「相次ぐ高齢者ドライバー暴走事故はプリウスのせい」説は本当か? トヨタタブーで検証放棄するマスコミの体たらく

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2019年06月07日 22:40  リテラ

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リテラ

警視庁もポスターなどで返納をさかんに後押ししているが…

 ドライバーによる暴走事故が相次ぎ大きな社会問題となっている。その原因について“高齢者によるブレーキとアクセルの踏み間違え”との報道がなされるなか、ネット上ではマスコミが触れない別の要因が盛んに指摘されている。それは「事故を起こしたのはトヨタのプリウスだ」ということだ。



 たしかに、最近報じられた事故の多くにプリウスが関与していることは事実だ。たとえば今年4月、87歳の元通産官僚による池袋の暴走事故も運転していたのもプリウス、5月に千葉県市原市の公園に65歳男性が突っ込んだのもプリウスだった。またつい最近の6月3日、大阪市で80歳男性が歩道に突っ込んだのもプリウスαで、過去にさかのぼってもプリウスに乗るドライバーがいくつかの重大事故を起こしている。



 そのため、ネット上ではいま“プリウスミサイル”との言葉がホットワードになり、さらには「相次ぐ暴走はプリウスのシフト操作性の特殊さが原因」なる情報が出回っている。



 ネット上で指摘されている“プリウスミサイル”の理屈はこうだ。まず、プリウスのシフトレバーは、ニュートラル(N)、ドライブ(D)、バック(R)にシフトしても、そのまま保持せず原点位置にレバーが戻る。その後、何かの拍子にシフトが右へ倒れるとNレンジとなる。それに気がつかない運転者からすればブレーキが効かず、アクセルを踏んでも無反応。ゆえに「Nでアクセルを踏んだままDにシフトすれば急発進」(=プリウスミサイル)との説である。また、NからDやRにシフトする際、ブレーキを踏まなくてもよい構造が急発進を誘発するとの指摘もある。ほかにも「プリウスのペダルが通常より左に配置されているせいで踏み間違いが起こりやすい」なる主張もよく見られる。



 こうした「原因」がまことしやかにネット上で流通している一方で、専門家からは反論の声があがっている。



 たとえば、自動車評論家の国沢光宏氏は、シフトの問題について〈PレンジからDレンジまで直線で操作できるタイプのシフトレイアウトより、Nレンジを使わない(入れ方が解らない人も多いと思う)プリウスの方が安全。ミスしてもギアは入らない方向。通常の一直線シフトより間違いなく飛び出す可能性少ない〉〈暴走するというプリウスで言えばNレンジは事実上使わないため、むしろ安全です〉と説明(「Yahoo!個人」4月29日付)。“プリウスミサイル”説を否定している。



 たしかに、本サイトも実際に車を運転するなどして様々に検証したところ、ネット上の指摘は正確とは言いがたかった。たとえば、「Nでアクセルをベタ踏みしDにシフトする急発進」は絶対にないとは言えないが、そもそも、こうした「急発進」は、別にプリウスに限った話ではなく、他のAT車でもありえることだ。ペダルの配置についても、たしかにプリウスはブレーキが左に寄っているが、それが踏み間違えの決定的な原因になるとは断定できなかった。



 また“プリウスミサイル”説をめぐっては、ネット上の流言飛語も生んでいる。6月4日、福岡市で81歳男性が交差点に猛スピードで突入し、同乗の妻とともに死亡した事件では、当初、ネット上で「またプリウスミサイルか!」などといわれたが、その後、別の車種だったことが判明。共同通信などのマスコミも「デマ情報が拡散するネット社会」に疑問符を投げかけた。さらに言えば、社会的関心を集めた事故で運転されていたのがプリウスだったのは偶然にすぎず、そもそもプリウスは国内での流通量が多いので確率的にもおかしくはない、と考えることもできるだろう。



 しかし、である。プリウスが100パーセント安全かといえば、それもまた断言できない。というのも、プリウスは他の同程度売れている車種と比べて、ブレーキ関連のトラブルの報告が突出して多いことは事実だからだ。



●ブレーキトラブルの報告が突出して多いプリウス



 実際、国土交通省の「自動車リコール・不具合情報」サイトで報告されているプリウスおよびプリウスα、プリウスPHVの「ブレーキ装置」の不具合情報を2014年から2019年4月30日現在で調べると、実に75件もヒットする。そのなかには以下のように大惨事を引き起こしかねないケースもあった。



〈ブレーキアクチュエーターの不良により、高速道路を走行中に突然メーターに赤いランプが5つ点灯し、ピピピという警告音が鳴ってブレーキが効かなくなったため、エンジンブレーキで減速しつつ、最後はブレーキペダルを目一杯踏みながらパーキングボタンを使って避難帯へ停車した。〉(2019年4月、大阪)

 

〈走行中に突然警告音が鳴り、ブレーキが効かなくなった。運よく30km/hで走行していたのと、前車との距離がかなり空いていたので、ブレーキペダルを思いっきり踏み込んだら、横滑りしながら辛うじて前車と僅か2〜3cmのところで停車した。〉(2018年6月、福岡)



〈公共施設の駐車場から発進して反対車線に出るべく転回中、切り返すためブレーキを踏んだが車両は停止せず、その後強くブレーキを踏み続けたにもかかわらず、反対側の角の生け垣に突っ込んで、ようやく停車した。結果、バンパー他車両前面が破損した。低速にも拘らず、プリクラッシュセーフティシステムは作動せず衝突後に「ブレーキ」という警告表示が運転パネル上に現れた。障害物センサーの警告音は衝突前に間欠音が1回鳴ったのみで、衝突して停車後に連続音が鳴った。〉(2017年10月、神奈川)



 他にも「ベタ踏みしても抜けてしまいブレーキが一切効かなくなった」などブレーキトラブルの報告が数多く存在している。



 一方、プリウスと同程度売れている他の車種はどうか。たとえば、トヨタのアクアは2014年以降の新車販売台数でプリウスに匹敵する人気車種だが、同じ期間に報告されたブレーキ不具合は、実に12件しかなかった。また、2018年の年間新車販台数でプリウスとアクアを上回った日産のノートおよびノートe-POWERシリーズを見てみると、ブレーキ不具合の報告は22件だった(2014年〜19年4月30日現在)。もっとも、現役で走っている型(世代)や台数が異なることは考慮するべきだが、それにしても、プリウスのブレーキトラブルの報告数は明らかに抜きん出ていると言えよう。



 なお、プリウスをめぐっては2018年10月、トヨタがハイブリッドシステムの異常を判定する制御プログラムが不適切であり、急加速時などに走行不能になる可能性があるとして、プリウス、プリウスα、ダイハツ・メビウス(製造はトヨタ)の計124万9662台のリコールを国土交通省に届け出た。これは、急加速時等の高負荷走行中に昇圧回路の素子が損傷した場合、フェイルセーフモード(故障時に自動的に減速するなど不具合を最小限に抑えようとする機能)に移行できない危険性があるからというものだった。



●トヨタタブーでプリウス問題を一切検証しないメディア



 ところが、こうしたプリウスの不具合報告の多さや重大なリコールについて、新聞やテレビなどのマスコミが報じることはほぼ皆無だ。そして当然のように、いま、ネット上で騒がれている“プリウスミサイル”説もまったく検証しようとしない。というか、「高齢者の運転」は連日のようにとりあげるにもかかわらず、「事故車はプリウス」ということには触れようとすらしないのである。



 前述の6月4日福岡事故での“プリウスミサイル”デマも、マスコミがそれまでの事故でプリウスの車名を意図的に隠しているように受け止められていたことが、ネット上でのいわゆる“オルタナティブファクト”に繋がった部分も大きいのではないのか。



 実は、マスコミが暴走事故報道に関してプリウスの車名を報じないのは、トヨタによる莫大な広告費の存在、つまり“スポンサータブー”があるからに他ならない。



 もともと、トヨタは「世界最大の自動車メーカー」として、国から手厚い保護を受けると同時に、メディア関係者のなかでも長らく絶対的なタブーになっていた。実際、トヨタ車はこれまで何度も国内で欠陥が発覚し、その度に大量のリコールをおこないながら、新聞は数行のベタ記事を申し訳程度に載せるだけ、テレビにいたってはほとんど無視といった状況で、大々的な追及や検証をする動きはなかった。



 例外は2009〜2010年、レクサスやプリウスなどの欠陥問題に関する報道だが、これはアメリカで激しい追及が起き、豊田章男社長が米下院の公聴会に出席して謝罪する事態に発展したため、日本でも報道せざるをえなくなったにすぎない。



 日経広告研究所の調査報告によると、2017年度のトヨタの広告費は5096億円でトップ。しかも3年連続のトップの地位を誇っている。2位ソニーの4071億円と比べてもトヨタがいかに莫大な広告費を投じてメディアに出稿しているかがわかるだろう。相次ぐ重大事故が社会の注目を浴びるなか、マスコミ報道ではプリウスの名前が避けられている(そして、プリウスではない事故のときだけ「ネットのデマ」だと強調する)のも、こうした“スポンサータブー”が染み付いているからとしか思えないのだ。



 しかし、「高齢ドライバーによる暴走事故」がここまで社会問題化している以上、本当の原因と事故抑止のため、タブーを排した公正な検証が必要なのは間違いない。マスコミは今回の“プリウスミサイル”説をネット上の流言飛語として無視するのでなく、大スポンサーであるトヨタにもメスを入れるべきだ。

(編集部)


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