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食品ロス削減の「憲法」成立、消費者の意識は変われるか 小林富雄教授に聞く

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2019年06月13日 10:41  弁護士ドットコム

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食品ロスの削減の推進に関する法律(以下、新法)が5月24日、参院本会議で全会一致で可決され成立、同31日に公布された。まだ食べられるのに捨てる「食品ロス」を減らすための法律で何が変わり、我々の生活にどのような影響を与えるのか。


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食品ロスの問題に詳しい愛知工業大学経営学部・小林富雄教授の話を交えレポートする(ジャーナリスト・松田隆)。



●食品ロス削減の憲法、「食品ロスはゴミ問題ではない」

2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で、食品ロスの削減が目標として設定された。地球上では爆発的に人口が増え、必要とされる食糧が増加する一方で食品ロスも増えている現実は、食料供給のサイクルが構造的な欠陥を抱えていることを示す。



わが国も例外ではなく、食品ロスは年間約643万トン(2016年度推計、農林水産省・環境省)に達し、国民1人あたり年間約50kgが廃棄されている計算。



新法は国や地方公共団体、事業者が取り組むべき責務、消費者の役割を定め(3条〜6条)、食品廃棄物の発生の抑制等に関する施策を実施する場合には、法の趣旨、内容を踏まえて食品ロスの削減を適切に推進すべきこと(8条)と定めている。



政府は食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針を定めなければならず(11条)、都道府県も食品ロスの削減の推進に関する計画を定めなければならない(12条)。



さらに内閣府に食品ロス削減推進会議を設置し(20条1項柱書き)、基本方針の案を作成(同2項1号)、重要事項の審議(同2号)を行うこととされ、同会議が一連の政策の中枢となることが決められた。



新法を概観すると食品ロス削減に向け大きな方向性を示し、行政が目標に向かって動き出すことが法定されている。2000年に食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(食品リサイクル法)が成立した。



しかし、小林富雄教授は次のように説明する。



「リサイクルばかり進んで食品ロスの発生抑制が後手に回っていました。リサイクル法は製造業から卸、小売、外食までが対象です。食品の根っこの生産者である農業関係者と最終消費者が抜けていました。食品ロス削減を国民運動とするなら、農業と最終消費者を明確に対象に含めないといけません。



その意味で、新法は食品リサイクル法を包括し、同時に食品ロス削減の理念を定めた憲法のようなものと言っていいかもしれません」(以下、コメントは全て同教授)。



その上で新法が成立した意義を「政治的には超党派で成立したという部分に意味があります。与野党問わず一つの方向に向かって取り組んでいく一体感が出て、めずらしく落ち着いて建設的な議論ができることが期待されます」とし、歴史的な意義については「日本の食が、量的成長から質的向上へと転換するポイントになればと考えています」と言う。



●フードバンクの活用定める19条、メインターゲットは消費者

食品ロスは一義的には量的な問題。作りすぎる、品揃えをしすぎる、食べすぎるという考えを改める時期に来ており、新法の成立をエポックメーキングな出来事と捉える。



「これまで、食品がたくさんあることはいいことと社会が信じていました。人口も増えている時代は、食品業界も品質向上への転換が難しかったというのもあるでしょう。しかし、人口は減り続ける今、量的なことばかり追い求めると、ビジネスだけでなく健康や人間関係など様々な問題が出てきます。食品、食事の質を上げていくことを考える時です。食品ロスはただのゴミの問題ではありません。食のあり方の問題です」



その、食のあり方について、重要な役割を果たすのが新法19条。国や地方公共団体は未利用食品等を提供するための活動の支援のための施策を講ずるものとされたが、これはまだ食べられる食品を支援が必要な人に提供する「フードバンク」の活用を定めたものである。



フードバンクは寄付文化の強いアメリカを中心に普及しているが、同教授によればフランスや韓国では、政府が支援することで食品の寄付だけではなく、肉や魚などの足りない食品を購入しているという。財源は寄付金や助成金だが、それに加えて兵役免除のボランティアもいる。一方、日本には寄付の文化も乏しくボランティアの不足に頭を抱えるNPOも多いが、新法はまずは食品ロスの寄付を推進していくよう求めている。



●欠品に対する消費者の反発もあるが…

同教授は新法のメインターゲットは消費者であり、国民の意識を変えることこそが食品ロス削減に必要であるとする。小売業者が在庫を多く持ちすぎるのは欠品のリスクを回避するためだが、それは消費者側の姿勢に原因があるという。



欠品に対する消費者の反発はすさまじい。クレームだけでなく、その店舗から買わなくなるなどの消費行動を伴い、それを恐れる小売業者は余剰に在庫を抱え、結果、食品ロスの発生という悪循環に陥っている。



消費者が「欠品したら別のもので代用しよう」という柔軟な姿勢を見せれば、余剰在庫問題は一気に改善される可能性がある。その点が、まさに消費者の役割として「食品ロスの削減について自主的に取り組むよう努めるものとする」(6条)という条文に込められている。



今後、フードバンクの活用が本格的に始まり、また、前出の食品ロス削減推進会議で様々な政策が打ち出される。喫緊の課題は「フードバンクで事故(食中毒等)の時には免責すべきです。善意(寄付)でやったことが、責任追及の対象になってはいけません。もちろん食中毒になっても仕方ないという意味ではなく、フードバンクで食べる方や福祉団体のスタッフの方もそれを防ぐための責任を全うすべきです」とする。



その責任については19条3項で「国が調査及び検討を行う」とされている。その点は、まさに消費者が自分で責任を持って行動することであり、消費者の意識の変化が欠かせない。



「新法は国民を啓蒙するような法律」というが、捨てないだけでなく、食品に向き合う態度そのものが問われるのではないだろうか。食品に対する国民の意識を変えてこそ、食品ロス削減が実現する。今後、新法が効力を発揮するかどうか、成熟した消費者行動が鍵を握っていると言えよう。



【取材協力】 小林富雄(こばやし・とみお)愛知工業大学経営学部教授 1973年、富山県生まれ。農学博士(名古屋大学)、経済学博士(名古屋市立大学)。主な著書に「改訂新版 食品ロスの経済学」(2018年農林統計出版)。食品ロス関係で「クローズアップ現代」(NHK総合)等、メディアでの出演機会も多い。ドギーバッグ普及委員会の理事長も務める。



【プロフィール】 松田隆(まつだ・たかし) 1961年、埼玉県生まれ。青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト、駿台法律経済&ビジネス専門学校、駿台外語&ビジネス専門学校講師。主な作品に「奪われた旭日旗」(月刊Voice 2017年7月号) ジャーナリスト松田隆 公式サイト:http://t-matsuda14.com/


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