阿部真央、鈴木このみ、関取花、眉村ちあき、藤川千愛……声/キャラ/楽曲のバランスに注目

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2019年05月07日 11:01  リアルサウンド

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 10周年を迎えて精力的な活動を続けている阿部真央、アニソンシーンで際立った歌唱力を発揮している鈴木このみなど、各ジャンルを代表する女性シンガーの新作を紹介。声、キャラクター、楽曲のバランスに焦点を当てることで、それぞれのアーティストの魅力を実感してほしい。


(関連:阿部真央が大切にしてきた“伝わる”ということ 圧巻の歌声披露した10周年記念武道館ライブ


 2019年1月22日に行われた約5年ぶりの日本武道館ワンマンライブ『阿部真央らいぶNo.8 〜 10th Anniversary Special 〜』、初のベストアルバム『阿部真央ベスト』によって10周年のアニバーサリーイヤーに突入した阿部真央の両A面シングル『君の唄(キミノウタ) / 答』。心地よいポップネスと鋭利なロック感がひとつになったサウンドのなかで〈自分で選んだ道があるから〉という前向きなフレーズを響かせる「君の唄(キミノウタ)」、憂いと激しさを兼ね備えたメロディとともに“何が答かはわからない。それでも前に進んでいくんだ”という切実な思いを込めた歌が伝わってくる「答」。まったくタイプが違う2曲から伝わってくるのは、リアルな感情を普遍的なポップミュージックに結びつけるセンス、そして、楽曲に確かな説得力を与えるボーカル表現のさらなる向上だ。あいみょんをはじめ、下の世代のシンガーソングライターに影響を与え続けている阿部真央は、10周年をきっかけにして、その魅力を改めてアピールすることになりそうだ。


 デジロックの進化型と称すべきレトロフューチャー的なトラック、高低差の激しいドラマチックなメロディライン、そして、時空を超えたスケール感を備えたリリック。TVアニメ『この世の果てで恋を唄う少女YU-NO』(TOKYO MXほか)エンディングテーマとして制作された鈴木このみのニューシングル『真理の鏡、剣乃ように』は、“父親の死の謎を追求し、パラレルワールドを駆け巡る旅に出る”というアニメの世界観としっかりと結びついたアッパーチューンだ。音域の広さ、BPMの速さを含めてかなり難易度が高い楽曲だが、持ち前の歌唱力を活かしながらナチュラルに歌いこなし、楽曲のポテンシャルをしっかりと引き出している。凛とした強さを前面に押し出しながら、パワーだけに頼らず、豊かな歌心を感じさせるボーカリゼーションは、デビューから8年目を迎えた現在も刺激的な進化を続けているようだ。


 昨年はフジロックをはじめとする大型フェスに出演、『NHK みんなのうた』でオンエアされた「親知らず」が注目を集めるなど、大きな飛躍を果たした関取花がついにメジャーフィールドに進出。デビュー作となるミニアルバム『逆上がりの向こうがわ』には、亀田誠治プロデュースによるJ-POPの王道的ポップソング「太陽の君に」、彼女のルーツである1970年代のアメリカンポップスを想起させる「僕のフリージア」、世の中の“インスタ映え”に対する異議(?)を明るく唱える「カメラを止めろ!」、そして、これまで支えてくれた人たちに向けた感謝をテーマにした「嫁に行きます」など6曲を収録。オーセンティックなポップミュージックに根差したサウンドメイク、そして、てらうことなく、どこまでも真っすぐに歌を伝える“等身大のボーカル”がバランスよく共存した良作だ。


 ほめること、ほめられることの大切さをエレクトロニカとレゲエが混ざったトラックとともに描き出す「ほめられてる!」、1980年代ジャパニーズニューウェイブ直系の「奇跡・神の子・天才犬!」、オルタナティブなギターサウンド、童謡的なメロディ、オペラみたいなコーラスなどが混ざり合った「Queeeeeeeeeen」、ローファイかつガレージなトラックを軸にしたラップナンバー「ヘチマで体洗ってる」など16曲を収めた眉村ちあきのメジャーデビュー盤『めじゃめじゃもんじゃ』。特異なキャラクターと奇天烈なライブパフォーマンスによって注目を集めている眉村ちあきだが、その本質はトラックメイカー/ソングライターとしての圧倒的な創造性。既存のフォーマットから軽々と飛び出しながら、どこまでもポップに響く彼女の楽曲は、ジャンルを超え、幅広い層のリスナーに浸透していくはずだ。


 演歌歌手の祖父を持ち、マーティ・フリードマンに歌唱力を絶賛された元・まねきケチャの藤川千愛は、1stフルアルバム『ライカ』でシンガーとしての確かな資質を明確に示した。恋人との終わりを予感しながら、“どんな状況になっても笑う”と決めている女の子の気持ちを歌った「ライカ」、現状や未来に対する自分の甘えをリリカルに綴った「夢なんかじゃ飯は喰えないと誰かのせいにして」。2000年代J-ROCKをベースにしたサウンドとともに映し出される葛藤、悩み、そして、この先に対する僅かな希望を彼女は、正確なピッチと生々しい感情表現によって、ストレートに体現している。基本的な歌の上手さはもちろん、すべてのフレーズを一瞬で聴き手に届けるセンスこそが彼女の魅力だろう。


■森朋之
音楽ライター。J-POPを中心に幅広いジャンルでインタビュー、執筆を行っている。主な寄稿先に『Real Sound』『音楽ナタリー』『オリコン』『Mikiki』など。


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