スポーツカー電動化時代が到来、ポルシェは“らしさ”を貫けるか

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2019年06月18日 19:31  マイナビニュース

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●“電動ポルシェ”登場を前に日本法人社長に聞く
クルマの電動化はスポーツカーの世界にも及ぼうとしているが、ポルシェも例外ではない。それどころか、同社は巨額の投資を行い、電化を急いでいる側面もある。そこで気になるのは、“電動ポルシェ”がポルシェらしいのかどうかだ。その辺りを含め、ポルシェの電動化についてポルシェ ジャパンの七五三木(しめぎ)敏幸社長に話を聞いた。

○スポーツカーに電化の波、ポルシェ「ミッションE」の衝撃

スポーツカーの世界では、すでにハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)で市販されている車種もある。例えばポルシェは、2010年にSUVの「カイエン S ハイブリッド」を、また同様のシステムで2011年には「パナメーラ S ハイブリッド」を発売している。BMWは電動車の新しいブランドである「i」を立ち上げ、2013年にPHVスポーツカーの「i8」を発売した。

イタリアのフェラーリは、「ラ フェラーリ」(LaFerrari)というHVを世界限定499台で2013年に発売。このクルマには、F1のレースカーで当時採用していたエネルギー回生システムを応用した機構を用いているといわれる。

中でも、スポーツカーメーカーであるポルシェが、クーペボディの4ドア電気自動車(EV)「ミッションE」(Mission E)を2015年に発表し、2019年にも発売を開始する予定であると宣言したのは、かなり衝撃的な出来事だったといえるだろう。

○電動ポルシェに乗ってみた感想は?

その試作車に同乗したという、ポルシェ ジャパンの七五三木社長は、「まぎれもなくポルシェだった」(以下、発言は七五三木社長)と感動的に語る。では、「まぎれもないポルシェ」とは、どういう意味なのだろうか。

「コンピュータで操縦特性を変えられたり、エンジン車以上に駆動輪の制御が緻密な感じがしたりしましたが、ポルシェの開発者たちは、(電動化は)自動運転のようにクルマが走りを制御するのではなく、あくまで運転者を助けるための技術だと言います。運転者はハンドルから手を離すことなく、走る、曲がる、止まるの動きを、EVでもエンジン車と同じように感じられなければならないと考え、開発しているようです。制御装置の凄さではなく、人馬一体感が根幹となるスポーツカーでなければならないとの定義が、ポルシェAG(ドイツ本社)の中にはあります」

「EV化をしても、これまでと全く変わらないのが理想でしょう。ミッションEが目指すのは、加減速を何度繰り返しても、バッテリーの充電残量が減ることによる性能低下を覚えさせないこととのリリースも発表しています」

2017年7月、フランス政府と英国政府は相次いで、2040年にはエンジン車の販売を禁止するとの声明を出した。それ以降、自動車業界は電動化へと大きく舵を切り始めた。だが、ポルシェも同じように慌てて電動化へ移行したのではなく、あくまで電動化してもポルシェはポルシェという、スポーツカーの乗り味を実現できるから取り組むのだと、七五三木社長は力強く答えた。

●60億ユーロ超を電動化に投じる計画、日本市場への影響は?
○ポルシェの始まりは電気自動車だった

そもそも、ポルシェの創業者であるフェルディナント・ポルシェ博士が最初に作ったクルマは、EVの「ローナーポルシェ」だった。19世紀末のエンジンは未熟で、電動のモーターの方が動力として有望であった。

ポルシェの電動化を支えるのが、ポルシェAGが発表した60億ユーロ(約8,000億円)を超える「E-モビリティ」(電動化車両などのこと)への投資だ。七五三木社長は次のように語る。

「主力工場のあるツッフェンハウゼンでは、それまで駐車場に使っていた土地にミッションEを作る工場を建てました。また、ドイツの雑誌には、2023〜2024年の間に、50%を超える電動車比率にするとルッツ・メシュケCFOが語った記事が掲載されました」

「2015年のミッションEの公表に始まり、2017年には具体的な電動化車両の数値をCFOが語り、そのため60億ユーロを超える大きな投資を行うという、電動化へ向けた3つの大事な発表をポルシェAGは行っています」

あわせてポルシェAGは、同じフォルクスワーゲン(VW)グループのアウディと、EVのプレミアム・プラットフォーム・エレクトリック(PPE)の開発を共同で行うと発表している。これにより、開発速度を早めることができ、各社の投資額も抑制することが可能だとする内容だ。ただし、この点について七五三木社長は、現在コメントできる内容はないとした。
○日本でも増え始めた「パナメーラ」のPHV

では、ポルシェの電動化の動きは、日本市場にどのような影響や、状況を生み出すのだろうか。

カイエンやパナメーラではPHVの販売が日本でも開始されているが、パナメーラの例でいえば、「2015年に販売の15%であったPHV比率が、新型パナメーラでは25%に増えています。そのような市場の変化の中で私が驚いたのは、『ポルシェカップ』というポルシェのワンメイクレースに出場していた方が、パナメーラのPHVをお求めになり、大変満足していらっしゃることです」と七五三木社長は語る。

ちなみにフランス市場では、2016年にパナメーラのPHV比率が10%ほどであり、ディーゼルエンジン比率がガソリンよりも高かった状況であったのが、翌2017年にはPHV比率が一気に65%まで高まったという。逆に、ディーゼルエンジン比率が激減し、エンジン車ではガソリンが上回る結果になっているとのことだ。

フランスは、全般的にディーゼル車の比率がもともと高かった。だが、昨年のフランス政府の発表より前の2014年に、パリのアンヌ・イダルゴ市長が、パリ市内へのディーゼル車乗り入れ禁止を打ち出した影響もあるだろう。

●日本での電化促進は充電インフラが課題か
○日本の充電インフラ整備にも目を向けるポルシェ

ミッションEの日本導入は、東京オリンピックの2020年前後あたりか、しばらく先となるようだ。導入までには電動車の受け入れ態勢を整えたいと七五三木社長は語る。

「テスラの例を耳にしたのですが、お客様の4割ほどは自宅に充電設備を持っていないとのことです。したがって、充電インフラの整備が重要であると思っています。ただし、それを1社でやるのは大変ですから、フォルクスワーゲングループとして充実させていければと考えています」

具体的には、ディーラーやサービス拠点に充電器の設置を進めるという。

○充電設備の設置に日本独特の課題も

日本は、高級車や高性能スポーツカーを所有する富裕層も、マンションなど集合住宅に住む例が都市部では多く、一方で、既存の集合住宅の駐車場への充電設備の設置は、管理組合の合意を得なければ難しい状況にある。また、充電設備を利用した人に対する料金の徴収に認証機能などが必要となるため、急速ではない200Vの普通充電においても、高額の充電器を設置する必要がある。

戸建て住宅であれば、数千円の200Vコンセントに加え、配電盤からの配線工事であれば数万円から10万円程度で充電設備を設置できる。ところが、集合住宅では設置する上で課題があり、EV所有者が自宅に充電設備を設置できない比率が高い。

この状況を打破するため東京都は、集合住宅への充電器設置の費用と、管理組合などでの合意形成の支援を都として行うと、2018年の初めに表明した。

●「ミッションE」導入でポルシェファンを安心させられるか
○「まぎれもないポルシェ」の乗り味を提供できるか

ポルシェの電動車導入の件でもう1つ、七五三木社長は「できるだけ早くEVを導入し、お客様に体験していただくことも大切だと考えています」と話す。

日本ではなお、EVは走行距離が心配だとか、走りがよくないのではないかといった先入観を持つ人が多い。なおかつ、多くの人がモーターの走りを経験していないため、電動化したポルシェが、どのようなポルシェらしさを発揮しうるのか、想像できないというのが正直なところだろう。

ちなみに、600馬力のモーター出力を持つミッションEは、静止状態から時速100キロまでの加速をわずか3.5秒でやってのけると公表されているが、実はテスラの4ドアセダンである「モデルS」は同2.7秒だ。単に数値を比較するだけなら、スポーツカーより4ドアセダンの方が速いということがEVでは起こりうる。

記事の冒頭で七五三木社長が「まぎれもなくポルシェだった」と感想を述べたような乗り味を実体験することは、EVにとって何より重要であり、また何よりポルシェファンも安心するに違いない。

PHVの導入においても、環境性能を無視するわけではないものの、ポルシェはあくまで、パフォーマンスに重点を置いている。新型パナメーラのPHVは、最上級車種として位置づけられているくらいだ。つまりポルシェは、電気の力をクルマの走りに活用している。まずはポルシェの最新PHVが、どのようなポルシェらしさを携えているのかが気になるところだが、いずれ報告できる機会があるかもしれない。(御堀直嗣)

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