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「毎日岩を押し続ける」――セキュリティの一線で活躍するエンジニアが示す道筋(キンダーバーグ氏インタビュー後編)

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2019年06月19日 07:02  @IT

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写真John Kindervag(ジョン・キンダーバーグ)氏
John Kindervag(ジョン・キンダーバーグ)氏

 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「GoGlobal!」シリーズ。前回に引き続き「ゼロトラスト」コンセプトの発案者であるJohn Kindervag(ジョン・キンダーバーグ)氏にお話を伺う。ジョン氏がこれからのエンジニアに期待することとは――。



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●ITエンジニアはITしか見ていないことがある



キンダーバーグ氏 現在ITは、ビジネスを左右する要素と言ってよいでしょう。ですから「ITの連中は分からず屋だ」などと言っている場合ではないのです(笑)。とはいえ、実際私たちITエンジニアも足りない部分があります。多くの場合、ビジネスの相談に対してITエンジニアは「それはできない」とすぐに答えてしまいます。ITはNoと同義語だと思われています(笑)。



 例えば、水道屋さんがあなたの家を設計するとします。水道屋さんから見れば、風呂場は温水器の隣がいいのでそのように設計します。出来上がったのは「玄関を開けたらすぐ風呂場」という家です。これはITエンジニアがやっていることと同じです。私たちは単に水道管を走らせてはいけないのです。



阿部川 ITエンジニアはそういったエンドユーザーの観点、ビジネスへの影響も考える必要があるということですね。



●従来型サイバーセキュリティからの脱却が必要



阿部川 そんな中、東京では2020年にオリンピックパラリンピックが開催され、それに向けてエンジニアが20万人足りないという試算もあります。それほど多くのエンジニア不足にどのように対応すればいいのでしょうか。



キンダーバーグ氏 オリンピック開催時までということであれば難しいと思います。米国でもエンジニア不足は深刻で、数百万人という単位でエンジニアが不足していますが、解消するためには他の国々から応援に来てもらわないといけません。ですから世界中のエンジニアの助けを借りるしかないでしょう。



 このような大きなイベントに共通する悩みは「従来型のサイバーセキュリティのモデルは、これからも通用するのか」ということです。私はこのままではダメだと思います。従来型のモデルでは、何かが起こったときに復旧させるプログラムや法律、規制が不足しています。



 法律や規制を作っている人の多くは、いわゆる旧世代の人たちで、コンピュータやITといった分野の知識をあまり持ち合わせていません。ですが今後、そのような年代の人が引退して、新しい世代の人々が社会を担うようになれば、デジタルネイティブ(生まれたときからコンピュータが身近にあった世代)が主役です。彼らは私たちとは全く違うものの見方ができるのです。彼らが法制度や規則を決めるようになれば、より現実に即した制度となっていくでしょう。



阿部川 日本の政府のサイバーセキュリティ担当大臣は、PCを使ったことがなかったというニュースもあります。



キンダーバーグ氏 はい、知っていますが、コメントは控えさせてください(笑)。



●伝統的な教育に依存しないクールなIT業界



阿部川 これからの世代のセキュリティ人材についてどう思われますか。



キンダーバーグ氏 そうですね、多くの優れた日本人エンジニアがいるから、ITを使ったビジネスの変革ができていると思います。ただ、技術の進化やセキュリティの変化に伴って、大学の教育システムも変化しないといけないと思います。よくゼロトラストについて大学で教えてほしいという依頼がありますが、いつも困ります。大学でテキストを用意し、4年ほどかけて教えている間に世界はもっと早い速度で変わっているからです。



 ではどうやってトレーニングしたらいいのでしょうか? それにはテクノロジーやネットワークの基礎知識から始まって多くのことを学ばないといけない。ですから当社も含め、たくさんの大企業が、自身の技術に関して、certification(知識の認定)をしているのです。



 私の息子は、現在Palo Alto Networksの認定試験や、AWS(Amazon Web Services)のトレーニングを受けています。大学のトレーニングやコンピュータサイエンスが不要とはいいませんが、ファイアウォールやクラウドといったことを相手にする毎日のビジネスにはあまり役に立ちません。



 この業界のクールなところは、伝統的な教育に依存せず、独自のトレーニングの組織や、システムや仕組みを作れることです。私は必ずしも大学に行くことを推奨しませんが、次のステップや仕事のための機会を提供してくれることも事実です。IT業界は、経験がものをいう仕事だからです。



阿部川 加えて、現在では、UdacityやGoogleでITを自由に学ぶことができる。



キンダーバーグ氏 その通りです。特に若い人たちは非常に優秀で、そのような機会があれば多くを学ぶことができるでしょう。



●将来のためにわれわれは何をすべきなのか



キンダーバーグ氏 将来のITは、人間の持つ自由というものと監視機能のバランスをどうやってうまく保つか、プライバシーの問題をどうするかが課題になります。そのためにサイバーセキュリティが重要になると考えています。ゼロトラストや、サイバーセキュリティの技術などは、実際のところ、法律や規制にプラスの影響を与えることができ、それによって社会へのより良い貢献ができると思います。しかしそれを実現させるには、今日私たちがやっている方法とは違った方法でのアプローチが必要だと思います。



阿部川 まさに同じようことを私は毎日思って仕事をしています。どうやって、将来のことを考えている若いエンジニアの方々をサポートすればよいか。その意味で私どもメディアの役割はとても重要だと思いますので。



キンダーバーグ氏 私たちは「ITビジネスはとても楽しい」と勧めなければなりません。特にサイバーセキュリティの分野は給料も良いですよ、と(笑)。私の28歳になる息子は、サイバーセキュリティエンジニアですが、当初は医者になろうと思っていました。大学進学を考えていたときに、ここから医者になって活躍できるまであと10年もかかると考えて、そんなことならIT業界に行こうと言い出しました。もっと多くの人たちにITの仕事やエンジニアの仕事がキャリアとして素晴らしいものだと知ってもらう必要があります。



阿部川 若いエンジニアや読者に対して、何かメッセージをいただけないでしょうか。



キンダーバーグ氏 もしそのアイデアを本当に良いと思うのなら、決してその実現を諦めてはいけない。そのアイデアをたとえ自分一人でも、諦めることなく、その「岩」を押し続けなさいと。世の中にはたくさんの保守的な人がいて、そんなものは価値がない、意味がない、などと言ってくるかもしれませんが、長い目でみれば、その人たちこそ、間違った考え方をしているのかも知れません。



阿部川 私たちは、もっと一生懸命仕事をして、あなたのこのメッセージを大きな声で世界に伝え、世界を救わないといけませんね(笑)。



キンダーバーグ氏 おっしゃる通りです。そして私たちは必ずできます。絶対に諦めないことです。先日もある会議で、ある人が、「これは難しいなあ」といったときに、私はこう言いました。「もちろん、簡単ではない。でも私たちが思うほど難しくはないかもしれない」と。岩を動かしましょう!



阿部川 Let's move the stone.



キンダーバーグ氏 それですよ、インタビューの締めにピッタリですね(笑)



●Go's thinking aloud――インタビューを終えて――



 ワイオミング州、ネブラスカ州、そして現在お住いのテキサス州ダラス。これらの地名がこれほど似合う人もそういない。顔いっぱいのヒゲ、大きく厚い体、そしてお決まりのロングブーツ、そして気さくな笑顔。テンガロンハットを被れば、そのまま西部劇に出られる。そんな風貌の人が、最先端のサイバーセキュリティの伝説的エンジニアだ。



 もどかしげに早口で語る内容は、セキュリティについて改めて目を開かせてくれることばかりだ。いわく、「人に対する信頼とシステムに対する信頼は全く別もの」「確認しない限り信頼するな」「たとえ一人でも諦めるな」「毎日岩を押し続けろ」……誇りを持ったエンジニアに久方ぶりで会えた。それだけでもIT業界にいることは喜びだ。そして私たちベテランがやることは、若い人たちが新しい世界を築くことを、全力で後押しし続けること。決して止まるわけにはいかない。


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