高級車の概念を変える? メルセデス・ベンツ新型「Aクラス」に試乗

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2019年06月18日 18:51  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
●そもそも「Aクラス」とはどんなクルマなのか
メルセデスブランドのエントリーモデルである「Aクラス」がフルモデルチェンジした。すでにジュネーブショーで発表されているが、改良したボディと「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)というユーザーインターフェースが新技術として注目されている。先頃、アドリア海に面したのどかなクロアチアのリゾート地で国際試乗会に参加したので、新型Aクラスのインプレッションをレポートする。

○高級車メーカーがコンパクトカーに踏み込んだ理由

そもそも、「Aクラス」とはどんなクルマなのだろうか。高級車メーカーとして知られるメルセデス・ベンツがコンパクトカーの路線に踏み込んだのは1997年頃のこと。ほぼ同じ時期に全長3.6mのAクラスと全長2.6mの「スマート」(2人乗り)を発表した。

初代Aクラスは1993年のフランクフルトモーターショーに出展された「Vision 93 A」の量産モデルだ。メルセデスが「カローラ」クラスのクルマを作るということで日本メーカーも驚いたが、もっとも驚異を感じたのは同じドイツのフォルクスワーゲン(VW)だった。高級車メーカーがコンパクトカーを開発する背景には、どんな考えがあったのだろうか。

メルセデスは1980年代に“小ベンツ”と呼ばれた「190E」をリリースした。オイルショックや環境問題などを考えると、大きな高級車だけを作り続けることに限界を感じていたのかもしれない。

米国や英国における自動車の歴史を見ると分かるように、大きな高級車メーカーには恐竜のように絶滅のリスクがつきまとう。環境と安全問題、エネルギーと資源問題などを考え合わせると、大きなクルマだけを作っていては、未来も事業を続けていけるとは限らないのだ。その意味で、高級ブランドのメルセデスではあるが、プレミアムなコンパクトカーを開発することには、30年くらい前からの強い信念があった。

●これは立派なメルセデスだ
○更に大きくなった5ドアハッチバック

1997年に誕生したAクラスは、エンジンを水平15度に寝かせるという発想で、衝突時にエンジンがサンドイッチ構造の床下に落ちることで、そのエネルギー吸収を高めていた。ちなみに、全長2.6mのスマートはエンジンをリヤに搭載していた。Aクラスと同じ考えだったのだ。

今回でAクラスは4代目となるが、3代目からはモノコックボディとなり、全長4mを超えるCセグメントに移行した。メルセデスのラインアップ的には、Bセグメントは「スマート フォーフォー」(4人乗り)、Aセグメントは「スマート フォーツー」(2人乗り)となる。

4代目の新型Aクラスは、先代Aクラスよりも全長が120mm伸びて4,419mmとなっている。幅は+16mm、ホイールベースは+30mmということで、更に立派に見えるようになった5ドアハッチバックだが、来年にはセダンタイプも登場する。先代のプラットフォームを大幅に改良しているが、主な変更点は車体剛性の強化と音振動対策だ。さらに、空力特性も見直して、空気抵抗係数(Cd値)ではクラストップの0.25を実現。速度の高いアウトバーンでは燃費改善に大きく利きそうだ。

○「高級車といえばFR」は通用しなくなる

エンジンはルノー・日産製の1.4リッターを大幅改良したものとメルセデスオリジナルの2リッターターボを用意。欧州では1.5リッターのディーゼルが搭載されるが、近い将来にプラグインハイブリッド車(PHEV)が登場することは間違いないだろう。

ギアボックスは7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)を使うが、実際に乗ってみると発進時のスムースネスが進化している。2リッターターボの「A250」は、350Nm前後のトルクを発生するかなりの俊足ぶり。1.4リッターターボの「A200」も250Nmのトルクを発揮するので、これでも十分なパフォーマンスだ。

驚いたのはエンジンではなく、Cセグメントとしての完成度の高さと高級感だ。FF(前方にエンジンを積み、前輪で駆動)とは思えないほど、NVH(自動車の乗り心地を測る基準、「N」はノイズ、「V」は振動、「H」はハーシュネス=荒れた路面を走行する際の揺れや音)性能が高かった。

FFはフロントタイヤで駆動するので、サスペンションのブッシュ(サスペンションの連結部に装着する部品、基本はゴム製)などを固くする必要があるし、エンジンの振動もハンドルに伝わりやすい一方で、全長を大きくせずキャビンを広く使えるので、ファミリカー(大衆車)として発展した。それに対し、FR(前方にエンジンを積み、後輪で駆動)は高級車というのが従来の図式だった。だが、メルセデスが20年もかけて開発してきた新型Aクラスは静かでしなやかで、FRかFFか分からないほど、質感の高い走りが実現している。

リヤサスペンションは「A250」がマルチリンクを使うが、17インチタイヤの「A200」にはトーションビームを採用する。その狙いは、すでに述べているようにPHEV対応だ。バッテリーのスペースを確保するのが、その最大の理由。マルチリンクは4MATIC(AWD、四輪駆動)にも対応可能なので、更に高性能な「A45 AMG」の展開も視野に入っているだろう。

ということで、新型AクラスはFFの常識を打ち破るほど静かで乗り心地がよかった。エンジンに関しては可もなく不可もなく、という感じだが、気になるのはPHEVの出来栄え。きっと「EQパワー+」(EQ Power +)の名前で登場するはずだ。

●「ヘイ、メルセデス」で起動、MBUXの使い勝手
インテリアは高級車「Sクラス」を思わせるほど先進的で、メーターは横長の大型液晶パネルに映し出される。今回、メルセデスがこだわったのは「MBUX」(メルセデス・ベンツ ユーザーエクスペリエンス)というユーザーインターフェースだ。デジタル技術を駆使した操作系だけでなく、AIを使った音声認識も実用化している。

「AI」はバズワード化し、言葉の意味があいまいになっている側面もあるが、メルセデスの場合はドライビング中に必要な用途に特化している。音声認識は全世界の23カ国語に対応。もちろん日本語で話しかけても大丈夫だ。試乗では実際にMBUXを使ってみた。
○AI搭載のMUBX、協力サプライヤーも多彩

「ヘイ、メルセデス」と語りかけることからMBUXは始まる。従来の認識とは異なり、AIが搭載されているので使い方はロボットのよう。例えば「明日どこどこに行くけど傘は必要?」と聞けば、天気予報を調べて「傘は要りませんよ」と答えてくれる。あるいは渋滞に巻き込まれたとき、「会議に送れるのでボスにメールして」と指示すると、MBUXはメールを作成し、送信してくれる。まるで夢のようなことが可能となる。

MBUXは交通や運転環境に特化したデータベースを持つので日常的な会話はできないが、ドライバーのアシスタントとしては良きパートナーになりそうだと思った。そんな素敵なシステムが、メルセデスのエントリーモデルから実用化されたわけだ。

MBUXが使う音声認識技術は米国のニュアンス(Nuance)という企業が提供している。カーナビはドイツのヒア(HERE)、天気(米国)のソースは「Foreca」「Autonavi」を使うが、データベースはIBMを使用している。 インフォテイメントのOSはリナックス(Linux)、車載用コンピュータはエヌビディア(NVIDIA)と多彩なサプライヤーが協力している。

このように、車内での体験にも新味のあるメルセデス・ベンツの新型Aクラス。日本上陸は秋以降になりそうだが、高級車はFRという固定概念は捨てたほうがよいかもしれない。(清水和夫)
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