元AKB48グループメンバー・北原里英インタビュー 「わたしの演技で観客を裏切らなきゃいけない」 女子の闇深き呪い『映画 としまえん』

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2019年05月09日 17:01  おたぽる

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(c)2019 東映ビデオ

 元AKB48グループ・北原里英の卒業後初主演作となる『映画 としまえん』が、2019年5月10日よりユナイテッド・シネマとしまえんほかにて全国公開される。



 主演作の劇場公開を控えた北原里英に、女優の仕事を通して経験したさまざまな想いを語っていただいた。


――北原さんは、子供の頃からマンガやアニメが大好きだったんですよね?


北原里英(以下、北原) 昔はマンガがすごく好きだったんですけど、大人になってからは……。好きだったのは『ONE PIECE』や『名探偵コナン』でしたね。小学生の頃は「りぼん」を読んでいたので『神風怪盗ジャンヌ』とか。実はわたし、サブキャラのほうが好きなんです。『ONE PIECE』だったらサンジとかマルコ。『名探偵コナン』でも一番は平ちゃん(服部平次)なので。


――なるほど、サブキャラの方が感情移入しやすいんですか?


北原 たとえば、甲子園球場の高校野球なんかを見ていると、感情移入してすぐに泣いちゃいます。逆転ホームランとかのベタな展開も、確かに泣けるんですけど、1回戦であまり聞いたことのない出場校の打順も8番くらいの選手が、9回裏にバッターボックスに立つ瞬間を見ると、この選手の高校最後のバッターボックスが、この瞬間じゃないかと思ってしまって、もう泣けてしまって……。


 甲子園や駅伝は、大人になってから見るようになりました。子供の頃、お父さんがお正月になると家で駅伝を見ていたのですが当時はあまり興味がなかったんです。でも、今はお正月になると率先して駅伝を見ています。


――そうだったんですね。そんな北原さんが芸能界に興味を抱いて上京したのは、高校生の時ですよね?


北原 はい、もともとは女優になりたくて。まだ今ほど有名じゃなかった頃のAKB48のオーディションに参加したら合格したんです。上京する以前は、芸能界を目指しているような友だちはそんなにいなかったと思います。ただ、モーニング娘。世代だったので、モー娘。のオーディションを受けた子はいました。


 もうとにかく、女優には小学生の頃から憧れてましたね。テレビっ子だったので、テレビの中の世界に入ってみたいなと漠然と思っていて。その当時、歌手になればテレビに出られるんじゃないかと安易に考えていました。でも、歌が下手だったことに気づいて……(笑)。これじゃ、なれないなと。友だちに歌の上手い女の子がいたんですが、その友だちのようには歌えないし。そこで改めて、女優になりたいなと。


――女優を目指して以降は、マンガやアニメからは少し離れて、映画を観る機会も増えていったんじゃないですか?


北原 その頃は、今観ているようなコアな映画の存在すらほとんど知らなかったんです。電車に乗って名古屋駅前までいかないと映画館はなかったし、最寄り駅も車で10分くらいのところだったので……。


 でも、中学生の時にダイヤモンドシティ・キリオ(現イオンモール木曽川)ができたんです。駅までは自転車で15分くらいかかるんですが、そこから数駅電車に乗れば行けました。それまでカラオケボックスくらいしか行くところのなかったわたしたちが、新たなものを手に入れたということで毎週末行ってましたね。その頃は、本当に有名な映画ばかり観ていましたよ。『タッチ』とか『いま、会いにゆきます』とか、『どろろ』も観ましたね。


――北原さんの生まれ育った愛知県一宮市に隣接する岩倉市で僕は育ちました。なので、その辺りは当然理解できます。僕らの時代は、名古屋駅西口に映画監督の若松孝二が運営する「シネマスコーレ」がオープンしました。その映画館のおかげで単館系の作品を観ることができて、若松監督の人脈からさまざまな映画人との交流も持てました。


北原 上京して初めて岩倉の方にお会いしました! 岩倉高校の制服が可愛いって当時話題になってましたよ。わたしは東京に来るまで単館系の映画や、白石和彌監督が師事されていた若松監督の作品も知らなくて。


 AKB48の頃は振り付けの動画を確認するために、ポータブルのDVDプレイヤーが必需品だったんですよ。そんな時、DVDプレイヤーでメンバーの子が『冷たい熱帯魚』を観ていたんですね。とてもショッキングなシーンがいっぱいで。それまでのわたしはグロい描写が苦手だと思い込んでいたんですが、その作品を知って以来、園子温監督の作品を観るようになりました。


 一番好きな作品は『Strange Circus 奇妙なサーカス』。あの作品は見事なまでに伏線を回収していくのが好きです。なので、園監督演出のドラマ『みんな!エスパーだよ!番外編〜エスパー、都へ行く〜』に配役された時はうれしかったですね。


 撮影中、監督の奥様である女優の神楽坂恵さんと、楽屋で二人きりになったことがあるんです。その頃のわたしは人見知りが激しく、監督の作品からもさまざまな影響を受けていたので、これは緊張するんじゃないかと思って。そうしたら気さくに話しかけてくださったので、いろいろな相談にも乗ってもらいました。すごく優しくしていただいたんです。


――神楽坂さんとは何度かお仕事をさせて頂いたんですが、とても気さくな女優さんですよね。実は、僕が企画に携わった映画『パーフェクト・レボリューション』では、主演のリリー・フランキーさんと大変に有意義な時間を共有しました。北原さんの初主演作『サニー/32』で共演されたリリーさんの印象は如何でしたか?


北原 そうなんですか? 『パーフェクト・レボリューション』のヒロインの清野菜名ちゃんと、わたしとても仲がいいんですよ!


 白石監督の作品は最初に『凶悪』を観たんですが、リリーさんの演技が本当にすごいなぁと……。実は北原主演で映画を撮ろうというラジオ番組の企画があったんです。その時は『凶悪』を観た直後で、あんなテイストの作品に出られたらいいなというような発言をしました。
そうは言ったものの、でもまさか白石監督ご本人にお話しが伝わるとは夢にも思っていなかったんです。そして、その作品で『凶悪』のリリーさんと共演できるなんて考えてもいませんでしたよね。


――実はリリーさん、北原さんの演技を各所で絶賛されていたんですよ。本人から直接聴いたんで本当です。


北原 えっ、本当にリリーさんがほめてたんですか? すごくうれしいです! もう演技っていうよりは体力勝負でしたね(笑)。野外ロケでは一晩中飛びまわってましたから。連日夜通しの撮影だったので、空が明るくなってもう撮れなくなるまでがんばりました。大雪の新潟に二週間ほど泊まり込んだんですが、あんな経験は初めてだったので多くのことを学びましたね。


 お芝居に関しても、それまでのわたしは役になりきることが、とても重要だと考えていました。でも、魅力的な共演者の方々はちゃんと自分らしさ、自分にしかない魅力をブレンドしつつお芝居をすることができるんだなと。一緒にやっていて思い知らされましたね。


――昨年の『サニー/32』に続く主演作『映画 としまえん』を、一足先に東映本社の試写室で拝見しました。ネタバレになるので詳しくは話せませんが、ヒロインの行為にAKB48時代の北原里英を重ね合わせてしまいそうで怖かったですね。そんな、危うい瞬間がクライマックスでは描かれます。


北原 『映画 としまえん』の脚本を読んで感じたのは、わたしの演技で観客を裏切らなきゃいけないということでしたね。何よりも最初のシーンから繊細に演じていかないと、そこは表現できないなと。


 ところが、いただいた撮影スケジュールを確認すると、撮影の順序が脚本の流れとはバラバラだったので……。シーンを逆算して演じるという経験がほぼなかったので、少し不安を感じましたね。だけど今後のことを考えた時、その部分を今作で克服しなければいけないなと思ったんです。


――『映画 としまえん』は本日、このインタビューが行われている東映東京撮影所が製作プロダクションですよね。さらに東映ビデオが製作と配給を担当する東映系の映画です。東映作品の主演に選ばれた率直な感想を教えてください。


北原 そうですね、長い歴史のある映画会社の作品なので本当に光栄です。



――今作は都内の遊園地・としまえんでシーンの90%以上が撮影され、タイトルも『映画 としまえん』と直球ですよね。特定の地域を舞台にするという点では、70年代の東映実録路線を彷彿とさせます。さらに、実在する名称をタイトルに反映させる大胆さは、まさに『網走番外地』のパターンですよね。とても東映色の濃い「遊園地最恐ホラームービー」といったインパクトの強い作品で、宣伝効果は絶大です。


北原 『網走番外地』のパターンなんですか! そういえば、撮影は遊園地以外にも東映の撮影所から近い大泉学園の街でもロケが行われているんですよ。


 今も東映のスタッフのみなさまに支えていただいているので、宣伝期間中も含めてずっと楽しんでます。わたし、映画の宣伝で取材されるのがすごく好きなんですよ。宣伝上手かどうかは自分でもよく分からないんですけど、こうして作品や演技について伝えるのが楽しいんです。


――製作の東映ビデオさんからDVDを発売していただいた経緯もあって、『パーフェクト・レボリューション』の脚本と監督を担当した松本准平から託された質問です。今後は、どのような役柄に挑戦してみたいとお考えでしょうか?


北原 これから先のお話しですよね……。以前はこんな役がやってみたいとか、色々と考えていました。でも、女優の仕事を始めるようになってからは、なんでもやってみたいと思えるようになってきましたね。なので、どんな役でも挑戦してみたいです。


 わたしは映画が大好きなので主役じゃなくてもいいんです、映画に呼んで頂けるだけで幸せなんです。これからも、ずっと映画と関わっていたいです。


第二章 ルポルタージュ/矢面に立つ女優・北原里英


 今回のインタビューが行われたのは、肌寒さが残りつつも満開の桜が咲き誇る4月2日の午後だった。東映本社の試写室で行われた『映画 としまえん』のマスコミ試写に参加した後、東映東京撮影所にて主演女優のインタビューが実現した。



 時を同じくして、時代劇研究家として知られる春日太一の著作『あかんやつら 東映京都撮影所血風録』(文芸春秋)を日々、愛読していた。


 映画プロデューサー・岡田茂の型破りな奮闘が散りばめられ、片岡千恵蔵、市川右太衛門、中村錦之助、高倉健、菅原文太へと続く東映スター映画の系譜も丹念に紐解かれていく。さらには俊藤浩滋、深作欣二、中島貞夫を筆頭とする東映実録路線の関係者による門外不出の制作秘話もふんだんに盛り込まれ、感嘆する労作であった。多分な影響から、中島貞夫監督20年ぶりの新作『多十郎殉愛記』のマスコミ試写を観ようと銀座の東映本社に駆け付けては、東映の気風を肌身で感じようとしていた。


 筆者がインタビュー会場となった東映東京撮影所を初めて訪れたのは、もう25年も前のことだった。東映の大スターとして知られた丹波哲郎が主宰する俳優養成所・丹波道場の門下生だった当時、道場の使いとして撮影所の衣装部を訪れたのだ。


 その際、対応した衣装部のスタッフとのやりとりが中々捗らず、様子を見かねた年配のスタッフから、「あんた、どこの者だ?」と問われたので、「丹波道場の者です」と応じたところ、「丹波先生のところの若い者か?」と笑顔で迎えられて、丹波哲郎が着用したというさまざまな衣装を拝見させてもらった懐かしい場所だった。


 世代は異なるものの、北原里英と筆者は名古屋市近郊の映画館が廃れてしまった街に生まれて多感な季節を過ごした。休日に映画を鑑賞したい欲求に駆られても、背伸びした服装に着替えてローカル線に揺られなければ劇場にたどり着くことさえ叶わなかった。そんな、もどかしい体験を余儀なくされた郊外の少年少女たちにとって、ロードショー館のひしめく名古屋駅周辺はいつしか憧れの聖地へと化していったのだった。


 中学生時代のエピソードを屈託なく話す北原里英の取材記録を確認していると、同時に筆者の遠い記憶も脳裏をかすめていった……。


――― 斬新なカウントダウン形式で話題を呼んだ歌番組『ザ・ベストテン』では、毎週欠かさず曲の順位を表示するランキングボードに目が釘付けになっていた。


 また、日テレ系列で毎週火曜夜に放映された渡哲也主演による伝説の刑事ドラマ『大都会PARTII』〜『大都会PARTIII』や、タフな私立探偵に扮した松田優作のアドリブ演技が炸裂する『探偵物語』は、迫力あるオープニングテーマとの相乗効果もあって人知れず熱狂していた。


 あえてタイトルを列記した高視聴率番組に関しては、山田修爾の著作『ザ・ベストテン』(新潮文庫)、山本俊輔 ・ 佐藤洋笑の著作『NTV火曜9時 アクションドラマの世界』(DU BOOKS)にて絶妙な考察がなされている。


 そして、角川映画第二弾として製作され、宣伝期間中に大量のテレビスポットCFが放映された1977年公開の映画『人間の証明』がターニングポイントになり、一気に興味の対象がテレビからスクリーンへと移っていった。


 日本映画界の風雲児・角川春樹の名は地方の中高生にも瞬く間に知れわたり、続く『野性の証明』『蘇える金狼』『戦国自衛隊』などの作品は、名古屋駅前の洋画系ロードショー館に長蛇の列を作ったものだ。


 当時、公共のホールで開催されるコンサートツアーやプロレス巡業の場合、チケットを求めて訪れるのはターミナル駅周辺のプレイガイドだった。店頭で座席表を見定め、席番を伝えてチケットを購入する時代に筆者は育ったが、映画館はどこも自由席だったので大入りともなれば立ち見が出て当たり前の時代であった。それ故に、劇場前に行列をなして早い者勝ちで空席を確保するテクニックは、シネコンの予約発券システムに慣れてしまった世代には想像もつかない行為だろう……。


 この辺りで、話題を現代へと戻したい。


 先ごろ、阿佐田哲也の小説を原案とした映画『麻雀放浪記2020』を鑑賞した。1984年に公開された映画『麻雀放浪記』は東映と角川春樹事務所の製作で、イラストレーターの和田誠が監督と共同脚本を担当した傑作映画だった。


 主人公の坊や哲には当時人気絶頂のアクションスター・真田広之が抜擢され、破滅型アウトローのドサ健を鹿賀丈史、老獪な出目徳を名バイプレイヤーの高品格が見事な存在感で演じていた。


 そんな題材を『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』『孤狼の血』で観客たちの度肝を抜き、問題作を連打する白石和彌がリメイクしたと知って劇場へと急いだ。


 ところが東映伝統の低俗極まりない描写に不良性感度が刺激され、コンプライアンス社会の空気に逆行するかのような男性目線の演出に興奮を憶えずにはいられなかった。世のしがらみや常識から、一時でも観客を解放してやらなければという確固たる東映の信念が全編から漂っていた。まさに、停滞する生命力を呼び覚まそうと多難なテーマに挑んだ白石和彌監督、坊や哲を演じた斎藤工、そして配給の東映に惜しみない拍手を贈りたいと思った。


 かつて出演するラジオ番組で主演映画の方向性を探った北原里英は、白石和彌の監督作『凶悪』を挙げて出演を熱望した。本年の年明けから、テレビ東京系の連続ドラマ『フルーツ宅配便』を視聴していた筆者は、眼鏡をかけたおさげ髪の地味なデリヘル嬢・レモンを、個性的かつ繊細に演じた若手女優の存在がとても印象に残った。


 そんな、ほかのデリヘル嬢とは明らかに違ったオーラを放つ女優が気になってクレジットを確かめたところ、何と『サニー/32』の北原里英だと知って驚かされてしまった。そして、そのドラマシリーズのメイン監督こそが白石和彌だったのだ。


 女優という存在は気鋭の演出家や個性的な共演者との出会いによって、その演技力が劇的に進化していくものなのだと改めて感心させられた。インタビューの際、筆者は映画『パーフェクト・レボリューション』の関係者であることや、主演俳優との関係性を簡潔に伝えていた。それは北原里英がリリー・フランキーと共演した際に、一体どのような影響を受けていたのかを聴かせてほしかったからだ。


――― 90年代後半より、筆者はトークライブハウス・ロフトプラスワンの企画プロデューサーの一人として、トークライブを手掛けていた。オープン当初から店には雑多な文化人が出演しており、イラストレーター兼コラムニストとして活動していたリリー・フランキーもその中の一人だった。


 その後、自身のサブカル系企画『スナック・リリー』が起爆剤となってその知名度はさらに上昇、数多くの『スナック・リリー』信奉者が生まれていった。ロフトプラスワンのアイコンとも呼ぶべき東京タワーをモチーフにしたカラフルなステージ画は、数多のお客さんやロフトの関係者が見守る中で、リリー・フランキーが夜を徹して描いてくれたものだった。


 筆者もリリー・フランキーのトークや著作から様々な影響を受けるようになっていったが、日頃から出演者に対して手厳しい評価をするロフトの名物オーナー・平野悠も、「リリーさんのトークセンスは素晴らしい。すぐにブレイクするだろうな」と早々に予見していた姿が懐かしい。以降、リリー・フランキーは長編小説を上梓してベストセラー作家となり、主演映画がカンヌ映画祭でパルムドールを受賞するという快挙を続々と成し遂げていく。


 そんな渦中、ロフトプラスワンを通じて接してきたリリー・フランキーとの縁が、2015年の冬に再びつながった。


 その数年前、映画『まだ、人間』を完成させ、劇場公開を決めたばかりの松本准平から同作の宣伝プロデューサーを依頼された。当時、東映系の配給会社にデスクを置いていた松本准平は、一方で新作映画の企画開発にも携わっていたが、監督作の宣伝期間と重なってしまい捗ってはいなかった。そのような関係から筆者も頻繁に配給会社の応接室で宣伝の会議を重ねていたのだが、徐々に企画開発についての打合せも行うようになっていった。


 また、松本准平という映画監督に興味を抱き、同じように東京大学の大学院を卒業した経歴を持つルポライターの昼間たかしも、『まだ、人間』の宣伝記事を掲載していた関係から企画開発の打合せに参加していた。


 そしてある時、四肢の痙性麻痺から電動車椅子での生活を余儀なくされている友人の熊篠慶彦から、自らの半生を映画化したいと度々相談を受けていたことを思い出した。数日後、事前に企画案を伝えておいた昼間たかしが、電動車椅子に乗った熊篠慶彦を連れて配給会社の応接室に現れた。


 身体障害者の応対に不慣れな松本准平の戸惑いが昨日のことのように思い出されるが、後に筆者の企画案が実を結んで松本准平と熊篠慶彦の二人は意気投合。翌年、松本准平はその配給会社を退職するのだが、電動車椅子に乗った身体障害者のラブストーリーを映画化すべく地道な取材活動を重ねていく。


 程なくして、熊篠慶彦を取り巻く人間関係に大胆なフィクションが加えられた脚本が完成し、制作プロダクションの東北新社から武井哲プロデューサーが参入したことによって、映画化へと走りだしていった。


 そして、完成した『パーフェクト・レボリューション』の脚本はロフトプラスワンとの密接な関係性や、熊篠慶彦との長年にわたる交流から、リリー・フランキーのもとへ2015年の冬に届けられたのだった。本作は企画された当初より、監督・脚本の松本准平、原案者の熊篠慶彦、そして筆者も交えて主人公のクマ役には、リリー・フランキーを想定していた。


 以降、松本准平は映画『最後の命』を監督して全国公開を果たし、TOKYO MXのテレビドラマ『ふたりモノローグ』のプロデューサーをこなしながらも、リリー・フランキーとの綿密なディスカッションを続けて、2016年初頭の撮影から2017年秋の劇場公開までの期間を一息に駆け抜けていく。


 その過程で多忙なリリー・フランキーと深夜に何軒ものバーをはしごしては、その多様な表現者としての生き様に幾度となく触れていったのだった……。


 筆者が垣間見たようなさまざまなプロセスを経て、北原里英は『サニー/32』で映画初主演を果たした。そして、5月10日に公開される『映画 としまえん』では、幸運なことに再び主演女優の座を射止めたのだ。



 北原里英もインタビューで語っていたように、共感する演出家や俳優への積極的なアプローチは、怠ってはならない必要不可欠な要素だろう。


 待ち望んだ初主演作の現場で苦楽を共にした監督や共演者が、次々と東映の意欲作『孤狼の血』を大ヒットさせたり、『万引き家族』でパルムドールを受賞していった現実は、北原里英が進歩的な選択眼を持つリベラルな女優であることの証左でもあろう。いや、もっと分かりやすく言い表すと、北原里英という女優に男を見る目があったのだ。


 今回のインタビュー取材における最大の収穫は、北原里英自身が毅然とした態度で宣伝の矢面に立っていたことだろう。そのような取材対応は、誰もが真似できることではないのだが、『パーフェクト・レボリューション』公開時のリリー・フランキーも同じ気構えで、媒体からどのような質問を浴びせられようとも動じない、独創的なしなやかさがあった。


 北原里英は主演女優としての責任感が人一倍強く、表現者としての主張にも筋の通った一貫性があった。ルポルタージュとしての掲載が前提であるインタビューに対しても、NG項目などの事前通告もないまま真剣に向き合って回答する北原里英の姿勢に、映画人としての良心を見たような気がする。


 残念ながら、ワイドショー的な予備知識やアイドルグループの裏事情に精通したライターは当事務所には在籍せず、構成担当として同席した昼間たかしは「あの当時は北原さん、NMB48にいたんでしょ?」などと口走るような失態を演じる始末なのだ。


 筆者が肝を潰して詫びた次第なのだが、なんら気にする素振りも見せずに主演作『映画 としまえん』に賭ける思いを多彩な言葉で表現して頂いた。


 とても短い時間ではあったものの、『あかんやつら東映京都撮影所血風録』各項のページを捲る度に、筆者の中に眠っていた東映への熱い思いが込み上げてきたことは疑いようのない事実だった。


 世代は違っても、過去と現在とが映画的な記憶で繋がっていくような、そんな願いは北原里英のインタビュー取材が実現したことにより、今回の原稿で結実していった。


 先日、青森でのロケーション撮影を終えて映像素材のチェック作業をしていたスタジオで、雪の道中で過酷な撮影を敢行したカメラマンの石崎俊一から、「深夜の仕事は疲れますね。気分転換に映画でも観ましょうか」と労いの声をかけられた。


 そこで、スタジオの大型モニターに表示された配信チャンネルの作品一覧から、筆者は迷わず『仁義なき戦い』を選んだ。高校生の頃、栄町にあった名古屋東映のオールナイト上映で、ガラの悪そうな男性客に交じって『仁義なき戦い』五部作一挙上映を観にいって以来となる深夜の鑑賞だった。


 すでに数十回は観ているであろう『仁義なき戦い』だが、今回ばかりは若杉寛(梅宮辰夫)と山守義雄組長(金子信雄)の極端なコントラストが、妙に浮かび上がってくるように感じられた。


 彗星のように現れては、あっけなく消えていった若杉寛が東映スターの象徴だったとするならば、競艇利権を牛耳る策士の山守組長のモデルは東映のプロデューサーたちではなかったのかと逡巡しているうちに、睡魔に襲われてスタジオのソファーで眠りに落ちてしまった。


 改めて誰もが憧れるスターたちが主役を張り、先見性と機動力が突出した製作陣との絶妙なバランスが、かつての東映の原動力だったのではなかろうか……。


 そして、令和元年早々に劇場公開される『映画 としまえん』が、東映伝統のスター映画の最新作であることは紛れもない事実なのだ。


(構成=昼間たかし事務所/取材・執筆=増田俊樹)



『映画 としまえん』


主演:北原里英
監督・脚本:高橋浩
製作:東映ビデオ
製作プロダクション:東映東京撮影所
配給・宣伝:東映ビデオ


(c)2019 東映ビデオ
公式サイト:https://www.toshimaen-movie.com/


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  • 長い...���顼�áʴ��きたりえのインタビュー以降は全く読んでないわ(笑)
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