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名古屋グランパス、J2降格から1年でJ1復帰、平均観客数歴代1位の“奇跡の軌跡”

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2019年05月19日 10:11  Business Journal

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Business Journal

写真小西工己:名古屋グランパスエイト代表取締役社長
小西工己:名古屋グランパスエイト代表取締役社長

 今日、スポーツビジネスに注目が集まるなか、サッカーJリーグの名古屋グランパスエイトは昨年、リーグ戦平均入場者数2万4660人と歴代1位を記録した。トヨタ流の経営が成果をあげている。


 2016年、クラブ史上初のJ2リーグ(J2)への降格を喫した後、マネジメントは一新された。グランパスの再建を託され、社長に就任したのは、トヨタ自動車常務役員でミッドサイズビークルカンパニーのエグゼクティブバイスプレジデントだった小西工己氏だ。


 彼の指揮下、グランパスは1年でJ1リーグ(J1)に返り咲き、観客動員数を着実に伸ばしている。3年目を迎える小西氏に、グランパス再建の要諦を聞いた。


片山修(以下、片山) 名古屋グランパス社長に就任されて2年が経ちました。当時はまさかの人事、びっくりされたでしょう。


小西工己氏(以下、小西) J2降格が決まった後、社長交代の観測記事が出て、グランパスの新社長にはトヨタの常務級がつくと書いてあったんですよ。一部のマスコミは、グランパスのネガティブキャンペーンを張っていて大荒れでした。私は広報・渉外対応もやっていたので、もしかしたら「くるかもな」とは思っていたんですね。


 1週間くらい後、豊田章男社長から執務室に呼ばれました。「なんで呼ばれたかわかるか」といわれたんです。もしかしたらグランパスの件かなとは思ったんですが、「なんでございましょうか」と。そして「名古屋グランパスの社長をやってくれ」ということを、丁寧に説明されました。


片山 グランパスは、トヨタから51%の出資を受ける子会社ですね。ミッションは、なんだったんですか。


小西 「なんのためのグランパスかわからなくなっているから、強くてお客さまから愛されるグランパスに復帰させてくれ」ということでした。それと、「1年でのJ1復帰を命ずる」と。


片山 エッ! それは初めからいわれていたんだ。


小西 はい。ストレッチしたターゲットだった。まだチームのことは何も知りませんでしたが、回答は「イエス・サー」。それしかありません(笑)。「もう、しっかりとやらせてもらいます」と即答して、「思う存分やってくれ」と激励されました。


片山 17年4月から正式に社長に就任されました。生活が一変したでしょう。トヨタ時代と比べて、どうですか。


小西 トヨタでは、セキュリティや時間の問題で、役員になってからは、移動は主にハイヤーやタクシーでした。一方、いまはスタジアムにいくのも、会社に通うのも、名古屋周辺は全部自分の運転。お酒が入る時は電車でいきますし、時間がなければクルマでいって代行運転を頼みます。クルマの運転は楽しいですが。


片山 地方では、どうするんですか。


小西 地方のスタジアムの試合では、選手は前日に現地に入ります。だから、選手のいるホテルに当日合流して、選手と一緒にバスでスタジアムに向かいます。結構まめなタイプなので、あまり苦にはなりませんよ。


片山 就任されて、まず何をしましたか。


小西 グランパスの本社は、当時、名古屋市中区矢場町の雑居ビルの4階でしたが、チームは豊田市のトヨタスポーツセンターにいる。「現場」であるチームと事務所が離れているのはおかしいだろうと、スポーツセンターの中に引っ越しました。


片山 「現場」に近づいたんですね。


小西 はい。いまは窓から選手がピッチで練習しているのが見える。ウォームアップやパスの練習が済んで、フォーメーションプレイになったら出ていって、近くで見ています。


片山 どん底からのスタートでしたね。


小西 私は、後ろは向かんほうですからね。とにかく、「何をやってもいい」といわれたので、何ができるかなと考えました。


片山 でも、J2は大変だったでしょう。


小西 大変ですよ。何もかもJ1とは違います。対戦相手は知らないチームばかり、スター選手もあまりいない。優秀な選手は、すぐにJ1に引き抜かれるし、選手自身、それが目的でがんばっているところもある。グランパスも多くの選手が出ていって、まるっきり違うチームになっていました。


片山 同じく17年に就任した風間八宏監督も、大変だったでしょうね。


小西 1年でJ1復帰は、今言ったように、かなりストレッチしたターゲットだったと思います。いま思えば、1年で復帰したのはすごい手腕です。さすが風間監督ですね。


片山 小西さんは、グランパスの試合には、全部ついていかれるんですか。


小西 それ、よく聞かれるんですけど、決まりですからついていかないといけないんですよ。コミッショナーと両チームの社長と監督、4人の審判が70分前ミーティングをして、条件とか、何かあった時の対応とか、懸念点なんかの情報をシェアして、承認しないと試合が成立しない。もちろん、決まりじゃなくても、必ず毎試合いきますけどね。


●お客さまの共感


片山 グランパスの大ファンの友人から、5月20日の小西さんの挨拶は凄かった、と聞いています。


小西 ありがとうございます。18年の5月20日ですね。13戦勝ちなしの状態で、サッカーW杯期間中の約2カ月間のリーグ戦中断に入ることになった。しかも、オフサイドの微妙な判定の末、3対2での敗戦で、本当に後味の悪い試合だったんですよ。さすがに13戦して勝ちなしだから、サポーターさんがかなりザワついています、ちょっと一言話してください……と部下からいわれた。トヨタであれば、そういう場合、すぐに挨拶文案でも手元にパッと出てくるかもしれないのですが、もちろん一瞬で自分で考えるしかありませんよね。


 スタンドでマイクの前に立ったら、2万人のお客さまの大ブーイング。「辞めろ!」「バカたれ!」とか、いっぱい、結構しっかりと聞こえるんですよ。ただね、頭の中は不思議と澄んでいて、冷静でした。挨拶のどこかで、このブーイングを絶対に拍手に変えてやるぞ、と思っていました。


 前半戦の苦しい展開に、我慢強いサポートをいただいていることに感謝を伝えて、「2年前の悔しい思いは、決して繰り返しません」と、ゆっくり、はっきり、申し上げた。あの言葉で、ブーイングが拍手に変わりました。「悔しい思いをさせません」ではなくて、「繰り返しません」と一人称で申し上げました。そういう自分の強い想いをお伝えして、そこに共感していただけたから、拍手になったのだと思います。


 そうして、この年の最終戦の挨拶では、開口一番、「5月20日の皆様方とのお約束、ここに完結いたしました」っていいました。その時は、望外の万雷の拍手をいただきました。ありがたかったですね。


片山 サラリーマンでは、味わえない世界ですね。


小西 うーん。負け試合の後、次の試合までの1週間、W杯のときは、負けてから次に勝つまで3カ月間、正直いって、地獄でしたよ。悶々とするし、弱気の虫が出る。もともと、僕はタフなほうだと思いますし、弱くはないんです。それでも、睡眠が浅かったり、受験に失敗した夢を見て飛び起きたりしましたよ。J1復帰も、残留も大変だった。白髪になるし、薄くもなるし(笑)。


片山 ビジネスでいう危機の連続。でも、嬉しいこともあったでしょう。去年は、最下位で折り返しながら、後半戦はいきなり7連勝というドラマがありました。


小西 いちばん嬉しかったのは、10月19日、私の誕生日なんですが、千葉で柏レイソル戦があったんです。7連勝後の敗戦の後。当時、柏はグランパスより勝ち点が2上で、直接対決でうちが勝てば1点上回る、負ければ5点差がつくという、いわゆる「6ポイントマッチ」だった。しかも、DAZN(ダゾーン/スポーツ専門のネットチャンネル)が、グランパスのロッカールームの裏側を追う特集を組んでくれていた。


 その試合を、1対0で制したんですね。試合後のロッカールームに、選手がバースデーケーキを用意してくれていて、「社長おめでとう! 万歳!」ってやってくれた。あれは、最高に嬉しかったですね。僕が試合の日に何したわけでもないのに。


●豊田スタジアム歴代入場者数の最高記録


片山 サッカーチームの経営は、ビジネスの側面から見ると、いかがですか。


小西 チームが興行し、プレイし、それを広報、宣伝、チケットの販売などが支える。すべてチーム一体ですね。


片山 スタッフは、何人くらいいるんですか。


小西 正社員の非プレーヤーは約40人。選手、監督、コーチ、アカデミーやスクールの指導をするコーチやスタッフなどを入れて、110人くらいです。


片山 よくマネジメントが回りますね。


小西 マネジメントについては、スタッフがずいぶん僕のことを理解してくれているので、大丈夫ですよ。みんながカバーしてくれます。


片山 トヨタからの出向者は。


小西 いまは、トヨタからの出向者はおらず、私以外はみんな生え抜きです。会長はトヨタ副会長の早川茂さんにやっていただいてます。


片山 でも、J2からスタートしてここまでもってくるのは、ビジネスとしても大変だったでしょう。


小西 一般的に、J1からJ2に落ちると、ホームゲーム年間入場者数は約3割減るといわれています。予算編成にあたって、入場料収入を算出するのに入場者数の目標を決めますが、17年の目標は3割減で上がってきた。以下、予算は全部3割減。そのなかで勝たないとJ1にはあがれない。これは、大変なことです。


 ただ、僕は、そもそも減る前提なのが理解できなかった。「何でJ2に落ちたらビジネスが“縮小”するの?」って、聞きました。みんな、「弱いからです」「相手様もあまり魅力がないからお客さまが入りません」という。


 そこで、これまでにJ2に落ちて、動員数の減少幅がいちばん小さかったケースを調べたら、マイナス10%で済んだケースがあった。「これが目標になるのかな?」って、みんな思ったみたいです。


片山 はいはい。


小西 これは甘いですよね。


片山 ははははは。


小西 去年の自分に負ける宣言なんて、あり得ない。僕はそんなのイヤだった。だから、「僕が責任をもつから挑戦しよう」と話して、最終的に「去年を超えよう」といいました。みんな、引っくり返っていましたけどね。できない理由を5ついいがちになるんですよ。弱気の虫。「できない理由ではなくて、一つでいいからできる理由を考えて、実行に向けて動こうよ」って。


片山 いいですねェ。


小西 これ、トヨタ生産方式の伝道者の林南八(トヨタ自動車元技監)さんのウケウリですけどね(笑)。トヨタ流が染み付いちゃってるからしょうがない。「社長がやりたいんだから、みんな一緒にやろう」といってくれました。まあ、最初は、この社長のバカは何を考えているのかと思っていたみたいですよ。


片山 結果、本当に前年を超えたそうですね。


小西 そう。あの手この手を考え、がんばってくれて、17年は16年の31万9000人を超え、32万3000人となりました。自信になったと思います。


片山 努力されたんでしょうね。


小西 そうです。あの手この手とマーケティングを尽くしました。それと、1位2位の自動昇格ではなかったので、さらに2試合プレーオフを追加でやったんですよ。最終的には、37万人くらいになりました。翌18年は、40万人動員を目標にして、44万4243人。リーグ戦平均入場者数は2万4660人で歴代1位。ありがたいことです。


片山 鹿島戦で、4万3579人という豊田スタジアム歴代入場者数の最高記録までつくりましたね。


小西 部下に話したのは、「“4万人”には、意味はないんだよ」ということです。“4万人”とまとめて考えた瞬間に、もうマーケティングはできない。お客さま一人ひとりの粒粒で見ないといけない、といいました。個々のお客様にカスタマイズをしたご提案をして、その積み上げで4万人という結果が出るとね。


●数々の施策を実行


片山 なるほど。具体的には、何をされましたか。


小西 まず、Eコマース(電子商取引)のJリーグチケット(Jチケ)を買っていただいた。Jチケ会員は、16年の約3万1200人から、18年には11万7800人まで増えました。会員は、個人情報を入力していただけるのでメルマガを送れますし。


 それから、17年には、小・中学生1万人無料招待をやりました。個人情報と交換ですから安いものです。しかも、小学生なら親は定価を払ってついてきてくださいますからね。試合後には、「パパ、面白かったからファンクラブに入ってよ」ってなりますでしょ。次回はちゃんと、子供もお金を払ってきてくれる。お陰様でファンクラブの会員数は、16年の1万4410人から、18年には2万1893人まで増えました。


 ほかにも、5試合中3試合にきてくれれば、この試合のチケットを差し上げます、というスタンプラリーや、「ガールズフェスタ」もやりました。


片山 現状、女性比率は少ないんですか。


小西 そうなんです。気になっていたんですよ。グランパスは、少々男の匂いが強すぎる。10月7日の豊田スタジアムのFC東京戦では、「ガールズフェスタ」と銘打って、エアアジア・ジャパンさんと、女性の着やすいデザインのユニフォームをつくり、女性のお客さま先着1万人にタダで配りました。試合開始1時間15分前になくなってしまいました。ほかにも、資生堂さんが手弁当でテントを出して、グランパス公式応援メイクとか、フェイスシール、グランパス色のルージュなどを出してくださり、女性のお客さまにとても喜んでいただきました。


 女性のお客さまが1万人を超えたということは、全体の35%です。従来は18%程度でしたから、ポテンシャルはあるとわかりました。今年は、女性を軸にスポーツファッションの企画を考えています。


片山 今年は、「鯱の祭典」を開くそうですね。


小西 名古屋市、豊田市、みよし市を中心に、スポーツファッションで歩くことが「かっこいい」という雰囲気をつくって、最後はスタジアムでグランパスを応援しよう、という企画です。


 家を出るときから帰宅するまでユニフォームを着ている人の比率は、まだ少ない。長く着ていただけば、スポンサー様にとってはバリューが上がりますし、それこそ、愛知県名古屋市を真っ赤なユニフォームで染め上げて盛り上がりたい。着ていただくためには、服もかっこよくないといけないので、BEAMSさんとコラボレーションを決めました。
(文=片山修/経済ジャーナリスト、経営評論家)


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