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歌舞伎町の人魚伝説事件――ホストのラストイベントから、消えた「女」と「1000万円」

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2019年06月22日 22:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

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 ホストにハマりすぎている女たち――通称“ホス狂い”。「ホストに多額のカネを貢ぐ女」というイメージだけが横行する中、外の世界からはわからない彼女たちの悲喜劇がある。「ホストにハマらなかったら、今頃家が建っていた」という、新宿・歌舞伎町では名の知れたアラサー元風俗嬢ライター・せりなが、ホス狂いの姿を活写する。

 歌舞伎町で日夜ホストに執心していると、急に知人が音信不通・行方不明になる、ということがままにある。

 突然、非通知で「○○を知らないか」などと、不穏さしかない電話がかかってきたことも何度かあった。そういうときは迷わず「知らない」と答えるようにしている。だいたい、金か、異性か――あるいは、その両方か、だ。首を突っ込んでもなにひとつ、いいことがない。くわばらくわばら。

 一方で、歌舞伎町を10年ほどフラフラしていて、ある気づきを得た。それは、一時は「消えた」人々も、だいたい、1〜2年もすればまた歌舞伎町で見かけるようになる、ということだ。そして、過去の蒸発について、歌舞伎町の住人たちも、たいして詮索しない。なんとなく、許して、受け入れる(私含め、多くの人は自分のことで精一杯で、もしかしたら他人の事情なんて酒のアテほどしか興味がないのかもしれない)。

 キビシイ掟があるかと思えば、同時に寛容さも持ち合わせている。不思議なものである。あるいは、それもまた、歌舞伎町の底なしの魅力の一つなのかもしれない。

 さて、今日はそんな「消えた」友人・ミク(仮名)の話をしてみたい。

 ミクは私より4つか5つ年上で、当時の職場であるSMクラブの先輩だった。そして、ホスト遊びの先輩でもあった。私がどっぷりホストにハマっていたときのこと。ミクはSMクラブとソープを掛け持ちして、7年間ずっと同じ担当にお金を使い続けていると話していた。

 7年である。小学校に入学した子が、もうぼちぼち「15の夜」を迎えようとしているという年月だ。その後、私も一人のホストに5年近くお金を注ぎ込むことを思えば、そんなこと言えた義理ではないが、少なくとも、その当時は衝撃だった。

 7年間一人のホストの売り上げを支え続けたミク。先に結果からお伝えする――彼女は歌舞伎町から消えて、帰って来なかった。しかも1000万円か、それ以上のお金と一緒に消えてしまったのだ。泡のように。シャンパンの話でも、人魚姫の伝説でもない。しかし、彼女は、泡姫(ソープ嬢)ではあった。

 なんだか安いサスペンス染みてきたが、これは空想ではない。まごうことなき、ノンフィクションである。後に、「歌舞伎町人魚伝説事件」と語り継がれることになる……もとい、私が語り継ぐその日は、彼女の担当のラスト・イベントだった。

 ラスト・イベントとは、ホストがその店を辞めるときに行われる行事である。簡単に言えば、卒業式だ。ラスト・イベントには2種類ある。

・店を辞める
・ホスト自体を辞める

である。そのどちらかで、意味合いが大きく変わってくる。ミクの担当ホストは後者であった。7年間貢いでいる、ということは、ホストもそれなりの年齢になっているだけに、この稼業から足を洗うことを選択したという。

 もしこれが前者――すなわち、「お店を辞める」だけであれば、さほど珍しい話でもない。お客は次の店へ同じように通うだけだ。女の子はお店にではなく、ホストについている。納得しやすい論理だと思う。

 しかし、「担当がホストを辞める」。これはある意味、残酷な話だ。今までは、よほどのことがない限り、少なくとも「お金さえ持って店に行けば」会えた存在。関係が悪化しようが、こちらの金策が尽きようが、ホストと接続する回路は温存されていた。少なくとも、いつでも、回路を復活させることはできた。

 しかし、ホストを辞めてしまうことは、その貴重な回路を喪失することを意味する。芥川の例で言えば、釈迦が垂らした「蜘蛛の糸」は、ぷっつりと切断されてしまって、復活することはない。そういう哀しきカンダダの話は、歌舞伎町のいたるところで見聞きする。

 だからこそだ。「ホストがホストを辞める」という意味での卒業式において、純粋に「今までありがとう」という気持ちだけで、ホス狂いが数百万を払うことはなかなかに難しい。先の見返りにそこまでの期待はできない、蜘蛛の糸が間もなく断たれることが、わかりきっているからだ。ならば、新しい担当を見つけて投資した方が有意義だろう。堅気に戻るホストには、新しい門出を祝ってシャンパン数本、が一般的なのではないか。

 だが、ミクは違った。一般論が長くなってしまった。取り急ぎ、この物語を語りきってしまおう。

 彼女は、数カ月後に開催される担当のラストイベントに、1000万円を使うのだ、と私に豪語していた。そのために今はお金を貯めている、とも。勘違いしてはならない。ミクはエースだったので、もちろん毎月100万円以上を使いながら軍資金を貯めていた。とんでもない努力である。

 これには、ある理由があった。ミクは「ホストを辞めた後は、担当と同棲する予定」とうれしそうに話していた。当時、ミクと担当ホストは“週に数日はお泊まりする仲”だった。「ラストのお給料は今後の同棲資金になる」「風俗も辞めて、二人で昼間の仕事をする」。7年間も一途にお金を使い続ければ、そんな夢のようなこともあるのか。当時はそう感心したのを覚えている。

 あのときのミクより年上になった今の私であれば、「普通の恋人同士になるのに、最後にホストクラブでそんなに使う必要があるのだろうか」とも思うかもしれな……いや、やめておこう。100人のホス狂いがいれば100の事情がある。野暮な話はしない。

 その後しばらく、ミクはお金を貯めるために連日連夜働いていた。私自身、彼女と会う機会は減っていた。

 次にミクの名前を聞いたのは、件のラストイベントが終わった後のことである。情報提供者は、知り合いの、これまたホストからだった。歌舞伎町は狭い。ミクは、大量の諭吉様が詰まった小さなキャリーケースを持って、ラストイベントに現れた。そういえば、「銀行には入れられないから、キャリーケースに貯金している」と、ミクは私に写真を見せてくれたことがある。

 キャリーケースには両手を体の後ろへ隠して微笑む、ピンク色の某ウサギキャラクターが描かれていた。きっとそのキャリーケースだろう。キャラクター自体は愛らしいが、想像してみると、なかなかにエグみのある絵である。

 余談だが、歌舞伎町のホス狂いたちは、なぜかこのキャラクターを愛好する者が多かった。今でこそ少なくなったが、数年前まではこのピンクウサギがホス狂いの目印のようになっていた。歌舞伎町で石を投げればウサギにあたる。冗談でもなく、そんなトレンドだった。

 1000万円のシャンパンタワー。ホストとして、有終の美を飾るにふさわしい、さぞかし立派なものだったことだろう。そして最後の営業時間も終わりに近づき、いざお会計となったときだ。

 ミクは姿を消していた。

 ミクの座っていた卓にはピンクのキャリーケースだけが置いてあり、中身は空っぽだった。キャリーケースの中身が一瞬で消失するというトリックであろうか。もしや、そのなかから、ミクがマジシャンさながら大脱出を決める……。しかし、残念ながら、そんなことはなかった。ミクも金も、きれいさっぱり消えてしまっていたのである。1000万円相当のシャンパンタワーは履行されている。担当は有終の美を飾るラスト・イベントで、1000万円の借金を背負うこととなった。

 こういったことが起きないよう、超高額のお会計は、事前に半分程度を入金するのが普通だ。しかし、ミクは7年もの間担当を支え続け、実際にお金も貯めていた。その強固な信頼関係で、事前の入金は行われなかったのだろう。ホスト生活最後の日に多大な借金を背負う羽目になった担当ホストの話は、少しの間ホスト界隈を騒がせたという。

 ミクは、その後職場にも現れず、音信不通になった。どうして、ミクはそんなことをしたのだろうか。ここからは私の勝手な推測である。思うに、ミクは「担当がホストを辞めたら一緒になれる」なんて、はなから信じていなかったのではないだろうか。なんせ、7年も付き合いを続けていたのだ。それくらいの嘘は見抜けそうなものである。というか、本当に一緒に住むのなら、ホストを辞めなくても一緒に住むことはできる。

 彼女は全てを承知していた。だからこそ、最後の夜に復讐する。それだけのために大金を作ってきたのだ。蜘蛛の糸が空虚な強度しか持たないことを、ミクは知っていた。だったら、自分から引きちぎってやる。ミクの最後の行動は、そういう意味があったのかもしれない。

 ミクの担当ホストはしばらくの時をおいて、またホストを始めていた。今現在もご活躍中である。私が知らないだけで、もしかしたらミクも歌舞伎町で、違うホストにハマっているのかもしれない。いつか、会うことがあったらあの時のことを聞いてみたいな、と思う。酒のアテ程度に。

せりな
新宿・歌舞伎町の元風俗嬢ライター。『マツコが日本の風俗を紐解く』(日本テレビ系)で、 現役時代のプレイ動画を「徹底した商業主義に支配された風俗嬢」 と勝手に流されたが、 ホストに貢いでいたのであながち間違いではない。その他、デリヘル経営に携わるなど、業界では知られた存在。 現在も夜な夜な歌舞伎町の飲み屋に出没している。
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【バックナンバー】
第1回:歌舞伎町の元風俗嬢が語る、愛しき“ホス狂い”たち――「滑稽だけど大真面目」な素顔
第2回:担当ホストに月200万円……OLから風俗嬢になった女が駆け上がった「ホス狂い」の階段
第3回:容姿や年齢より「使った金額」! ホス狂いたちが繰り広げる、担当ホストのエースをめぐる闘争
第4回:Twitterで「担当ホストの本命彼女」を暴露!! ホス狂い界隈を絶望させた“ある女の復讐劇”
第5回:ホストに月200万円使う女は、どんな接客を受けるのか? 究極の接客「本営」の実態
第6回:ホストにハマる女は「まじめ」になる。引きこもり風俗嬢が出会った「ホスト・コミュニティ」
第7回:テレビが取り上げない「毎日ホストに通う女」の実態……シャンパンコールの裏にある光景
第8回:ホストで「一晩1000万円」使った女――担当も驚いた「紙袋に詰まった万札」の出所とは?
第9回:ホストクラブ「300万円偽札事件」勃発――歌舞伎町を震撼させた“未解決事件”に思うこと

このニュースに関するつぶやき

  • そのホストまだ活躍中なんだexclamation人気なんですね。
    • イイネ!9
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