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お金はゲームでいえばパラメータの1つでしかない──うめ小沢高広さんに聞く 「楽しく、遊んで稼ぐ」新しい時代の感覚

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2019年06月14日 09:13  ねとらぼ

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ねとらぼ

写真eスポーツをテーマにした新連載『東京トイボクシーズ』が月刊コミックバンチでスタート(2019年7月号)
eスポーツをテーマにした新連載『東京トイボクシーズ』が月刊コミックバンチでスタート(2019年7月号)

前編:「出版社以外」からの収入のほうが大きくなった──うめ小沢高広さんに聞く「いま漫画家デビューを狙うならこうします」から続く



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 作家の井伏鱒二がお金に困っていた時代、その懐事情を察したあるファンが、ファンレターに同梱して、お金を送ってくれたそうです。



 そのファンこそが、まだデビューする前の太宰治だったのですが(広く知られているように、この人の実家はお金持ち)、もし現代であればどうでしょうか。困っている作家は、クリエイター支援のプラットフォームを使ったり、もしかするとクラウドファンディングで小説を書いたりしていたかもしれません。



 クリエイターとおかね。その実感を語っていただく企画。マンガ家ユニット「うめ」でシナリオ、演出を担当する小沢高広さんインタビューの後編です。



●昔はお金が大きな顔しすぎだった



――小沢さんにとって、ずばり「お金」とは、どんな存在でしょうか?



小沢 実は、去年初めて中国でWeChatPayを使ったんですよ。朝の屋台でQRコードにスマホをかざして決済。すると名前は分からないけれど、肉団子とビーフンの入ったおいしい汁物をくれる。その瞬間、ちょっと脳がはじけたというか。お金って、コインや紙幣は仮の姿で、本来は持ってる信用だということをとても実感しました。



 そこから今の日本でのなんちゃらペイの急速な普及。要するに今、お金って、どんどん電子化して、物体が消えていく。それとともに、うっすらと「みんなお金からだんだん自由になってきてるな」という気がします。実際の収入が変わったわけじゃないんですが、でも重さは変わった。



 なんというか「お金は、パラメータの1つでしかない」という感じですね。ゲームだと、ヒットポイントとかマジックポイントとか、いろんなパラメータがあって、ルピーとかゴールドはその中の1つでしかないでしょう?



 もちろんRPGをやるときにゴールドも重要なのですが、一番、大事なパラメータかというと、そうではない。もちろんお金がないと買えないアイテムもたくさんあるし、どこかで「やべえ、金稼ぎしないと」という瞬間はあります。だけどゲームの目的は、お金が中心じゃないですよね。



 現実問題として、貧困とか、老後の2000万円の話とか、そういう問題はあるにせよ、実際の人生におけるお金の位置も、そんな感じになってきている気がするんです。改善すべき点はまだまだあるけれど、次第に「バランスが取れてきているな」と感じてます。



――確かに、実体があると「札束風呂に入りたい」といった形で、お金を集めること自体が自己目的化してしまいますね。しかしパラメータの1つと思うと、人生の目的はあくまで「魔王を倒すこと」であって、お金はその手段の1つでしかなくなる。



小沢 昔はもっと、お金が人生の中心だった。というか、大きな顔しすぎだった。



――しかしフリーランスのクリエイターとしては、お金を持っておかないと、不安なことはないでしょうか?



小沢 不安といえば不安ですけど、経団連のトップの人が「もう終身雇用はできない」という時代ですから、なにをやっても変わらないんだと思います。会社員ならば組織があるからといっても、そこから得られる安心感は、そんなに変わらないものだとは思うので。



 もちろん体を壊したりして、いったんレールから外れる瞬間は来るかもしれない。しかし、そうした不安をあまり大きく見積もり過ぎていてもしようがなくて。



 うちの場合、子どもが2人いるので、子どもたちが大きくなるまではなんとかしたい。想定している未来は、それくらいですね。倒れるようなことがあっても、とりあえず3年は子どもを学校へ行かせながら、生活できるようには想定して、ストックしておきたい。



 ただ、仕事だけしてお金を使わないでいると、正直、たまってしまう瞬間があるんですよ。だからたまに、意識的に使うようにしているところもあります。ゲームの話じゃないですけど、いいじゃないですか。時には一番、高い武器を買ってみたって。



 不安を大きく見積もり過ぎるよりも、お金を使って得るメリットをちゃんと意識しておきたいです。ただ、たまに「今年、稼いだお金は今年、使うんだ」みたいな江戸っ子みたいな人もいますけど、僕、そこまでの勇気はないですよ、まだ子どもも小さいし。



●楽しんで、遊んでお金を稼いでもいいんだという価値観



――新連載『東京トイボクシーズ』ではプロとしてゲームを競う「eスポーツ」が描かれます。主人公は中学生ですが、第1回では「スポーツ進学」ならぬ、「eスポーツ進学」を提案される。彼はお金のために戦うのでしょうか。それとも名誉のためでしょうか。



小沢 うーん、両方ですねー。「eスポーツのeは、エコノミーのe」などという気もないですけど、連載するにあたって、海外の方も含めていろんな方の発言や配信をみました。すると国内外問わず「好きなことやってお金がもらえるって最高」というフレーズを何度も聞くんですよ。



 その気持ちは分かりますよね? だって最高じゃないですか。我々は、たまたま作る側にまわっているけども、もし読むことだけで稼げたら……。それをゲームの世界では成立させているわけです。「ゲームをして食べていける」世界。eスポーツ=賞金というだけではないですが、お金の話は絶対、避けて通れないです。



――「好きなことをして食べる」というフレーズは流通しています。しかし「遊んで食べていける」というのはさらに過激ですね。「それはいいのか?」という感じがまだあります。



小沢 eスポーツに限って言えば、日本は、法的な整備がまだ現状に追いついていない、という大前提はあります。ただそれだけでなく日本の場合、お金というものは「苦労したことの対価」「耐え忍んだ結果、もらえるものである」という、ある種の雇われ根性みたいな価値観が、ベースにあるじゃないですか。結果「嫌儲」なんて言葉も生まれる。「そうじゃないよ。楽しく稼いでもいいんだよ」という感覚を受け入れるのは、やはり欧米のほうが早かったのかなという気はしますね。日本発のゲームが世界で高く評価されているにも関わらず、日本がeスポーツで後進国であるという点と、お金に対する価値観の違いには注目しています。



――『東京トイボクシーズ』で、楽しく新しい価値観を感じてもらうことになりますでしょうか。



小沢 変えていきたい、ですね。たぶん「お金が人生の主要パラメーターであり過ぎたけど、もうそうじゃないよ」と置き換えていく過程と、「楽しんでお金を稼いでもいいんだ」といわれるようになる過程。この両方を動かして、同時にほどいていかないとダメなんだろうな。そこを作中でなんとか描けないかなと考えているところではあります。



 正直、感覚としては「ゲームやって遊んで、お金もらえるって変じゃないか」と思う気持ちも、分かるじゃないですか。むしろ、その気持ちがまだ世の中に残ってるうちにやりたいなと思っています。



――「楽しんでお金を稼ぐのは後ろめたい」という感覚に通じるところがありますが、「クリエイターがお金の話をすることは良くない」というムードもありました。今ではオープンになってきましたが。



小沢 だいぶ変わってきましたね。でもまだ「オープンになってきた」という枕をつけないと、話せないところもあります。



 SNSなどで、お金の話を吐露してくれる人がぼつぼつ出てきた。でも本来は、そうした話はクライアントなり契約相手とするべきであって、SNSでわざわざ公開するような件でない。事と次第によっては、契約内容の開示ですから、法的なリスクもゼロじゃない。



 それでも、しばしばSNSで、炎上覚悟で吐露するところまで行ってしまう現状は、哀しいです。そんなところまで行かないのが当たり前になってほしい。普通に回って当然のはずですから。これに関しては、支払う側の意識の問題のほうが、より大きいと思います。



 別に安いと文句を言いたいわけではありません。「仕事の早い段階で、クリエイター側から切り出す前にお金の話をしてください」というお願いですね。それだけでクリエイターの安心感、信頼感が変わります。お金の話は、さっとしてしまえばいい。恥ずかしいことでも嫌なことでもなんでもない。



――意外とプロテスタント社会には「お金を稼ぐのはいいこと」という価値観がありますが、東アジアだと「貧乏をして本だけ読んでいるのがかっこいい」という感じが、どこかあるのかもしれませんね。



小沢 物語にも責任あるのですかねー。貧しい主人公が成り上がるのって、物語の古典的な型のひとつですしね。ただ「日常系」というジャンルが成立して久しいですし、そうじゃない物語も増えてきているので、こちらも次第にバランスが取れてきているのだと思います。



●「世界は手作りでできている」



――これから社会に出ていく人に、アドバイスを送るとしたら、どんな言葉になるでしょうか。



小沢 「極端なこと言う人に気をつけて」かなあ。



 強い言葉は、コップで水かけられたみたいに一瞬びっくりするかもしれないけれど、たかだかコップの水なので。それよりはちゃんとペットボトルを渡してくれる人をちゃんと信じようと。



――テクニックとして、意識してわざと最初に水をかけてインパクトを与える人もいますね。



小沢 いますね。そんな人とやりあうとコストが高いから、さっと逃げたほうがいいです。近寄らない。もしも近寄ってしまったら、早く立ち去る。



 すっと立ち上がって部屋を出て、ぱたんとドアを閉める。驚いた係員の人に「どうしたんですか」と聞かれて「大丈夫です」と答える。それでさっとエレベーター乗った瞬間の解放感。あの気持ち良さ。こういう「やばいところから後先考えずに逃げ出す経験」は若いうちに、1回体験しておくと、いいかもしれないです。



──「苦労すること自体に価値がある」という考え方は、自分も好きではないです。しなくていい苦労はしないほうがいい。最短距離でいけるのなら、そのほうがいい。



 ですが、本来フリーダムなはずの「クリエイターのお仕事」でさえ、「苦労には、それ自体、価値がある」という雰囲気が出てくる。「お辞儀して見えるように傾けてハンコを押せ」みたいな作法や忖度が、この世界でさえもあり得ます。うめさんの新作『東京トイボクシーズ』の第1話でも、頭が硬そうなお偉いさんたちが会議している場面が出てきますが、どんな分野でも「○○しぐさ」みたいなものが発生してしまうのは、社会の風土なのかもしれませんね。



 しかしそうした風土の中、なぜ小沢さんは、マンガの世界に「コスト」の感覚を持ち込み、「ムダに苦労はせず、力を入れるべきところに一番、力を入れよう」という発想を持つことができたのでしょうか。マンガ家ユニット「うめ」のデビューは2001年。「魂を込めた渾身の線で、人を感動させるんじゃ」という価値観で勝負に出る可能性もぜんぜんあった時代です。



小沢 これは今までも、いろんなところで話してきたことですけど、すがやみつる先生の『こんにちはマイコン』に出会ってなかったら、僕も革新よりは伝統を重んじる人間になった可能性もあります。



 あの本に出会うまで、ゲームで散々遊んでたくせに、それが誰かが作ったものだなんて、考えたことすらなかったんですよ。それが自分でも作れるかもしれない、と分かったときの衝撃はすごかったです。ゲームだけじゃなく、世界はずっと昔からそこにあったもんじゃなくて、みんなで寄ってたかって作ったんだ、自分もそこに参加してもいい、と気づかせてくれました。



「世界は手作りでできている」



 40年も前の作品ですけど、この作品で感じたものが僕の創作の根っこにあります。創作というか、生き方の根っこです。



堀田純司 大阪生まれ。作家。主な著書に「僕とツンデレとハイデガー」「オッサンフォー」(講談社)、「メジャーを生み出す マーケティングを超えるクリエーター」(KADOKAWA)、編著に「ガンダムUC証言集」(KADOKAWA)などがある。日本漫画家協会員。Twitter @h_taj。


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  • 自分にとっちゃ、小沢高広先生こそ極端なこと言う人だけどね。
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