モーニング娘。楽曲で“人生”と“青春”はどのように歌われてきたか? 67thシングル発売を機に検証

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2019年06月13日 16:31  リアルサウンド

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モーニング娘。'19『人生Blues / 青春Night』(通常盤A)

 モーニング娘。’19の67枚目となるニューシングルは『人生Blues / 青春Night』の両A面。2曲とも作詞作曲はつんく♂が担当している。モーニング娘。そしてハロー!プロジェクトの20年以上にもおよぶ歴史において、つんくは多数の楽曲を世に送り出してきた。そこで紡がれた歌詞のなかには、手癖というべきか作家性というべきか、よく使われる頻出ワードを見出すことができる。


 愛、恋、夢、笑顔、涙、友情、地球、太陽、宇宙、原宿、東京、大阪、女、乙女、電車、寝不足、大盛り、未来、感謝……。J-POPでよく使われる単語ともいえそうだが、しかしそれでも、ハロプロ楽曲内にこれらの単語が出てくると「ああ、つんく♂っぽいなあ」と感じてしまうのは、ハロプロ/つんく♂ファンなら共感してもらえることと思う。


 今回のシングルの曲名に用いられている〈人生〉と〈青春〉も、やはりつんく♂がよく使う印象がある単語だ。そこで本記事では、つんく♂が作詞したモーニング娘。楽曲のなかで、曲名および歌詞中に〈人生〉と〈青春〉がこれまで何回登場したか、そしてどのような文脈で使われてきたのかを調査/研究したいと思う。


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■〈人生〉と〈青春〉が占める割合


 まずは“つんく♂が作詞したモーニング娘。楽曲”がこれまで何曲あるのかを数えてみよう。バージョン違いは除外、ミュージカル用などの短曲は除外、メンバーソロシングル楽曲は除外、モーニング娘。さくら組・おとめ組楽曲は含める、そしてもちろんつんく♂以外の作家による作詞曲は除外……といった条件の元でカウントすると、2019年6月現在では286曲あった。


 そのなかで曲名に〈人生〉が含まれているケースだが、これは意外にも今回の新曲「人生Blues」の1曲のみだった(ちなみに“ミュージカル用などの短曲”を含めると、2001年の『LOVEセンチュリー -夢はみなけりゃ始まらない-』で制作された「DON’T STOP人生」[歌唱:辻希美]という楽曲がある)。


 なお、モーニング娘。以外のハロプロ楽曲まで範囲を広げてみても、つんく♂作詞曲では松浦亜弥「オリジナル人生」[2004|アルバム曲]、Juice=Juice「伊達じゃないよ うちの人生は」[2014]ぐらいしか見当たらない。


 つんく♂以外の作家による作詞曲だと、真野恵里菜「バンザイ! 〜人生はめっちゃワンダッホーッ!〜」[2012|アルバム曲|作詞:本上遼]、℃-ute「人生はSTEP!」[2016|作詞:角田崇徳]、カントリー・ガールズ「VIVA!! 薔薇色の人生」[2017|アルバム曲|作詞:児玉雨子]、アンジュルム「人生、すなわちパンタ・レイ」[2019|アルバム曲|作詞:前山田健一]の4曲がある。


 続いて〈青春〉を曲名に含んだつんく♂作詞のモーニング娘。楽曲だが、これは「青春Night」以外だと6曲、つまり計7曲あった。どの曲かは後述。


 モーニング娘。以外のハロプロ楽曲でつんく♂作詞曲だと以下の11曲がある。


・プッチモニ「青春時代 1.2.3!」[2000]
・松浦亜弥「YOUR SONG 〜青春宣誓〜」[2004]
・美勇伝「青春 THE NIPPON」[2007|c/w曲]
・音楽ガッタス「青春のカスタード」[2008|アルバム曲|歌唱:吉澤ひとみ、里田まい]
・Berryz工房「友情 純情 oh 青春」[2004|c/w曲]
・Berryz工房「青春大通り」[2007|c/w曲]
・Berryz工房「青春バスガイド」[2009]
・℃-ute「青春ソング」[2009|アルバム曲|歌唱:矢島舞美]
・℃-ute「青春! 無限パワー」[2010|c/w曲]
・Berryz工房×℃-ute「青春劇場」[2011|配信曲]
・ハロプロ研修生「青春Beatは16」[2015|アルバム曲]


 つんく♂以外の作家による作詞曲だと、以下の6曲だ。


・アテナ&ロビケロッツ「青春! LOVEランチ」[2008|作詞:磯崎健史]
・真野恵里菜「青春のセレナーデ」[2011|作詞:三浦徳子]
・真野恵里菜「青春 レインボウ」[2012|c/w曲|作詞:三浦徳子]
・つばきファクトリー「青春まんまんなか!」[2015|作詞:もりちよこ]
・こぶしファクトリー「バッチ来い青春!」[2016|作詞:イイジマケン]
・ハロプロ研修生「正しい青春ってなんだろう」[2018|作詞:福田花音]


 そして、モーニング娘。の楽曲の中で歌詞に単語が使われた曲数だが、〈人生〉は30曲、〈青春〉は23曲だった。また、一曲中で〈人生〉と〈青春〉の両方が出てくるというケースもあり、それは7曲あった。それでは以下で具体的に見ていこう。


■〈人生〉を含んだ歌詞


 まずは〈人生〉という単語がつんく♂詞ではどのように使われているか見ていく。文脈によっていくつかのパターン別に分けることができる。


◇人生とは○○


 言い切りの形で書かれる、つんく♂が考える〈人生〉の意味合い。ハロプロ楽曲の歌詞における〈人生〉が含まれるフレーズの代表格といえば、「I WISH」[2000]の〈人生ってすばらしい ほら誰かと 出会ったり恋をしてみたり〉ではないだろうか。ハロプロの歴史が始まって4年目の2000年で、すでにこれ以上ない最強のフレーズが生まれてしまった感がある。ちなみに2番では〈人生ってすばらしい ほらいつもと 同じ道だってなんか見つけよう!〉と続き、こちらも感動的だ。


 また、つんく♂の歌詞世界において〈人生〉とは、〈真剣100%でとことん〉やり、〈愛すべき人にささげる〉ものであり、〈いざとなればなんとかする〉ものであり、〈答えは一つじゃ〉なく、〈いろいろある〉もの、そして〈誰も彼もが人生の初心者〉なのだ、という認識のようだ。


・〈とことんやんよ この人生 真剣100% 行くしかねぇ 燃えようぜ〉(「地球が泣いている」[2012|アルバム曲])
・〈全部運命次第なんだと言うけど この人生は愛すべき人にささげよう〉(「君の代わりは居やしない」[2014])
・〈涙こぼれる 今日が最後よ たった一度恋に破れただけ 笑顔になれる 私ならば いざとなればなんとかするも人生〉(「悲しき恋のメロディー」[2012|c/w曲])
・〈答えは一つじゃない 人生は 結果が全てじゃないが 始めなきゃ始まんない〉(「HEY! 未来」[2003|DVDシングル])
・〈食べすぎちゃったあの日もな 見逃しちゃった映画もな 人生そりゃま いろいろある わかってるけどな〉(「女心となんとやら」[2010|アルバム曲])
・〈誰も彼もが 人生の 初心者だから〉(「ラヴ&ピィ〜ス! HEROがやって来たっ。」[2005|c/w曲])


◇苦境の場面


 〈人生〉の良い部分ばかりを讃えているわけではなく、苦境に陥ったりネガティブだったりする場面の描写もいくつか見られる。


・〈疑って許して 女と男の浪費 戻せない時間を後悔しちゃう 人生〉〈帰るか抱かれるか 女と男の二択 損得なんかはきっとどうでもいいのが 人生〉(「女と男のララバイゲーム」[2010])
・〈甘えたいよ 泣きつきたい 誰だって 誰だって 不安な人生/ごめんなさいと言えなくって ほら ずるずると転がれば最悪〉(「スカッとMy Heart」[2015])
・〈明日は雨かな それとも晴れかな ああ まるで人生〉(「すべては愛の力」[2009|c/w曲])
・〈みんなに見られたい みんなに見られたい/輝けこの人生 輝けこの人生〉(「I’m Lucky girl」[2010|アルバム曲])
・〈AH 切ない人生〉(「笑って! YOU」[2012|アルバム曲|歌唱:譜久村聖、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音、飯窪春菜、石田亜佑美、佐藤優樹、工藤遥])


 「恋ING」[2003|c/w曲]の場合は、1番では〈片思いも出来なくて 人生つまんないって時期もあった〉だが、2番では〈いつまでも二人でならば 人生楽しんで行けそうだね〉と変化している。


 また、近年のつんく♂作詞の傾向といえそうなのが、ネガティブなトーンをそのまま歌詞に出すという表現法だ。2018年発表の以下の2曲は特に顕著だし、似たシチュエーションを描いているように見える。


・〈好きなようにやってみればと言ったくせに 好きなようにやり出したらあれこれ言う 大人だってきっと初めての人生でしょ? 根拠も何もあったもんじゃない〉(「花が咲く 太陽浴びて」[2018|配信シングル])
・〈好きなようにさせたのなら あとでとやかく言うんじゃない 人生全て自分の責任 過去になんて縛られないで〉(「A gonna」[2018])


◇私の人生


 つんく♂詞で目立つ傾向として、〈人生〉の前に接頭語として〈私の〉を付けて〈私の人生〉としていることが多い。もちろん人生自体は自分だけのものなのは当然だが、実際には他人のための人生になってしまっている場合も多々あるかもしれず、そういった人たちへのメッセージとして〈私の〉と強調している、のかもしれない。


・〈LOVE 一生孤独な少女のファッション LOVE 友情忘れたワンルームマンション LOVE パッション感じたあなたの表情 TOKYO TOKYOそれでも 先週終わった恋愛だって 来週遭遇運命だって この未来は絶対私の人生 楽しく生きてく運命変えてやる〉(「NIGHT OF TOKYO CITY」[1999|アルバム曲])


 この「NIGHT OF TOKYO CITY」の該当箇所はラップ歌唱で切迫感を伴って歌われている。また同曲は、〈人生〉が歌詞に入ったモーニング娘。楽曲としては一番最初のものとなる。


・〈ガキ扱い No Thank You 私の人生 誰かがどして邪魔をするのよ〉(「この地球の平和を本気で願ってるんだよ!」[2011])
・〈通ってるスクールでいっぱい友達作っちゃって 健気に生きようじゃないか 私のこの人生〉(「ブレインストーミング」[2013])
・〈終わりなきMy Vision それでも全部 私の人生なんだよ 誰に何を言われようが 大好きな人生なんだな〉(「The Vision」[2016])
・〈ヤダヤダと言ってれば世の中が変わるなら 一晩叫ぶわ でも 自分だけが楽をしたって 私の人生 本当に楽しめないんだよ Ah 本気で挑めば勝てるのよ 本気で挑めばいいんでしょ〉(「セクシーキャットの演説」[2016])


 以下の曲では〈私の〉という言葉は使ってないが、意味合い的には近いものだろう。


・〈この大地が見てる 星が見てる 我が道を行くだけ いつも通り 誰の為の人生? 何の為の人生? 信念だけは貫き通せ!〉〈ああ未来が見える 君も見える 我が地図を描いて 先へ進もう 誰の為の人生? 何の為の人生? 信念だけは貫き通せ!〉(「信念だけは貫き通せ!」[2012|c/w曲|歌唱:道重さゆみ、生田衣梨奈、鞘師里保、鈴木香音、飯窪春菜])


◇人生の長さ


 人生の長さについて言及した歌詞がいくつかある。


・〈愛する星に生まれて 愛する人と出会って 1世紀満たぬ人生(みち)だから〉〈人間皆 好きになれ 人生は一回 笑う門に福来る life is one time〉〈積極的に生きるんだ 人生は一回 笑う人に人集う life is one time〉(「みかん」[2007])
・〈笑顔で生きていこう 健康であろうよ 100年やそこらの偉大な人生〉(「雨の降らない星では愛せないだろう?」[2009|アルバム曲])


 人生は100年足らず、人生は一回。そして人生は一歩一歩踏みしめていくものだとも言っている。


・〈どんな未来が訪れても それがかなり普通でも 一歩一歩でしか進めない人生だから 立ち止まりたくない〉(「Do it! Now」[2002])
・〈だからあわてず行こう青年 そうさ人生つまりStep By Step〉(「Mr.Moonlight 〜愛のビッグバンド〜」[2001])


◇その他


 上記カテゴリからはやや外れるものがいくつかあった。〈人生〉そのものについて語るというよりも、他のテーマを語る際に行きがかり上使ったと思しき用例といえるだろうか。


・〈孤独に負けそうな時 ここに戻ればいい 田舎で育んだ人生 誇りに思うなら〉(「友情 〜心のブスにはならねぇ!〜」[2004|歌唱:モーニング娘。おとめ組])
・〈ハチャメチャな人生じゃないよ 私なり考えて 行動してるよ〉〈お小遣いだけじゃ足りないし 人生やっぱお金かかる〉(「彼と一緒にお店がしたい!」[2011|c/w曲])
・〈かっこいい生き方は出来ないが 今をどんな風に生きるか 迷うのも私流/真夜中コンビニに行くような 軽い恰好で人生を歩ける程 自信がほしい〉(「Rockの定義」[2013|c/w曲|歌唱:田中れいな])
・〈「藤本美貴」人気の公開番組へ 人生で初の参加 セットってすごい遠近法 ゲスト顔ちっちゃ〜い「お〜い、これ貼っといて。なに?髪切った?」〉(「女子かしまし物語3」[2006|アルバム曲])


 以上で29曲。それでは新曲の「人生Blues」ではどういう歌詞かというと……その前に〈青春〉について見ていこう。


■〈青春〉を含んだ歌詞


◇青春とは○○


 言い切りの形で書かれる、つんく♂が考える〈青春〉の意味合い。


・〈涙は流れるさ そいつが青春さ 悔しさがあるから またいつか熱くなれるぜ〉(「NATURE IS GOOD!」[2005|c/w曲])
・〈DON’T STOP 涙止めないでDROP ROCK STAR 君は羽ばたいてTRIP だけど青春 みんな迷うジェネレーション〉(「涙ッチ」[2010|アルバム曲])
・〈WOW WOW WOW 青春 いろいろあるさ! 2、3人集ったら かしましかしまし〉(「女子かしまし物語」[2004])
・〈青春の規定は無い 青春に限度も無い 野心があるならそれで十分だ〉(「Password is 0」[2014])
・〈ドッカ〜ンと打つぜ 逆転サヨナラホームラン YEAH! 青春しちゃうのに 定義もクソもない〉(「ドッカ〜ン カプリッチオ」[2012|アルバム曲])


◇青春の長さ


 〈人生〉の場合と同じく、〈青春〉の長さについても言及している。


・〈青春の1ページって 地球の歴史からするとどれくらいなんだろう? あ〜 いとしいあの人 お昼ごはん なに食べたんだろう?〉(「ザ☆ピ〜ス!」[2001])
・〈幸せになりたい 愛情で包んであげたい いくつになっても WOW 青春だよ GO! GO! GO! GO! We’re ALIVE〉(「そうだ! We’re ALIVE」[2002])
・〈果てなく続く青春に 夏の香りが似合う あなた〉〈果てなく続く青春に サーフボードが似合う あなた〉(「ファインエモーション!」[2004|c/w曲])
・〈Everybody Everybody! それでいいのかい?青春〉〈皆の衆 皆の衆 ほんといいのかい?青春/一回きりの青春 Oh Yeah! Oh Yeah! Oh Yeah! だからいいじゃん〉(「ダディドゥデドダディ!」[1999|アルバム曲]


◇学生時代


 「そうだ! We’re ALIVE」で〈いくつになっても WOW 青春だよ〉と書いてはいるが、つんく♂詞においては10代の学生時代の情景を描写したものも多い。


・〈青春ど真ん中 花の十代 毎日我武者羅に生きてるんだな 夢は大きく華やかに でも今はお腹がGOO〜〉〈青春ど真ん中 花の十代 素直になれなくて恥じらう世代 恋のイロハも勉強中 バスの中 至近距離〜〉〈こんな朝もたまにゃいいか でも今は 独占中〉(「青春ど真ん中」[2012|c/w曲|歌唱:モーニング娘。天気組])
・〈さぁ青春は継続中 後悔したくない 手を抜かない〉〈さぁ青春は継続中 夢はあれこれと 変わるけど〉(「My Way 〜女子校花道〜」[2011|アルバム曲])
・〈教室入って日誌書き込む 外は掛け声鳴り響く がんばれ!青春 心で叫んだ〉〈ah 少しずつみんなが入ってきた チャイムがなる直前 ダッシュで駆け込む君/目と目で合図して優越感 まさしく青春〉(「乙女のタイミング」[2011|アルバム曲|歌唱:光井愛佳、生田衣梨奈、鈴木香音])


◇恋愛


 上記カテゴリとも重なるが、青春時代にはつきものの〈恋愛〉に関連した歌詞も数多い。


・〈恋して初めて 恋というものを考えてみたけど よくわからぬままですけど これも恋でしょ/それでも半年なんて なんだか… なんだろ… 不安と幸せ 行ったり来たりの 青春です〉(「恋してみたくて」[2019|アルバム曲])
・〈青春小僧が今日も泣いている 恋愛下手って顔に書いてある〉〈青春小僧が今日も泣いている これが最後って今日も泣いている〉〈AH くらっと来ちゃって青春だね くらっと来ちゃって青春だね YO 誰ぞ/AH くらっと来ちゃって青春だね くらっと来ちゃって青春だね 我が世誰ぞ〉(「青春小僧が泣いている」[2015])
・〈青春だなぁ このひととき 青春だわぁ まったりとね 幸せ 前髪でも切っちゃおうかな〉青春とは なんだろうか 青春ゆえ 迷うのかな それでも 生きているって青春だね〉(「恋人には絶対に知られたくない真実」[2014|アルバム曲|歌唱:道重さゆみ、譜久村聖、飯窪春菜])


 「青春Say A-HA」[2017|アルバム曲]の歌詞は、前述した“近年のつんく♂詞の傾向のひとつであるネガティブさ”の一例だろう。アイドルの恋愛スキャンダルについての歌詞とも解釈できそうだ。


・〈「コソコソ恋愛(love)」ってな なんか燃えるけど バレなきゃ良いってな そんな意味でもない ひとつ選ぶっての なんか難しい こんなのこんなのこんなのは 青春なんかじゃない〉(「青春Say A-HA」)


 「Memory 青春の光」[1999]は、曲名に〈青春〉と入ってはいるものの、歌詞中には〈青春〉という単語は一度も出てこない珍しいパターン。そういったパターンは、今回の調査ではこの曲だけだった。歌詞の内容自体は、男女間恋愛の終わりの1シーンを描いたもの。そんな内容の曲に〈青春の光〉という曲名が冠されているのは、つんく♂の中で〈恋愛〉と〈青春〉は不可分に近い位置付けだということを示している。


 上記カテゴリからはやや外れるものがいくつかあった。〈青春〉そのものについて語るというよりも、他のテーマを語る際に行きがかり上使ったと思しき用例といえるだろうか。


・〈輝け!今日の私よ 胸張って!未来の私も 後悔しないように 信じて 歩こう MY STAGE OH YEAH 青春コレクション〉(「青春コレクション」[2010])
・〈同じ話がグルグル 下ネタ挟んでエンドレス 時が経つのは早いものです 青春返してよ〉〈自分でギャク言って爆笑 会場みんなはドン引き 今がこの時 一期一会 青春返してよ〉(「やめてよ! シンドバッド」[2011|c/w曲])
・〈ダンスフロアに愛情を込め 夢と感動を振りまく Everyday〉〈ダンスフロアに魂を込め 汗と青春を振りまく Everyday〉(「アイサレタイノニ…」[2012|c/w曲|歌唱:モーニング娘。Q期])
・〈緊張の糸が切れたわ 急に涙する 青春のドラマみたいに かっこよくもないね〉(「トキメクトキメケ」[2013|c/w曲|歌唱:道重さゆみ、譜久村聖、生田衣梨奈、飯窪春菜、石田亜佑美])
・〈桃色の 桃色の 青春ってロマンティック 夢見がちでキャキャッキャしちゃう〉(「レインボーピンク」[2006|アルバム曲|歌唱:重ピンク、こはっピンク])
・〈地球が踊ってる 宇宙が響いてる 夜空よりも 木陰よりも 青春あれ〉(「YAH! 愛したい!」[2004|アルバム曲])
・〈「青春を謳歌する諸君に告ぐ 我々は完全に楽しんでいる さぁ諸君たちも共に 楽しもうではないか!」〉(「Say Yeah! -もっとミラクルナイト-」[2001|アルバム曲])


■〈人生〉と〈青春〉を含んだ歌詞


 同一曲の中に〈人生〉と〈青春〉の両方が出てくるケースは7曲ある。


・〈そうね 人生のホームページ 更新するわ SEXYビームで〉〈そうよ 青春はカーニバル 踊る人に 見てる人〉(「恋のダンスサイト」[2000])


 「恋のダンスサイト」では〈人生のホームページ〉〈青春はカーニバル〉と同じメロディに当てはめていて言葉遊び感が強いが、以下の例ではそこに留まらず、〈人生〉と〈青春〉の緊密な関連性を感じさせる。


・〈まだ長い長い人生を少し 駆け出したばかり AH 青春は 上り坂もあるさ〉〈ほら長い長い人生を少し 駆け出したけれど AH 青春さ 一休みもいいさ〉〈でも長い長い人生をきっと 自分色に染めて 絶対にゴールするのだ この汗を拭きながら〉〈でも長い長い人生のゴール 自分で決めてさ 絶対にゴールするのだ この涙拭きながら〉(「DANCEするのだ!」[2000|アルバム曲])
・〈シャツのボタン外して深呼吸 ここは夢のステージ 人生というステージ〉〈終わりなんてない青春 WOWWOWWOW 後悔はしたくない〉〈正解なんてない青春 WOWWOWWOW マネごとはしたくない〉〈ちょっと照れくさい青春 WOWWOWWOW 熱すぎて良いんだろう?〉(「OK YEAH!」[2011|アルバム曲])
・〈孤独じゃ辛いのに 結局苦し紛れの言い訳 誰にもわからない みんなそれぞれ人生訳あり〉〈Check it out! 本気で恋してみろ Check it out! 本気で語ってみろ Check it out! 本気で抱きしめてみろ 青春を無駄にすんじゃない〉(「ワクテカ Take a chance」[2012])
・〈どこまで行っても無限だよ いつからだって始められる 可能性がゼロじゃないなら 勝負したくなるのも 人生なんだ〉〈ゼロから始まる青春は 誰かのせいにしちゃいけない 出会いも別れもあるだろう 忘れちゃいけないのは 感謝なんだ〉(「ゼロから始まる青春」[2012|アルバム曲])
・〈「青春だね」なんて笑えない 現実だってあるんだから 人生悟るにゃまだ早い こんな事なら出会いたくなかった 「好き」な気持ちがどんどん歪んでく〉〈「青春だね」なんてみんなして 根掘り葉掘りと聞くだけ聞いて 結局なんにも変わらない 誰か助けて 苦しくてつらいよ 「好き」な気持ちがどんどん歪んでく〉(「笑えない話」[2014|アルバム曲])


■「人生Blues」と「青春Night」


 それでは以上を踏まえた上で、今回の新曲ではどのような文脈で〈人生〉〈青春〉が用いられているのか見てみよう。


 「人生Blues」は、前述したとおり曲名に〈人生〉というワードを用いた希少な例だ。歌詞全体を見渡すと、これもつんく♂作詞の近年の傾向である“とにかく同じセンテンスやメロディを4回繰り返す”という技法が目立つ。〈恐がるな 戸惑うな 躊躇すな 油断すな/All Right All Right All Right All Right〉や〈笑ってみ 100回さ 笑ってみ 声にして 笑ってみ 全身で 笑ってみ 毎日〉といった部分だ。


 そしてサビでは以下のように歌われる。つんく♂自身のこれまでの人生での気付きを凝縮したような言葉が連なっている。


〈人生って なんとも無理な場面から なんとかするから なんとかなる SO 諦めたら 只の人 黄昏れたいけれど…/人生って ここぞっていう日があるんだね 前もってわかりゃいいんだけど SO 後になればあの時と 気がつくもんだよね… 人生Blues〉


〈人生って どうでも良いような場面から ヒント掴むから 上に立つ 右に倣うは 簡単さ 無難なんだろうけど/人生って 待ってる時は来ないのに 無意識になれば現れる 慌てなければ 出来る事 わかっちゃいるんだけど 人生Blues〉


 ちなみにサビ頭が〈人生って〜〉から始まるのは、「I WISH」での〈人生ってすばらしい〉と共通している。このような形式の曲は、今回の調査では他になかった。


 続いて「青春Night」を見ていこう。この曲に触れた方ならすでにお気づきのことだと思うが、曲名および歌詞中に〈青春〉というワードが用いられているのと同時に、歌詞中では〈人生〉というワードも出てくる、つまり〈人生〉〈青春〉混合型の一曲となっている。


 なにしろ曲のド頭から〈私の人生 エンジョイ!!〉というフレーズで始まる。ここでも〈私の〉という接頭語が使われている。曲の中盤では〈誰がなんと言おうが 私は私の人生 エンジョイ!!〉と、さらに強調されている。


 Aメロの歌詞では、〈そこに君が居なきゃね 全部 嘘になるから〉とか〈友達の恋愛相談(ばな)って すぐ答えが出せる なのに 何やってんだろう…〉とあるので、やはりここでも〈恋愛〉が主題になっているようだ。


 そして〈青春〉が含まれている歌詞は、以下のサビの箇所だ。


〈青春Night 落ち込んでちゃ そんなの勿体無いでしょ!? 青春Night 後悔してる暇も無いの そんな事 全然 わかってる WOW WO〉


〈青春Night 幸せって まっすぐ選ぶだけ 青春Night 幸せをチョイス出来ない 私は こっから 脱出 Get away〉


 おそらく、つんく♂が一番伝えたいメッセージは〈幸せって まっすぐ選ぶだけ〉の部分だという気がする。〈人生〉〈青春〉〈恋愛〉が密接に重なり合っているという意味では、やはりこれまでの楽曲群と一貫したものがある。


 ハロプロ自体は、2015年以降の多作家時代を迎えて、必ずしもつんく♂一人の作家性では捉えられないほど拡大しているが、モーニング娘。に関しては、数曲例外はあるものの、依然としてつんく♂がメインのソングライティングを担当し続けている。今回の『人生Blues / 青春Night』もつんく♂印120%の濃厚シングルとなった。(ピロスエ)


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  • これは完全に野中センターでやってほしかったな。全くモー娘。っぽくない歌だが( ̄▽ ̄)
    • イイネ!1
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