第一志望校を横取りされる――! 中学受験生の母が語る、「娘の友達」への黒い感情と後悔

13

2019年05月25日 22:02  サイゾーウーマン

  • チェックする
  • つぶやく
  • 日記を書く

サイゾーウーマン

Photo by MIKI Yoshihito form Flickr

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 “受験”というものは時に残酷である。“定員”が存在するからだ。特に中学受験は“フェアな受験”と呼ばれている。総得点が高い者順に合格通知が届けられる、一発勝負の仕組みなのである。つまり、定員がある以上、塾で同じクラス、模試でも同じくらいの偏差値、しかも志望校も一緒という仲良しの友達同士であったとしても、本番で明暗を分けてしまうことは稀ではない。

 そういう現実があるせいか、親の方がナーバスになり、“隣にいる仲良しのお友達”より、1点でも高い点数を獲得することを、我が子に厳命してしまうケースが後を絶たないのだ。

 ある塾に萌ちゃん(仮名)という優しくおっとりした性格の女の子がいた。1年生から塾に入り、新4年生になるタイミングでその塾の中学受験コースに移行したのだ。成績も優秀で、目指す難関U学園も「このまま努力し続ければ、十分、合格圏内」という位置に付け、5年生の秋を迎えていたという。

 そんな中、塾の同じクラスに葵ちゃん(仮名)という女の子が転入してきた。彼女は帰国生で、明るく活発、しかも華やかなタイプだったためか、すぐさま塾のクラスでも人気者になっていったという。葵ちゃん、萌ちゃんも含めた“4人組仲良しグループ”が結成され、お弁当を食べるのも、トイレに行くのも、駅まで帰るのも、一緒に行動するようになっていったそうだ。

 そうこうしているうちに最終学年を迎え、「志望校調査」が行われる季節になった。仲良し4人組は、自分がどの学校を志望しているのかを、素直に言い合ったそうだ。葵ちゃんは萌ちゃんに影響されたのか、当初は帰国枠を持った別の学校を第1志望校に据えていたのだが、徐々にU学園の虜になり、帰国枠を設定していないU学園を第1志望校にしたという。

 ところが、この話を萌ちゃんから聞いた母・典子さん(仮名)は、「心がモヤモヤした」という。

 というのも、その少し前、「葵ちゃんに可愛い文房具を貸すと返してくれない」という娘の言葉を聞いたからだった。匂い消しゴムやスタンプ、リップ型の修正テープ、シールなどを貸すと、結果として「葵ちゃんの物」になってしまっていたという。

 典子さんは「『返して!』って強く言いなさい!」「可愛い文房具を塾に持っていくのはやめなさい!」と叱ったそうだが、萌ちゃんは「だって……」と言ったっきり、何も答えない様子だったそうだ。

 典子さんは筆者に当時の心境をこう語ってくれた。

「私が勝気な性格なので、文房具を取られているのに黙ったままの娘が情けなかったんです。萌はそれまで、仲良し3人グループの子たちと、すごくうまくいっていたんですが、葵ちゃんが入ったことで、どうもギクシャクした気もして……。そこにきて、葵ちゃんがU学園を第一志望にしたと聞き、志望校まで横取りされてしまった気がしたんですよね」

 典子さんは、葵ちゃんのお母さんが、保護者会で会うたびに「何か情報ない? 帰国だから、よくわからなくて〜」と一方的に話かけてくるのも気に入らなかったのだ。

「そういうことも重なって、その苛立ちを萌にぶつけていたのかもしれません」

 勢いずいてしまった典子さんは、萌ちゃんを責めるような言葉を連発するようになったそうだ。

「そんなふうにボーッとしてるから、後から入った葵ちゃんに成績でも抜かれるのよ! 萌は悔しくないの? このままだとU学園には葵ちゃんが合格して、萌は落ちるね」
「文房具のことなんか、どうでもいいのよ! 1点でも葵ちゃんより、いい点数を取りなさい!」

 それは、このところ成績が思うように上がらない萌ちゃんの胸に、「過酷な言葉」として響いたのだろう。萌ちゃんはこれまで以上に自己主張をしなくなり、元気をなくしていったという。

 そんな折、仕事帰りに駅で塾帰りの萌ちゃんと待ち合わせをしていた典子さんは、ある光景を目撃する。「仲良し4人グループ」のはずなのに、明らかに萌ちゃんだけが仲間外れにされているような形で歩いていたのだ。

「やっぱり萌は、いじめられている……!?」

 そう直感した典子さんは、萌ちゃんをピックアップした後に、「萌、久々に女子会しよう!」と、まだ開いているカフェに連れ出したという。

 そこで典子さんは、問わず語りに、萌ちゃんに話をしたそうだ。

「ママが悪かった。ひどい言葉を言ったこと、本当にごめんなさい。萌はずっと我慢していて偉かったし、そんな優しい萌はママの自慢だから。いろいろ言ってしまったけど、ママは葵ちゃんより上の点数を取ること以上に、萌に笑顔でいてほしいと思ってるの。それに、女の子同士の友情っていうのは難しいものだから、嫌な人と無理に付き合う必要はない。もし嫌だったら、志望校の変更もまったく構わないよ。今、萌が頑張っているのは、楽しい中学生活を過ごすため。中学受験をやり続けるならば、何をすべきかをよく考えてみることが大事だと思うよ」

 そして、最後に「文房具くらい、いくらでも買ってやるから、そんなに欲しけりゃくれてやれ!」と言い放ったという。萌ちゃんはこの言葉に笑いだし、久しぶりのケーキセットを頬張りながら、典子さんに向かって「ママ、ありがとう。なんか元気出た!」と言ってくれたそうだ。

 それから、典子さんは塾に出向き「こういう状況なので、よく見てやってほしい」と要望を出し、塾の帰りは必ず、入り口のところまで迎えに行くようにしたという。そして、星空を眺めながら“女同士”の会話をし、歩いて自宅まで帰ることにしたそうだ。

「あの時、萌に『受験をやめてもいいし、転塾も悪くない選択。でも、それを決めるのは萌だよ』って言ったんです。そしたら、萌が出した結論は『受験はやめないし、転塾もしない。このまま、この塾で頑張る』というものでした。おとなしくて、自分の意見も言えないようなタイプの萌は、実はすごく思慮深くて、芯があるってことを実感しましたね」

 そして、この春、結果が出た。萌ちゃんは見事、初志貫徹でU学園に合格。そして葵ちゃんは結局、帰国枠入試で別の学校を受験して早くに合格を決めたため、受験生活からはいち早くリタイアしていた。

 典子さんはこう述懐する。

「葵ちゃんの登場で、萌の成績が下がったような気がして、とにかく葵ちゃん親子が気に入らなかったんです。でも、それを葵ちゃん親子にぶつけることができなくて、その黒い感情を、よりによって萌にぶつける形になって、これは本当に反省しています。でも『雨降って、地固まる』じゃないですが、このことで私たち親子の絆はすごく強まったと思っています。この間萌に『あの時、ママとすっごく仲良しになれた気がした! きっとこれからも一生、仲良しだね?』って言ってもらえて、素直にうれしかったですね」

 結局、子育ての最中、災いを転じて福にできるかどうかは、“子どもの目線に立った”親の力にかかっているということなのかもしれない。
(鳥居りんこ)

このニュースに関するつぶやき

  • えー、わたくし、高校時代に推薦入試を横取りされるって苦い経験した事があります。
    • イイネ!3
    • コメント 1件

つぶやき一覧へ(5件)

ランキングライフスタイル

前日のランキングへ

ニュース設定