『なつぞら』CPが語る朝ドラヒットの裏側、経験者の支えとバトンの渡し方がカギ

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2019年05月23日 08:00  週刊女性PRIME

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「今は“大変だな”より“現場が楽しい”という気持ち」と、ヒロインの広瀬すず

 1961年から放送が始まった“朝ドラ”は、現在放送されている『なつぞら』で100作目を迎えた。これだけ長い間、視聴者を魅了し続けるドラマ枠はほかにはない。この歴史のある朝ドラの作り方や、制作にあたっての思いといった裏話を、『なつぞら』の磯智明チーフプロデューサー(CP)に聞いた。

広瀬すず大抜擢のワケは

「『なつぞら』の企画立ち上げは2017年の春。最初に脚本家を大森寿美男さんに決めて、彼の作家性に合うヒロイン役の俳優として、広瀬すずさんに出演依頼をしました」

 朝ドラのヒロインはオーディションで決めることが多いが、最初から広瀬に決めたことには理由があった。

「大森さんと、どういう内容にするか、ヒロインはどうするか、連動して考えた結果、表現力のある方にしたくてオーディションをしないことにしたんです」

 実力のある女優に、しっかりと演じてほしいという気持ちが強かったのだ。

「大森さんの作品の持ち味は、広がりのあるストーリー性。ときとして、心情をはっきり言葉にしないで、あくまでもストーリーのなかで感じさせることもあるため、俳優の芝居も難しいものが要求されます。

 彼が初めて手がけた朝ドラ『てるてる家族』('03年)では、ミュージカル仕立てにすることで、セリフにない感情表現を歌で表現するというやり方を行いましたが、同じことは2度できないので今回はどうしようかと考えたとき、言葉にならない感情も表現できる演技力がある広瀬すずさんが浮かびました。

 事前にスケジュールの確認やそもそも朝ドラに興味があるかなどを聞きつつ、企画書を作成し検討いただきました」

 物語が“少女の成長記”となったわけは、前作『まんぷく』('18年)との差別化もあるという。

「朝ドラには、多感な青春期を中心に描く成長もの、幼少期から老年期までの一代記もの、夫婦ものなどいくつかのジャンルがあって、まずはそれらの中のどれにするかを考えます。『まんぷく』が夫婦ものかつ企業ものでなかったら、そうしたタイプのものをやったかもしれません。

 今回の内容に決まる前にいくつか候補企画がありました。まず、北海道を舞台にした戦後の物語で十勝の酪農とお菓子作りを中心にしたもの。もうひとつが、日本の戦後のアニメーションの話で、どちらも一長一短があったところ、大森さんがふたつをひとつにつなげるアイデアを考えてくれました

 こうして誕生した『なつぞら』は酪農、菓子作り、演劇、アニメーション(オープニングまでアニメ)と要素が盛りだくさんのうえ、歴代朝ドラヒロインがたくさん登場することでも話題になっている。

「歴代ヒロインの方々はみなさん、実力派の女優さんですから、100作目だからお祭り的に参加するということではなく、あくまでドラマの内容、演じる役柄で出演するか否かを判断していただいています。

 朝ドラを愛してくださる視聴者の方々のために、前の出演作を彷彿とさせる役柄で出ていただきたいという思いがありつつも、俳優としてやりがいのあるものを提示したいと思い、過去の役柄に縛られないようにしました。結果、これだけの方々が集まったのは脚本に力があり、演じてみたいと思う役が描けていたのだと思います

朝ドラは“家族の物語”

『なつぞら』に限らず、過去作の出演者が参加することはよくあり、これには重要な狙いがある。

朝ドラはホームドラマなので、家族の雰囲気をどうつくるかが大事なんです。初めて朝ドラの現場に参加するヒロイン役の女優さんに、少しでも早く朝ドラの雰囲気に慣れてもらうため、過去の経験者を家族や身近な役にキャスティングすることで支えてもらうことができます。

『なつぞら』では、『ひまわり』('96年)のヒロインだった松嶋菜々子さんと『あすか』('99年)でヒロイン(竹内結子)の相手役だった藤木直人さんが広瀬さんのお母さん、お父さん役でいることは絶対的な安心感につながっています。

 巷では草刈正雄さん演じるおじいさんも人気ですが、草刈さんがのびのび演じてくださっているのも、そういう場ができあがっているからでもあると思います」

 夫婦もの、一代記ものとジャンルは変わっても、決して変わらないことは“家族の物語”であるということなのだ。

「撮影現場もファミリーですから、現場の環境をうまく作れるかどうか。そこがプロデューサーのいちばんの仕事なんです。脚本づくりと並んで日夜、心を配っております」

次につなげていければいい

 初回から1か月間の視聴率は上々。平均視聴率は20%を超え、10連休でもさほど影響を受けなかった。それだけ愛されている理由は何なのだろうか。

「『まんぷく』が好評で、その視聴習慣を引き継げたのだと思います。朝ドラは最終回が終わったらすぐまた新シリーズが始まる。こんなに慌ただしい枠はほかにはないですし、そのぶん、バトンの渡し方が重要になってきます。

 朝ドラは、直前まで前作をやっているため新作のPR期間は短い。でも『なつぞら』は短期間ながら、次のドラマもおもしろそうだと、見たい気持ちを継続できる魅力を打ち出せたのではないでしょうか」

 旧ヒロイン・安藤サクラから新ヒロイン・広瀬すずへのバトンタッチ会見も盛り上がったうえ、100作記念として『チコちゃんに叱られる!』での朝ドラ特集、人気の高瀬耕造アナが司会した100作特集番組などが興味を引いた。

 またドラマのオンエア後も、大河ドラマ『真田丸』に出演して人気だった草刈正雄を過去作と重ねる遊びが注目されたり、吉沢亮、山田裕貴、清原翔、犬飼貴丈……と若手イケメンを続々出演させたりと話題性に事欠かない。

チーフ演出家の木村隆文さんは『真田丸』でもチーフでしたが、朝ドラの演出も『なつぞら』で9作目なんですよ。2番手の田中正さんも7作目。朝ドラの勝手をよく知っている人にお願いしたかったんです。

 若い男性俳優に関しても、昔は、女性が主な視聴者である朝ドラは女優が活躍するもので男優は引き立て役のような印象がありましたが、最近は、男優の活躍を楽しむ方が増えてきました。ターニングポイントは向井理さんがヒロイン(松下奈緒)の夫役で大人気だった『ゲゲゲの女房』('10年)ではないかと思います」

 100作目だからという気負いはそんなにない、と磯CPは笑いながらこう話す。

「朝ドラはすでに102作まで発表されているので、そこにつなげていけばいいんです。ともかく信頼できるスタッフ、キャストと力を合わせ、たくさんの方々に楽しんでほしいという一心で作っています」

《PROFILE》
磯智明 ◎いそ ともあき『なつぞら』のチーフプロデューサー。朝ドラ『春よ、来い』、大河ドラマ『風林火山』の演出や、大河ドラマ『平清盛』でチーフプロデューサーを務めた

このニュースに関するつぶやき

  • 戦災孤児、戦後北海道の酪農、国産アニメの黎明、孤児と酪農は良いとしてアニメを付けるのは少々強引と思う。面白いけど。
    • イイネ!2
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