「性被害者が屈するのは、暴行脅迫だけじゃない」研究者ら「社会的抗拒不能」を指摘

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2019年05月24日 10:11  弁護士ドットコム

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性暴力はどのようにして起きるのか。そして、被害者のその後にどのような影響を与えるのか――。被害の実態を明らかにして、刑法や支援のあり方について考えようと、研究者が性暴力被害に関する調査を実施し、5月23日に中間結果を発表した。


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起きた出来事を被害と認識するのに10年以上かかる被害者もいるなど、見過ごされがちな当事者の心理状態が明らかになった。



●被害を認識、10年以上かかった人も

調査は2018年5月、性暴力被害経験のある成人女性51人を対象に実施した。うち、20人はウェブ上で体験談を書いてもらい、31人には直接インタビューをおこなった。インタビューは、望まない性交のプロセスや被害をどう認識したか、被害後の影響などについて聞いた。



研究の責任者を務めた目白大専任講師の斎藤梓さんと東京大学医学研究科非常任講師の大竹裕子さんらが、東京都内で開かれた「当事者の声から刑法改正を考える」(主催・一般社団法人Spring)で中間結果を発表した。



「同意のない性交」はどのようにして発生するのか。



齋藤さんは、犯行に至るプロセスごとに分けた結果、(1)見知らぬ人から襲われる「奇襲型」、(2)飲酒や薬物を伴うもの、(3)家庭内性暴力、(4)日常生活の中で上下関係を作りあげ性行為に追い込む「エントラップメント型」の4つに分類されると指摘する。



「エントラップメント型」は加害者が自分の価値を権威づけると同時に、被害者をおとしめ、逃げ道をふさいだ上で、性交を強要するものをいう。



「同意のない性交」を検討する際には、性交に至るまでの関係性や、拒否を伝えられる関係であったか、という視点を取り入れることが考えられると話した。



また、当事者が性暴力被害にあったと認識するまでには時間がかかることもあった。被害当時は子どもで起きた出来事の意味がよくわからなかったり、自分の中にある性被害のイメージと違ったりするからだ。



調査では、被害を認識するまでに10年以上かかったと答えた人もおり「被害を認識するまでに公訴時効が成立してしまう。中・長期を見据えた支援政策が不可欠」と話した。



●地位や関係性を利用した性被害「これまでの関係性を把握、評価を」

Springの金田智之さんは、地位や関係性を利用した性被害がどのようにして起こるのかを分析した。



加害者は、周囲から信頼や尊敬を受けており、被害者も同じように考えていることがある。そうした関係性に乗じて、セクハラやモラハラなど「予兆的行動」が行われ、その後、性被害が発生しても、明確な拒否ができなかったり、受け流そうとする傾向にあった。



一方で、加害者は「こんなことをしたのは、あなたのことを好きだったんだ」「恋をしていたんだ」などと自分の性加害を正当化するプロセスが見られた。



こうした経緯から「地位や関係性を利用した性被害を正しく捉えるには、性加害の瞬間だけでなく、これまでの関係性を把握、評価しなければならない。被害者が加害者に屈するのは、暴行や脅迫だけによるのではない」と指摘。



加害者と被害者の上下関係や職場などの人間関係を考慮するために抵抗が抑圧される「社会的抗拒不能」という心理状態があるとした。



加害者は被害者が信頼、尊敬していた相手であることが多く、「心理的なダメージが深刻。被害者が抵抗できない『心理的抗拒不能』を評価する際には、この点を重く認識する必要がある」と話した。



●母の驚きで気づいた性被害

Spring代表理事の山本潤さんは「当事者としての経験や支援活動の中で感じたり、考えてきたりしたことが具体的に明らかになった」と調査の意義を語った。



中でも、「どのようにして被害に気づいたか」という調査項目が印象に残ったという。山本さん自身も実父から性的暴力を受けた経験があるが、母に打ち明けた時に驚愕されたことで、初めて「起こってはいけないことだったんだな」と気づいた。



「母が沈黙するだけだったら、『どこの家族でも起こっている当たり前のことかな』と被害に気づけなかったと思う」と振り返った。



大阪大の島岡まな教授(刑法)は「『不同意かどうかは被害者の主観だから恣意的に決められてしまう。暴行脅迫は客観的に不同意を証明する唯一の手段』と言われるが、暴行脅迫以外に不同意を証明するものがあれば、そちらの方が望ましいと考えている」と話す。



「客観的な類型化が必要と考えていたが、日本では『社会的抗拒不能』が強くあると改めて感じた。暴行脅迫に変わる抗拒不能要件を客観化できる非常に重要な調査だ」と評価した。



●相次いだ性犯罪の無罪判決

今年3月、性犯罪に関する無罪判決が相次いで4件報じられた。寺町東子弁護士は「法曹界の温度感とは別に、世の中では、これが無罪になるのかという驚愕が広がっている」とみる。



3月26日の名古屋地裁岡崎支部判決は、19歳の娘と性交し、準強制性交罪に問われた父親を無罪とした。2017年の刑法改正で、親などによる18歳未満の子どもへの性的行為を処罰する「監護者性交等罪」が新設されたが、この事件では被害者が当時19歳だったため監護者性交等罪で起訴はできない。



これについて寺町弁護士は「未成年は親権に服しているのに保護されないという谷間の問題がある」と指摘。



「強姦されその後も性暴力が継続した場合、通常の暴行脅迫要件と抗拒不能の枠におさまらないが、抑圧は続いている状態だ。性暴力が始まった時点が未成年であれば、性暴力が継続している間を処罰対象にすべきではないのか」と訴えた。
(弁護士ドットコムニュース)


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