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川崎20人殺傷、元農水事務次官事件で浮かび上がる中高年引きこもりの深刻度

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2019年06月04日 11:05  AERA dot.

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写真警視庁に逮捕された元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(c)朝日新聞社
警視庁に逮捕された元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(c)朝日新聞社
 引きこもりだった51歳の男が神奈川県川崎市で20人を殺傷した事件に連鎖するように、元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者(76)が6月1日、引きこもりだった長男(44)を自宅で殺害するというショッキングな事件が起こった。

 熊沢容疑者は警視庁の調べに対し、川崎事件に触れ、「長男が子どもたちに危害を加えてはいけないと思った」と供述しているという。

「事件当日、長男が『小学校の運動会がうるさい』と言い出し、熊沢容疑者がたしなめようとしたら、『ぶっ殺すぞ』と反発。小学校に乗り込むという言動があり、思い詰めて犯行に及んだようだ。長男はずっと引きこもり、暴れるなど家庭内暴力が続いていた。熊沢容疑者は自分や妻の身の危険も感じていたと話している。長男への刺し傷は10か所以上で、腹や胸に集中していることから、かなりの覚悟を持っての犯行のようだ」(捜査関係者)

 熊沢容疑者のように、引きこもりの当事者が家族に暴力を振るうため、家族が危機感を抱き、殺してしまったりする事件はこれまでもあった。 逆に当事者が家族の言葉に逆上して、殺してしまったケースもあるという。

 20年間引きこもっていた経験があるという一般社団法人「ひきこもりUX会議」代表理事の林恭子さんは、「引きこもりは、ひとごとではない。仕事や家庭でつらいことが二つ、三つ重なって心身にダメージがあれば、人に会いたくない、自宅にこもっていたいとなると思う。これは一つの防衛反応」と話す。

 KHJ全国ひきこもり家族会連合会事務局の森下徹さん(51)は、これまでに二度引きこもった経験がある。

 幼稚園の頃から友達とはうまくいかず、高校の時も色々なことが重なり不登校に。卒業して大学に進んだが、また不登校になり、20歳までの2年間引きこもった。その後、いったん回復するが、20代の途中から12年間引きこもった。

「アルバイトとか就職とかは自信がなくて。対人恐怖症的なところがあった。今もそう。人が怖い。人の目を見て話すのが怖い。引きこもっている間は『このままではよくない』と『諦め』の間で揺れていた。最後の方は諦めていたぐらい。家族とうまくいかなかった時とかは、死んでもいいな、と思うことはあった」

 現在は当時よりは良くなっているが、85歳の父親とはあまりうまくいっていないという。

 内閣府が昨年初めて実施した前出の40〜64歳対象の調査では、引きこもりは男性のほうが多く、その割合は7割を超える。一度引きこもると社会復帰は難しく、長期化する傾向がある。約5割の人が7年以上引きこもっており、20年以上にわたる人も2割弱いた。引きこもった理由はさまざまだが、「就職活動の失敗」や「退職」など仕事にかかわるものが多い。

 これまで引きこもりは若者の問題として捉えられてきたが、引きこもり本人、家族ともに高齢化が進んでいる実態がある。KHJの調査によると、引きこもり本人の平均年齢は2002年に26・6歳だったのが、18年には35・2歳に上昇。3割で本人の年齢が40歳以上。親の年齢も高齢化しており、18年は65・9歳だった。

 03年に厚生労働省から公表された引きこもり問題のガイドラインによると、家庭内での問題行動が少なくない。親に対する暴力が17・6%、家族への支配的な言動が15・7%などになっている。また、4%が家族以外の外部に対して問題行動を起こしていた。

 国としても大きな課題だ。引きこもりになれば、収入がなく、将来的には低年金や年金がもらえないということも想定される。親の死後、多くの人が生活保護に頼ることも懸念されている。将来的には生活保護費の総額が数十兆円増えるという見立てもある。

 この問題で改めて注目を集めているのが「就職氷河期世代」だ。バブルが崩壊し、景気低迷に苦しんでいた1993〜04年ごろに大学や高校を卒業し、就職活動に苦しみ、非正規など不安定な職に就いた人たちが多い。

 労働力調査によると、氷河期世代にあたる35〜44歳の非正規雇用の数は約371万人。25〜34歳では264万人で、100万人以上も氷河期世代が多い。就職活動や不安定な雇用でつまずき、引きこもりになった人が多く、それが80代の親と無職の子どもの家族が社会から孤立する「8050問題」につながっているとの指摘もある。

 国はこの世代を対象にした抜本的な対策をしなかったのだろうか。

 04〜06年に内閣府参事官(少子化担当)を務めた増田雅暢さんは、「就職氷河期世代に注目し、就労支援などを進めるように動いた」と話す。しかし、高齢者向けの政策や財政再建などが優先され、就職氷河期世代に対する十分な財源を確保できなかったという。

「年長の政治家に『自己責任』という意識が強く、就職氷河期世代を支援するという動きにはならなかった。これが今の引きこもりや結婚できず子どもも産めないという少子化の問題につながっている」(増田さん)

 国が、引きこもりを若者の課題と決めつけていたことも、中高年の引きこもりに対する対応の遅れを招いた。今回、中高年を対象に調査を行った内閣府では、10年と15年にも調査を行っているが、対象は15〜39歳だった。「子供・若者育成支援推進大綱」で40歳未満を若者と定義しており、それに従っているという。

 自治体でも同様に対策は後手に回った。東京都ではこれまで引きこもり家庭への訪問などは34歳までとしてきた。引きこもりの中高年化に合わせて、今後は年齢制限を撤廃するという。自治体の窓口によっては、40歳程度と制限を持つところが多かった。

 今後、有効な手立てが進んだとしても、引きこもりの問題は現代社会が抱える大きな問題だ。小中学校の不登校の数は17年度は14万4千人。少子化で生徒数が減る中で、不登校児童は増えてきている。15年の15〜39歳の引きこもり数は推計54・1万人だ。中高年の引きこもりを合わせると、全体の数は100万人以上いるとの指摘もある。

 前出の林さんは、引きこもりを対象にした「女子会」を各地で開いている。すると毎回必ず、「駅までは来たけれど、たどり着けない」「建物の前まで来たのに中に入れない」という人がいるという。

「人や電車が怖いから、彼女たちは、電車に乗っては外を歩く練習を重ね、その日に備える。10年ぶりに電車に乗るという人もいる。それだけの思いをして女子会に行こうとするのは、孤立から抜け出したいとの思いがあるから。それだけ彼女たちは居場所がない」

 KHJ理事で20年以上、引きこもりを取材してきたジャーナリストの池上正樹さんもこう話す。

「よく聞くのは、『生きていたいと思えるようになりたい』という一言。社会は、それだけ厳しい。社会のレールからひとたび外れるとなかなか元に戻れない」

 孤立すると自分を責め、「『自分みたいな人間がこの世に存在しているのが申し訳ない』『たまに外出しても道の真ん中を歩けない』という人もいるのです」(林さん)。

 昔のように地域が一緒になって助け合う時代ではなくなり、親は「働けなくなった子どもが恥ずかしい」と周囲から隠そうとする。そしてさらに孤立が深まる悪循環。

 親はどうすればいいのか―。

 池上さんはこう指摘する。「『働け』はNGワード。親は、仕事をさせたいという思いを切り替える。就労よりもまずは生活や本人の望み、生き方の支援。社会も『孤立するのは自己責任』という考え方では、8050問題はさらに増えていくことになる」

 KHJ共同代表の伊藤正俊さんは、「親が全部抱え込むのが問題です。それが何かの間違いで、一家心中や殺したり、殺されたりになってしまう。子どもは子どもの人生があっていい。困ったときは、無理して家庭内で解決しようとせず、さまざまな機関に相談すればいい。場合によっては警察にも」と助言する。

 30年以上引きこもりに接し、一般社団法人「OSDよりそいネットワーク」を設立した臨床心理士の池田佳世さんは、こう話す。

「親が動じるからいけない。引きこもっていても、口を利かなくても、生きていればいい、あなたはそのままでいい、と接することが大事。子どもに『親のせいだ』と言われたら、『そうだね』とただ応じ、言い返したり、価値観を押し付けたりせず、何でも聞いて言葉を引き出す。コミュニケーション能力を家庭で高めつつ、安心させることです」

 多くの引きこもりと接してきた人たちによると、引きこもりの当事者に「最も怖いことは?」と聞くと、多くが「親の死」と答えるという。自分が生きていけなくなるという不安からだ。

 前出の林さんはこう語った。

「8050問題の当事者たちはすごく焦りを感じています。彼らに大事なのは、孤立しないこと。つながりが絶たれると、当事者はたぶん死んでしまうと思います。親が生きているうちに、行政の窓口、保健所の担当者、民生委員、社会福祉協議会、地域包括支援センターなどとつながっておくことです」

【子どもが引きこもった場合、「親」にすすめる五つの行動】
(1) 家族会など、共通の悩みを持つ人々の集まりに行って愚痴や悩みを吐き出そう。
(2) 子どもが生きていてくれることにまず感謝しよう。
(3) 子どもには、魔法の言葉「そうだね」を言おう。
(4) 子どもから責められても言い返さずに応じるのみ。聞くことに徹底して、言葉を引き出そう。
(5) 家庭内で解決しようとせずに、行政の窓口や保健所、民生委員らに相談しよう。

(本誌 大崎百紀、吉崎洋夫、上田耕司/今西憲之)

週刊朝日2019年6月14日号に加筆

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  • ひきこもる事と他人に危害を加えることは全然意味が違います!
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