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『ラジエーションハウス』では描かれない日本のCT・MRI“異常過多”の危険性

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2019年05月21日 19:11  Business Journal

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写真「Getty Images」より
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 放射線技師や放射線科医の苦悩と葛藤を描く連続テレビドラマ『ラジエーションハウス〜放射線科の診断レポート〜』(フジテレビ系)が4月8日にスタートして以来、注目を浴びている。レントゲンやCT(コンピューター断層診断)で病変を撮像し、病気の原因を探る放射線技師と、病変の有無を診断(読影)する放射線科医たちの葛藤を描く医療ドラマだ。


 実は日本は、がんや重篤な生活習慣病などの早期発見・早期治療に欠かせないCTやMRI(磁気共鳴画像)などの高額医療機器の保有台数が、国際的に見て異常といえるほど多い。一方で、放射線診断専門医が圧倒的に不足しているというアンバランスがある。『ラジエーションハウス』を視聴しているだけでは、こうした現実は見えてこない。


●過剰な画像診断は被爆と無駄な医療費の原因となる


 国際的に突出したCT・MRI大国である日本に対しては、かなり前からその危険性を指摘する報告がいくつかなされている。問題は大きく分けて、「被曝のリスク」と「医療費が膨大なものになる」という2点だ。


 画像診断の発達は、医学に驚異のイノベーションをもたらした。だが、CTや放射性医薬品による検査で使用する電離放射線量は、胸部X線撮影やマンモグラフィーなどの標準的なX線検査のおよそ50〜500倍以上の高線量だ。高線量の放射線が広範囲に照射され、検査回数が増加すれば、低レベルでも発がんリスクが高まることは予想に難くない。


 米国では、放射線技師や放射線科医などが受ける業務上の被曝の実効線量は、5年間で100ミリシーベルト(mSv)(年間平均20mSvかつ1年間の上限50mSv)に制限される。


 エモリー大学医学部のレザ・フェイゼル博士らの研究チームは、毎年1000人中約194人が中線量(3〜20mSv)を、1000人中約19人は高線量(20〜50mSv)を、1000人中約2人は非常に高線量(50mSv超)をそれぞれ被曝し、毎年およそ4万人が年間20mSv以上の放射線を被曝したと報告した(「The New England Journal of Medicine」2009年8月号)。


 また、フレッド・メトラー博士は、画像診断による1人当たりの実効線量が10〜15年で倍増、26年間で被曝量が約6倍、56年間で放射線または放射性医薬品を用いた年間の診断回数は約15倍に増加したと発表した(「Radiology」2009年11月号)。


 米国をはじめとする先進国では、放射線診断件数はやはり急増しており、スミス・バインドマン氏らはCTが同種にもかかわらず、同一施設内および異なる施設間でもCT検査の種類ごとの線量の最大値と最小値間に平均13倍の差があった事実を報告した。


 バインドマン氏は「同種のCT検査を異なる施設の医師らが異なった技術パラメーターを用いたからだ」と説明。「CT検査の種類に応じた許容線量の基準がなく、許容できない線量になる。被曝量を30〜50%軽減するための規制はない」と指摘する(「Archives of Internal Medicine」<2009 年 12 月号スミス・バインドマン氏らの研究>より)。


 こうした米国の状況に対して、コロンビア大学・内科医学と放射線医学のアンドリュー・アインシュタイン博士は「検査の正当化、検査法の最適化、診断基準レベルの平準化という放射線防護の3原則を徹底しなければならない」と主張する(「Archives of Internal Medicine」<2009 年 12 月号>)。


●なぜ日本には多くのCTやMRIが導入されているのか


 十数年前のものだが、日本では画像診断によってがんが3.2%(年間7587件)増える可能性があると指摘する論文が医学雑誌「ランセット」に掲載されている(Amy Berrington de Gonzalez, Sarah Darby: Risk of cancer from diagnostic X-rays: estimates for the UK and 14 other countries. Lancet 363:345-351, 2004/2004年3月10日)。


 ゴンザレス博士らは画像診断の被曝による放射線で誘発される9種類のがん(食道、胃、結腸、肝臓、肺、甲状腺、乳房、膀胱、白血病)が75歳までに発症する確率を、英国と先進14カ国について比較した。


 ただ、画像診断による低線量被ばくによる発がんの可能性や発がん率は定説がないので、明確なエビデンスはいまだ不明だ。画像診断による「がんの発生と死亡率」に関して、さまざまな果敢な研究が米国で続いている。その成果は必ず実を結ぶだろう。
 
 むしろ、ゴンザレス博士らの論文が指摘した重要なことは、日本の画像診断による検査数やCTの保有台数が非常に多い点だ。


 厚労省『医療機器の配置及び安全管理の状況等について』(2016年7月15日)と「OECD health Statistics 2015」から、OECD(経済協力開発機構)諸国と比較した日本のCTとMRIの保有台数を見てみる。
 
 CTの保有台数(100万人当たり)は、日本は101.3台で、2位以下のオーストラリア53.7台、米国43.5台、アイスランド40.5台、デンマーク37.8台から大きく飛び抜けている。MRIの保有台数(100万人当たり)でも、日本は45.9台で、2位以下の米国35.5台、イタリア24.6台 、韓国24.5台、ギリシャ24.3台と比べて、やはり群を抜いて多い。


 CTとMRIの保有台数は、それぞれOECD平均の4.1倍、3.27倍に達している。日本のCT保有台数は、1万人に約1台という高率だ。


 なぜこれほどまでに、CTやMRIなどの診断機器の保有台数が異常に多い国になっているのか。それは、CTやMRIなどの診断機器の設置基準が明確でない上に、医療従事者や患者の医療被曝への意識が低く、国民が公的健康保険制度による低費用の検査に依存している状況にあるからだといわれる。


 さらに、国内の医療施設で働く放射線科医は6587名と少ない(「平成28年 医師・歯科医師・薬剤師調査の概況」より)。1人の放射線科医当たりの検査回数は年間約5000回となり、その負担はかなり大きい。『ラジエーションハウス』でも、あまりの読影件数の多さに疲弊する放射線科医の姿が描かれている。


●大病院よりクリニックに多いCT、MRIは無駄?


 さらに日本の保有施設数はCTが診療所5001(43%)、病院6627(57%)、MRIが診療所1669(33%)、病院3466(67%)と、CT、MRIともクリニックレベルにも多く設置されている特徴がある(厚労省『医療機器の配置及び安全管理の状況等について』<2016年7月15日>)。


 CTやMRIなどの高額医療機器が大病院だけではなく、市中の小規模な病院や診療所に分散しているこうした状況に対しては、医療機器の非効率的な運用が行われ、患者の健康維持より医療機器の維持と利益確保のために活用されている傾向があり、その結果として無駄で危険な医療被曝と医療費の高騰につながっていると批判される。


 もちろん、解決策がまったくないわけではない。それは、次のようなものだ。


・欧米のようにCTやMRIなどの高額医療機器に厳しい施設基準を設ける
・都市部に高額医療機器を集約し、より効率的かつ高レベルの医療を実現する
・専任する放射線科医、放射線技師の雇用を義務づけ、品質管理を徹底する
(「京都府立医科大学雑誌」120(12),943〜951,2011 特集「放射線と健康」米国発,医用画像の過剰使用問題は我が国へも波及するか〜山田惠)


●超過剰画像診断大国の未来はどこにあるのか?


 過剰な画像診断による医療被曝、医療費の高騰、放射線科医の不足と過剰労働、さらにそれによる誤診や病気の見逃しのリスク、こうした問題を抑制できる道は開けるのか。


 CTやMRIの豊富な医用画像データを生かすために、AI(人工知能)のディープラーニングやクラウドソーシング(画像の遠隔読影など)を活用はそのひとつだろう。


 ちなみに、乳腺マンモグラフィーと胸部X線単純撮影は5年以内に、CT、MRI、超音波診断は10〜20年以内に、AIによる画像診断に置き換わるとする報告がある(米医用画像情報学会(SIIM)「Conference on Machine Intelligence in Medical Imaging」<2016年9月号>より)。


 10年後に『ラジエーションハウス』がつくられれば、ずいぶん違った内容になるだろう。
(文=ヘルスプレス編集部)


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