『キングダム』には日本映画界の夢が託された? 「再現不可能」の声を跳ね返した佐藤信介らの手腕

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2019年04月26日 06:11  リアルサウンド

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 『キングダム』は2006年に『週刊ヤングジャンプ』で連載が開始された大人気漫画。秦の始皇帝が中華統一を果たすまでの物語を基に、天下の大将軍を目指す奴隷の少年・信の活躍と成長を描いた巨編だ。


 物語はまさに友情・努力・勝利の少年漫画の王道。春秋戦国時代、中華が七つの大国に分かれ覇権を争っていたこともあり、様々な豪傑が群雄割拠していたこの時代と、次々と強敵が現れる少年漫画的世界観が見事にマッチしたのが本作の人気の理由だろう。


 そんな『キングダム』の実写化が発表されたのは2018年4月に記念すべき50巻が出たタイミング。それを聞いたファンやネットの反応は芳しくなかった。「何でもかんでも実写化するな」という企画そのものへのツッコミもあれば、「キャストがイメージと違う」「邦画のスケール感じゃ再現不可能」などの意見もあった。


 原作を欠かさず読んでいる筆者も不安の方が先立っていたが、監督の佐藤信介は日本になかなかなかった本格ゾンビ映画にして大傑作の『アイアムアヒーロー』を撮った人物。これはもしかしたら大当たりの可能性もあるとも感じていた。


 そして2018年に公開された佐藤監督による漫画実写化『いぬやしき』や『BLEACH』を見て『キングダム』への期待値は否応にも高まった。もちろん粗削りなところや映画に話を収めるために無理が生じている部分もある。しかし、佐藤作品の魅力は邦画の枠を超えたスペクタクルな場面を見せてくれることと、漫画ならではのコテコテの熱いドラマを衒いなくやってくれること。ゾンビを撃ちまくったり、新宿上空でロボットバトルが繰り広げられたり、現代日本の街中で剣戟アクションをやっているのを見て、佐藤信介は邦画の可能性を広げてくれる作家だと思ったのだ。おまけに『キングダム』のようにスケールの大きい画やアクション、熱いセリフ満載の漫画なら絶対ハマるだろうとずっと楽しみにしていた。


 しかし、今回の『キングダム』はさすがの佐藤にとってもかなりの挑戦だったようだ。佐藤本人もインタビューなどで、本作のオファーが来た際は長年共に映画を作ってきた周囲のスタッフたちも「これは無理なんじゃないか」という反応だったと語っている。


 古代中国の王宮や国家間の戦争を題材にした作品で、なおかつ荒唐無稽な描写も多い『キングダム』。リアリティと現実からの飛躍の塩梅も難しいだろうし怯むのは当然だが、佐藤監督はその実写化という巨大プロジェクトを引っ張り見事にそのハードルを越えて見せた。


 『キングダム』の魅力は最初は鼻で笑われていた主人公たちの「奴隷が天下の大将軍になる」、「500年戦乱が続く中華を統一する」といった無謀な夢がどんどん実現していく痛快さにもある。


 ファンからの反発も強く、作り手たちも最初は不安視していたような企画が結実していくさまは、劇中で信たちが絶望的な状況から実力で逆転していく姿に重なるし、一部からは「信のイメージとは違う」と言われていた山崎賢人(正直、また山崎賢人かと筆者も当初思ったが)がトレーニングや役作りでどんどん信に近づいていくのも、強敵を倒して成長していく主人公にシンクロしている。


 そしてスケール感のあるロケーションを求めて中国での撮影まで行った実写版『キングダム』は期待通り会心の一作となっていた。脚本に参加した原作者の原泰久も含め、作り手側の「必ず成功させる」という思いが本編のストーリーにそのまま乗っかっているかのようだ。もちろん思いだけでなく、集まったスタッフ・キャストの技量も素晴らしかった。


 長年日本の最前線を走ってきたアクション監督・下村勇二のアクション演出や、『ブレードランナー2049』でもコンセプトアートを担当した田島光二による様々な美術や衣装デザインも作品のリアリティやスケール感に大きく寄与している。


 そして原作ファンとしてはキャストの再現度は大満足。


 山崎賢人と吉沢亮が素晴らしかったのは言うまでもないが、脇を固めるキャストが軒並みハマっていたのが大きい。


 悪役・成蟜を演じた本郷奏多の憎らしさと小物感は見事だし、山の王・陽端和役の長澤まさみは抜群のスタイルとクールな佇まいがそのまま原作から出てきたような再現度だった。ちなみに原作ファンが一番心配していた大将軍・王騎役の大沢たかおもしっかり王騎に見えた。『キングダム』随一の超人かつアクの強いキャラクターなので正直ハマる人なんて誰もいないのではと思っていたのだが、肉体改造でビルドアップした体躯や不敵な表情、少し不気味なオネエ口調などきっちり原作に忠実な王騎を作っていて、ある意味本作で一番驚いたポイントだったかもしれない。


 とにもかくにも原作ファンも初見の人も『キングダム』の世界がそこにある! と信じるに足る説得力を持っていた本作。少年漫画の実写化としては過去最高レベルかもしれない。


 とはいえ今回映画化されたのは壮大なスケールを誇る原作のほんの序章である1〜5巻の王宮奪還編までに過ぎない。今実写化できるレベルを見極めてストーリーを絞った作り手たちの目は確かだが、早くこの先が見たいとヤキモキしてしまうのも事実。


 本作は公開3日間で50万人を動員し、7億円弱を稼ぐ大ヒットを飛ばしており、しかも北米での公開まで決定している。ここまで成功すればおそらく続編は作られるだろうが、この先の『キングダム』はさらにスケールアップした国家間の戦争や宮廷内での陰謀渦巻く権力闘争など様々な要素も増えるうえに、数々の人気キャラクターもどんどん出さなければならない。並大抵のヒットでは正直今後の『キングダム』を作る予算が用意できないのではという危惧もある。


 佐藤監督や原泰久先生ら作り手たちがここまで夢を見せてくれたのだから、今度は原作ファンや、もっと国産のアクションやスペクタクル劇が見たいという映画ファンもその夢に乗っかっていくしかないだろう。


 要するに今後の『キングダム』のため、いや、今後の日本映画界の可能性のため、もっと劇場に足を運ばなければならないということだ。筆者も後2回は映画館で鑑賞する予定です。(文=シライシ)


※山崎賢人の「崎」は「たつさき」が正式表記。


このニュースに関するつぶやき

  • 歴史秘話ヒストリアで始皇帝を取り上げた時、キングダムも紹介されてた。
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