「日能研」ならぬ「父能研」の功罪! 東大父の家庭学習が、息子の中学受験をかき乱す!?

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2019年04月28日 22:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 中学受験で難しいことの一つに親自身の「メンタルコントロール」がある。気分がジェットコースター並みに上がったり、下がったりを繰り返すからだ。それには、このような原因がある。

1.通塾先が大手ならば、毎週のように子どもの成績を見せられて一喜一憂する
2.受験には期限(受験日)があるので焦る
3.試験で目標値をクリアできる自信がなくなる
4.成績が上がらないことで、やる気が低下した子どもを見てイライラする
5.やる気がないのに、こんなに勉強させることが正しいのかを迷い出す
6.生活の全てが受験に結びつく暮らしに嫌気が差す

 中学受験に挑戦することが我が子の未来にとって“正しい”選択だと信じて進んだ道ではあるが、その長い道中、多くの親は獣道を辿っているような錯覚を覚えることだろう。そこで、子どもの苦労を分かち合おうと机を共に並べる親も出てくるし、苦手科目を補習しようと子どもの家庭教師を買って出る親もいる。

 自ら子どもの家庭教師に名乗りをあげた茂さん(仮名)という父親がいた。茂さんは大手食品メーカーに勤める管理職、自身は公立名門高校からの最高学府出身者。一人息子である岳君(仮名)にも期待を寄せていた。4年生で大手塾の門を叩いた時の岳君は優秀な成績で、茂さんは大いに満足したそうだ。

 しかし、5年生の夏休み明けあたりから、成績が徐々に落ちていく。岳君は、当時所属していた最上位クラスからは当然陥落し、塾仲間に“仲間認定”されなくなったと泣いていたそうだ。
塾では、5年生以上になると、これまでとは打って変わって、本気モードで頑張るようになる子が出てくるので、相対的に順位を下げてしまう子どもが生まれやすいのだ。

 そんな中、この状況に心を痛めた茂さんが「これではいかん!」と奮起し、「自分が教える!」と張り切り出したのだ。以来、茂さんは早々に仕事を切り上げ、徹底的に岳君の勉強に付き合おうとした。これを業界用語で、大手中学受験塾「日能研」にかけて、「父能研」と呼ぶのであるが、岳君のスケジュールはこうなった。

起床→直後に計算問題と漢字の書き取り→朝食→登校→帰宅→塾の宿題プリントを解く→塾(夕食はお弁当)→帰宅→茂さんと共に午後11時まで学習

 茂さんは「1を聞いて10を知る」タイプだったらしく、今までの学業人生では負けたことがないと自負するほど優秀なのだが、岳君はどちらかと言えば、のんびり屋で父親のスピードにはなかなか付いてはいけなかったそうだ。ゆえに、茂さんの決めた「午後10時から算数の問2を解く」といったスケジュール通りに動けない。やっと机の前に座ったかと思っても、今度は茂さんが言うように問題を解けないのだ。茂さんはだんだんとイライラし、

「違う! 何度言ったら、わかるんだ!?」
「パパが言うように解け!」

と声を荒げることも多くなったそうだ。

 中学受験は、方程式といった“数学的解法”では解かないことがほとんどなので、親が「安近短」のを教えてしまうと、塾の講義内容とドンドン乖離が生まれ、子どもがますます混乱しかねないというのは有名な話なのである。

 岳君は親の期待に応えられない自分に対し、ますます自信を失い、クラスも全体の真ん中あたりまで落ちていった。

 そんな時だった。心配した塾の先生が茂さんを呼び出して、こう言ったそうだ。「お父さん、このままでは岳君は勉強嫌いになってしまいますし、完全に自信を失ってしまいます。どうですか? 少し、お子さんを俯瞰で見ていただけませんか?」と。そして中学受験における問題の解き方、そのメリットなどを具体的に示してくれたという。

 その塾の先生いわく、男性はロジックがわかると納得し、安心して塾に任せてくれる面があるそうで、全ての学習が塾で完結するように、岳君に自習室学習を勧め、岳君がいつでも“中学受験のプロ”に質問できる体制を作ったという。一方、反省した茂さんは「パパが悪かった」と岳君に謝り、以降、成績に関して口を挟むことをやめようと決意したそうだ。

 もともと、ゆっくりではあるものの、コツコツ型である岳君には、威圧感のない環境での学習は逆に楽しかったようで、徐々にペースを掴むようになってきたそうだ。成績も段々と上がり出し、6年の秋には見事に最上位クラスに返り咲いたという。

 茂さんは、当時、塾の先生から言われたことを、今でも覚えているという。

「先生にはガツンと『一生、勉強ですよね? 中学受験で親がやっちゃいけないことは、子どもを“勉強嫌い”にしてしまうことなんですよ。息子さんには息子さんのペースがあります』と言われましたね」

 そして、照れ笑いを浮かべながら「一生、勉強って、私自身が教えられました。未熟なのは親の私の方でした」と、話していた。

 今、岳君は難関中学に入り、生物部で頑張っている。将来はサラリーマンではなく、研究職に就きたいそうだ。茂さんは「それでいいと思います。息子の人生は息子のものなので。自分のペースでやってくれたら、それでいい」と感じているという。

 中学受験は、11歳もしくは12歳の「子ども」が受ける受験である。ここに「親子の受験」と呼ばれる中学受験の落とし穴がある。子どもたちの時間軸は、大人とはまったく違う。大人になると1年は早いが、子どもの1年は実にゆっくりと流れているのだ。そうした背景から、大人が経験則によって、「今、これをやって、こうして、こうやらないといけない」という“計画”を立てる、つまり「残り何日」という計算でスケジュールを作ると、子どもが付いていけなくなる。1週間先も遠く感じられる子どもに、半年後、ましてや1年後の未来を想像しながら行動しなさいというのは、なかなか酷な話。子どもは、それができるほどの歴史を積み重ねてはいないのだ。

 その道理がわからないと、親はドンドンと焦って来て、その焦りが何かも理解できない子どもを追い詰めていく危険性がある。もし、成績が思うように伸びていかない、子どもにやる気がみられないという場合は、家庭で余計なプレッシャーを与えすぎていないか、子どものペースを尊重しているかなどを、親が振り返ってみることをお勧めしたい。

 中学受験は親が子に伴走しながら、合格を目指していくものではあるが、伴走者が子どもよりも遙か先を走っていては、伴に走ることにはならない。受験も含めた子育ては難しいもの。しかし、親が「親と子は別人格」「子どもには子どものペースと道がある」と自覚している受験は、その親子にとって「いい受験になっているなぁ」というのが、筆者の実感だ。
(鳥居りんこ)

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  • そうやって子供の野球もへたくそにしていくんですよwと桑田真澄氏w
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