35歳以上の中高年が「オタ活」を楽しむための秘訣とは?『「若者」をやめて、「大人」を始める』レビュー

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2019年05月21日 20:01  おたぽる

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おたぽる

『「若者」をやめて、「大人」を始める 「成熟困難時代」をどう生きるか?』(イースト・プレス)

 今の日本、特に都市部における実質的な成人年齢は「35歳」ではないだろうか。厚生労働省におけるニートの定義は「15〜34歳までの家事、通学、就業をせず、職業訓練も受けていない者」であり、ジャニーズグループ・NEWSの歌「weeeek」にも、35歳をすぎた自分はイケてる大人になれているのか、という趣旨の歌詞がある。


 容貌や体力の衰えのきざしもしっかり見えてきて、いい加減もう若くないと悟り出す35歳。ここでぶつかる戸惑いや混乱が「中年クライシス」だが、当原稿ではそんな中年の「オタ活」について、精神科医であり、ゲーマーでもあった熊代亨氏の書籍『「若者」をやめて、「大人」を始める』(イースト・プレス)から読み解いていきたい。


 



■大人が不在な日本フィクション界において、オタク界隈は特に神がヤング


 まず、オタクに限らず日本は中年が主役のフィクション作品が少ない。日本の少なくない中年がクライシスしてしまう原因として「フィクションの世界に中年のスターがいないから」は侮れないくらい大きいのではないだろうか。


 一方、欧米圏の海外のドラマや映画を見ると、40代以上の男女が主役の作品も少なくない。中年が銃撃戦をしたり、中年のライバルと丁々発止のやり取りをしたり、中年の恋人とベロチューを交わしていたりと何かと「現役」だ。日本フィクション界において中年以上は「若い主人公を見守る」という毒にも薬にもならないポジションにいきがちだが、海の先を見ると成熟性を日本よりは重んじる文化の違いを感じる。


 日本はただでさえフィクション界が若いが、さらにオタク界において「推し」の対象になるアイドルやゲーム、漫画、アニメのキャラクターはさらに若くなりほぼ10代だ。


 なお、私もそんな二次元の美少年が生きがいなオタクなので「フィクション界は中年ばっかりになるべき」とは決して思わないが、推せる中高年のキャラクターがもっといてほしい。いないから推せないというのもある。若さをキャラクターの魅力の根拠としない『ルパン三世』はすごいと今更思う。


 特に日本フィクション界において「かっこいいおばさん、おばあさん」は希少だ。「かっこいいおばさん、おばあさん」は美少女を描くより圧倒的に競合が少なく差別化を図りやすいブルーオーシャンともいえるが、この山を制覇せんとするクリエイターはほぼいない。


 


■見た目は中年、心は思春期――幸福なオタク少年少女のその後


 日本において、オタクたちたちが「我、オタクぞ!」と自覚しだすのは大体思春期ごろだろう。アイドル、ゲーム、漫画、アニメなどの「ティーンエージャーの神」に会い「推す」という行為を知り、灰色の世界が輝きだすのだ。


 そして20年後、何度か代替わりした神は相変わらず可憐なティーンエージャーだが、オタク側は年を取り「見た目は中年、心は思春期」という、逆江戸川コナン君みたいになるのだ。しかし別にこれが「ダメ」なわけではないし、骨の髄からロリ、ショタ属性の人たちにとっては、おそらく世界きってのロリショタ大国・日本に生まれたことに圧倒的感謝の日々だろう。


 一方で「中年になりオタク趣味を続ける大変さ」は少なくない人に心当たりがあるのではないだろうか。


 39歳の私は、二次創作をするタイプのオタクだ。同人誌即売会にもたまに出る。飽きっぽいため二次創作の対象のジャンルをころころ変えるのだが、中高年が多かったり、老いも若きも入り混じっているジャンルだと「超オタ活楽し〜!」とイキっていられる。しかし、干支を一周下回っても、まだタイムリープの必要を感じるくらい若者中心のジャンルに初めて参加したときは非常に気後れした。


 中には「私(俺)は中高年で若い人の多いジャンルで交流するけど、楽しいよ?」と異論のある方もいらっしゃるかもしれない。この場合「書いてる作品が死ぬほどエモい(神作家はエイジレス枠)」や「当人の言動に魅力があったり、ジャンル内で権力がある」ことを願わずにはいられない。「若い人に気を使われているのに本人だけ気づいてない」なら、気を使っている若い人があまりにも報われない。


 本来、作品勝負の二次創作ですらこうだ。動体視力など身体能力の衰えがスコアに直結する本格ゲーマーや、若手ファンが多いであろう若手アイドルの追っかけ、コスプレなどは、さらに加齢がきついオタク分野なのではないだろうか。


「世の中のほかの趣味に比べ、同担が圧倒的に低年齢」。これが中高年オタ活のつらさなのだ。


■なりたくて中年になった中年などいない


 悩ましい「中年の気後れ」だが、「なりたくて中年になったわけでもないのに中年になっただけで気後れしながら生きるなんてまっぴらだ」という、矛盾する感情も存在するのだ。


理想は「中年になったことを必要以上に気後れせず、かつ、古参ぶったりなどのウザいことをせず、ありのままに生きる」だ。


 しかし何もオタクに限らず、上の理想は簡単そうに見えて難しい。だからこそ、少なくない中年がうまくいかずにクライシスに陥るのだ。だが、これを実践していた偉大な先達がいた。ライターの雨宮まみさんだ。雨宮さんより4歳年下の私は、中年という荒野を先に雨宮さんが切り開いていってくれてくれることが有難かった。道標になるような言葉を綴ってくれるのだろうと思っていた。


 雨宮さんは「小娘には出せない大人女性の魅力」みたいなうんざりするようなことを一切言わなかったし、等身大のヒリヒリするような不安を抱えていることも率直に表現する姿にも痺れた。かっこいい大人であり、生きようとした人だった。しかし雨宮さんは2016年に40歳で亡くなり、来年私は雨宮さんと同い年になる。


 雨宮さんのいない世界で中年はどうしたらいいのか――ここでそのヒントになるのが熊代亨氏の書籍『「若者」をやめて、「大人」を始める ――「成熟困難時代」をどう生きるか?』になる。


 


■中年オタクが趣味を続けられなくなった瞬間、空っぽのおじさんおばさんが爆誕


 著者の熊代氏は精神外科医だが、やりこんだゲーマーでもあり、本書の中には「中高年のオタ活の在り方」についても記載がある。まずは、中高年のオタクにとって「救心」なしには読めない心臓に悪い箇所から紹介していきたい。


 本書では、2000年代のインターネットにおいて、オタクになるやつはオタクをやめられない、といった論調が主流だった中、いざそこから月日が流れ中年になった彼らは中年になってもオタクライフを活動的に行うのはかなり困難だという現実に気が付き始める、と指摘されている。


 そして極めつきが以下の一文だ。


『多くを懸けてきた趣味の持続が困難になった結果、アイデンティティの大黒柱を失った空っぽのおじさんおばさんが爆誕することになります』


 これほど「もうやめて中年オタのライフはゼロよ」な文を私は知らない。


 一方でこれはオタクに限った話ではない。子どもの養育や恋人や仕事など、「なにか1つ」に自分のアイデンティティを全振りさせるのは、対象が何であっても危ないということだ。本書でも「アイデンティティを確立する要素は複数あるといい」とある。


 しかし多くのオタクは、自分のアイデンティティを構成する円グラフを作ろうとすると、その大部分が「オタクであること」になるはずだ。私も今、脳内の円グラフを見てみたが、85%は「オタク」と出ていた。


「オタクになるとオタクになる前の自分を思い出せない」はオタクあるあるだが、アイデンティティ円グラフの大半が「オタク」で埋まってしまうため、思い出せなくなるのだろう。


 他にもオタクあるあるに「オタクじゃない人はどうやって人生に楽しみを見出しているのか心配だ」という非オタにしてみれば余計なお世話でしかないものもある。確かにアイデンティティの大半が「オタク」でいると、好調時は楽しみを味わい尽くせる人生の覇者であり、非オタにお節介な心配をする余裕すらある。しかしそのオタクの土台がゆらぐと一気に「空っぽ」になる危険性をはらんでいるのだ。


■『ヒプノシスマイク』で精神が直結でカスタマイズされ空っぽおばさん爆誕の実例


 私自身土台がゆらぎ「空っぽ」になった経験がある。昨年末、声優ラッププロジェクト『ヒプノシスマイク』が、それまでの曲やキャラクターや声優のすばらしさとは一変、“トンデモコミカライズ”をはじめてしまったときだった。あのとき私はいい大人なのに真剣に数カ月落ち込んだ。熊代氏が指摘するところの空っぽおばさんの爆誕だ。


 そしてこのとき心を慰めたのも「昔の推したち」であり、本格回復を遂げたのも「新しい推したち」の存在が大きかった。つまり、アイデンティティの大半が「オタク」だとオタクで生じた損失を、オタクでしか埋められなくなるのだ。


(参考リンク:『ヒプノシスマイク』コミカライズに傷心のオタクはどう立ち直ればいいのか?〜心理学の名著を読み解く〜


 今後、またオタク部分の土台がクライシス状態に陥った時、数カ月廃人状態で過ごさずに済むような「オタク以外の私」を構築しておかねばと痛感している。肉親や友人やペットの死は悲しむ価値のあることだと思うが、私は「トンチキ脚本」でそこまで心を乱されたくない。


 そのためにはやはり、アイデンティティの円グラフの改革が必要になる。まったく新しいことをはじめるという手もあるが、ここでは「オタク」と「その他」の「その他」の部分に着目したい。


「その他」トップを占めるのは私の場合「仕事」で、仕事は好きだ。しかし仕事上でヤバいことをしでかしたとき「オタク」で癒やされ慰められ明日の活力を得たことがあっても、先の「ヒプマイ事変」のように「オタク」界隈がクライシスになったとき残念ながら「仕事」はそこまで私を救わなかった。今後は二大政党とまではいかずとも「仕事」がもっと自身の支えになるようにしていきたい。


 そして本書では、中高年の先輩たちを観察し、いいところを取り入れることを薦めている。優しい言葉を綴ってくれた雨宮まみさんは亡くなってしまったが、それでも年齢が上の知人の「イケているところ」はたくさんある。中高年という若者のころよりずっとハードモードになった人生を先に生きている人達の姿の中にこそヒントがあるのだから、ここはもっと今後注目していきたい。反面教師にだってヒントはあるのだ。


 そして「若年層が多いジャンルのイベント気後れしちゃう問題」も、次回はいっそオンラインのみにするか、獣神サンダー・ライガーのマスクをかぶるなど、前回のようなただ気後れするだけのようなヘタは打たないようにしたい。VRを駆使し「仮想サークル主」姿で参加できるようになればとも思うので、技術の進化にも期待だ。


 現状私はオタクをやめようとはまったく思わないが、オタクでいることがつらくなってきたのなら活動を控えたり、やめたっていいのだし、それで寂しくなったらしれっと出戻ってくればいいのだ。


 オタ活はとんでもなく楽しいし、オタクでなかったら自分の人生は灰色だっただろう。それゆえオタクは「オタクとして生きる」になりがちだが「よりよく生きる」ためにオタク活動があるという順序は間違えないようにしたい。


(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])


◆石徹白未亜の過去記事はこちら(【おたぽる】【日刊サイゾー】)から◆


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  • 80年代生まれ以降は全員死ぬまでヲタクやと思うで!ジジイになってもゲームとアニメが普通の時代が来るで!
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