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「出版社以外」からの収入のほうが大きくなった──うめ小沢高広さんに聞く「いま漫画家デビューを狙うならこうします」

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2019年06月07日 09:13  ねとらぼ

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ねとらぼ

写真ゲーム業界を描いた『東京トイボックス』(新装版は幻冬舎)
ゲーム業界を描いた『東京トイボックス』(新装版は幻冬舎)

 まれに「家を建てるために小説を書いた」という人もいますが、本来、クリエイターとおかねは縁が薄いもの。例えば貧乏で有名だったのが樋口一葉で、この人の日記を読むと「昨日より、家のうちに金といふもの一銭もなし」という文章が出てきて泣けます。これだけお金に縁のなかった人が後にお札になるとは、運命とは皮肉ですね。



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 この連載では、いろんな分野のクリエイターに登場していただき、「お金」についてガチに本音をうかがってみたいと思います。



 第1回にご登場いただくのは、マンガ家ユニット「うめ」で原作、演出を担当する小沢高広さん。



 経団連の会長が「もう終身雇用は維持できない」と発言したことが話題になりましたが、社会の実感としては、そんなモデルはとっくに過去のものではないでしょうか。



 マンガの世界でも、かつては「商業は出版社に任せ、作家はそこに口を出さないのが美学」という風土がありました。しかしそれも、終身雇用と同じようにとっくの昔の話。新しい波が来ています。



 妹尾朝子さん、小沢高広さんのおふたりからなるユニット「うめ」は、「東京トイボックス」「南国トムソーヤ」などの作品を、レガシーな紙の出版社から刊行。その一方で、作家による電子書籍出版にいち早く取り組み、またボーンデジタルWeb媒体での作品発表や、noteのようなプラットフォームの利用など、現代ならではの「表現のかたち」を手がけ、作品だけではなくその活動も注目を集めるクリエイターです。結果、昨年度の収入は、ついにレガシーな紙の出版社より、他の媒体のほうがずっと大きくなったそうです。



 「どうないでっか。もうかりまっか?」 「うめ」でシナリオ、演出を担当する小沢高広さんにうかがってみました。



○「出版社以外」からの収入のほうが大きくなった



――SNSの投稿で拝見したのですが、昨年は「出版社以外」からの収入のほうが大きくなったそうですね。



小沢 2018年度に関していえば、いわゆる紙の出版社からの収益は全体の15%でした。もともと紙の出版社でデビューしたマンガ家としては、珍しい数字かもしれませんね。



 収入の中で単純に大きいのは、電子書籍の売り上げです。あと広告の仕事は単価が高い。それともうひとつ、これはちょっと特殊な事情として、昨年は「マジンガーZ」(筆者注『劇場版 マジンガーZ / INFINITY』)の映画で脚本を担当したので、東映さん関係の収入が大きかった。僕ベースでは、全体の25%くらいになっています。しかも、たまたま去年は紙の出版社での連載がない時期が長かったので、そのために15%にとどまったところはあります。ただ正直、紙の仕事を増やすと、もうからないんですよ。



――もうからない?



小沢 紙の雑誌は、単価は安いですから。今年は1本、紙の雑誌が初出になる一般的な連載が始まるので、「収入はいったんは下がるかな」と思っています。もちろん単行本が当たれば、回収はできるのですが。



――eスポーツを扱う『東京トイボクシーズ』の連載を「月刊コミック@バンチ」ではじめた。『青空ファインダーロック』で、最初期からKindle版配信を手がけられたりして、うめさんというと「編集不要論」「出版社中抜き論」の旗手みたいに見られることもあり得ますが、そうではないんですね。



小沢 そんなふうに「あの人、出版社では仕事やらないんでしょ」といわれているという声を、人づてに聞いたりしたのですが、それは違うんですよ。ベテランから若い人まで、ふつうにいろんな編集さんと仲良く仕事をしています。



 例えば『おもたせしました。』(筆者注 新潮社刊。手土産と文学を扱う)は、完全に編集長からの持ち込み企画で、「ちょっと待って。その世界、なにも知らないから」というところから始めたんですよ。



 そんなふうに「これはウチ向きじゃないでしょう」という仕事でも、基本的には取り組むようにしていて、編集さんってある意味、人の引き出しを勝手に開けて、売り物にするのが仕事じゃないですか。だからプロに「ちょっとこっちの引き出しを開けてみなよ」と言われたら、それは最初は乗り気じゃなくても信用すること多いです。結果として「こっちも行けるじゃん」という引き出しに、気づいたりするので。



 自分のことは、自分が一番、分かってない。実際『おもたせしました。』も、やってみたらやってみたで思ったより描けました。



――アンチではないということですね。



小沢 もし、自分でもいろいろ発信している作家のことをアンチ編集、アンチ出版社みたいに思う人がいるとしたら、それは編集として三流なんだと思います。「作家に対してマウントを取ること」。それが編集だと思ってるような人にはアンチ編集みたいに見えるでしょうね。 そういう人は、いろいろやっている作家が怖いんだと思います。



 でも、それもわりと過去の話で、むしろいろんなことを発信しているおかげで、やる気のある若い人が「この人と仕事をしたい」と来てくれたり、学生のころにインタビューしてくれた人がプロになって声をかけてくれたり、「東京トイボックス」の読者だった人が来てくれたり。うれしいことが多いです。



 そういう意味でウチはむしろ「あの人、紙じゃなくてもやるんでしょ」という感じで、いろいろ声をかけやすいと思うんですよ、たぶん。だからゲームの世界観設定をやってくれといった話も、いただいたりします。面白かったです。



――昔は、頼みたいと思っても、マンガ家へのアクセス経路が見えなかったりしましたが、今はSNSがある。こういう時代に「声をかけやすい」「いろんな仕事をする」という空気を醸し出していることは、すごくいいことですね。



小沢 もちろん本当に相場外れのギャラや納期のときは「すみません。それでは難しいです」と、お断りしますが、ふつうの金額であれば、お待たせすることはあれど、引き受けることが多いです。



 ただ、「自分からやりたいと思っていた仕事じゃないけど、提案された」という仕事が月の半分以上にはならないようには気をつけていますね。でも、3分の1くらいまでであれば、やった結果、意外に面白かったり、それで広がることもありますから。ぜんぜん平気です。



●「売ってください」



――ビジネスパートナーとして会社と組んでいく上で、考えていることはありますか?



小沢 会社に赤字を出さないように、意識しているところはあります。もちろん結果として出てしまうことがあるのですが。



 フワッとしたことをいいますけど、あとはクオリティーを保つことですね。読み返すと、いつも直したいところが出てくる。だから100点満点にはできていないのは自覚していますけど、それでも売り物としての最低ライン、80点、85点を絶対に超えるとこまでは、クオリティーを保つ。それと単純に納期を守る。納期が遅れるとじわじわコストに響いてくるじゃないですか。



――では、ビジネスパートナーに期待するのは、どのような部分でしょうか。



小沢 「売ってください」というお願いはします。実はこういうお願いを、みなさんあまりしていないんですよね。



――言いたくても言えなかったり、「相手の事情も分かる」と、勝手にもの分かりのいい人になったりしがちです。



小沢 もちろんあまりコストのかかるような売り方をお願いすることは、こちらも自分の首を締めることになるのでやらないように気をつけていますけど。



 簡単なことからでいいと思うんです。「東京トイボクシーズ」を始めるにあたっては、とりあえずTwitterの公式アカウントを作ってもらいました。「なんなら中の人も僕がやってもいいから」とも思ったのですが、編集さんがやりますといってくれたので、そこはお願いしています。これだとコストはそれほどかからない。



 あと、これは今では普通になりましたけど、書店さんを回ったり。これだと僕の1日の人件費くらいでできる宣伝ですから。



――マンガの編集部で著者が書店さんを回って営業することは、実は以前は、あまりなかったです。



小沢 僕らは「作家は書店に行くな、みっともない」といわれる時代から行っていました。ふつうはすでに本を置いてくれている書店さんに行って、面陳してくれるようにお願いするわけですけど、「本を置いてない本屋さんにも行きましょう」と、編集さんをぐいぐい引っ張っていくんです。そうするとその場で50冊入れてくださったりした。



――小沢さん、では組む相手として「意識高い系のドヤ編集者」と、伝統的精神論の「魂で描け型編集者」では、どちらが望ましいですか。



小沢 それはアレですよね。絶対、どちらかを選ばないといけないという究極の選択としたら、ですよね。



――はい。



小沢 それなら僕は、意識高い系と組みます。まだしも言葉が通じるから。



 意識高い系の人の意識を、「そうはいってもさ。泥水すすろうぜ」といって、低くすることはまだできると思うんです。でも「魂で描け」な人に「しなくていい努力はやめて、作戦練ろうぜ」といって、魂を解きほぐしてもらうのは、すごく大変でしょう。



 なので、僕ならば意識高い人のほうが楽だと思いました。意識高い人も、直接会うと、そんなに高くないですし。「実はさ」って話もいっぱいあるし。仕事をするのだったら、そちらの人のほうが、費用対効果が高いかなと思います。



――もし「魂で描け派」の人の長所を挙げるとすれば、どういうところでしょう。



小沢 魂派は、信頼関係をつくるのに、すごくコストがかかる人たちだと思うんです。だから、ゼロからその人に取り入って、認めてもらうところから始めるのは大変ですけど、最初から「おまえの魂を信じているんだ」と信頼してくれているのであれば、人一倍のマンパワーを発揮してくれるかもしれない。



●もし今の時代にデビューを目指すなら?



――小沢さんが、SNSやnoteのようなプラットフォームがある今の時代にデビューを目指すとしたら、どのような戦略を採るでしょうか。後に続く人の参考として、ぜひ教えてください。



小沢 本を1冊、まず出すことだけを狙うのであれば、あまり手をかけない、つまり製作コストの低いマンガを、Twitterにどんどんアップする。そしてバズるまでネタを変えていって、バズったらそれをシリーズ化する。これを繰り返してるうちにたぶん、編集部から声が掛かる。そのパターンが早いとは思います。出版社の旧来の新人賞は狙いません。



――狙いませんか。



小沢 もう出版社の編集に、新人を教育して育てていくようなコストも時間もなくなっていますから。



 それに賞に出して受賞して、担当がついて、次にネームコンペに出すみたいなプロセスは、時間がかかりすぎて、コスパが悪い。



 しかもそこでどういう人が担当になってくれるのか、こちらは選ぶことができないでしょう。編集部内の力関係も分からないし。ほとんどガチャじゃないですか。フィギュアが出ると思って回してるのに、こんにゃくが出るかもしれないような不透明で一方的なガチャに、人生を賭けたくないですよ。



――どんな不運な出会いがあろうとも、力づくで突き進む。そんな才能の人ならいいですけど、そこまでの人はマンガの歴史上、ごく少ない。むしろ、もしかして担当ガチャの引きが悪くて、本来世に出たはずの才能の芽を枯らしているのではないか。そうした危機感は編集側にもあって、講談社なんかは、編集部横断的に投稿を受けつけていたりしますね。



小沢 あれくらい間口が広い取り組みであれば、ありかもしれないですね。でも、旧態依然の雑誌の賞であれば、絶対に出さないと思います。



 ただ「Twitterでバズった本が実際に売れるか」というと、決してそんなことはない。100万単位でバズったのに本を出したら1000冊も売れないというケースもまだ聞きます。だから、1冊出したからそれで上がり、ということではなく、その後の戦略もまた考えなければならない。



 あと「Twitterでバズるタイプのマンガと、本当に君が書きたかったマンガは同じ?」という疑問もあります。



●数を打って、どんどん回転していく



――SNSの世界では「12ページのストーリーでも重い」という声がありますね。それよりもエッセイだったり、変わった体験だったりがバズりやすい。その意味では、ショートで売れるマンガはもはやWeb発が主流という意見もあります。



小沢 日常の小ネタだったり、自分自身や身近な人の病気の話だったりですね。それが描きたかった人なら、ぜんぜんいい。問題ないんです。



 しかし、スケールの大きいストーリーが書きたい。自分がかつて血沸き肉躍ったような冒険活劇を描きたい。そういう願望を持ってるにもかかわらず、SNSでバズりやすいからという理由だけで、エッセイマンガを描いて、それで「マンガ家になったね、良かったね」という未来しかこの業界が提示できてないんだとしたら、それはちょっと残念だな、なんとかしたいなとは思います。



 大きなストーリーを描きたいのであれば、集英社や講談社がやっているような、ある程度は編集者も見るけれども、Webにも同時に公開するという場のところでやっていくのが可能性は高いでしょうね。



 でもそれでも、やっぱり数を打って、どんどん回転していくことが大事だと思います。昔だったら、編集者がある程度、こっちだよと道しるべを示してくれた、手を引いてくれたりした。今は、それもない状態なので、自分で数を描いて、当たりを模索していくことになる。そのためには、絵のコストをどこまで下げられるか。具体的には、渾身の絵、渾身のネームを描くのをやめる。絵にコストをかけない、ネームにコストをかけない、どんどん量産する。



――渾身のネームを考えて、1年かけて渾身の絵を描いた。自分の人生をぶつけた投稿作を送って、3カ月後に落選が分かる。それを2、3回も繰り返したら、もう詰んでしまいます。それに、渾身の作品で見事、賞を獲ったとしても、担当ガチャに負けて、最初の打ち合わせで終了して唖然としてしまうこともある。コストを思い切りかけた一作で勝負しようとするのは、あまりにリスキーですね。



小沢 やりたいことをゆがめるのは、僕は良くないと思うんです。だから冒険活劇を描きたい人は、まずはそれを目指すほうがいい。



 ただ、それでたまたま10代の少年少女の恋愛を描いたら、サイトですごく伸びたとします。そのときは、そこは信じて伸ばすのがいいと思います。やっぱり、自分の中にどんな引き出しがあるのか、自分が一番分かっていないところがありますから。



 だから、もし思っていたのと違う作品が伸びたとしても、それは編集者に意外な引き出しを提案されたのと同じようなものです。まず半年くらいは、信じてやってみてもいいと思いますね。伸びると人間嬉しくなるもので、本当に嫌じゃなければ、案外それも悪くないかな、と思い始めたりもするものです。



(うめ小沢高広さんインタビュー後編「お金はゲームでいえばパラメーターのひとつでしかない」に続く)



●堀田純司



大阪生まれ。作家。主な著書に「僕とツンデレとハイデガー」「オッサンフォー」(講談社)、「メジャーを生み出す マーケティングを超えるクリエーター」(KADOKAWA)、編著に「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)などがある。日本漫画家協会員。Twitter @h_taj。


このニュースに関するつぶやき

  • 紙媒体の収入が低いんじゃ、紙のマンガは廃れる一方か。電子書籍って、かさばらないけど、自分が読みたいところだけ探すのが面倒だったり、便利なようで、わりと不便。
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  • 今はなんでもiPadで作ってアップロードしたら売れる。プロへの道は凄いシンプルになってるからだれでもやる気さえあればディレクターにはなれる。がんばってほしい。
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