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まさかのアイデンティティクライシス!ワンオペ主夫・樋口毅宏インタビュー【後編】

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2019年05月27日 06:41  ウレぴあ総研

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ウレぴあ総研

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ハードボイルド小説で数々の文学賞にもノミネートされ、サブカルウォッチャーとして『タモリ論』や『さよなら小沢健二』等でも人気を博した作家の樋口毅宏さん。

妻たちの闇に震える!?ワンオペ主夫・樋口毅宏インタビュー【前編】

ところが息子さんの育児をほぼワンオペでされるようになってからまもなく「作家を辞める」と引退を宣言されました。

先日紹介したハピママの記事、「妻たちの闇に震える!?ワンオペ主夫・樋口毅宏インタビュー【前編】」「まず僕は(妻に)口答えはしない」ワンオペ主夫・樋口毅宏インタビュー【中編】」に続く、後編インタビュー。

■自分の声を忘れちゃう?育児専業主夫&主婦のリアル

――「作家なんて男子一生の仕事じゃねえ」と毒づいて断筆・・・その後1年ほどで男の育児日記『おっぱいがほしい!』に続き、最新刊『東京パパ友ラブストーリー』等で文壇に復帰してくださったのはファンとして嬉しい限りなのですが、この“振れ幅”が尋常ではない気がしてならないのですが。

樋口毅宏さん(以下、樋口):引退宣言は、2016年9月。息子が10カ月の時、つまり僕が育児専業主夫を始めて、10カ月の時なんですけど。

1回「やめる!」って言ってグレて。いま思えば、アタマがおかしくなってました。

何回目の反抗期だって感じなんですけど。ツイッターもやめちゃってね。

――どうしてそんなことに?

樋口:ううーーーーん、取り残され感?赤ちゃん中心の生活になって、社会とのつながりもなくなって。

妻の仕事の関係で、僕は生まれ育った東京を初めて離れて京都に引っ越したんですが、そうなると友人・知人も全然いませんから。

一日しゃべらないとか、ザラなんですよ。

独身時代、小説を書いている時とか2〜3日しゃべらないこととかもありました。僕の中でそういう状況は、たぶんお勤めをしている方たちより、普通のことだったハズなんですけど。

育児専業主夫をしていて、一日の中で口をきけるのは、まだ言葉の通じない赤ちゃんと、多忙な妻。保育園に入ることができてからは、加えて保育士さんとの連絡のやり取りくらい。

「元気です、熱もないです、昨日もアレ食べました」

それ以外は、しゃべらない。息子と妻と保育士さん数人、その4〜5人を除くと1週間、いや1週間どころじゃないな、1カ月、話さないことなんてザラなんですよ。

コンビニとかに買い物に行くでしょう?レジで「袋いらないです」って言う時に、あんまりにも久しぶりにしゃべるから「ふ、ふ、ふ」って詰まっちゃって「あ、俺、こんな声してたんだ」って思ったりとか。

声帯から、おかしくなっていくような感じっていうんでしょうかねぇ。

――「男は社会に出て働くべき」なのに「専業主夫なんてしているから」というような“焦り”のようなものもありましたか。

樋口:いや、そういう外からの価値観のような、男女の役割分担がどうこうということではなくって。

男としてとか、女としてとかではなく。

ヒトとしての「自尊心」が、保てない。

■まさかのアイデンティティクライシス!専業主夫OKと信じていたけれど

樋口:僕も、結婚する前までは「男は外で働かなければいけない、女は家にいなければいけない」なんて、そんな古い価値観おかしいよって思ってました。

で、いまも思ってます。

女性だったら、外で働かず家で夫や子どもの面倒を見る“専業主婦”があるのだから、男にもあっていいはずだし。

僕なんてもともと、小説家ということもあって家で仕事をするタイプなわけだから「いいじゃん、専業主夫をすれば」という風に思っていたんです。

けど、ダメでしたね。

これは息子が赤ちゃんの時には、気付くことすらできなかったんですけど。

やっと1歳半くらいになって、保育園に預けることができて、買い出しや掃除もある程度テキパキできるようになって、自分の時間が1時間とか2時間確保できるようになってから、ようやく気付いたんです。

妻から「働け」と言われるワケじゃない。「息子を預けている間に、もっと仕事バンバンしろ、小説書け」と言われたことは一度もない。

だけどふと、やっと自分の時間が取り戻せるようになってくると、別に昼寝してていいはずなのに、映画とか観に行っていいはずなのに、自分のメンタリティが保てない。

それでいざ小説を書き始めてみたら・・・仕事をしていると、ホッとする。

これは、自分でも驚きでした。

妻が稼いでくれているし、完璧とはいかないけど自分も家事・育児やってんだし「だからこれでいいじゃん!」というようには・・・思えなかったんですね。

■産育休ママにも通じる?どこか“引け目”のある毎日

樋口:よく「家事をお金に換算するといくらになるから、だから尊い仕事なんですよ」というような言われ方がしますよね、それは、本当にその通りだと思うんですよ。

でも“引け目”を感じちゃう。なんなんですかね、アレは。

男が会社で働くとか、いまの社会形態なんてこの100年の話でしょう?

男が家の中で、以前は女性がやるとされていた仕事を担当して、女性が代わりに働きに出る、全然いいじゃん?経済的に不自由なく過ごせるくらい、女性が稼いでくれれば困らないじゃん?

それはそうなんですけど。

仕事をするとね、いつもはフニャフニャ〜ッとしている感じが、自分の中で一本、芯が通るみたいな感じがするんですよ。背筋が伸びるっていうかね。

自分は割と、気持ち的には内向型というか引きこもりタイプなんで、独身時代に24時間小説を書いて、好きな時間に起きて、好きな時間に寝て、好きなだけ仕事ができた時は、何日だって誰とも話さなくても、連絡なんて取らなくても、まるで苦ではなかったんですよね。

でも、そんな自分でも、家事と育児だけだと、アイデンティティが、保てなかった。

自分の時間ができてからやっと「自尊心が保てない」ってことに気付いて。

でも引退宣言の時にツイッターも勢いでやめちゃったから、気付いた時には社会とのつながりも、かなり絶たれてしまっていたという・・・

それぞれの性格にもよると思いますが、産後の女性の気持ちや、置かれている状況にも、通じるんじゃないかなぁ。

たとえ本人が「私は育児を専業ですることに、まったく疑問を持っていません」というタイプだったとしても、あるいは「赤ちゃんと二人きりの生活で精いっぱい、充実しているからもう仕事なんてしなくていい」と言い出したとしても、どこかでアイデンティティが崩れ始めていることが、あるかもしれない。そんな風に、思うんですよねぇ。



樋口さんの“断筆宣言”から復帰までの流れは、文学ファンの間でも「なんで?」と疑問視されてきましたが、背景に産後専業主夫の“アイデンティティクライシス”があったとは!

赤ちゃんとの生活が幸せで、やりがいもある一方で、知らず知らず自分を見失い、自ら社会とのつながりを断つことすら良しとしてしまった樋口さんに、自身を重ねる産休・育休ママも多いかもしれません。

男とは?女とは?夫婦とは?家族とは?

そんな思いが錯綜する新刊『東京パパ友ラブストーリー』発売に合わせてお送りしてきた作者・樋口毅宏さんインタビュー全3回、いかがだったでしょうか。

これからもワンオペ主夫作家ならではの悲喜こもごもなストーリー、あるいは読み応えたっぷり本格ハードボイルド小説に期待しましょう!

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