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「くさいわね……」電動車いすのおばあちゃん万引き犯、Gメンが眉をひそめた“異臭の正体”

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2019年06月22日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 こんにちは、保安員の澄江です。

 ここのところ、捕捉に至るのは高齢者の方ばかりで、日常の業務において介護的な要素が強まってきました。当然のことながら足腰の悪い人が多く、事務所まで来てもらうだけのことにも、ひと苦労。ようやく事務所に到着したと思えば、会話が成立しないことも多々あって、手の震えが止まらずに自分の名前を書けない人もいれば、住所や生年月日、電話番号などを正確に言えない人まで存在します。最終的には、警察に引き渡すほかない状況に陥りますが、彼らの扱いに困るのは警察も一緒です。

 特に、被疑者に前科があり、「ヤサ(住居)なし、カネなし、ガラウケ(身柄引き受け先)なし」といった逮捕要件が揃ってしまう場合には、目もあてられません。腰の曲がった老人といえども、逮捕するほかない状況になるので、特に嫌がられてしまうのです。そのため、あからさまに被害届を出させないように仕向けてくる警察官も一部の地域で存在しており、犯罪処理における地域格差のようなものを感じることも少なくありません。今回は、少し前に捕まえた電動車いすに乗ったおばあちゃんについて、お話ししていきたいと思います。

 当日の現場は、東京の下町商店街の中に位置する食品スーパーE。どうやら高齢化の著しい地域らしく、お店があるアーケード型商店街のメイン通路は、いつもお年寄りだらけで、杖をついて歩く人や施設の方などに車いすを押されて進む高齢者の姿が目立ちます。

 この店の開店時間は、午前9時。それに合わせて現場に入ると、平日の早い時間にもかかわらず、すぐに多数のお客さんが入ってきました。店内に溢れるお客さんの中には、朝から酒のニオイを漂わせる日雇労働者風の男性や、妙に不審な動きをする高齢者が多数混在しています。勤務開始早々から、万引きしているだろう人を二人見かけましたが、いずれもタイミングが合わずに現認不足となり、声をかけることはできませんでした。

(ここは「いる現場」だから、きっと大丈夫……)

 いままでの経験からすれば、この店で捕捉がない日はありません。少しイラついた気持ちを落ち着かせるべく、見通しの良い中央通路に佇んでいると、この店一番の死角である日用品売場に、黄色の電動車いすに乗ったおばあちゃんが入っていくのが見えました。曲がり際に、不自然なほど後方を気にしていたのが、どうにも気にかかります。最大限の早足で駆け付けて彼女の行動を見守ると、膝の上に載せたカゴの中にある惣菜や果物などの商品を、次々と自分のバッグに移し替えているのが見えました。

 これまでノーマークだったために、棚取りは一つも見ておらず、このまま出られてしまえば、またしても見送る結果を招きます。タイミングが合わない時は、なぜかこういうことが続くものなのです。しかし、彼女の大胆な所業は、これに止まることなく継続されました。精肉や和菓子など、いくつかの商品をカゴに入れると、まるでそうするのが当たり前といった動きで、自分のバッグに隠していったのです。

 それから白菜や長ネギ、モヤシなど、比較的安価でかさばる商品だけ、きちんと精算を済ませた彼女は、お客様係に先導されながら、屋外の駐輪場に直結するエレベーターに乗り込んでいきます。思い切って同じエレベーターに乗り込んだ私は、すぐに行先ボタンを押して扉を閉めました。地上階に到着するまでの間、窃盗の被疑者と二人きりで過ごすエレベーター内の空気が、いつもより重たく感じられたことを覚えています。

「お先にどうぞ」
「ありがとう」

 先に彼女を行かせて、電動車いすが公道に出て走り始めたところで横に並んだ私は、そこであらためて声をかけました。

「おばあちゃん、ちょっと待って。お店の者ですけど、お金払ってないものあるでしょう?」
「ひっつ!? なんだって?」

 少し驚いた様子を見せた彼女は、口の中でずれた入れ歯を直しながら、コンドルのような鋭い目で私を睨んできました。どうやら聞こえなかったようなので、膝の上にある盗品を詰めたバッグを軽く叩きながら、もう一度ゆっくりと、少し大きめの声で言い直します。

「お店の者ですけど、このバッグの中にいれたモノ、お金払ってほしいんですよ」
「あら、そうだったかしら? もう今年で90になるから、忘れちゃうのよ。堪忍ね……」

 惚ける姿勢を見せながらも、用意していたかのようにスラスラと言い訳する彼女の姿からは、こうした場面に慣れているような雰囲気が伝わってきました。見え透いた言い訳を聞くことなく、電動車いすに乗った彼女をエレベーターまで連れ戻すと、さっき乗った時には感じなかった異臭が室内に漂っています。

(くさいわね……。一体、なんのニオイかしら?)

 エレベーターに乗っている間、なるべく息を吸わないようにして過ごした私は、扉が開くと同時に外に出て、廊下に置かれた書類などを除けながら電動車いすを誘導します。応接室内に電動車いすの駐車スペースを確保して、バッグの中に隠したモノをテーブルの上に出してもらうと、ステーキ肉や高級ハム、幕の内弁当、さくらんぼ、もみじまんじゅうなど、計8点、合計9,000円ほどの商品が出てきました。盗んだモノを並べてみれば豪華な感じに見えますが、一度盗まれたモノとしてみると、なぜか汚らしく見えてくるのが不思議です。

「今日は、どうしたんですか?」
「年金だけじゃあ、おいしいもの食べられないから……」
「買い取るだけのお金はあるのかな?」
「それが全然足りないのよ。このお肉とメロンは、お返ししてもいいかしら」

 土産物屋で見かける古臭いガマグチに入れられた彼女の所持金は、小銭と合わせても3,000円足らずで、全ての商品を買い取ることはできません。身分を証明できるものも持っていないというので、仕方なく紙に書いてもらうよう頼むと、心電図のような線で書かれた文字は解読不能。やむなく口頭での聴き取りを試みれば、入れ歯がずれてしまってうまくしゃべれない状況です。できることがなくなり、内線電話で店長を呼び出して状況を説明すると、電動車いすで万引きするなんて人は初めてだと驚き、迷うことなく警察に通報されました。身元がわからないことよりも、商品の買い取りができないことの方が、通報の決め手になったようです。

 まもなくして到着した警察官たちは、彼女の身元がはっきりしないことにイラつきを隠さず、仕方なさそうな雰囲気で彼女を警察署に連れていきました。電動車いすは、店の裏口に置かせてもらうこととなり、自力で歩くことのできない彼女は、警察官が両脇を担ぐ形でパトカーに乗せられています。

 その後の調べで89歳の独居老人であることが判明した彼女は、それと同時にいくつかの前科も明らかとなったようで、刑事課で扱うことが決まりました。簡単に言ってしまえば、逮捕の可能性が高いといえる状況です。

(うっつ……)

 お店での実況見分を終えて警察署に向かい、刑事課に入ると、お店のエレベーターで嗅いだのと同じ異臭が、自然に息を止めてしまうほど強く漂っていました。この場から離れたいという衝動を堪えて、どことなく桂歌丸さんに似た担当の刑事さんに異臭の正体を尋ねてみます。

「あの、すみません。すごくくさいんですけど、これはなんのニオイですか……」
「え? あんた、知らなかったの? あのばあさん、おもらししちゃってて、大変だったんだ。声をかけられたときに出ちゃったって話していたから、てっきり気付いているかと思っていたよ。ほんと、くせえよなあ。今日は、散々だ……」

 臭いの正体を知り、余計に気持ち悪くなった私は、書類ができるまで廊下のベンチで待つことにしました。しばらくベンチに座っていると、両脇を警察官に抱えられて、物干し竿に吊るされた衣服のような形になった彼女が、私の面前を通過していきます。詳しくは聞きませんでしたが、健康上の問題から拘留に耐えられないと判断されて在宅調べとなり、私より先に帰宅を許されたようです。およそ3時間後に書類が出来上がり、署名捺印をするために刑事課の取調室に戻ると、あれだけ強く漂っていた異臭は、いつの間にか消えていました。
(文=澄江、監修=伊東ゆう)

このニュースに関するつぶやき

  • 認知症の振りをしている高齢者程、たちが悪い!本当に認知症なら、狙って買う事はできないし、そもそも支払いもできずに、店を出ようとするのですぐに判別がつく。
    • イイネ!2
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  • 認知症の振りをしている高齢者程、たちが悪い!本当に認知症なら、狙って買う事はできないし、そもそも支払いもできずに、店を出ようとするのですぐに判別がつく。
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