香取慎吾の創作意欲はまだまだ止まらない 3カ月に及ぶ『NIPPON初個展』終了に寄せて

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2019年06月17日 08:51  リアルサウンド

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『サントリー オールフリーpresents BOUM!BOUM!BOUM!(ブン!ブン!ブン!)香取慎吾NIPPON初個展』

「完成!」


 香取慎吾は作品が出来上がると、いつも笑顔でそう叫ぶ。昔から絵を描くことが好きだった香取。その作風はまさに「自由」そのもの。無造作に手にとった、アクリル絵の具をそのままチューブから直接キャンバスに乗せていく。かと思えば、雑誌の切り抜きと同じ感覚で内視鏡の画像をコラージュしたり、なかには何年もためておいた髪の毛を使った作品も。キャンバスの存在を知らずに、ダンボールに描いていた時期もあった。スタッフのカンペ用の紙をもらって描いたこともあったという。


(関連:香取慎吾、『NIPPON初個展』来場者10万人突破に感謝「多くの人に観てもらわないと完成しない」


 歌って踊ってしゃべって演じて……小学生のころから国民的アイドルとして走り続けてきた香取にとって、絵を描くということは、汗をかくこと、ベソをかくことと同じくらい、欠かせない新陳代謝のひとつだったのではないだろうか。「完成!」とはすなわち、リフレッシュ完了の合図。そして、また新しいインプット開始への掛け声だ。


 6月16日、IHIステージアラウンド東京にて開催されていた『サントリー オールフリー presents BOUM ! BOUM ! BOUM ! 香取慎吾NIPPON初個展』が、ついに幕を閉じた。第1期(3月15日〜4月15日)、第2期(4月17日〜5月20日)、第3期(5月22日〜6月16日)と、3つの期間に分けて少しずつ展示作品を変えて進化を遂げてきた。第3期では、アプリを起動し、スマホをかざして香取の作品を見ると、絵が動き出すAR企画「ブンブンAR」も導入された(参照:「絵が動きだす」世界初の展示会?株式会社MAGIC・株式会社ワンオブゼム ARアプリ「pictPOP」をリリース。香取慎吾さんNIPPON初個展「BOUM ! BOUM ! BOUM ! 」にて採用!)。


 筆者も各期間1回ずつ計3回、会場に足を運び、香取らしい新感覚な個展を存分に楽しませてもらった。第2期の終盤に行ったときには、サプライズで会場に訪れた香取とも遭遇。「今、ついたばかりでマイクもないんですけど!」と息を切らしながら、客席に向かって大きな声で挨拶する姿が忘れられない。香取自身から放たれる、楽しくて仕方ないというエネルギーがまぶしいくらいだった。


 香取が何度も会場に訪れていたのは、NAKAMAへの感謝を伝えるためでもあり、そして個展開催中に少しずつ描き足されていくライブペインティングのためでもあった。いつものようにチューブのままアクリル絵の具を壁にはられた大きなキャンバスに塗り、手で伸ばしていく。ときにはそれを上下逆にしてみるなんてこともあった。


 第3期になれば描くスペースが僅かになっていく。何度も塗り重ねて、重厚感が増していく作品。さらに、壁に空間がないのなら、と床に絵の具をたらし、裸足でステップを踏んで広げてみせる。ときには、NAKAMAのリクエストを聞き入れることもあった。また新元号への切り替わりという歴史的瞬間や、来場者数10万人突破という嬉しい出来事も次々と絵に追加されていったのだ。


 そうして、今この瞬間を繋いで描かれた作品は、6月14日に「完成!」となった。名付けられたタイトルは『SK naht』。S=Shingo、K=Katori、naht=縫い目。“香取慎吾が紡いできたもの”であり、逆から読むと“Thanks”となる粋な計らい。彼は常々自分の作品について「一人でも多くの人に見てもらうことで、本当の意味で絵が完成するような気がしています」と話していた。表現=見る人を楽しませること、彼以上にそれを意識して生きてきた人がいるだろうか。


 「余計なことを考えなくていい」。横尾忠則と『芸術新潮』(2018年3月号)で対談した香取は、この言葉がとても嬉しかったと、個展に合わせて販売された作品集のインタビューで語っている。アートとは人によって捉え方が様々だ。学問として追求している人もいれば、ビジネスとして展開している人も。そんな中で、「今、アートは純粋に楽しい。もがき苦しむ時間も含めて、楽しくて楽しくて、生きてる! と実感できる時間です」と話す香取にとって、香取のアートは企業や団体からの依頼もあるが、その原動力の根本にあるのは「ただ描きたい」という本能に近いもの。湧き上がる情熱のままに、生きることそのものだ。彼の創作意欲はまだまだ止まらない。


 「ビルボードにも描いてみたいという漠然とした夢も昔からあります。街を歩いていると見かけるでっかい広告板です。しかも、広告として依頼されてつくったものが貼られるとかではなく、自分でお金を払って建物の上とかにあるビルボードを借りたい。そしてそれを誰にも言わず、時間があるときに、直接そこに絵を描いていく。見た人は「あれ何?」と思うけど、別に種明かしするわけでもなく……。ひょっとして、そういう受け取られ方も含めたすべてが、コンセプチュアルアートになったりするのかもしれません」


 枠にとらわれず、自由に描く香取が、いつか挑戦したいという夢。パリ・ルーブルでの個展、そして今回の国内初個展……次々と夢を叶えてきた香取なら、きっと本人も驚くようなスピードで、それも実現していくのではないだろうか。


 第3期の終わりに訪れた会場では、『SK naht』の横で流れ続けるメイキング映像から、香取の大きな叫び声が聞こえてきた。「まだ完成じゃな〜い!!」それは『SK naht』の「完成」宣言が出る1日前の映像だった。もちろん、この作品について「もうちょっと」と言っている場面なのだが、香取にとって“表現していくこと“、そして“誰かを喜ばせたいと願いながら生きていくこと“そのものに、「まだまだ満足していない」と言っているようにも聞こえてきた。


 楽しい楽しい3カ月間の初個展は幕を閉じる。だが、この個展の経験は、彼の中でまた次の作品に繋がっていく。幸い、彼のブログ『空想ファンテジー』では、ほぼ毎日イラストとストーリーが紡がれている。きっと、またSNSにアップした香取の絵に、NAKAMAがぬり絵をする企画が行われるだろう。そうして、またいつか香取のライブペインティングを楽しめるような個展が開催されることを期待しながら、私たちも彼に負けないくらい「完成!」と叫びたくなるような人生を歩んでいこうではないか。(文=佐藤結衣)


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