でプラン理事の大崎麻子さんのお話と、作家の角田光代さん、スポーツジャーナリストの増田明美さんの対談の様子を全3回に分けてお届けします。

第1回:「小さな成功体験」が世界も自分も変える

第2回:途上国を視察して思うこと

走ることで笑顔になった理由

増田:ラオスでは子ども達と一緒に走ったのですが、そのときみんながパッと笑顔になりましてね。それがすごく感動した。

角田:本当に全員いい笑顔で。私、その写真を見るといまでも泣いてしまいます。

増田:やらせじゃないですよ。まぁカメラマンの腕もあるけどね(笑)。それまであの子たちは、ただ走るために走ったことがないんですよ。例えば、おつかいのために走るとか、何かをするために走ることはあっても、単純に走るという経験はない。走ることがスポーツだという捉え方をしたのは、今日が初めてじゃないかと、子どもたちの先生も言っていましたね。光代さんも今日写真持ってきているよね?

角田:私のパネルはインドです。人身売買でさらわれて売春宿に売られてしまった女の子を保護するシェルターを視察した時の写真です。

増田:そんな状況だったら笑顔ではカメラの前にいられないかも……。

大崎:角田さんは女性性器切除や、人身取引のシェルターなど過酷な国を選ばれていますよね。

角田:自分で調べてここに行きたいという希望はしていないのですが……。性格がネガティブなので、ネガティブ担当なのかな(苦笑)。

増田:えぇ、そうだったの!? それでも行って、気持ちが暗くならない?

角田:長くこの活動に関わって行きたいという気持ちに変わりはないですが、それでも行く前には、これからツラい思いをしている人たちのツラい話を聞きに行くんだなぁ……という気持ちにはなりますよ。

増田:私の場合は、幼稚園を作ったから見に行こうとか、女子サッカーチームができたから村がどんな風に変わったかなとか。比較的さわやかなんだけど、光代さんは深刻ね。

彼女たちはやっと怒ることができた

大崎:角田さんが訪問する先では心が苦しくなることも多いかと思いますが、希望を感じる瞬間もありますか?

角田:はい。先ほどのインドでのことなのですが、売春婦のカーストがあることを知って、村の女性たちに話を聞きに行ったんです。売春婦の女性たちが暮らす村で、男性もいるけれどほぼシングルマザーで、これまでひどい目に遭ってきたそうです。

プランと出会って対話をすることで何が変わったのか話していると、一人の女性がわーっと喋り出して止まらなくなりました。それに呼応するように、ほかの女性たちもわーっと言い出して。通訳の人が一生懸命通訳してくれるんですけれど、その内容は「怒り」なんですよね。ずーっと怒っている。

例えば、「事件が起こった時に警察は何もしてくれないどころか、私たちを見せしめのように逮捕して、加害者には何もしなかった。なぜなら私たちが売春婦のカーストだから」とか。私もひどい、ツラいという気持ちで聞いていたのですが、途中でハッと気づいて。

「ああ、彼女たちは怒ることができたんだ」と。それまではきっと自分が置かれている環境について疑問を持つこともなかったはずなんです。「しょうがないよね、だってこのカーストだもんね」って。それがプランの活動に参加し、対話する機会や知識を得ることで、やっとおかしいと気づいて、怒れたんだ、と。それがもう希望なんじゃないかなと思いましたね。

増田:怒りの感情は、はき出して泣いて。それだけでもいいんだよね。私も去年ベトナムの山岳地帯で切ない気持ちになりました。ベトナムってホーチミンとかハノイがあるから都会のイメージがあるでしょう? ところが、山岳地帯ではまだ電気が来ていないようなところもあるんですよ。

そこに小学校ができたからと視察に招かれたのだけれども、そのセレモニーに赤ちゃんを抱っこした15歳の女の子がいて。妹さんの子守をしているのかなと思ったら、その子の子どもだと言うの。13歳の時に妊娠して出産したんだって。子どもの父親は妊娠がわかったら逃げたと言っていました。それがすごく切なくて。こういう子どもが出ないように学校ができたのだから、みんながそこで勉強できたらいいなと願いましたね。

自分は人間であるという尊厳を取り戻すことから始まる

大崎:プランが実施するエンパワーする活動でも中核になっているのは教育です。自信をつけるとか、自分の権利を知ること。中には、自分の身体を自分のものだと思えない子もいるんです。馬や牛と同じような労働力として扱われてきたとか、カーストの価値観から抜け出せないとか。対話を通じて、自分は人間である、尊厳があると自己発見するところから始まるんです。

そしてその先にあるのが、経済的な自立。もし予防接種を受ければ乳幼児の死亡率を下げられると知っていたとしても、それを受けさせるだけの経済力があるか。自分の意思で使えるお金があるかどうかが重要になります。せっかく知識を持っていても、お金がないと行動に移せない場面が多々あるのです。角田さん、増田さんはそのような経済的な自立の支援の場もご覧になりましたか?

角田:はい。例えば、先ほどお話ししたインドの売春婦の人たち、あるいはシェルターで暮らしている保護された女の子たちの職業支援について見てきました。彼女たちは年齢が上がると、職業訓練を受ける機会があって、自分で好きなコースを選んで何かお店を出すこともできるんです。お金を半分出すとか独特なルールも存在するのですが、誰かがそんな風に商売をしていると、それを見ている人たちも頑張ればこういうことができるんだって励まされるんですよね。成功パターンを間近で見るのは良い影響があるんだなと思いました。

増田:私はハノイで、プランの支援により実施されていた職業訓練の現場を視察しました。私が見たのは、調理師になるための資格を得るコースで。つまり手に職を持たせるというのかしら。お料理とか美容師とか。実際に訓練を経て美容師になった人にも取材させてもらいました。現地スタッフの指導への思いが熱いのよね。

角田:わかります。売春を強要されていた女性たちを保護するシェルターの子が「私はデザイナーになりたい。どうしたらいいですか?」と質問をした瞬間に現地のスタッフがわーっとまくし立てるからその子が泣いてしまったんです。何が起こったのか通訳の人に聞くと、「生半可な気持ちでなれるものじゃないのよー!!本当に頑張らなきゃダメなの!!」と言っていて、女の子も「覚悟しなきゃ」って泣いているというんです。現地のスタッフの熱心さ、女性が働くことへの意識革命に対する熱意をすごく感じました。

増田:あめとムチだよね。なんかお母さんみたいな感じで。目の前の女の子を一生懸命、育てようとしていますよね。そのあたりは、私たちのマラソンと一緒のように感じます。遠い目標に向かって、高い目標に向かって、こつこつ積み上げていく。すぐに結果が出ることじゃないから本当に地道に。一方でそういう努力を見ていると、私は本当の豊かさってこういうことなのかなって思うんです。お金があるのが豊かではなくて、昨日よりも今日、今日よりも明日というように、自分がより良く成長している、と思えること。少しずつでも変化を実感できる人は幸せだと思います。この活動でそう感じられるのは私も幸せですね。

男性が女性をケアする地域は元気になる

大崎:ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいです。その地道な変化ですが、そこで暮らす人たちの意識改革が鍵だなとプランは考えています。学校を作るだけでは子どもは集まりません。これまでの習慣や価値観を変えていくことがまず必要になるわけです。その中でキーになるのはその村の長老のケースが多い。

角田:長老や男性、宗教指導者の人達は、村でのいろいろな決まり事や規範などに、影響力を持っていますからね。

大崎:はい。プランが村を訪問する時は、まず彼らと信頼関係を作って、「やってみませんか?」という話をします。こんなことをすると、子どもが死ななくなりますよとか、お母さんたちが元気になると全体的に活気が出ますよ、とか。

いろんなメリットをお話しするのですが、それでも「やる」と言ってもらえるのは少ないです。けれども、たまにファーストペンギン(最初に挑戦する人)になってくれる男性がいて。それで実際に活動を展開すると、村全体にいい影響があると実感してもらえる。それを見た他のリーダーもやりたがるという好循環につながるんです。そこに至るまでの道のりは本当に遠いのですが……。女の子たちや女性と村で力を持っている男性たちの関係を垣間見るような経験はありましたか?

増田:女性がイキイキと活動できるところでは、ちゃんと男性がケアできているなと感じます。ベトナムでもそうでした。山岳地帯のある村で、母親たちに栄養指導をしているところの視察をしたのですが、紙芝居みたいに絵を描きながら説明するんですね。その厚紙を持っていたのが男性でした。

大崎:角田さんはいかがですか?

角田:実は、この活動をできれば長くやって行きたいなと思ったのが、マリでひとりの男性の姿を見たからなんです。はじめは、寄付とかこのような活動に対してすごく懐疑的なところがあって。例えば、私が寄付した1万円がどこでどう使われて、誰の役に立っているかなんてわからないと思っていたんです。そういうこともちゃんと自分で柔軟に考えたいと思って、マリの視察に参加したんです。

現場では女性性器切除が問題ということもあって、基本的に女性だけのチームで、女性たちが立ち働いて細々とした作業を行なっていました。ところがある村で、その女性たちの中に普通のおじさんがひとり混じっているんです。彼は、他の女性たちと同じように椅子を並べたり、立ち働いていて。そこで私は声をかけたんです。「ちょっと聞いてもいいですか。あなた男性ですよね。どうして一緒にやっているんですか?」と。彼からは「なんか関わっちゃんだよね」と返ってきました。

その時、私ぱっと開かれた気がしたんです。「あ、それでいいんだ」って。関わっちゃったから関わっている、それだけでいいんだって。例えば大義名分はどうとか、自分は何かを変えたいから、そのためにどうするとか。ガチガチな真面目な態度じゃなくていいんだ。なんかマリ行っちゃったから、じゃあやってみようかなって。

増田:あるある! なんだかんだ同じ船に乗っちゃうんだよね。そこで一緒にやっていくことで喜びを感じられて。女性だって男性がいてくれたほうが心強かったりするんですよ。力仕事だって任せられるし。そのおじさん今も活動してる?

角田:多分いると思います。途上国、目の前のさまざまな課題に対して、自分は何ができるのかと考え始めると、煮詰まっちゃって、頭の地獄になって、結局何もしないってなっちゃうので。気負いすぎないほうが気もラクだし、学ぶことも多いなと思います。

(構成:安次富陽子)

映画『パッドマン』がインドから日本にやってきた経緯

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