Google「トロント・スマートシティ計画」が物議 “未来のユートピア”か、それとも“実験場”か?

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2019年07月01日 07:21  リアルサウンド

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 Googleの親会社であるAlphabetが所有する都市イノベーション企業・Sidewalk Labs(米国ニューヨーク)は6月24日、1,524ページの報告書を発表。カナダのトロントをデジタル時代のモデル都市として発展させる計画について詳述した。


(参考:YouTubeによる未成年の単独ライブ配信禁止、海外では関連動画機能に疑問の声も


・テクノロジーで都市生活が改善、都市革新のハブ
 このスマートシティ計画について、Sidewalk Labsは「革新的テクノロジーが導入され、汚染を減らし、通勤時間が短くなり、より気候や環境に優しい建物で、手頃な都市生活を実現できて、人々の暮らしは良くなる」と考えている。


 まずは、10棟のビルと270万平方フィートの居住・商業スペースから着手し、その後トロントのオンタリオ湖畔に拡張することを目指しているようだ。ほかにも、交差点にセンサーを設置し交通を円滑にする一方で、街のあらゆるところでデータを収集するといった“スマートシティ”の実現を見据えている。


 Sidewalk LabsのCEOであるダン・ドクトリフ氏は、CNNの取材に対し「都市の抱える多くの課題は、過去の方法では解決しえないでしょう。都市の生活に劇的なインパクトを与え、都市イノベーション産業の世界的なハブにすることが可能です」と力説する(参考:https://edition.cnn.com/2019/06/24/tech/sidewalk-labs-toronto-plan/index.html)


データ収集には根強い反対の声も
 一方で、このプロジェクトは2017年10月の発表以来、反対の声が相次いでいる。


 市民の中には「実験室のモルモットになってしまう」という声も聞かれる。このプロジェクトに反対するBlock Sidewalkという団体は、巨大なテクノロジー企業が都市の生活を決定づけることに懸念を表明しているとBBCは報じた(参考:https://www.bbc.com/news/technology-48756031)。


 ほかにも、政治家、市民団体、一般市民から、Sidewalk Labsが収集するデータやプライバシーの取扱について質問が寄せられており、長らく回答を保留してきたSidewalk Labsだったが、ついに「同意を得ない限り第三者にデータの公表・販売は行わない」ことを明言するに至った。


 トロント出身のデジタル・ガバナンス研究者シベレ・サック氏は「スマートシティについての重要な問題を議論できておらず、Sidewalk Labsと一般市民との間に、路上や建物のセンサーデータの使用方法やテクノロジーのアルゴリズムといった知識のギャップがある」と指摘し、新たなテクノロジーが予期せぬ結末を招くことにも懸念を示している。


 一連の問題を受け、開発委託業者にSidewalk Labsを指定するにあたり、結論を出すのが性急だったとして、プロジェクトを取り仕切るWaterfront Torontoの責任者ら複数の重役が既に辞任している。


・Googleが狙うスマートシティという巨大市場、議論は白熱
 スマートシティは、次世代の都市の形として、巨大な市場を形成すると言われ、テクノロジー各社がしのぎを削り、研究開発を進めている分野だ。


 革新的な検索エンジンで絶対的な地位を確立したGoogleは 、Alphabetという持株会社を設立し、自動運転車の開発を行うWaymoや他にも様々なテクノロジー企業を傘下に収め、事業を多角化し拡大させている。スマートシティでは、あらゆるテクノロジーが複雑に作用しあうため、Alphabetの多くのテクノロジー企業の腕試しをするのには、絶好の機会だ。


 トロントのスマートシティ計画は、IoTやその他の先進的なテクノロジーを駆使した未来のユートピアなのだろうか。それとも、大手テクノロジー企業による、人間を利用した実験場なのか。各方面から様々な意見が出ており、この議論の出口は、まだ見えていない。


(Nagata Tombo)


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