ロザリーナ×TeddyLoidが紡ぐ、『からくりサーカス』の壮大な物語 OP曲とアニメの親和性を紐解く

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2019年05月23日 19:21  リアルサウンド

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 デビュー前から「au CLIMBING CHALLENGE」のCMソングやTVアニメ『妖怪アパートの幽雅な日常』の第1期OP&第2期EDテーマ「Good Night Mare」「音色」を担当し、2018年4月には小袋成彬率いるTokyo Recordingsをアレンジに迎えた『タラレバ流星群』でメジャーデビュー。昨年末には『うしおととら』などで知られる藤田和日郎によるマンガ作品を原作にしたTVアニメ『からくりサーカス』の第1クールEDテーマを担当して話題となったシンガーソングライター、ロザリーナ。彼女の最新シングル『Over me』がリリースされた。


参考:ロザリーナが語る、『からくりサーカス』ED曲に込めたメッセージ「完全に“しろがね”の歌になった」


 表題曲の「Over me」は、『からくりサーカス』の主要キャラである才賀勝、加藤鳴海、人形遣いの女性・しろがねの3人の出会いを起点に、何世代にもわたって繰り広げられる壮大な愛/狂気/戦いを描く第3クール(最終クール)のOPテーマ。第1クールの「マリオネット」に続き、『からくりサーカス』に登場するキャラクターの感情を描きながら、同時にそれを多くの人々が共有できる普遍的なものに変え、“彼女の楽曲とアニメの作品世界との相性のよさ”を感じさせる楽曲になっている。ここではその魅力を紐解いてみたい。


 そもそも前シングル曲「マリオネット」は、TeddyLoidをサウンドプロデュースに迎え、自身が作詞作曲した楽曲にボーカルチョップを含むクラブミュージックの要素を取り入れて『からくりサーカス』のヒロイン“しろがね(エレオノール)”の気持ちを表現した楽曲だった。タイトルの「マリオネット」は、しろがねが操る人形・懸糸傀儡(マリオネット)を表現したもので、後半に加えられたボーカルチョップにも、懸糸傀儡の雰囲気が反映されていた。


 ロザリーナの場合、こうして外部クリエイターとの作業の中で楽曲の魅力をトータルで生み出すような雰囲気があり、それをハスキーでありながらもまろやかさを持つ独特の歌声で表現することで、言葉のひとつひとつが印象的に耳に残る雰囲気を楽曲に加えている。そうした魅力はタイアップ曲以外にも顕著。たとえばシングル『マリオネット』の収録曲「Stereo」では、彼女の発案により“2人の関係性”を描く歌詞に連動して音の位相を左右に振り分け、楽曲とアレンジが手を取り合った総合的な表現を生み出していたことも印象的だった。


 とはいえ、彼女の楽曲、特にアニメタイアップ曲で最も印象的なのは、作中の登場人物の感情を描きながらも、その言葉を可能な限り普遍的なものにすることで、まったく別のものにも解釈可能な雰囲気を生み出していること。たとえば、「マリオネット」はしろがねの曲でありながら、世のしがらみにしばられることについての歌にもなっていて、だからこそ様々な人々が“自分ごと”として感情移入できるような魅力が生まれていた。そして今回の「Over me」は、そうしたすべての要素をより進化させ、最終クールへと突入した『からくりサーカス』の物語と、誰しもが感じる普遍的な感情とをひとつに繋ぐような楽曲になっている。


 まずは制作体制をまとめておくと、この「Over me」は「マリオネット」同様、ロザリーナが作詞作曲を担当し、TeddyLoidがアレンジを担当。また、歌詞は原作者の藤田和日郎と手紙のやりとりを行ないながら制作され、物語の最終章の壮大な雰囲気を引き立てるものになっている。また、サウンド面で印象的なのは、いきなりボーカルチョップではじまる序盤の展開。この部分は「マリオネット」の終盤に登場するボーカルチョップと地続きになっている雰囲気で、この2曲が同じ世界線の中で作られたものであることを伝えるようだ。


 とはいえ、同時に大きく変わっている部分もある。まず印象的なのは、ひとりのキャラクター=“しろがね(エレオノール)”の視点だった歌詞が変化し、今回は世代を超えて紡がれる壮大な愛と狂気と運命の物語=『からくりサーカス』全体を俯瞰した視点から、すべての登場人物に共通する感情を歌っていること。ここにはもちろん、勝、鳴海、しろがねはもちろんのこと、そもそもの元凶を作った最大の黒幕の気持ちも重ねられている。〈だから全部全部なくなって/そう願う日もあるけど/でも全部全部大切で/戦うしかないんだ〉という歌詞は、過酷な運命の中でコインの表裏のように光と闇に分かれながら、それでも共通して「前に進もうとすることをやめない」すべての登場人物に向けられたものになっている。


 そして何より、そうした物語の核心に迫る内容を、前回以上に普遍的な言葉に置き換えていることが、「Over me」での最大の変化になっている。この楽曲では歌詞が「マリオネット」以上に抽象的になり、『からくりサーカス』を観たことのないリスナーが聴けばまったく別の歌としても聴ける言葉だけを使って、核となるテーマを見事に描写している。この表現の射程距離の広さこそが、彼女の曲がアニメタイアップで映える理由なのではないだろうか。


 『からくりサーカス』は遂に終盤戦。作品と「Over me」の相乗効果にも注目しつつ、彼女の楽曲に興味を持った人は、過去の様々な楽曲にもぜひ手を伸ばしてみていただきたい。(杉山仁)


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