「V(バーチャル)の音楽」第1回:キズナアイ、輝夜月、YuNi……VTuberの音楽を切り開いたアーティスト3組

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2019年05月15日 22:41  リアルサウンド

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 みなさんこんにちは。今月からリアルサウンドでVTuber/バーチャルタレントの音楽についての連載を担当させてもらうことになりました、ライターの杉山仁です。


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 僕はもともと海外の音楽を扱う専門誌で編集者をしていて、数年前に独立してからは国内外問わず様々なジャンルの音楽を中心に、映画/アニメ/ゲームなどエンターテインメント全般でライター/編集者をしています。興味の幅が広いこともあって、「一体何が好きなんですか?」と聞かれることも多いのですが、中でもここ数年特に興奮しているのが、VTuber/バーチャルタレントによる音楽=「Vの音楽」です。


 2019年に入って総数8000人を超え、今なお増え続けるVTuberは、2018年末にネット流行語大賞のグランプリを獲得するなど国内で大きな話題となり、最近では中国を筆頭に海外にも活動の場を広げつつあります。その最大の魅力は、動画投稿やライブ配信を通して日常的にファンと相互にコミュニケーションを取りながら、リアルとバーチャルを繋ぐユニークな文化を生み出していること。「てぇてぇ(=尊い)」を筆頭にここから広まったネット用語も多く、日々新たな文化/音楽が生まれています。第一回となる今回は、現在に繋がるバーチャルYouTuber/バーチャルシンガーの音楽を切り開いてきた3組のアーティストを紹介しようと思います。


・キズナアイ


 まずはバーチャルYouTuber界の“親分”ことキズナアイ。バーチャルYouTuberの文化は、彼女が2016年11月29日に動画投稿をしたことではじまりました。アーティスト活動としては、昨年4月に『ニコニコ超会議』で開催された多ジャンルのアーティストが集う「超音楽祭」で大トリを担当。その後誕生日の6月30日に「AI Party! 〜Birthday with U〜」を開催すると、7月にはアーティスト活動時に使用するKizuna AI名義でNorがプロデュースした初のオリジナル曲「Hello, Morning」を配信。昨年末にかけては豪華トラックメイカーを多数迎えて9週連続でオリジナル曲の配信を行ない、12月に東京/大阪でワンマンライブ『Kizuna AI 1st Live “hello, world”』を敢行。そして今回、5月15日に初アルバム『hello,world』を発表しました。


 この『hello,world』は、デビュー曲からTVアニメ『バーチャルさんはみている』(TOKYO MX)の主題歌「AIAIAI (feat. 中田ヤスタカ)」までの楽曲を網羅し、昨年末のライブの様子も映像で収録した現在までの音楽活動の集大成。CDジャケットも9週連続リリース時のジャケットがコラージュされたものになっています。また、昨年の1stライブに続いて使われた『hello, world』というタイトルは、『プログラミング言語C』から広がった最も初歩的なプログラミング言語の基本文法解説例「Hello, World!」を連想させるもの。まさにKizuna AIとしてのスタート地点であることを表現するような雰囲気です。サウンド面での特徴は、「世界中のみんなとつながりたい」という自身の目標を反映するように、言語を超えて人々と繋がりやすいダンスミュージックを基調にしていること。特に初期の楽曲は、00年代末〜10年代初頭のハドソン・モホークやラスティの諸作をルーツにして2012年頃からネット上で広まった音楽=フューチャーベースを基調にしていました。


 その後、昨年の9週連続リリースを続ける中でEDM的なビッグルームハウスやドラムンベースなど音楽性の幅を拡大。彼女自身が歌詞を担当している楽曲も多く、「未来に向かって進むこと」などへの気持ちが綴られた歌詞は、シーンを引っ張ってきた彼女だからこそ心に響きます。今年4月にはkzが作詞作曲を担当した劇場版アニメ『LAIDBACKERS -レイドバッカーズ-』の主題歌「Precious Piece」も発表。夏にはVTuberとして初めて『Summer Sonic 2019』への出演も決定するなど、引き続き新たな扉を開き続けています。思えば、今年4月に『ニコニコ超会議2019』内で開催され、ミライアカリ、電脳少女シロ、猫宮ひなた、月ノ美兎、田中ヒメ&鈴木ヒナによるユニット「バーチャルリアル」を筆頭に総勢100名のVTuberが集結した『VTuber Fes Japan 2019』も、昨年彼女がひとりで「超音楽祭」に出演したことから広がった出来事と言えそうです。


・輝夜月


 一方、彼女を“親分”と呼びはじめた張本人にして、破天荒で自由奔放、けれどもどこかチャーミングなロックアイコンと言えば、2017年12月に活動を開始した輝夜月。彼女の楽曲は元Pay money To my PainのPABLOが作曲し、彼女自身が作詞を担当。昨年8月には世界初のVRライブを開催し、今年に入って急増するVRライブの盛り上がりにも大きな役割を果たしました。


 彼女の楽曲の最大の特徴は、1曲の中に詰まった膨大な情報量。普段の動画そのままの、予測不能な雰囲気が大きな魅力になっています。たとえば、デビュー曲「Beyond The Moon」はヒップホップとパンク/ハードコア、キュートなポップソングがひとつになった楽曲で、続く「Dirty Party feat. エビーバー」は、Run-DMCとAerosmithの「Walk This Way」にも通じるロック×ヒップホップのクロスオーバーを基調にした月ちゃん流のパーティーソング。一見本能のままに言葉を綴っているように見えて、実は細部まで様々な工夫が凝らされているユニークな言語感覚を生かした歌詞も、すべての楽曲に通じる魅力になっています。


 令和1日目となる5月1日に開催されたVRライブ『輝夜 月 LIVE@ZeppVR 2』に向けて発表した現時点での最新配信曲「NEW ERA」は、「新時代」をテーマに初めて外部からコーラスを迎えて制作した、QUEEN「Bohemian Rhapsody」にも通じる壮大な楽曲。『輝夜 月 LIVE@ZeppVR 2』当日は、序盤にコーラスに合わせて指揮者のような振りで観客を湧かせると、その後一転してフレディ・マーキュリーにも通じるロックスター然としたライブを披露。また、ライブ全編は「新時代=令和」を目指して月面に作られたタワーの頂上を目指すストーリー仕立ての構成になっていて、水中ステージでライブをするなどVRならではの可能性を追求しながらも、同時に持ち前の明るい性格で観客とワイワイ騒ぐような雰囲気が魅力でした。


・YuNi


 そして、音楽活動をメインに据えた「(自称)世界初のバーチャルシンガー」といえば、2018年5〜6月に活動を開始したYuNi。彼女の場合、活動をはじめた時期は2人と比べて後発に当たるものの、雑談配信や企画配信が極端に少ない、オリジナル曲や「歌ってみた動画」を中心にした活動を続けることで、音楽に特化したバーチャルシンガーとしての道を切り開きました。


 今年4月24日にはデビューアルバム『clear/CoLoR』を発表。この作品にはYUC’e、la la larks、kz、ヒゲドライバーが参加したオリジナル曲と、過去に公開してきた「歌ってみた」動画を現在の歌声で新録したカバー曲をパッケージ。音楽性の幅がさらに広がったオリジナル曲と、原曲にはない“がなり”を入れて感情の高まりを表現した「シャルル」などを筆頭に豊かな解釈&表現力で歌われるカバーによって、ボーカリストとしての魅力を2枚組に凝縮しています。


 また、4月30日〜5月1日には、平成と令和をまたぐ形で、ときのそら、樋口楓、天神子兎音、かしこまりをゲストに迎えて『さよなら平成カウントダウンライブ UNiON WAVE – clear』を開催。このライブは開演前には音楽活動をする様々なVTuberからのコメントが多数放送されるなど、「Vの音楽やアーティストを取り巻く文化そのものを広めたい」という思いが伝わってくるような構成になっていたことも印象的でした。また、当日の模様はVR環境に加えてYouTubeでも無料配信され、ピーク時には1万8000人ほどの観客が同時視聴。加えてTV番組『news zero』(日本テレビ系)の中継も入るなど、時代の節目に大きな注目を集めました。中でも彼女のファン=ゆにチルのコメントをバックに表示しながら披露された「Write My Voice」は、楽曲の中に初めて自分以外の存在が反映された歌詞も相まって、ライブでの新たなハイライトになっていました。


 ちなみに、2人のライブには親分も来場。時代の変わり目を一緒に楽しんでいたようです。


 Vの音楽シーンでは、「バーチャルな存在だからできること」と「バーチャルであっても変わらない普遍的なこと」の両方が手を取り合って、今まさに個性的な音楽が生まれています。また、まだ歴史の浅い文化ということもあって、リスナー/ファンも一緒に「みんなでこの文化を盛り上げていこう」という熱気が充満しているのも、大きな魅力のひとつです。この連載を通して、自分もその魅力を少しでも多くの人に伝えたい……! ということで、これから「バーチャルな存在が生むリアルな音楽」の魅力を紹介していこうと思います。どうぞよろしくお願いします。


(杉山 仁)


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