グリコ・森永事件の犯人を彷彿――万引きGメンがゾッとした「キツネ目の少年」の悪事とは?

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2019年06月08日 20:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by Horace Ya from Flickr

 こんにちは、保安員の澄江です。

 今年の夏も、また暑くなりそうですね。商店に訪れるお客さんも、今年は早目に衣替えを済まされたようで、先月あたりから不審者の見極めが容易になってきました。薄着の方が商品を隠す場所が限定されるため、重ね着をする冬場よりも、不審者の存在が目立つようになるのです。

 店内に現れる不審者は、なにも万引きする人ばかりではありません。先月は、とあるスーパーで、清涼飲料水のペットボトルに貼られたQRコード付きのシールを次々と剥がして、商品を損壊する高校生らしきキツネ目の少年を発見しました。なんでも、若者に人気がある女性アイドルグループの限定動画を見ることができるのだそうです。

 犯行の実行現場となったドリンク売場のすぐ脇には、アイドルグループのポスターが貼られており、ジュースに使用されているキャラクターの着ぐるみが、大きなアクションで幼稚園児と思しき姉妹の相手をしています。それにもかかわらず、少年は万引きする時と同じ挙動で3本のペットボトルを手に取り、着ぐるみに背を向けて、ごそごそと不審な動きで商品をいじると、それを売場に戻して立ち去りました。気付かれないよう、少年が戻したペットボトルを確認してみると、貼られていたはずのシールがなくなっています。

 販促品のシールを剥がして持ち去る行為は、それだけでも窃盗罪が成立します。飲料とシールを合わせて、初めて一つの商品と解釈されるために、その商品自体が被害品となるのです。シールが貼られていない商品の多くは売れ残りますし、シール目当てのお客さんから余計なクレームを頂戴することもあるので、商店の頭を悩ませる小さくも煩わしい問題の一つと言えるでしょう。

 何かしたのか確認するべく、そのまま後をつけると、拳を固く握りしめたままドリンク売場を離れた少年は、その足で隣接するフードコートに入っていきました。比較的奥の方の席に着き、手の中にあるシールをテーブルの上に置くと、爪の先を使って、1枚ずつ丁寧に広げて並べています。

(あら、嫌だ……)

 スマホでQRコードを読み取った少年が、件の動画を見始めたところで、背筋に鋭い悪寒が走りました。ものすごく、いやらしい顔をしていたのです。興奮した面持ちで、鼻の下を伸ばしながら食い入るように画面を見つめる少年の姿は、欲望丸出しといった様子で、おぞましいほどでした。声をかけたい気持ちになりましたが、シールを剥がした瞬間は見ることができなかったし、少し怖かったので、やむなく見送った次第です。

 数時間後。巡回中にドリンク売場の前を通りかかると、先ほど見送ったキツネ目の少年が、いつのまにか店内に戻ってきていました。防犯カメラが気になるのか、不自然に天井を見回しています。

(ちょっと怖いけど、今日は万引き犯が挙がってないし、次やったら声をかけよう)

 それからまもなく、同じ手口を用いてペットボトルから4枚のシールを剥ぎ取った少年は、それを握りしめたまま、またしてもフードコートに向かって行きました。今回は、犯行の一部始終を現認できたので、先程と同じ席についた少年が、テーブルの上にシールを並べたところで声をかけます。

「すみません、お店の保安員です。そのシール、ほかにも楽しみにしている人が多くて、剥がされちゃうと困るのよ。ちょっと事務所まで、一緒に来てもらってもいいですか?」
「はあ? そんなことしてねえし。これは、前に買って、持ってきたものなんだけど」
「今日、ここに2回来られて、2回とも同じことされてますよね? いくらなんでも、7本はやりすぎですよ」
「はあ? なにもやってねえし。じゃあ、証拠を見せてよ。防犯カメラとか、ついてるんでしょ?」

 思い切り居直られてしまい、まるで埒が明かないので、仕方なくその場にマネージャーを呼び出して事情を説明します。すると、たまたまドリンクの品出しも担当されていた中野英雄さん似のマネージャーから、ここ数日、毎日のようにシールが剥がされていると、そっと耳打ちされました。

「きっと、全部この子の仕業でしょうから、証拠になる映像を探してみましょう」
「お手数かけて申し訳ございません」

 どちらかといえば、進んで同行に応じた少年に剥がしたシールを持たせて、3人で防災センターに向かいます。防犯カメラの位置を確認していたので、撮られていない自信があるのでしょう。防災センターの応接室に入ってからも、証拠がなかったらどうしてくれるんだと、私を挑発するように大人顔負けのセリフを吐き続けています。

「証拠が出てきたら、どうするか。それも考えておいてくださいね」
「おお、なんでもしますよ。そんなのあるわけねえし」

 実行場所と時間をマネージャーに伝えて、防犯カメラの映像を確認していただいた結果、少年が犯行に及んだ場所の真上に設置されたドーム型の防犯カメラに、犯行の一部始終が収録されていることがわかりました。少なくとも2枚のシールを、ペットボトルから剥がす瞬間が見て取れるというので、証拠としては十分なものといえるでしょう。しかし、警察など司法関係者以外に、防犯カメラの映像を公開していけないという社内規則があるらしく、その映像を確認させることはできません。証拠となり得る映像が見つかったことを少年に告げたマネージャーは、このまま否認を続けるならば警察に通報すると、冷たく言い渡しました。すっかり狼狽した様子を見せて、目に涙をためながら両手の拳を固く握りしめて俯いた少年は、座っているパイプ椅子が音を立てるほどに激しく体を震わせています。すると、突然に顔を上げて、泣き叫ぶように言いました。

「どうせないから、見せられないんだろ? 証拠があるなら、いますぐ見せてみろよ!」
「素直に謝ったら許してあげようと思ったけど、そこまで言うなら仕方ないね」
「やっていないものは、やっていない!」
「わかった。じゃあ、俺もとことん付き合うよ」

 怖いくらいに厳しい顔で席を立ったマネージャーは、目の前にある固定電話の受話器をあげて警察を呼びました。これほどまでに否認を続けるのは、きっと何か理由があるはず。話を聞いてみたい気持ちになりましたが、異様に興奮した面持ちで、わなわなと体を震わせ続ける少年に話しかける勇気もありません。警察が到着するまで一緒にいてもらえるようマネージャーにお願いして、彼の背中に隠れるようにしていると、まもなくして二人の警察官がやって来ました。

「シールだけ剥がして、なにすんだ? ちゃんと買ってから剥がせよ」
「いや、そんなことはしていません。証拠もないのに、ひどい話です」
「じゃあ、このシールは、どうした?」
「これは、前から持っているやつで……」

 少しイラついた様子の警察官が少年の身分を確認すると、少年は17歳の高校生で、この店から歩いて15分ほどのところに両親と暮らしているとのことでした。所持品検査の結果、少年のポケットからは、先ほど持たせたものと別のシールが7枚も出てきましたが、いまだ否認を続けています。痺れを切らして防犯カメラの映像を検証することにした警察官は、マネージャーに頼んで、ペットボトルに貼られたシールをつまんでいる瞬間を再生させ、モニター画面を接写した写真をプリントして少年に提示しました。

「いま見てきたけど、防犯カメラに全部写っていたぞ。もう、いいかげんあきらめろ」
「ごめんなさい! でも、学校には言わないでください! うあーん……」

 決定的な写真を提示され、一瞬にして絶望の表情に変えた少年は、すぐに降参して幼児のごとく号泣しています。店内でペットボトルに手を伸ばす少年の写真は、グリコ・森永事件で公開された手配写真を彷彿させ、キツネ目の男の末裔をみたような気持ちになりました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

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