MotoGPコラム:マルケスの目で見えない速さの秘密。関係者は「今のところ彼は無敵だ」に同意

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2019年05月30日 21:11  AUTOSPORT web

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第5戦フランスGPで独走優勝したマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)
イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラムをお届け。レプソル・ホンダ・チームのマルク・マルケスは第5戦フランスGPで独走優勝を果たし、2019年シーズン3勝目を挙げた。マルケスの強さは、目に見えないところに秘密があるとオクスリーは語る。

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 マルケスは、第5戦フランスGPのフリー走行で不可能とも思えるセーブを再び見せ、決勝ではライバルたちを後ろに残して、ホンダの最高峰クラス300勝目を上げた。

 フランスGPのフリー走行1回目で、ホルヘ・ロレンソ(レプソル・ホンダ・チーム)はガレージ・バート(8コーナー)の2連続右コーナーでわずかにワイドになり、滑りやすい縁石に乗り上げて転倒した。

 数分後、マルク・マルケスが同じミスをした。縁石に乗り上げた際、マルケスのマシンはハンドルがいっぱいに切られた状態になり、リヤは縁石上で弾んでいた。状況は確かに手遅れで、マルケスはスリップダウンしたと思われたが、実際は転倒せずに復帰したのだ。

 必然的にこれらのインシデントはメディアに大きく取り上げられることになった。ファンとライバルたちは、5度のMotoGPチャンピオンであるマルケスの不可能を可能にする能力に驚嘆した。同じことをできる者は、少なくとも普段からできる者は、文字通り誰ひとりとしていない。

 しかし、こうした目を見張るようなセーブは、マルケスの才能のほんの一部にすぎない。転倒をセーブするマルケスのスキルは実際に目でみることができるものだが、マルケスの速さの秘密は我々が目にすることができないものだ。そのひとつが、コーナーをアタックする際にフロントタイヤをどのように対処しているかとうことだ。

 高速の状態からフロントタイヤをロックさせ、コントロールを維持しながら限界ぎりぎりでコーナーに進入することができるだろうか? おそらく無理だろう。それが、マルケスがライバルとの違いを生み出している部分だ。

 マルケスは、アスファルトにフロントタイヤのブラックマークを残しつつブレーキをかけ、おそらくタイヤのトラクションの限界を1000分の1%余計に引き出している。そして、コーナーに進入する際は、その状況をブレーキ圧、ボディポジションといったすべての要素を使って調節し続けるのだ。

 ほとんどのMotoGPライダーは、ミシュランのフロントタイヤを時速200マイル(約321.87km/h)でロックさせるという恐ろしい経験をしている。2016年にミシュランのコントロールタイヤが導入されて以来、マルケスが毎年MotoGPタイトルを獲得してきたのは偶然ではない。マルケスの頭のなかには世界で最も優れたABSシステムがあるため、彼は混乱した状況でもブレイクダンスを踊ることができるのだ。

■クラッチロー「今のところ彼は無敵だ」
 マルケスと同じくHRC(ホンダ・レーシング)ライダーであるカル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)は、マルケスのデータすべてにアクセスすることができるため、何が起きているのかを誰よりもよく知っている。そして、クラッチローは私たちと同様に困惑している。

「マルクがどう走行しているのかについてのデータを見ることができるが、他の誰も同じことはできない。それだけのことだ」とクラッチローは話す。

「彼はコーナー出口ではそれほど速くはない。だがコーナー進入からコーナー中盤でのバイクの傾斜角度と、その態勢をフロントとリヤのブレーキでコントロールするやり方がかなり特殊だ」

「彼がどのようにフロントをロックさせて切り抜けているのかは分からない。マルクは僕よりもひどくロックさせているが、セーブできている。どのようにやっているんだろう? さっぱり分からないよ! マルクは自分を地面に押し付けて、そして立て直すんだ! 今のところ彼は無敵だ。すごいことをやっているからね」

 MotoGPの現場に関わる者はクラッチローの意見に同意している。2007年と2011年のMotoGP王者で、マルケスが台頭する前にホンダでタイトルを獲得したケーシー・ストーナーも同様だ。

「マルクは素晴らしい」とストーナー。「マルクは信じられないくらい速いし、マルクの反応速度は誰にも負けていない。誰もマルクの反応速度に迫ることはできないよ」

 ホンダRC213Vは、どんな時でも簡単に乗りこなせるバイクというわけではない。HRCはラップタイムが出せるバイクを作っており、マシンから最大の性能を引き出すのはライダー次第だ。しかし、最近のシーズンでは、HRCのエンジニアはバイクをより乗りやすくするように仕上げている。少しずつそのようになっているのだ。

 マルケスがフランスGP決勝の涼しいコンディション下で、フロントにソフトタイヤを選ぶことができたことには意味がある。それまでのRC213Vはハード寄りのフロントタイヤが必要とされていた。そのためにグリップが不完全になり、マルケスはより多くのリスクを抱えることになった。

 HRCが2019年に達成した最大の改善点は、RC213Vのエンジンからさらにパワーを引き出したことだ。エンジニアは、2016年と2017年にエンジンを適応させる作業に多忙だった。クランクシャフトの回転を逆に、点火構成をビッグバン式に切り替えたのだ。

 そのため彼らは2018年シーズンになって初めてトルクと馬力の増強に焦点を置くことができた。それはフロントタイヤへの圧力を削減するための間違いなくベストな方法だった。ライダーは、ストレートで失ったタイムを必死補うために、遅い段階でブレーキをかけたり、アグレッシブにコーナーへ進入したりする必要がないからだ。

 この改善は必要不可欠なことだった。なぜなら、マルケスにフロントのロックに対処する才能があるとはいえ、彼のリスクを減らすことができるからだ。

「今年のエンジンはずっと強力なものになった。だから違ったやり方で物事に対処できる」とフランスGPで優勝を飾った後にマルケスは説明した。

「よりパワーがあるから、ラップタイムを出すために2、3の違うやり方で走れるようになった。昨年とは違うやり方でね。これは重要なことだ。なぜなら異なるタイヤと異なるライディングスタイルを使えるからだ」

「今ではヤマハやドゥカティのように、フロントにソフトタイヤを使えるから、僕たちのバイクはよく曲がれるよ。昨年はブレーキングでラップタイムを出そうとしていた。今年はブレーキングで少しタイムを失うかもしれないけれど、他の場所でタイムを伸ばせる」

「ブレーキングでタイムを出すのはリスクがあるし、リスクを負うことで安定したペースを出すことが難しくなるから、これは適切なやり方と言える。今では異なるブレーキングのやり方で戦い、異なるやり方でラップタイムを出すことができる」

 フロントタイヤから99.9%の性能を引き出すことにこだわる最初のライダーはマルケスというわけではない。「私がレースに出ていた頃、すでにフロントを相当プッシュしていた」と最高峰クラスで54回の優勝を飾り、1990年代に5年連続で世界タイトルを獲得したマイケル・ドゥーハンは振り返った。

「(現役時代は)スクーターで出かけて、フロントタイヤをロックさせるように走ったものだ。そうしてバイクが倒れる感覚に慣れることができた。でもマルクがやるようなことを自分がやっていたとは夢にも思っていないよ」

 マルケスは、レースが日曜日の決勝だけではないことを理解している。マルケスが出走した113回の最高峰クラスのグランプリのうち、予選で前から2列目より後ろになったことは、片手で数えられるくらいしかない。

「レースは金曜日と土曜日に始まる。なぜなら、グリッド前方からレースをスタートできれば、タイヤとリスクをよりうまいやり方で管理できる」とマルケスはフランスGPで語った。

 もちろん、誰もがマルケスもミスをすることを知っている。そしてHRCも同様だ。第3戦アメリカズGPでのマルケスの転倒は双方のミスが組みあわさって起きたが、マルケスとエンジニアはそのクラッシュから学びを得た。パドックの人々がしばしば示す見解だが、負けることで強くなるのだ。

 しかし、今シーズン現在、マルケスと肩を並べるライダーが誰なのかを見つけることは難しい。

 ドゥカティのアンドレア・ドヴィツィオーゾはたった8ポイント差でマルケスの後ろにつけており、フランスGP以降はドゥカティがよりパワーを発揮するイタリアGPとカタルーニャGPが控えている。

 そしてレースごとにRC213Vで少しずつ進歩を見せている、チームメイトのロレンソ。ファビオ・クアルタラロという若いルーキーがいる。クアルタラロは最高峰クラスにおける最年少ポールシッターとして、すでにマルケスの記録を抜いている。

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