“追われる立場”のなでしこジャパンを待っていたのは…[2015年女子W杯]

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2019年06月06日 21:11  サッカーキング

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サッカーキング

[写真]=Getty Images
日本中が沸いたFIFA女子ワールドカップドイツ2011のなでしこジャパン初優勝を、当時の有吉佐織は複雑な思いで受け止めたのかもしれない。

 同大会直前の国内合宿でトレーニングパートナーに選ばれていた有吉は、なでしこジャパンがドイツに向けて出国する前の愛媛合宿まで帯同し、その約1ヶ月後に優勝を成し遂げるチームを見送るしかなかった。

 翌年のロンドン・オリンピックでは、サポートメンバーとして大会中の練習には参加したが、ベンチ入りは許されず、全試合をスタンドで見守った。



 2回の世界大会を肌で感じることができなかった有吉が、その才能を開花させたのが、FIFA女子ワールドカップカナダ2015だった。それまで主力だった近賀ゆかりからポジションを引き継ぐと、攻撃的なスタイルで右サイドから何度も攻撃参加し、相手チームを驚かせた。結果的に大会MVP候補にもノミネートされた有吉の姿は、優勝を達成した4年前の大会から、なでしこジャパンが進化し続けている象徴のようにも見えた。

なでしこジャパンは世界から追われる立場に



「女子W杯優勝の後は、たとえ練習試合でも日本を倒してやると、闘志をむき出しにするチームが多かった」と、宮間あやは2011年以後を振り返る。前回大会で優勝し、追う立場から追われる立場となったなでしこジャパンを待っていたのは、チームへの強烈なマークだった。

 グループステージ第1節のスイス戦では、27分に左足腓骨外果骨折を負った安藤梢が大会離脱を余儀なくされる悲劇も生んだ。それでも、相手GKとの接触によって安藤が得たPKを、宮間がしっかり決めてなでしこジャパンは白星発進となった。

 続く第2節・カメルーン戦と第3節エクアドル戦は、いずれも僅差で白星を重ねて3連勝。内容としては低調に終わる試合もあったが、決勝戦を見据えて全23選手が出場し、主力の体力を温存するところは、なでしこジャパンが世界大会での勝ち方を心得てきていることを感じさせた。



 この大会はゴールラインテクノロジーが導入された他、試合会場で人工芝が認められた。また、参加チームが16から24に増えたことで、前回大会より1試合増えることに。加えて、カナダ特有の酷暑がチームを襲った。離脱選手をひとり出したことも手伝ってか、日本チームは目の前の相手以外にも細心の注意を払い、大量の氷を用意してハーフタイムで体力回復に努めるなど、様々な工夫を凝らした。

 決勝トーナメント1回戦も、試合をコントロールしたなでしこジャパンがオランダを2−1で下した。有吉の代表初得点で先制すると、根気強く守備を続け、78分に決まる阪口夢穂のゴールを待ち続けた。目前の岩渕真奈に「スルー!」と声をかけ、冷静に左足で決勝点を奪った阪口は、好不調の波が極端に少なく、それは世界大会でも不変であることを改めて証明した。

4年前の悔しさを糧に接戦をものにするも…



 準々決勝のオーストラリア戦は、阪口とボランチを組む宇津木瑠美の守備貢献、そして女子W杯初得点を決めた岩渕の活躍で、1−0となでしこジャパンが制した。

 宇津木と岩渕は前回大会で出場時間が短く、その後もなでしこジャパンの主力とは言えなかった。しかし、この時の30度を超える環境下でも集中を切らさない宇津木のハードマークと、岩渕のゴールへの嗅覚は、今のなでしこジャパンでも健在だ。有吉同様に、4年前の悔しさをパフォーマンスとして昇華させていくことで、チームにも勢いが生まれていった。

 準決勝で対戦したイングランドは、なでしこジャパンが前回大会で唯一敗れた相手。戦前の予想通り接戦だった。前半にPKで1点ずつを奪い合い、迎えた試合終了間際、川澄奈穂美が大儀見優季(現・永里)に向けて上げたクロスが、イングランドDFのクリアミスでオウンゴールとなり、それが決勝点となった。



 すべて1点差で勝利をもぎ取った。その勝負強さはチームの強みだったが、続く決勝戦では、その自信を打ち砕かれることになる。

 試合開始早々、大会MVPとなるカーリー・ロイドに先制点を決められると、その後も失点は止まらず、16分までに0−4とされる緊急事態に陥った。3大会連続で優勝から遠ざかっていた大国アメリカの勢いは想像を絶するもので、大儀見の得点やオウンゴールによって2点差まで詰め寄ったが、再び突き放されて2−5というスコアで優勝には手が届かなかった。





新たな歴史を作り次代への継承を



「最後の女子W杯」と位置付けた澤は、出場時間こそ短くなったものの、大会中の練習では人一倍気迫あふれるプレーをして見せた。佐々木監督はそんな澤の姿を指し「なでしこたちは彼女の背中を見て、まだまだ学ぶべきものがある」と言った。

 翻ってFIFA女子ワールドカップフランス2019を戦う選手たちの中には、4年前の大会に参加しながら、消化不良となった選手もいるだろう。4年前は代表メンバーに入れなかったものの、当時プレナスなでしこリーグ2部のAC長野パルセイロ・レディースで、得点ランキングを独走していたのが、横山久美だった。もしかしたら、最後の女子W杯と位置付けて戦う選手がいるかもしれない。

 常に逆境を糧にして強くなってきたなでしこジャパン。チームは幾度となく若返ってきたが、その歴史は今日まで脈々と紡がれてきた。今夏の女子W杯でも新たな歴史を作り、それを次代に紡いでいってほしい。

文=馬見新拓郎

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