中日・柳裕也、偉大な先輩を追いかけて

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2019年07月01日 18:50  ベースボールキング

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◆ 白球つれづれ2019〜第26回・柳裕也

 与田ドラゴンズが上昇機運を掴みつつある。6月30日の阪神戦で延長11回にサヨナラ勝ち。今季初の5連勝に新指揮官・与田剛の笑顔が弾けた。

 白星こそつかなかったが、ヒーローは文句なしに柳裕也だ。先発のマウンドを任されると8回を被安打4、10奪三振の無失点投球。ハーラー単独トップの9勝目は逃したものの、巨人・山口俊、DeNA・今永昇太と並ぶ8勝(2敗)は新エースと呼ぶにふさわしい成長ぶりである。(記録は7月1日現在、以下同じ)

 16年のドラフト1位で明大から鳴り物入りの入団も、過去2年は1勝(4敗)、2勝(5敗)と期待を大きく裏切った。大変身の秘訣を本人は「オフに徹底して体幹を鍛えたことで、ストレートの威力が増した」と語る。

 元来はカーブ、スライダーやチェンジアップをコーナーに投げ分ける精密な制球力が生命線。それでも、手元で伸びる直球の威力が増したことによって変化球がより生きる。
今季2ケタ奪三振は早くも2度。本来はバッタバッタと三振を取るタイプではないが、94回1/3で89奪三振が成長を証明している。

 柳自身も目下、5連勝中。特に先月行われたセ・パ交流戦では圧巻の投球で3連勝。最優秀選手賞こそ優勝したソフトバンクの松田宣浩に譲ったが、優秀選手に贈られる「日本生命賞」を受賞、プロ初の表彰は今後への自信となったはずだ。

 今春のシーズン突入前には、監督の与田に成長株と期待された笠原祥太郎と共に呼ばれた。「若い二人で頑張ってくれ」と直々の檄。その直後に笠原は不整脈で戦列離脱を余儀なくされたが、柳が奮い立ったのは言うまでもない。横浜高で甲子園、明大で神宮を沸かせた野球エリートに心技体のバランスが整えば、これくらいの成績を残しても不思議ではない。


◆ 受け継がれる明大魂

 中日には、間違いなく「明大魂」が流れている。星野仙一、高橋三千丈、川上憲伸、そして柳。いずれも明大でエースであり、主将を務めた男たちだ。偉大な先輩たちはプロでもエースとして、監督として見事な足跡を残している。だから、柳も並みの投手で終わるわけにはいかない。2年間の足踏みはあったが、今ようやく、チームの柱としての階段を登り始めた。

 その柳が4年前に明大監督の善波達也と共に大分を訪れたことがある。目的は高校時代からプロも注目の逸材と評判の高かった森下暢仁への入部勧誘だった。当時、プロや強豪大学からの争奪戦が激化する中で、主将として明大野球部の魅力や練習環境を語り、「是非、一緒にやろう」という柳の一言が森下獲得の決め手になったと言う。その後の森下の成長は言うまでもない。主将として背番号10を背負ったエースは東京六大学の春季リーグを制し、勢いそのままに全日本大学野球選手権で母校に38年ぶりの栄冠をもたらした。

 今や、大学球界ナンバーワン投手となった森下は、この秋のドラフトでも1位指名が確実視されている。将来性なら高校生最速163キロの剛腕・佐々木希朗(岩手・大船渡高)、即戦力なら森下と人気を二分するだろう。新旧投手陣の入れ替え期に差し掛かっている中日も当然、森下に熱視線を送る。明大とのホットラインも無視できない。

 ある雑誌のインタビューで「仮に森下が入団したら?」という質問に柳が答えている。

「故障で戦列離脱中だったり、二軍でくすぶっていたらかっこ悪いですね」。

 このペースで成績を残していけば、後輩大物ルーキーがやってきても文句はない。


文=荒川和夫(あらかわ・かずお)

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