「メチャカリ」「エアクロ」注目の洋服レンタルサービスが抱える“落とし穴”とは……?

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2019年05月31日 19:32  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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――ファッションライター・南充浩氏が、いま話題のファッションニュースに斬り込む!

 バブル期や高度経済成長期ほどには、人々の洋服への渇望感がなくなっていると感じられる近年。“洋服のビジネス”として、新たに考え出された「レンタルサービス」が、一部で話題になっているようです。

 私事で恐縮ですが、この10年間ほどは、めっきり高い服を買わなくなりました。その理由は、「もうすでにたくさんの服を持っていること(保管場所にも困る)」「低価格ブランドのデザイン性が上がっているため、うまくコーディネイトすれば高いブランドとの見分けがつかないこと」です。

 おまけに洋服関係の仕事を20年以上もやっていると、たいていの洋服は一度か二度見たことがあるので、どんな服を手に取っても、新鮮な感動を得られないというのもあります。この感想は自分のようなオジサン特有のものだとしても、先の2つは多くの消費者が感じていることなのではないでしょうか。

 そんな時代に活用しやすいと思われたのが、洋服のレンタルサービスです。欧米が先行して始めたサービスだと思いますが、我が国では株式会社ストライプインターナショナルの「メチャカリ」や株式会社エアークローゼットの「エアークローゼット」などがその代表だと言えます。

 月額いくらかを払うと、プランによって定められた制限の範囲内で洋服を借り放題というサービスで、「普段は買わない服を試せる」「保管場所がいらない」「ネットで借りられるから楽」「月々の洋服代が抑えられる」などのメリットが謳われていますが、各社の現状を見ていると、大きく成功したとはとても言い難いのです。正直に言うと、私はこのレンタルサービス自体にピンと来ないし、あまり魅力を感じていません。

 これまで、レンタルサービスがなかったわけではありません。例えば結婚式で着用するウエディングドレスやタキシード、パーティードレスなどは、以前からレンタルサービスがありました。と言っても、レンタルサービスそのものが独立した事業ではなく、結婚式場やセレモニーホールの有料オプションという位置づけが大半です。また成人式の着物もレンタルサービスがあります。

 これらの服をレンタルする意味は、とてもわかりやすいものです。ウエディングドレスやタキシード、パーティードレスなどは、通常購入すると高額な上に、生涯に何度も着ません。特にウエディングドレスは、(うまくいけば)生涯にたった一度しか着ないのです。よほど思い入れのある人を除けば、そんな物はレンタルサービスで十分だと考える人が多いのも当然。成人式の着物にしても同様です。買って記念に置いておいてもよいのでしょうが、それこそ、保管場所の問題もありますし、保管方法が間違っていれば、虫食いや変色というリスクもあります。

 しかし、カジュアル服のレンタルというのはどうでしょう。価格も利用頻度も、先に挙げたウエディングドレス等とはまったく異なります。果たして、わざわざ借りる必要があるものなのか。私がピンと来ない、魅力を感じないというのは、「カジュアル服を借りるという必要性」を感じないからです。

 ストライプインターナショナルもエアークローゼットも上場企業ではないので、細かな数字は発表されていませんが、あまり好成績というわけではなさそうです。今年2月にストライプインターナショナル・澤田昌紀部長のインタビューが、ウェブサイト「ファッションスナップドットコム」に掲載されましたが、それによると「有料会員数は1万2000人を突破し、広告宣伝費を除けば、今年度黒字転換している」とあります。スタート3年で有料会員数1万2000人、広告宣伝費を除けば黒字という業績は、ほかのファッションテック系(ITなどを活用してファッション業界を活性化させることを目指したサービス)と比べると、その成長スピードは遅いと言わねばなりません。

 特に「広告宣伝費を除けば」という言葉に着目すると、これはつまり「広告宣伝費を含めるとまだ赤字が続いている」ことになります。実際はいまだに赤字なのです。「メチャカリ」は月額5800円なので、有料会員数1万2000人ということは、返品手数料が1回につき380円かかることを含めても、売上高はどんなに多く見積もっても1億円に満たないと考えられます。月額会費だけなら7000万円弱の売上高にしかなりません。

 またメチャカリよりも注目度の高いエアークローゼットですが、発表されている範囲内では直近の決算では赤字でした。2018年6月期決算では、当期損失9億6676万円に終わっています。さらに17年6月期と比べても当期損失額は5億8,800万円増えているのです。投資が先行しているという状態なのかもしれませんが、決して順調とは言えないのではないでしょうか。

 また会員数は16万人を突破したと報じられていますが、それはあくまで登録会員の数であり、有料会員数は明かされていません。もし、有料会員数が順調に伸びていて、驚くほどに増えているなら、とっくに公開されているのではないかと思います。そのため、うがった見方をすると有料会員数はそれほど増えていないのではとも考えられるのです。

 では、「メチャカリ」にせよ、「エアークローゼット」にせよ、どうして有料会員数が増えにくく、黒字転換しにくいのでしょうか。それは、定額制洋服レンタルサービスという事業が意外にカネがかかるからなのです。

 まず、洋服を送る運賃がかかります。また返ってきた服のクリーニングを含めた補修メンテナンス費用も必要です。さらに会員数が増えれば増えるほど、選んでもらう商品とその枚数を増やさねばなりませんから、手持ちの洋服の在庫は増え、倉庫も拡張し続けなくてはなりません。そうなるともちろん、場所代や倉庫内での人件費なども増えるため、資金繰りに大きな負担をかけることになります。「メチャカリ」も「エアークローゼット」も、まだ生みの苦しみの段階だということになるようです。

 また、レンタルする顧客層も、通常のアパレルブランドがターゲットとするような「ファッションに興味のある層」ではなく、「ファッションに興味のない層」「自分で服を選ぶのが嫌・面倒くさい層」なのだそう。これは当初からそう想定されていたわけではなく、事業が始まってからわかってきたことで、前出の澤田部長が自らインタビューでそう答えていました。

 同社の“本業”は、「アースミュージック&エコロジー」などのアパレル事業ですが、「メチャカリ」はファッションに興味のない層を掘り起こしているから、本業にとってもプラスになっている(本業の新たな顧客をつかんでいる)という考えのようです。確かにその通りとは思いつつも、そういう層が今後爆発的に定額制洋服レンタルサービスに大挙して押し寄せるかというと、私には疑問です。ファッションはおろか、レンタルサービスに対しても興味を示さないままではないかと思います。

 海外も含めてレンタルサービスが、全て失敗に終わるとは思っていませんが、決して明るいブルーオーシャンではないと見ています。今後、どこかの時点で何社かが社会に定着し、さまざまある洋服ビジネスの一形態として落ち着くのではないかと思います。個人的には洋服レンタルサービスが大流行するという未来はまったく見えてきません。
(南充浩)

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