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一日の始まりは麻雀から 直木賞作家・黒川博行、妻との接点は?

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2019年05月23日 16:00  AERA dot.

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写真黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
黒川博行(くろかわ・ひろゆき)/1949年生まれ、大阪府在住。86年に「キャッツアイころがった」でサントリーミステリー大賞、96年に「カウント・プラン」で日本推理作家協会賞、2014年に『破門』で直木賞。放し飼いにしているオカメインコのマキをこよなく愛する (写真=朝日新聞社)
 ギャンブル好きで知られる直木賞作家・黒川博行氏の連載『出たとこ勝負』。初回のテーマは「黒い川を渡って博打に行く一日から語ろう」。

*  *  *
 令和になった。めでたいか。そうでもない。しかしながらめでたいような連載の第一回につき、黒い川を渡って博打に行くわたしの一日から語ることにする。

 わたしは昼の十二時ごろ起きる。枕元で寝ているオカメインコのマキも起きて、いっしょに隣室の仕事場へ行く。仕事場の八つの水槽で飼っているのはグッピーとサワガニで、この世話が三十分はかかる。まず水槽の底の水をポンプで吸って、ためおきの水を補充する。次にグッピーの稚魚をすくって、稚魚だけの水槽に移す。この時期は三十四匹前後の仔が産まれる(グッピーは卵胎生)から、けっこう手間がかかる。

 グッピーに餌をやり、サワガニにも餌をやったのち、マキに声をかける。「マキくん、めし食おか」

 そばで遊んでいたマキはわたしの肩にとまり、ふたりでダイニングに降りる。マキは移動するとき、“イクヨ イクヨ オイデヨ ゴハンタベヨカ”と鳴く。言葉の意味は分かっていないだろうが、そのときどきの状況でセリフをいうのはえらい。

 よめはんも十二時ごろ起きてきて台所に立つ。わたしは庭に出て池の金魚に餌をやり、九つの睡蓮鉢にいるメダカと去年産まれのこども金魚に餌をやる。池の金魚は毎年、一万個ほどの卵を産み、ほぼ同数の稚魚が孵化するが、幼魚になって冬を越すことができるのは百匹ほどか。それが自然の摂理なのだろう。

 そうしてダイニングにもどると、よめはんの手料理がテーブルに並んでいる。スープと大きな皿にいっぱいのサラダは定番で、あとは卵や魚、肉が出る。卵のほかはみんな昨日の晩飯の残りものだ。マキも同じテーブルで自分の餌を食い、パスタや素麺があるときは「寄越せ」という顔をするからソース抜きで少し食べさせる。マキは小さいころから麺類が大好きだ。

 昼飯が終わると、わたしは湯を沸かす。コーヒー豆を粉に挽き、フィルターで淹れながら皿を洗う。

 皿を拭いてダイニングボードにもどしたころ、コーヒーが入るから、ふたつのカップに注ぎ分ける。「マキ、お昼寝やで」というと、マキが肩にとまるから仕事場に連れていく。葉巻を一本、吸い口を切って麻雀部屋に降りると、よめはんがコーヒーカップをサイドテーブルにおき、自動卓の電源を入れて待っている。

 起家(チイチャ)はジャンケンで決める。なぜかしらん、ジャンケンの勝率は圧倒的によめはんのほうがいい。勝つとよめはんはケケケと笑い、「なんでそんなに弱いんよ」とえらそうにいう。敗因が分からないわたしは、「ハニャコちゃんが強いから」と卑屈に笑う。ちなみに、よめはんはハニャコといい、わたしはピヨコという。──よめはんは運動神経がない。動きがスローモーで喋るのも遅いから、わたしは戦後はじめて日本にやってきたアジアゾウのはな子を連想し、ハナコと呼んでいたのが経年変化でハニャコになった。わたしのピヨコは、落ち着きがなくピーピーとうるさいからだとよめはんはいう──。

 ふたり麻雀のルールは三人打ちと同じだ。我が家では半荘戦四回、だいたい一時間で終了する。もちろん金は賭けて、千円、ニ千円のやりとりになる。勝つとよめはんは奥歯が見えるほど大笑し、わたしは泣く。負けるとよめはんは怒り、わたしはなだめる。

 麻雀のあと、よめはんは画室に入って日本画を描き、わたしは仕事場にもどって原稿を書く。マキと麻雀が夫婦の接点にある。

※週刊朝日  2019年5月31日号

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