高畑勲展が東京国立近代美術館で開幕。初期作から『かぐや姫』まで千点超

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2019年07月01日 22:50  CINRA.NET

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『アルプスの少女ハイジ』 ©ZUIYO 「アルプスの少女ハイジ」公式ホームページ http://www.heidi.ne.jp
■高畑勲の半世紀におよぶ創作の軌跡を、1000点以上の作品資料から紹介。絵を描かない高畑の「演出術」に注目

日本を代表するアニメーション監督である高畑勲の業績を総覧する展覧会『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの Takahata Isao: A Legend in Japanese Animation』が7月2日から東京・竹橋の東京国立近代美術館で開催される。

スタジオジブリの企画協力によって行なわれる本展は昨年に82歳で逝去した高畑の半世紀を超える活動を、1000点以上の作品資料から辿る初の展覧会。絵を描かない高畑の「演出術」に注目し、多数の未公開資料も紹介しながら、その多面的な作品世界の秘密に迫る。

美術館スタッフが主体となって作り上げる漫画・アニメの展覧会が、竹橋の東京国立近代美術館で行なわれるのは1990年の手塚治虫展以来2回目。展覧会の企画は高畑の生前から準備されていたが、高畑が亡くなったことから追悼展の意味合いも込められているという。

■『かぐや姫の物語』に通じる、初期のメモ「ぼくらのかぐや姫」が新たに発見

高畑はアクションやファンタジーなどのアニメーション作品とは一線を画す、日常生活の丹念な描写を通して表現された人間ドラマと、新たな表現方法の模索によって、アニメーション表現の可能性を切り拓いた。本展では、盟友たちとの共同作業、そして高畑の遺品から見つかった膨大な資料や高畑自身の解説から浮かび上がる高畑勲の「ことば」の2点から高畑の演出術にアプローチする。会場は4章に分かれ、年代順に代表作を辿りながらそれぞれの作品で高畑が挑んだ演出上の課題を明らかにする構成だ。

第1章「出発点」では高畑の活動を詳細に記した年表が来場者を出迎える。あまり知られていないが、テレビ化のために高畑が企画書を作成した『ドラえもん』や、宮崎駿とともに監督を務めたテレビシリーズ『ルパン三世』の関連資料も展示される。

本展の見どころのひとつが、高畑の遺品から新たに発見された膨大な資料だ。そのなかには1960年代前後のものと思われる「ぼくらのかぐや姫」と題された企画メモも。

そこには「絵巻物をよく研究して、その描法を生かすこと」という一節や、「風刺劇を音楽劇に仕立てる」といったアイデアも記されていた。それから半世紀以上を経て作られる『かぐや姫の物語』に通じる高畑の思考を垣間見ることのできる貴重な資料だ。

■初の劇場長編演出作『太陽王子 ホルスの大冒険』の膨大な資料も。盟友たちが集った共同制作のプロセス

演出助手時代に手掛けた『安寿と厨子王丸』(1961年)では新たに発見された絵コンテをもとに、若き日の高畑が創造したシーンを分析。また約3年の歳月をかけて完成させた劇場用長編初演出作となった『太陽王子 ホルスの大冒険』にまつわる膨大な資料も公開される。


『太陽王子 ホルスの大冒険』(1968年)には大塚康生、森康二、宮崎駿、小田部羊一といった、長きにわたって共に道を歩んだ仲間たちが参加している。分業が避けられないアニメーションの現場において、民主的に集団制作を進めようとした高畑の制作過程を窺うことのできる資料が多数展示されている。

展示品はアイデアスケッチや絵コンテ、設定画、背景画といった資料に加え、高畑が登場人物の人間関係や心理状況を示すために制作し、スタッフと共有した図表や、登場人物の「テンション・チャート」、登場人物の役柄と性格を記した一覧表なども。

■ 「子供の心の解放」というテーマ。宮崎駿と共に手掛けた『パンダコパンダ』や『アルプスの少女ハイジ』の新発見資料を公開

第2章では映画『パンダコパンダ』(1972年)や、『アルプスの少女ハイジ』(1974年)、『母をたずねて三千里』(1976年)、『赤毛のアン』(1979年)といったテレビシリーズを通して、子供たちの日常に寄り添い、子供たちの心を解放するアニメーションに取り組んだ高畑の創作を紹介する。

宮崎駿と共に手掛けた作品の新発見資料も大きな見どころ。宮崎が手掛けた『パンダコパンダ』のレイアウトや、高畑と宮崎による『アルプスの少女ハイジ』のオリジナル絵コンテも。

井岡雅宏による『アルプスの少女ハイジ』の背景美術には、同作のもう一つの主役とも言えるアルプスの雄大な自然が鮮やかに描き出されている。『アルプスの少女ハイジ』については物語の舞台を再現したジオラマも登場。

さらにハイジがブランコに乗るシーンや雲に乗る様子など、高畑が抱いていた「子供の心の解放」というテーマが表現されたオープニング映像の原画と動画も展示される。

■『じゃりン子チエ』『火垂るの墓』『平成狸合戦ぽんぽこ』……日本の現代史や風土を見つめた作品群

海外の児童文学をもとにした作品を手掛けていた1970年代に対し、1980年代に入ると日本人や日本の文化、日本を舞台にした作品に取り組み始める。

『じゃりン子チエ』(1981年)や『セロ弾きのゴーシュ』(1982年)をはじめ、 1985年にスタジオジブリに参加してからは『火垂るの墓』(1988年)、『おもひでぽろぽろ』(1991年)、『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994年)といった作品を発表。日本の風土や庶民の生活のリアリティーを表現した。

脚本も手掛けた『火垂るの墓』では、原作を脚本に翻案するために作られたノートや、戦火を生き抜く兄妹のイメージボード、さらには節子と清太のキャラクターの色彩設計資料も展示。山本二三による背景美術には、幼い子供たちが体験した戦争の様子がリアリティー溢れる描写で表現されている。

『平成狸合戦ぽんぽこ』の展示では柔らかな色彩で描かれた膨大なイメージボードで構成される大きな垂れ幕が壁一面を覆う。躍動感のある狸たちの姿がユーモラスに描かれている。

■手書きの線をいかしたアニメーション表現への到達。『かぐや姫の物語』の原画も多数展示

高畑は長きにわたって、原画が持っている線の輝きやスピード感などが集団制作のプロセスで整理されてしまう従来のセル画形式のアニメーションの制約を乗り越えたいと考えていたという。1990年代以降、絵巻物の研究にも没頭し、日本の伝統的な作画のスタイルを吸収しながら手書きのスケッチの線を生かしたアニメーションを実現する方法を開拓した。

その成果を見ることができるのが『ホーホケキョ となりの山田くん』(1999年)、そして遺作となった『かぐや姫の物語』(2013年)だ。本展では多数の原画と解説映像などを通して『かぐや姫の物語』で高畑が到達した線画によるアニメーションの魅力を紹介する。

作中、怒りと悲しみに駆られたかぐや姫が疾走する場面にフィーチャーした展示では、一枚の絵では対象を判別できないほどかぐや姫の姿が抽象化された原画と、実際の映像を比較して見ることができる。

■奈良美智のドローイング作品『鳥への挨拶』も出品。高畑が翻訳した詩画集のオリジナル作品

また本展には奈良美智のドローイング作品『鳥への挨拶』全75点から、24点も出品される。

2006年に刊行された『鳥への挨拶』はフランスの詩人、ジャック・プレヴェールの詩を高畑勲が翻訳し、奈良美智が絵を付けた詩画集だ。高畑は同書の制作にあたりプレヴェールの詩のイメージと奈良の描く子供に共通する想いを見出し、奈良に共作を呼びかけたという。

詩画集には高畑が選んだ絵に奈良の描き下ろしも加えて出版されたが、奈良は出力された色校正用の紙の上から新たにドローイングを加え、詩画集とは異なるオリジナルの『鳥への挨拶』を作り上げた。本展ではそのオリジナル作品を展示する。オリジナル作品は海外のコレクターが所蔵しており、実物を見られる貴重な機会となる。

音声ガイドは俳優の中川大志が担当する。中川は日本のアニメーションの草創期を舞台にしたNHKの連続テレビ小説『なつぞら』で、主人公が勤める東洋動画の監督見習い坂場一久役を演じている。坂場は高畑勲をモデルにしたとも言われているキャラクターだ。音声ガイドでは、高畑と時代を共にした仲間たちのインタビューも交えて展覧会を案内する。

『高畑勲展─日本のアニメーションに遺したもの Takahata Isao: A Legend in Japanese Animation』展は7月2日から10月6日まで東京国立近代美術館で開催。2020年4月には高畑が育った岡山の岡山県立美術館に巡回する。

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