行き過ぎた「完食指導」で体調不良、トラウマも…? でも、学校ばかりを“悪者”にしてはいけない理由

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2019年05月21日 16:00  citrus

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久しぶりにcitrus編集部から次のようなご質問をいただきました。

 

「行き過ぎた完食指導で体調不良を訴える子供たちが増えているようです。記事によれば、“たくさん食べないと大きくなれないよ!”という善意に基づいた働きかけが根底にあるのだと思いますが、体格も食事量も人それぞれですから、“たくさん”は人によって違う気もするのですが……。日本に根付く食文化みたいなところもあるのでしょうか?」

 

楽しいはずの給食が…「完食強要」やめて(NHK NEWS WEB)
 

 

■学校給食の量は、どうやって決める?

 

子ども時代は、同年齢の子どもの平均体位は大人ほどばらつきがありません。そのため、学校給食などでは、エネルギーなど比較的自宅でも取りやすい栄養素は1日に必要な量の1/3、ビタミン類、カルシウムなどのミネラル類のうち、自宅で摂取することが難しいであろうと考えられる栄養素については、1日に必要な量の40〜50%を給食で提供するように学校給食法で定められています。

 

摂取基準値は、その年齢の子どもの平均的な体位を使って算出しています。男女比1:1の場合を想定して計算しますが、男女差など細かくは考慮されていません。子どもの体格は大人ほどばらつきがないとはいっても、全く差がないわけではありません。均等に分けた1人前では多く感じる子どももいるかもしれません。逆に少なく感じる子どももいると思います。


学校給食は、給食室からクラスの人数分の食事が教室に届けられ、教室で各自に配られます。私自身は臨床畑(病院勤務)と栄養士教育畑を歩いてきた人間なので、学校給食の現状についてさほど詳しくはないのですが、聞き及んでいる限りでは、どの学校・クラスでも担任の先生のご努力でそれぞれの子どもに見合った量が手元に届くよう考慮しているとのこと。この記事によると、現実には違うという学校もあるのでしょうか。「こんなかわいそうなことはさせていません!」と小中学校の先生方から反論を頂戴したいところではありますが……。

 

管理栄養士の立場からすると、上記のように学校給食で提供している食事は「平均的なその年齢の子どもの体位」を基準にして献立を考えています。並外れて体が小さい場合を除いて、一般的には均等に分けたとしても食べきれる量であろうと考えられますし、食べきることができれば体にもよいであろうことは言うまでもありません。

 

 

■トラウマになる完食指導の是非

 

だからといって、トラウマになるまで食べるように指導するのもかわいそうな気がします。

 

ただし「じゃあ、食べなくていいよ」とあっさり引き下がれるほど甘くはありません。高齢者なら引き下がれますが、子どもは先が長い。あっさり引き下がってしまったら、その子の将来は不健康まっしぐらです。
 

もう一度、学校給食の栄養基準をよく見てください。自宅で摂取しづらいビタミン類や、ミネラル類を多く含むメニューが出されています。この栄養素量を提供するためには、自宅では出されないであろう食材を使った料理が出る可能性も高いのです。子どもにとって、「見たことがない」「食べにくい」料理が出てきたとしても不思議ではありません。

 

例えば、1日に必要な量に対して、学校給食で提供すべき割合が最も高いのはカルシウムです。学校給食ではカルシウム源は牛乳で提供されることが一般的ですが、「牛乳嫌い? だったら飲まなくていいよ」を続けていたら、骨が太くなりません。男子児童はいつまで経っても低身長のままかもしれませんし、女子児童は、年齢を重ねた時に大腿骨骨折で寝たきりのリスクも高くなります。

 

「それでいいのか?」という話です。

よくないですよね?

よくないんだったらどうしますか?

少しでも食べられるようにするしかないですよね?

 

「気持ち悪い」と泣き出すまで頑張らせる必要はありませんが、毎日一口ずつでも食べられるようにしていくことが必要なのかな、と感じます。

 

 

■学校ばかりが“悪い”のか?

 

だからこそ、自宅でも考えていただきたいことがあります。

 

先に「(必要な栄養素量を確保するために)学校給食では、自宅では出されないであろう食材を使った料理が出るはず」と書きました。もう一度、先ほどの学校給食の基準を見てみましょう。学校給食で多く提供することになっている栄養素は、カルシウム以外だと、マグネシウム、鉄、ビタミンA、ビタミンB1、食物繊維です。これらは、野菜や海藻に多く含まれています。

 

いかがですか? 自宅で野菜料理を食べさせていますか? 野菜料理は“かさ(体積)”の割にエネルギー源が少ないので、成長のためのエネルギー源を欲している子どもたちは後回しにしがちですよ。「食べないから作らない」となっていませんか?1日3回の食事のうち、2回は自宅で食べるのですから、食育は自宅で行う方が効率的です。3回のうち2回をなおざりにしているのに、「学校が悪い!」はないですよ。



食事の内容だけではありません。食べているときの様子もよく観察して、保護者懇談会の席などで担任と情報共有するようにすれば、無理に食べさせられてトラウマになってしまうというような悲しいことは減らせるように思います。

 

考えてみてください。学校に来ているのはあなたの子どもさん1人ではありません。教室には30〜40人の子どもさんがいるのに、先生は1〜2人。子どもが隠れて特定の食べ物を残そうとすれば、いくらでも隠れて残すことは可能です。ただし、隠れて残していたはずが、見つかってしまえば叱責も免れません。軽度のうちに先生が見つけてくれれば叱責も軽く、トラウマになることは少ないでしょうが、自宅のほうがより見つけやすいはず。親対子どもはほぼ1対1、隠れようがないのですから。自宅でのサポートが重要なのです。

 

食育は分かりやすい一例でしかありません。勉強そのものであっても「全部、学校で面倒をみて」では子どもは上手く育ちません。どんなに全教職員が全力で頑張っても学校でサポートできることはごくわずかです。

 

ぜひ、自宅でも子どもの食育や教育全般について、今一度考え直してみてください。

このニュースに関するつぶやき

  • 体調はその日によって違うし、味覚だって変化する。もっとおおらかに考えるべきでは?
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