NHKの金曜夜の人気ドキュメント番組『ドキュメント72時間』に対し、こちらも根強いファンを持つフジテレビ日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』。5月12日放送のテーマは「男と女の婚活クルーズ 2019」。
あらすじ:38歳子持ち女性・アヤ、婚活で告白されるも「お断り」
主人公は38歳のアヤ。すらっとしたスタイルの美人だ。バツイチで7歳の娘がおり、親から引き継いだ土地で一昨年から農業を営んでいる。パパが欲しいという娘の希望もあり、結婚相談所「ノッツェ」が開催している婚活クルーズに参加する。
台北から横浜への4泊5日のクルーズで複数の男性からアプローチを受け、「娘のための良いパパ候補」は見つけられるも、やはり自分が好きにならなければ難しいと、最終的に2人から告白されるも「お断り」してしまう。
「私が好きになれる人じゃなきゃダメ」なアヤは婚活向きじゃない
今作を見た方と語り合いたいのは「アヤ、別に結婚したくないよね?」ということだ。
「バツイチ」「子持ち」「婿養子にならないといけない」というアヤの状況は、婚活市場において男性が「ぜひ!」となる要因ではない。アヤも自覚していたが、38歳という年齢も相手側が子どもを望むならかなり厳しいだろう。
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それを踏まえ、アヤの立場で本当に結婚したいのなら、参加するのは婚活クルーズといった若い人も大勢いるようなイベントめいたものよりも、結婚相談所での一対一のお見合いではないかと思う。クルーズでアヤに対し、「子持ちはちょっと」と言った男性がいた。のちにその男性は失言を詫び、確かに配慮は足りなかったが、本音はそうなのだ。結婚相談所における一対一の出会いなら、条件が「違う」マッチングはそもそも成立させないことだってできるのだから、お互い気まずい思いをせずに済む。
しかしアヤは、結婚相談所に行ったところで仲人泣かせだろう。なぜならアヤは、一貫して「私が好きになれる人じゃないとイヤ」な人だからだ。
婚活クルーズ中、アヤは複数の男性からアプローチされるも「私が好きなれる人じゃないとダメ」を繰り返し、結局、そのうち二人の男性から告白されるも断ってしまう。そして番組の最後には、「いい人だけではいけなかった。私は、一度失敗しているから」と言っており、前の夫もアヤにとっては「いい人なんだけど……」という存在だったのかもしれない。
とにかく「好き」になりたいアヤは婚活向きではない。そんな態度を見透かされてか、クルーズの最中にノッツェ・須野田珠美社長から、そろそろパッション的な恋愛から、生活していく中で(相手を)好きになっていくというステージを選ぶべきであり、「卒業」の覚悟はあるか? と諭されていたが、結局アヤは“卒業”に踏み切れなかった。
「好きになりたい」アヤだが、それなら婚活ではなくマッチングアプリなどを使い恋活すればいいのではと思う。しかし番組の最後にアヤは、「(恋に)燃えると子どもを置き去りにするから、今はゆっくりでいい」とも言っている。
結局、アヤは「結婚したい」でも「燃え上がるような恋がしたい」でもなく「別に今のままでいい」のだ。なんなんだ、という脱力感の中で「サンサーラ(番組エンディングテーマ)」を聞いた。
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私はテレビのお見合い番組や婚活関連の番組を見るのが大好きで、過去には中高年向け結婚情報サービス「茜会」、エグゼクティブ男性の結婚相談所「誠心」の両事業者に取材させていただいたこともある。そんなイチ婚活ファンとして、アヤのような覚悟の決まらない人間が婚活をしたら、覚悟を決めて大枚をはたいている相手に失礼だとも思うが、アヤとて「クルーズに出てみて、やっぱりそんな結婚したくないとわかった」というのはあるのかもしれない。視聴している側には、アヤが最初から結婚に乗り気でないように見えたが、自分のことは案外わからないものだ。それとも、美人のアヤにとって、婚活クルーズに参加したのは「栄光よ、もう一度」的気持ちもあったのだろうか。
38歳のアヤにアプローチをかけた男性3人のうち、一人は46歳、残りの二人は50代で、最終的にアヤに告白したのも、この46歳と50代だった。アヤと同世代の男性は、アヤより下の世代に行き、こういう点において婚活はわかりやすくシビアだ。なまじ美人ほどかつていい思いをしただけ、こういったギャップはきついだろうとも思う。
アヤにはなく、真の主役・サヨにあるもの
実は、今作の主役はアヤではなかったように思う。真の主役は、ちらっとしか出てこなかったクルーズ参加者の看護師・サヨではないだろうか。最終日の告白タイムにおいて、通常は男性から告白するが、女性から告白したい人はいるかという司会者の問いかけにサヨは手を挙げる。
そして相手に対し「初日からいろいろな話をして将来のことも話した。これからも歩んでいけたら」「結婚を前提にお付き合いさせていただきたい」と痺れるような告白をする。相手は感動の上、快諾していた。
一方アヤはその日の朝、食事を一緒に食べた男性の口元にケチャップがついているのをナプキンで拭ってあげる「モテテク」を披露し、男性はその後アヤに告白し玉砕していた。「好きにならないとダメ」なくせに、好きでもない相手にそんなことをする。覚悟の決まったサヨを前に、しみじみとアヤは「婚活」向きではない。
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次回の『ザ・ノンフィクション』は「黄昏れてフィリピン 〜借金から逃れた脱出老人」。アヤの煮え切らなさが可愛く思えてくるような一本だ。
石徹白未亜(いとしろ・みあ)
ライター。専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)。
HP:いとしろ堂