「球数制限」は高校だけでなく、小学生まで含めた「年齢計画」で考えよう

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2019年06月14日 17:45  ベースボールキング

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ベースボールキング

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立花龍司氏は、近鉄バファローズのコンディショニングコーチを皮切りに、NPB,MLBでコンディショニングディレクター、コーチとして活躍。野茂英雄など多くの一線級の投手に高い信頼を得ている。また筑波大学大学院でトレーニング、コーチングを研究し修士号も得ている。そんな投手のメカニズムの専門家に、「球数制限」について聞いた。



■「骨端線」が閉じないうちに無理をする危険性
私は小学校から野球を始め、浪商高校野球部に進みましたが、ここで過酷な練習、特に投げ込みによって肩、ひじを壊しました。野球一筋でやってきただけに、一時は将来を絶望しました。
そんな経験があるので「球数制限」の導入には賛成です。最近、ポニーリーグが「球数制限」を導入したのも素晴らしいことだと思います。

しかし子供の場合は、1年ではなく、7歳から17歳までを考えた「年齢計画」を立てるべきだと思います。それをせずに高校で「球数制限」をしても中学で無制限に投げていたら、意味がありません。
なぜ17歳かと言うと、この年代は人間の成長を考える上で、重要な時期だからです。
子供の骨は大人の骨を小さくしたものではありません。骨の端に「骨端線」と言う溝があって、そこから柔らかい骨が出て骨化するのが、骨が成長する過程です。
骨端線が開いている状態では、先端に柔らかい骨が出て、そこに筋肉やじん体がついています。その状態のときに、大人と同じように投げさせると、故障のリスクが極めて高くなります。
骨端線が閉じるのは、個人差がありますが17〜8歳です。そこまで年齢計画を立てて「球数制限」をしなければならないのです。

■キューバの低学年では1イニングごとに投手が交代
私は1995年にキューバに野球の勉強に行きました。現地の低学年から年齢ごとのナショナルチームを見て回りました。
小学校低学年では、1イニングごとに投手が交代します。
そして投手はワンバウンドになるようにふわっと投げます。思い切り腕を振らせません。ノーバウンドで投げさせると腕を振ってしまうので、あえてワンバウンドで投げさせているのです。
捕手は本塁から少し離れた位置で、ワンバウンドで捕球します。
ストライクゾーンもものすごく広い。手の届くゾーンは全部ストライクです。打者はそのエリアなら手を出します。
この時期の投手に求められるのは、「大体この辺に投げることができたらOK」ということです。
高学年になると少しずつストライクゾーンが狭くなって、キャッチャーも座ります。それでも投手は2イニングくらいで代わっていたと思います。
17歳、18歳で大きく伸びるためには、小学校の段階はこういう野球でもいいなと思いました。


■フォームの問題、腕の可動域の問題、筋肉の問題
アメリカ、サンディエゴにあるスクリプス研究所は、ノーベル賞受賞者を何人も出した有名な研究施設ですが、近鉄時代、ここで野茂英雄投手など、近鉄の投手のフォーム動作解析をしてもらったことがあります。
メカニカル効率を測定しましたが、効率よく投げている投手はある程度の球数を投げても大丈夫ですが、一か所に負担がかかっている選手は故障の可能性が大きいです。フォームの問題も大切です。
さらに、骨端線以外にも、腕の可動域の問題や、筋肉の問題もあります。
「球数制限」について議論をする場ができたことは素晴らしいですが、先ほども言った通り「年齢計画」を決めて、中学、小学校も一緒になって考えるべきでしょう。

■日本のプロは投げさせすぎ、アメリカは投げなさすぎ
プロ野球のレベルで言えば、日本のプロは投げさせすぎ、アメリカは明らかに投げなさすぎです。
テキサス・レンジャーズの社長に大投手だったノーラン・ライアンが就任してから「もう少し投げさせてもいいんじゃないか」という方針になりました。
それまで100球前で降板していた投手をもう1イニングだけ多く投げさせたら、明らかに成績が良くなったんです。ただし、レンジャーズはいきなりそれを実施したわけではありません。
シーズン終了後に投手を集めて、キャンプを張りました。普通メジャーでは秋季キャンプはありませんが、特別に実施しました。まず腕の可動域を広げ、体の柔軟性をつける「フレキシビリティキャンプ」をやりました。その次に筋力を強化する「ストレングスキャンプ」を行った。球数を増やすチャレンジするために準備をしたのです。
やり方を変えるためには、何事によらず、そうした計画的な準備が必要です。そうでなければ、チャレンジはできませんし、期待した結果も得られません。

■イニング制限もあっていい
データがない段階では、イニング制限をするのも有効でしょう。小学校は4イニング、中学校は6イニング、高校は7イニング。プロ野球は国内のリーグ戦は9イニング、国際大会は7イニングでもいいんじゃないでしょうか。
とにかく、指導者たちがしっかり準備をして、高校だけでなく、中学、小学校も巻き込んだ長いスパンで改革をしていくべきでしょう。

立花龍司氏 Noteブログ https://note.mu/tachiryu89
(取材・写真:広尾晃)
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