ホストクラブ「300万円偽札事件」勃発――歌舞伎町を震撼させた“未解決事件”に思うこと

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2019年06月08日 22:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。

「歌舞伎町のホストクラブで偽札が出たらしいよ」

 ある日、ホス狂いの友達からこんなLINEが送られてきた。友人いわく、「会計で偽札を使われた」とホスト自身がTwitterで告発したそうだ。使用された偽札の総額は、300万円。そして、ホストはこうも語っていたという。

「偽札で発生した不足分はお前が払え、とお店に言われた」
「お店に尽くしてきたのに、裏切られた気持ちだ」

 ここからは、事件の全容を私の視点でレポートした記述である。どうか、週刊誌の特集記事のページをめくるような気持ちで、読み進めてほしい。

 そもそも偽札事件が起きたのは、4月の月初め。月初めと言えば、ホストの世界では、たいていは「入金日」(前月分に売り掛けをしていたお客が入金する日)を意味する。入金に間に合わなくて偽札を使ったのかな? 一瞬そう思い、すぐに考え直した。偽札を入手する方がよほど大変そうだ。

 もしそのお客が風俗嬢だったとして、風俗で連日出勤して売り掛け分を稼ぐことと、偽札を手配することの難易度を、私は天秤にかけた。天秤は一瞬で傾いた。もちろん、偽札手配へ、である。偽札を作ったり入手したりする方がよっぽど難易度が高い。子ども銀行券でも使ったのだろうか。子ども銀行券1000兆円みたいな。いや、さすがにそれはふざけすぎだろう。

 そう思いながらTwitterを開いた。もちろん、アクセスするのは、ホスト遊びのために作った裏アカウントだ。そのタイムラインは、偽札の話題で持ちきりだった。私が知る限り、ホストクラブで偽札を使う事態が表沙汰になったことなぞ、ただの一度もない。初の事例と言っていいだろう。

 ゆえに、ホストおよびホス狂いへ与えたインパクトは大きい。激震、といって差し支えない。歌舞伎町の「チ-37号事件」である(知らない人は検索してみてほしい)。結論を先取りするようだが、本件もまた未解決事件として闇に葬られたので、あながち的外れなたとえでもないはずだ。

 そんなこんなで、タイムラインを過去へ過去へとさかのぼり、「偽札事件」の流れをようやく把握した。

 以下、サマリーを報告する。

 情報の震源地は、被害を受けたホスト本人による告発ツイートだった。それが冒頭に引用した文章である。要点を再度まとめておくと、

・客に偽札を使われたこと
・しかし、店により、ホストの負担として処理されたこと

以上、2点を訴えていた。そして、後者に対しての不満をぶちまけていたのである。

 もっともな主張だと思いつつ、疑問もあった。被害を訴えている暇があるなら、SNSで油を売っていないで、警察でもなんでも駆け込めばいい。しかし、文章を見る限り、ただ泣き寝入りをしているようにも見えた。

 どうなることやら。ことの推移を注視していた私だが、事件は意外な形で終幕を迎えた。翌日、かのホストが、新たなツイートを投下したのだ。

「不信感を抱いてしまった方々に深くお詫び申し上げます」

 謝罪から始まった文章には、偽札騒動についての詳細な顛末が綴られていた。唐突な幕切れである。視界を覆う厚い幕は、しかし、ボロボロであった。これでは、向こう側が丸見えだ。

 ひとまず、ホストのツイートの要点をまとめる。

・最初に300万円を見せられたが、手に取ろうとしたら取り上げられた。その時点で偽物とは疑わなかった。
・高額なボトルを注文、そしていざ会計、となると女の子がお金を払おうとしなかった。
・お店の外で女の子と話した後、上司と女の子が話し合うこととなった。
・上司が“札束 ”を確認したところ、一番上の1枚以外はメモ紙だった。
・自分は「偽札」という言葉を使ってしまったが、ただの紙なので「偽札」ではない。だから、上司は警察を呼ばなかった。
・300万円は無事に女の子の売り掛けとなり、今後、お支払いいただくことになった。

 なんと、偽札とは「ただのメモ帳を切ったもの」だったというのだ。日ごろから数百万円の札束を見慣れている有名ホストでも、一瞬であれば白紙の束を札束と見間違えてしまう。とでも言うのだろうか。

 よくネットで「ホストクラブの闇」などというフレーズを目にするが、やはり暗闇では、札束と紙切れを見間違えてしまうのか。それとも、日常的に札束とフレンドリーな関係にあるホストにとって、それはもはや、紙切れも同然なのだろうか。とすれば、高度な資本主義批評である。

 ……そんなわけない。店とホストと客の三者が裏で話をつけ、警察を介入させないようにしたんじゃ……。そうツッコミを入れたくなった読者のみなさま。どうかその気持ちは胸のうちにしまっておいてほしい。なぜなら、私もそのナイフを懐深くにしまったからだ。

 この記事の目的は、ホストクラブの闇を暴き立てることにはない。だから私も、ことの真偽には踏み込まない。もちろん、資本主義の茶番をおちょくるつもりもない。

 くだんのホストは当初、「頑張ったのに、お店に裏切られた」とお店を辞めることをTwitter上でほのめかしていた。この行動は、以前に紹介したホス狂いによる「暴露」とよく似ている。担当ホストに不満を溜めたホス狂いが、関係を切ろうとする際、二人の交際歴やベッド写真などをばら撒く「暴露」と同一の構造を有していると申し上げていいだろう。「客とホスト」の間には境界があるように見えて、実は二人は同じ立場にいる。そう、どちらも、ホスト業界においては「お客様」という立場だ。

 しつこく資本主義の比喩で説明すると、ホストも客も「労働者」にすぎず、真に資本家の位置にいるのは、「店」だけなのである。

 ということで、ついひと月ほど前までは、ホス狂いたちの間では、「偽札事件」はホットなトピックだった。しかし歌舞伎町では、ショッキングなニュースが日夜、製造されている。

 1カ月前のことなど、大過去である。その証拠に、つい最近も、筆者の家の近所でホストがお客に刺されていた。彼らはともに、歌舞伎町の住人である。もはや、偽札事件の話をしているホス狂いは一人もいない。いや、一人いた。私である。

 私にとって、痴話喧嘩の果ての「刃傷」沙汰より、偽札を使ってまで担当に会いたいと思った「人情」に惹かれる。ちなみに、どちらも読み方は、「にんじょう」だ。

 ただの紙で作った札束で会計ができるわけがない。それが通じるのは、おままごとか、子ども銀行の世界だけだ。

 そんなことは、きっと女の子だってわかっている――。それでも見たかった夢があったのだろう。もしかすると彼女には、本当に諭吉の大群に見えていたのかもしれない。真相はわからない。わかる必要もない。

せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
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【バックナンバー】
第1回:歌舞伎町の元風俗嬢が語る、愛しき“ホス狂い”たち――「滑稽だけど大真面目」な素顔
第2回:担当ホストに月200万円……OLから風俗嬢になった女が駆け上がった「ホス狂い」の階段
第3回:容姿や年齢より「使った金額」! ホス狂いたちが繰り広げる、担当ホストのエースをめぐる闘争
第4回:Twitterで「担当ホストの本命彼女」を暴露!! ホス狂い界隈を絶望させた“ある女の復讐劇”
第5回:ホストに月200万円使う女は、どんな接客を受けるのか? 究極の接客「本営」の実態
第6回:ホストにハマる女は「まじめ」になる。引きこもり風俗嬢が出会った「ホスト・コミュニティ」
第7回:テレビが取り上げない「毎日ホストに通う女」の実態……シャンパンコールの裏にある光景
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このニュースに関するつぶやき

  • 本当に偽札が300万円だったなら警察が動いてニュースで報道されますよねexclamation
    • イイネ!16
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