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ホームレスの言葉に大センセイ納得 「不定時法」のメリット

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2019年05月20日 16:00  AERA dot.

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写真イラスト/阿部結
イラスト/阿部結
 SNSで「売文で糊口をしのぐ大センセイ」と呼ばれるノンフィクション作家・山田清機さんの『週刊朝日』連載、『大センセイの大魂嘆(だいこんたん)!』。今回のテーマは「自然と生きる」。

*  *  *
 早朝の多摩川を歩いていると、なかなか面白い光景を目にすることができる。

 河川敷にずらりと並んだビニールハウス(ホームレスの人の家)のいくつかから、煙が立ち上っているのである。竈をこしらえて集めてきた薪を燃やし、煮炊きをしている人がいるのだ。

 高き屋に登りて見れば煙立つ 民のかまどはにぎはひにけり  『新古今集』

 大センセイがお住まいの地域には、二子とか丸子というように「子」がつく地名がいくつかあるが、この子は古墳の「こ」だと聞いたことがある。

 実際、丸子橋の東京側の橋詰めには多摩川台古墳群というのがあって、亀甲山古墳と宝莱山古墳というでっかい前方後円墳の間に、小さい円墳が八基も、連なるように並んでいる。

 この古墳群は多摩川の河川敷を見下ろす高台にあり、現在の地名は田園調布。古墳時代から金持ちは高いところから民を見下ろしていたのかと思うとちょっとムカつくけれど、早暁にいくつもの竈から煙が立ち上る風景は古代の日本を想起させてくれて、なかなかいいもんである。

 大センセイ、竈を持っているホームレスの人に頼んで家を見せてもらったことがあるのだが、意外にも楽しそうな暮らしであった。

 ビニールハウスの周りに竹垣が巡らしてあり、竹垣の内側には小さな菜園が作ってあった。いくつかの水槽に多摩川で釣った小魚が泳いでいて、ラジカセから陽気な音楽が流れている。ソーラーパネルで発電しているから、電池はいらないということであった。

 この家の主は○さんという長崎出身の元大工さんで、「いろいろなことがバカバカしくなって、仕事をやめてここで暮らしている」とのことであった。

 たしかに、いろいろとバカバカしいことが多いですな。

 意気投合して以来、早朝ウォーキングの最中に○さんから声をかけられるようになった。大センセイが早足で歩いていると、

「おーい、兄ちゃん」

 と大声で呼ぶんである。

 先日も呼び止められて立ち話をしていると、ランニングをしている人が通り過ぎざま軽く会釈をしていった。すると○さん、こう言うのである。

「いまのは福祉の人なんだけど、ありゃダメたい。こないだ施設に顔ば出せって言いよるけん行ってみたばって、もーう時計のごたる。オレはあげな風には生きられんとよ」

 スケジュールがかっちり決められていて、窮屈で仕方なかったというのである。

 大センセイ、この○さんの言葉を聞きながら「不定時法」という言葉を思い出していた。

 これは、昭和君と国立科学博物館を見学に行ってにわかに仕込んだ知識なのだが、なんでもわが国は江戸時代まで不定時法を採用していたんだそうである。

 大センセイ、不定時法では一刻の長さが季節ごとに変化するということを、このトシまで知らなかった。

 現代の日本では、一時間の長さは夏でも冬でも同じだが、江戸時代の一刻は、太陽が出ている時間の長い夏には長く、冬は短かった。江戸時代の日本人は文字通り、自然のリズムに合わせて生きていたのである。

 おそらく古代の民の竈の煙も、決まった時刻ではなく夜明けとともに上ったことだろう。

 ○さんは社会に適応できない人なのではなく、自然のリズムに従って生きているだけなのかもしれない。

※週刊朝日  2019年5月24日号

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