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旧友からLINEで「飲もう♪」……これってマルチ商法? 記者の“奇妙な体験”

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2019年05月27日 05:12  ITmedia NEWS

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写真大学時代の友人・サヤカ(仮名)からLINEで連絡が
大学時代の友人・サヤカ(仮名)からLINEで連絡が

 「お誕生日おめでとう、久しぶりに飲もうよ♪」――。2018年夏、大学時代の友人であるサヤカ(仮名、20代)から、LINEでこんなメッセージが来た。サヤカは同級生で、当時は一緒に授業を受けたり、厳しい教授の愚痴を言い合ったりと親しくしていた。



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 しかし、卒業後は自然と疎遠に。SNSでつながり、有名企業で働いていることは知っていたが、会うことや連絡を取ることはなくなっていた。



 そんなサヤカから誕生祝いのLINEが届き、筆者はうれしく思った。だが、「ありがとう、他に誰か誘う?」と返信した筆者に、サヤカはやや意外な提案をする。「社会人サークルの友達と一緒に飲み会を開くから、それに来てよ」と。



 大学時代の友人が参加しないことに少し疑問を感じたが、筆者は深く考えず了承。候補日程から都合がつくものを選び、「楽しみにしてる」と返信した。



●謎の人物「トオル」



 「ウチら、誰でもウエルカムやから! いっぱい話そな! カンパーイ!」。テンションの高い関西弁の女性が乾杯の音頭を取り、飲み会が始まった。都内のイベントスペースを貸し切った立食パーティーで、1階のキッチンで有志が調理し、2階にいくつか置かれた丸テーブルを囲みながら歓談する形式だった。



 久しぶりに会ったサヤカは、少し痩せたものの、快活な笑顔は昔のまま。サークル仲間は有名私立大学出身者が多く、立ち居振る舞いからも優秀な印象を受けた。彼女らが招いたゲストも含めると、参加者は40人ほど。サークルメンバーとゲストの割合は半々だったと記憶している。



 プロ野球やJリーグの話、好きなアニメの話、仕事の話――。関西弁の女性の言う通り、参加者との会話は途切れることなく続き、それなりに楽しい時間が過ぎた。だが筆者は、途中であることに気付いた。サヤカや他のメンバーは、会話の途中で、やたらと「トオル」(仮名)という男性の名前を出すのだ。



 サヤカはサークルの活動内容について「異業種交流会やフットサルを定期的にしていて、トオルさんが1人で大きくしたんだ。優秀でお金持ちで、本当にすごい人。奥さんもとってもステキ」という。



 メンバーの男性は「トオルさんは1年間に本を数百冊読んでいて、知識が豊富。お笑いに詳しくてユーモアもある。ラーメンの食べ歩きが趣味で、都内のあらゆるラーメン屋を熟知しているんだ」と褒めちぎっていた。



 メンバーからトオル氏の凄さをひたすら聞いているうちに、予定の2時間が終了。2次会の誘いは断って帰路についたが、サヤカから「今日はありがと、また今度ご飯いこ!」とのLINEが。筆者は「また予定を合わせようね」と返したのだが、トオル氏なる人物の存在には妙な引っ掛かりを感じた。



●あやしい勧誘の入り口



 飲み会から約3週間後。筆者はサヤカと都内のファミリーレストランにいた。お互いの仕事について話したり、過去のクラスメイトの近況を聞いたりと、当初は他愛もない話をしていた。



 だが、約30分が経過したころ、サヤカがふと問いかけてきた。「そういえば、フリーランスになりたいって思わない?」と。筆者は「興味はゼロではないけど、独立しても稼げる自信がない」と正直に答えた。今思えば、この答えによって勧誘のターゲットに設定されたのだろう。



 するとサヤカは、「ちょうどよかった! サークルの先輩で、フリーランスを目指しているセイヤさん(仮名)が偶然近くにいるみたいだから呼ぶね!」と目を輝かせ、先輩にLINEを送った。



 しばらくして現れたセイヤは、30代前半の清潔感ある営業マン。席に着くと、自己紹介もそこそこに、とあるビジネス書を熱心に勧めてきた。



 「独立したいって聞いたけど、この本を読んでみたら? トオルさんのオススメで、おカネとの付き合い方や、稼ぐために必要な基礎知識が書いてある。オレも独立の準備の一環で読んでいるけど、すごくためになる。人生変わるかもよ」(セイヤ)



 サヤカは「私も読んだけど、この本は読む価値あるから!」と繰り返し、「読んでくれると、トオルさんに会わせてあげる。独立した後の稼ぎ方に詳しいから聞いてみなよ。起業してて、めちゃめちゃ忙しい人なんだけど、時間をもらえるよう頼んでみるね」という。



 運よく先輩が近くにいるわけがないし、話の展開が不自然すぎる。旧友のサヤカを信じたい気持ちはあったが、筆者はこの時点で、何らかの勧誘にあっていることを悟った。だが、マルチ商法なのか、カルト宗教なのか、組織の実態を知りたい気持ちが湧き、しばらく接触を続けることにした。



●「ESBIクワドラント」とは



 食事を終えた後、筆者は早速例の本を買った。書名などの詳細は伏せるが、その中には「会社員として働くよりも、自分で事業に取り組む方が豊かになれる」といった内容が書かれていた。その主張の根幹をなすのが「ESBIクワドラント」なる理論だ。



 「ESBI」とは労働者のカテゴリーを指しており、Eは「Employee」(労働者)、Sは「Self Employee」(自営業者)、Bは「Business Owner」(ビジネスオーナー)、Iは「Investor」(投資家)の略だ。



 E→S→B→Iの順番で時間的・経済的余裕があり、EとSは労働収入しか得られないが、BとIは権利収入(不労所得)を得られる点が異なる。経済的に豊かになるには、E・SからB・Iに働き方をシフトする必要がある――というのが筆者なりの理解だ。この理論自体は納得がいくもので、それなりの勉強にはなった。



 だが、本を読むだけでは組織の目的は分からず。筆者はトオル氏との面会を試みるべく、読み終えた旨をLINEでサヤカに報告した。すると、「本当に特別だよ」と念押しした上でトオル氏に会う約束を取り付けてくれた。「せっかくの時間だから、最大限に有効活用してね!」とのことだ。



●大富豪トオル登場



 約1カ月後、トオル氏はカフェのテーブル席で筆者を待っていた。「君のことはサヤカから聞いているよ」。年齢は40代前半だろうか。髪をジェルでツンツンと立てたこの男は、筆者が着席するやいなや、怒涛(どとう)の勢いで語り始めた。



 「私はかなりの稼ぎがあり、毎日おいしいものを食べ、時間的にも金銭的にもゆとりのある生活をしている。育児と親孝行にもかなりの額を使っている。投資もしており、マンションは一棟買いが基本だ。君はライターらしいけど、それで生き残れるかな?」



 サヤカは口を挟まず、横で「うんうん」とうなずいている。



 「私が豊かになったきっかけは、大学時代の友人に誘われて副業を始めたこと。企業に搾取されるのではなく、稼ぐ仕組みを会社の外に持つことは重要だ。結局、飲食大手で10年ちょっと働いた後に辞め、今は小売店を経営している。独立や起業、副業をしたい若者の相談にも乗っていて、講演やセミナーの実績もある。豊かになるために、まずは一緒に仕事をしてみないか? 一緒に『E・S』から抜け出して『B・I』を目指そう」



 何とも漠然とした話だ。副業の内容や商材が何なのか、詳しく聞いてもトオル氏は「質の高い商品を売っている」などとしか教えてくれない。小売店の名は聞くことができたが、著名な店舗ではなかった。



 誘いに対し、筆者はこう返した。「すみません、本気で独立したいわけじゃなくて、今の会社でいいかなと思っています。サヤカとの雑談で、軽い気持ちで口にしただけです」



●ココイチのカレーを食べて何が悪い?



 すると、トオル氏はイラっとした表情を浮かべつつ、こう聞いてきた。「君が今日食べた昼食と、人生で一番おいしかった食べ物を話してくれ」



 「今日はCoCo壱番屋(ココイチ)のカレーを食べました。おいしかったのは、銀座の料亭で食べた鳥料理です」(筆者)



 すると彼は、被せ気味に怒鳴り始めた。「私と一緒にビジネスをやれば、もう二度とココイチのカレーは食べなくていい。毎日のように銀座で鳥料理が食べられる。そうなりたいのが本音だろ? 『B・I』よりも『E・S』を選ぶ意味が分からない。本当にあの本を読んだのか?」と。



 興味本位で会ったとはいえ、怒鳴り続けられると腹が立つし、周囲の客にも迷惑が掛かる。筆者は「取りあえず今日は失礼します」と告げて席を立ち、店を出て駅に向かった。サヤカも足早に付いてくる。「トオルさんは何をしている人なの?」。率直に彼女に聞いた。



 「トオルさんが売っているのは、海外から仕入れたオーガニックな食品や日用品。会員制で、入会しないと買えないんだ。起業のコツも教えてもらえて、私もセイヤさんも弟子なの。他にも数千人の弟子がいる。最初は新興宗教みたいだと思ったけれど、弟子になったら人生が明るくなった。いつかは今の会社をやめて、これ一本で生きることが私の夢」。うっとりした表情でサヤカはこう話した。



 「時間がある時に、お金持ちになったら叶えたい夢を書き出してみなよ。気持ちも変わると思うよ」「考えとくね」と言葉を交わし、改札で別れた。それから数カ月がたったが、サヤカとは一度も連絡を取っていない。



●国民生活センターに相談してみた



 この“奇妙な体験”は一体何だったのか。詳細を知るべく、筆者は国民生活センターを訪問し、取材を兼ねた相談を行った。



 「あなたが勧誘されたのはマルチ商法の可能性がかなり高いですが、断定はできません。他のビジネスの可能性も少しあります」と解説してくれたのは、日頃から消費者の相談に乗っている小池輝明さん(相談情報部 相談第2課 主事)。



 マルチ商法(連鎖販売取引)とは、とある組織の会員が、他人に商品の購入や新規入会をすすめ、購入・入会につながった場合にマージンを得る――という取引を指す。健康食品や日用品のほか、化粧品や浄水器、情報商材なども“定番商品”だという。



 ただ、連鎖配当のみによる利益獲得を目指す「ねずみ講」(無限連鎖講)とは異なり、マルチ商法は犯罪ではない。トオル氏のように成功し、数千万円単位の年収を稼いでいる人は実在する。その半面、失敗するリスクも大きく、高額な入会金を支払ったものの、マージンを得られず困っている人も多いのだ。



●「何人紹介できる?」と聞かれるケースも



 今回、筆者は商材の説明を受け、「一緒にビジネスをしよう」などと誘われた。にもかかわらずマルチ商法だと断定できないのは、友人・知人に関する情報を詮索されなかったためだ。



 小池さんによると、マルチ業者は利益を増やすために組織の拡大を重視しており、勧誘の時点で「他の友達も連れてこれる?」「何人紹介できる?」と聞いてくる例が多いという。紙とペンを渡され、紹介できる人を書き出すよう要求された人や、組織図を見せられ、「入会した場合、君の立場はここだけど、下に何人用意できる?」と問われた人もいるとのことだ。



 「話す中で、組織に入る意思が弱いことが伝わってしまい、本題に踏み込まずに様子を見ながら勧誘していたのでしょう。組織は何人も並行して誘っているので、見込みがない人にムダな労力をかけないのです」(小池さん)



●SNSで増える勧誘



 SNSであやしい勧誘を受けて困った経験があるのは筆者だけではない。国民生活センターには昨今、SNS経由でマルチ商法に誘われた結果、「断り切れず入会したが、辞めたい」「商品を返品したい」という相談が増えており、18年度は09年度(112件)の約10倍に当たる1186件が寄せられた。SNS以外で勧誘された人も含めると、18年度は1万405件の相談があった。



 他の多数の相談者も、疎遠だった友人からLINEで飲み会に誘われたり、食事やお茶の際に先輩が偶然現れたり、“すごい人”を紹介されたり――といった出来事を経験しているという。「頻繁に耳にする手口です」と小池さんは明かす。



 筆者がトオル氏に怒鳴られたように、組織側が厳しく接してくることもポピュラーな手口だそうだ。小池さんは「怒ることで委縮させ、会話を自分のペースに持ち込むための手法です。罪悪感を抱かせた上で意見を言うと、相手に受け入れられやすい点を突いています。セミナーなどにターゲットとなる人を呼び、壇上から“ダメ出し”するケースも聞いています」と説明する。



●悩んでいる人は「188」に電話を



 小池さんの話と今回の経験を踏まえ、筆者はあらためて人々に伝えたい。疎遠だった旧友からLINEが来たり、飲み会に誘われたり、“すごい人”を突然紹介されたりしたら、まずは「マルチ商法かな?」と疑ってみてほしい。



 マルチ商法に興味を持てないならば、勧誘された時点できっぱりと身を引くべきだ。断った際に怒鳴られても気にする必要はない。「ESBIクワドラント」が話題に出た場合も、今の働き方に不満がなければスルーしてOKだ。



 マルチ商法を始めても、必ず金持ちになれるわけではない。確実にもうかる方法が実在するならば、世界中の人が金持ちになっている。失敗するリスクも多分にあることも知っておくべきだ。



 しつこく誘われて困っている人や、始めたもののうまくいかず、「脱会したい」「返品したい」「人間関係がつらい」と悩んでいる人は、「消費者ホットライン」(番号は局番なしの「188」)に電話して相談に乗ってもらうのも手だ。



 不労所得を得られなくても、会社でコツコツ働くことで感じる幸せもある。友人に迷惑をかけてまで金持ちになりたくはない。かつて机を並べた旧友から勧誘を受け、未知だった世界を垣間見た結果、筆者は今後も普通の“Employee”(労働者)でありたいと考えている。


このニュースに関するつぶやき

  • 芸能人になったら友人が沢山増えたな( ´-ω-)y‐┛~~
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  • 全く音沙汰無かった"旧友"からの急な連絡ほどろくなものはない(°∀°)
    • イイネ!472
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