『なつぞら』吉沢亮が体現する天陽の心の陰 『半分、青い。』律とも通じる苦悩

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2019年07月01日 06:11  リアルサウンド

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『なつぞら』写真提供=NHK

 「天陽は今年の冬に結婚するんだ」


参考:『なつぞら』天陽の結婚、千遥の行方、雪次郎の乱……衝撃の展開が続いた第13週を振り返る


 なつ(広瀬すず)の人生に少なからず影響を与えた人物の1人が、山田天陽(吉沢亮)である。絵の世界の素晴らしさはもちろんのこと、彼が示す生き方や言葉の数々は、なつを励まし、そっと背中を押し、勇気を与えてくれた。その魅力的なキャラクターも相まって、『なつぞら』(NHK総合)での天陽の存在は多くの注目を集めてきたわけであるが、先週の放送で、ついにと言うべきか、彼が結婚することが明かされた。陽平(犬飼貴丈)から結婚について聞かされたなつはその場で、「おめでとうございます!」と口にしていたが、その時彼女は一体どんなことを考えていたのだろうか? 今後の物語の中での、なつと天陽の関わりが気になるところである。


 さて、ここで天陽というキーパーソンについて少々振り返ってみたい。彼が、感じがよくて、クールで、ハンサムで、笑顔の素敵な好青年であることはその通りであるが、これまでの本作からうかがわせる、天陽という人間が持つ特徴というか、奥行きといったものは、それだけでは語りつくせない。


 例えば、天陽が口にする言葉からは、彼の知的な一面が垣間見えることがしばしばあった。なつの高校の演劇部の練習でのこと。倉田先生(柄本佑)から「お前の台詞には魂が見えてこない」となつが指摘される場面があったが、その練習風景を見ていた天陽はさらっとこんなことを口にする。「魂なんてどこに見えるんですか? 魂なんて作れませんよ」、と。「演じる」ということの本質を突き、最終的には倉田先生にも「彼は良く分かっている」と言わしめた天陽の言葉は、彼の知性をのぞかせるものであった。


 あるいは、なつの心の内を察して、寄り添おうとするのも天陽の特徴であった。なつと一緒にディズニー映画を観た帰りでのこと。「雪月」での会話の中で、自分にはできるわけがないと、アニメーションの世界なんて無理だと考えるなつに対し、天陽は「本当は行きたいんだべさ?」と問いかける。心の動きにいち早く気づいたり、本心に気づいたりするのもまた、彼が人や物事について深く見通すことができるからかもしれない。そして、彼のこうした人や物事の捉え方というものは、きっと絵を描くという行為にも、多かれ少なかれ、生かされているのだろう。


 その一方で、天陽はときに自身が抱える心の暗い一面、鬱屈、苦悩をのぞかせる瞬間もある。まだなつと天陽が幼かったころ、天陽の家の畑では土が悪く、作物を育てることができないことをなつに打ち明けるシーンがあった。そのとき天陽は、自分が抱える苦悩を爆発させるかのようになつの前で吐き出したのだった。「俺はここで生きたいんだ!」「ここが好きなんだ!」「この土に勝ちたいよ!」。込み上げてくる悔しさに任せて、どうにもならない感情を表す天陽の姿……。当たり前のことだけれど、彼もまた、壁にぶつかり、無力感に打ちひしがれる一人の青年なのだ。


 そして、彼の抱える辛い感情は、成長してからも作中で描かれる。北海道には当分帰れないというなつの手紙を受け、なつを描いたと思しき絵を朱色の絵の具で塗りつぶしてしまうシーンもまさしくそのひとつである。普段は優しくて、穏やかで、どこか余裕のある雰囲気を見せつつも、彼もまた、なつたちと同様に、悲しみ、嘆き、弱さをあらわにする瞬間がある。「なっちゃん!」と呼びかける笑顔の一方で、ときどき映し出される彼の心の陰の存在に、観ている私たちはゆさぶられるのだ。


 朝ドラは決して主人公だけの物語ではない。『なつぞら』で言えば、今述べた天陽はもちろんのこと、例えば、先週の放送で大きな展開が描かれた雪次郎(山田裕貴)だってそうである。なつの周りの同世代の人間たちのドラマにもまた、心に刺さる葛藤、苦悩がたくさん散りばめられている。生い立ちも、置かれた境遇も、抱える苦悩の種類も異なるところがたくさんあるため、単純には比較できないが、それは『半分、青い。』(NHK総合)の律(佐藤健)もまたそうだった。主人公との間でお互いに影響を及ぼしたり、及ばされたりする間柄にある人物においても、心の陰陽が描かれることで、ハッと気づかされるものがあったり、より一層そのキャラクターに引き込まれたりすることがあるのだ。天陽や雪次郎たちの物語も含めて朝ドラなのである。(國重駿平)


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