大幅改良のマツダ「CX-3」、試乗で探る不振の理由と反撃の可能性

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2019年06月18日 18:22  マイナビニュース

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●流行のコンパクトSUVにしては売れていない理由
コンパクトSUVは日本でも流行していて、2017年はトヨタ自動車「C-HR」が大いに売れた年となったが、その割にマツダ「CX-3」は大ヒット商品になっていない。その理由をマツダはどう分析し、今後の反転攻勢を狙うのか。大幅改良を受けたCX-3の試乗会で探った。

○相手が悪かった側面もあるが……

コンパクトクロスオーバー車のマツダ「CX-3」は、3年前の2015年2月に発売となった。クロスオーバー車とは複数の車種の利点をあわせもったクルマを指すのだが、CX-3は小柄なSUVと見え、その寸法は日本の道路事情に最適なようだ。

しかしながら、2017年の国内販売台数は約1万5,000台で、月平均1,250台の水準にとどまっている。これに対し、欧州市場では同年に約5万7,000台が売れており、国内市場での不振が目立つ。その理由をマツダは、競合のホンダ「ヴェゼル」やトヨタ「C-HR」に圧倒されていると分析する。

ヴェゼルは2013年12月の発売でCX-3より先だが、C-HRは2016年12月の発売であり、ヴェゼル人気を見ての登場である。したがって、CX-3が市場導入で特に出遅れたわけではない。競合2車と異なる点があるとすれば、CX-3が当初、ディーゼルエンジン車のみで発売されたことだろう。それが販売に影響したのではないかと考えられる。

マツダは新世代商品群の第1弾である「CX-5」を発売した際、「SKYACTIVエンジン」としてガソリンとディーゼルの双方を刷新した。そのディーゼルエンジンはマツダの想像を超える人気となり、東京都が1999年に施行した「ディーゼル車NO作戦」以降のディーゼル乗用車の不振を払拭する勢いを得た。そしてCX-3では、ガソリンエンジン車を用意しない策をとったのだ。

○ディーゼルのみで発売した戦略の是非

乗用車用ディーゼルエンジンとしての「SKYACTIV-D」は、排ガス対策も十分に行われ、ディーゼル本来の力強さをいかした走行性能が人気を集めた。とはいえ、その良し悪しではなく、ディーゼルエンジンそのものに対する好き嫌いは消費者にあったはずだ。

CX-3が登場した当時にも試乗したが、そのディーゼルエンジンは「ナチュラル・サウンド・スムーザー」の搭載により振動・騒音が低減されていて、CX-5と比べても洗練されているとの印象を受けた。しかし、CX-3が特長としたお洒落なデザインのクロスオーバー車という魅力に対しては、ガソリンエンジンが合うのではないかと思ったことも覚えている。

欧州市場では、CX-3の販売に占めるガソリンエンジン車の比率が6割に達するとのこと。これにはフォルクスワーゲンのディーゼル排ガス問題も影響しているだろうが、このクルマに適したパワートレインが選ばれているとの見方もできそうだ。

今回は、マツダが2017年に満を持してCX-3に追加したガソリンエンジン車に試乗し、大幅改良の成果と共にその感触を体感してきた。

●遅れてきた主役? ガソリンエンジン車の魅力
○上級車種の雰囲気をまとった新しい「CX-3」

今回はモデルチェンジではないにもかかわらず、デザインの美しいCX-3のため、説明・試乗会を普段の横浜研究所ではなく、みなとみらい地区の結婚式場で開催する力の入れようだった。

一括企画という独創の開発手法によりマツダは、新たに開発して市場導入した機能や装備を、フルモデルチェンジを待たずに、できるだけ早く全ての車種へ展開することを新世代商品群から始めている。そして、各車種で改良車種の導入を行っているが、CX-3は特に改良回数が多く、さらに今回の大幅改良となった。CX-3の開発を担当する冨山道雄主査は「競争力向上のため、愚直に改良していくのみ」とする。

改良の主な内容だが、まずは操縦安定性と乗り心地が改善している。また、ガソリンエンジンでは燃費を向上させ、ディーゼルエンジンでは排気量を増やすことにより今後の規制対応を行った。ガソリンとディーゼルは共に、アクセル操作への応答性を高めた。

デザイン面ではフロントグリルなどを改め、室内もより上質にして、全体的な車格感を上げた。もともとのデザインの良さにさらに磨きがかかった印象で、より上級な車種の雰囲気をまとっている。こぢんまりとした車体寸法ではあるが、CX-5に比べお洒落で、それでいて存在感がある外観になったと感じた。

室内も、スウェード調のダッシュボードのパッドの見栄えや手触り、駐車ブレーキをレバー式から電気式に変更したことによる上級車種感覚など、誕生から3年を経ても古さを感じさせないところが魅力だ。

○ガソリンエンジン追加で取捨選択が可能に

試乗ではガソリン車とディーゼル車の双方を運転できたが、少なくとも、市街地を中心に日常的に使うのであれば、ガソリン車の方が圧倒的に乗り心地と静粛性に優れ、CX-3に合った雰囲気を生み出していた。ディーゼル車も改良されているが、乗り比べればガソリン車が大きく上回る。

もちろんディーゼル車も、例えば長距離移動の多い使い方であれば、低いエンジン回転数から大きな力を発揮するディーゼルターボの特性によって、アクセルペダルをあまり深く踏み込まなくても高速巡行ができて、楽な移動が可能になる利点がある。

「CX-3」ではガソリン車の登場により、利用の仕方に応じた取捨選択が可能になったといえる。ガソリン車の登場に続く今回の大幅改良もあって、CX-3の魅力は決して衰えていないことを実感することができた。

●新しい燃費基準に統一するマツダの考え
○HV車との燃費競争は難しいが……

今回の改良でマツダが改めて表明したのは、カタログ上の燃費性能の表示について、日本国内専用の「JC08モード」表記を止め、全て国際的な「WLTC」で表すとし、それをこの先、全ての車種に適用するという方針だ。

日本におけるWLTCの全面的な導入は2018年秋の予定で、現在はJC08モードとの併記が可能となっている。しかしマツダは、一足先にWLTCに統一すると決断したのだ。それによって、実用燃費により近い表示になるという。

マツダがWLTCを導入することについては以前、CX-3のガソリン車追加の折、マイナビニュースの記事で紹介した。今回、あえてマツダがWLTCのみに統一するとした背景には、燃費に対するマツダの真摯な姿勢が表れている。

マツダがWLTCに統一する別の理由を想像することもできる。同社のラインアップを見ると、「アクセラ」の一部車種以外にはハイブリッド車(HV)などリッター30km以上を達成できる超燃費車がないし、今後の電動車導入計画も、国内にはいつ、どのような形でという明確な表明がない。そうした状況であるゆえに、JC08モードという他社と同じ土俵の上で、HVと燃費で競うのを避けたのではないだろうか。ただ、いずれ秋になれば、どのメーカーもWLTCを使ってくるのだが。

カタログ表記と実用燃費との乖離という問題はともかくも、HVは容易にリッター20kmほどの実用燃費を出すことができる。これに対し、SKYACTIVのガソリンエンジンは、WLTCでもその性能には追いつかない。一方のディーゼルは、カタログ数値上でHVに肩を並べ、また燃料代においても、レギュラーガソリンに比べ軽油は1リッターあたり20円ほど安く経済的だ。

とはいえ、今回の試乗でも感じたことだが、市街地などで日々利用するのであれば、ガソリン車の方が圧倒的に快適だ。

このところのマツダは、CX-5、CX-3、「アテンザ」と大幅な商品改良を相次いで実施している。その商品戦略について猿渡健一郎商品本部長は、「昨年『サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030』を発表し、人に寄り添うクルマ開発をしているが、次世代車を一気に切り替えるのは難しく、次世代商品の考え方や技術を現行商品に前倒しで入れていきながら併売していくことになる」と話していた。

いずれにしても、今後実用化が予定されている「SKYACTIV-X」という新燃焼方式のガソリンエンジンと併行して、電動車の早い導入を消費者は待っているはずだ。また、静粛で快適な乗り心地と安心できる操縦安定性というマツダ車の魅力に、電動車はより適合するのではないかと思う。(御堀直嗣)
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