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自身の地平線を越えよ、Nessus開発者が持ち続ける「エンジニアとしての信条」

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2019年07月05日 07:02  @IT

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 世界で活躍するエンジニアの先輩たちにお話を伺う「GoGlobal!」シリーズ。前回に引き続き、「Tenable Network Security」(以下、Tenable)の共同設立者 兼 CTO(最高技術責任者)であるRenaud Deraison(ルノー・ディレイソン)氏にご登場いただく。後編ではセキュリティ教育の大切さや日本のエンジニア不足問題への解決策などを伺った。



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●オートメーションがエンジニアリング不足解決の鍵?



阿部川“Go”久広(以降、阿部川) 世界的にエンジニアが不足しているといわれていますが、2020年の東京オリンピックでも20万人が不足するという試算があります。もしあなただったらこのエンジニア人材不足をどのようにして解決しますか?



ディレイソン氏 サイバーセキュリティに関するエンジニアリング不足に対応するには、オートメーションを最大限、活用することが重要だと思います。



 この数年DevOpsが世界的に広がり「全てのプロセスをオートメーション化する」ことが改めて注目されています。従来はマニュアルでしかできなかった多くのことが自動化でき、速く、効率的に処理できるためです。



 セキュリティも同様です。難しいタスクだとは思いますが、やはりコンピュータの得意技である「自動化」が一つの答えだと思います。それによって、多様な分野を同時にカバーできるような方策を考えることが大切です。そのためには最適化を随所に施さないといけないため苦労するとは思いますが、できないことではないと思います。



●セキュリティ教育で学んでほしい「悪事より楽しいこと」



阿部川 次はセキュリティ教育について伺います。日本ではあるゲームソフトが、いわゆる「DDoS攻撃」(※注)を受けたことがあります。背景には、このゲームに対して「1時間DDoSできる権利」が闇の市場で売買されていたという事実がありました。このような現実をどのようにお考えですか。



※編集注:「Distributed Denial of Service attack」の略称。複数のコンピュータから標的のサーバに、ネットワークを介した大量の処理要求を送ることでサービスを停止状態にさせてしまう攻撃



ディレイソン氏 攻撃をした人は、以前楽しくゲームをしようと思っていたのに、何かの不具合に出くわして嫌な思いをして、その報復をしたかったのかもしれません。こう言ってしまうと「嫌がらせや当て付け」といった解釈をされてしまいますが、実態はもっと重大な問題が隠れています。



 それは、ハッキングによってデータを盗み、不正を行って究極的にはビジネスの基盤そのものを危険にさらすことが、簡単にできてしまうということです。ハッキングの世界では、15年ほど前にハリウッド映画の中だけで描かれていたようなコンピュータの悪用や犯罪が現実に起こっている、大変恐ろしい事態になっています。



阿部川 以前は高度な技術を持った人しか扱えなかった技術が、誰にでも手に入れられるようになったということでしょうか。そうなれば必ずしも技術的な問題ばかりではなく、感情的な問題やモラル、教育、学習などの問題も含まれます。結局のところ、ネットワークやコンピュータを正しく利用しなければ問題は起こるということですね。



 世界中に優秀な子どもたちはたくさんいますが、間違った動機付けによって、単なるお金もうけなど犯罪に手を染めてしまうことも残念ながらあります。20年前、ディレイソンさんにもそうした選択肢があったと思いますが、正しい道を選び、ご自身の能力を正しい方法に用いられた。なぜそのような選択ができたのですか。



ディレイソン氏 大変良い質問です。コンピュータのセキュリティについて知識を持つと、それがどれほど大きなパワーを持っているかが分かります。私は幸いなことに、システムに侵入して何か大きなことを「しでかす」よりも、純粋なプログラマーとして新しいシステムを「作る」ことの方が楽しいと感じました。



 もちろんおっしゃる通り、大変懸念される状況ではあります。というのもオンラインに関する全ては「理解の成熟度」といったようなものに起因すると考えられるからです。今、学校などでオンラインやソーシャルメディアの世界で「やって良いこと」「悪いこと」を教えるようになりました。それも現時点でそう判断できることであって、今後どう変化するかは分かりません。ただ、そうした教育の中で「悪事を働くよりも楽しいことがある」と知ってもらうことが大切だと思います。



 できればプログラムの楽しさを知った優れたエンジニアが1人でも多く増えてほしいと思います。何といっても20万人のエンジニアが必要ですからね(笑)。



●エンジニアとしての2つの信条



阿部川 ディレイソンさんは、エンジニアとして20年お仕事をなさっているわけですが、仕事をしていて、どんなところに一番魅力を感じますか?



ディレイソン氏 仕事をしていると、毎週、いや毎日、新しく学ぶことがあります。その中でも一番魅力を感じるのは新たに出てきた問題を、新たな方法で解決したとき。そして、それまで知らなかった新しいことを学んだときです。



 それはテクノロジーの面でも、ビジネスの面でも、マーケティングの面でも同じです。Tenableで長い間、このように感じながら仕事ができていることは、非常にラッキーなことだと思います。新しいことを学ぶたびに、自分が成長していることが感じられますし、「まだまだいろいろな分野で学ばなければならないことが多いな」と常に思います。



阿部川 日本の、特に若いエンジニアに対して一言メッセージをお願いできますか。



ディレイソン氏 はい(といって、しばし沈思黙考して)。



 まずは「自身の地平線を越えよ」ということです。自分が今、限界と思っていることの先まで行こう、とでも言いましょうか。もちろんさまざまな分野で状況は違うとは思いますが、自分のインスピレーションを信じてほしいと思います。



 私は分野や文化が違っても、あるいは違うからこそ、新しいことが学べると強く信じています。例えばヘルスケアの業界で仕事をしていたとしても、ファイナンスの分野の考え方を学ぶと、新しい視点が生まれるといったように。



 2番目は「限界に挑むような環境を作れ」です。居心地の良い、ぬくぬくした自分の殻から飛び出して、面倒くさい問題に取り掛かりましょう。それを解決したときこそ、大きな見返りがありますし、大きな満足も得られると私は思います。



 この2つが、私にとっての「エンジニアとしての信条」です。



阿部川 素晴らしいアドバイスを、ありがとうございます。それと「大学は辞めない方がいい」ですかね(笑)。



ディレイソン氏 そうですね(笑)。フランスは大学の学位がないと就職するのが難しい国ですから、20年前の私の決断は「シートベルトなしで車を運転していた」ようなものです。安易に私のまねはしないでください(笑)



●Go's thinking aloud〜インタビューを終えて〜



 どう言えば思いが伝わるのかと少し考えるようなしぐさをして、言葉を選んでゆっくり話すのだが、その時に必ずといっていいほど、大きめの瞳が輝きを放つ。素直な青年が、その情熱の導くままに、日夜セキュリティソフトウェアの開発に取り組んでいたあの日から20年、生まれついてのホワイトハッカーは、より粘り強いエンジニアに、そしてしぶとい経営者へと成長した。



 「世界を救う」などと決して大上段には振りかぶらないが、毎日、毎日、ユーザーコミュニティーとともに、細かいことや面倒くさいことに「それが僕には楽しかったから」(Linuxカーネルを開発したリーナス・トーバルズ氏の言葉)と、コツコツと向き合って解決策を積み重ねてきた。



 お話を伺って、IT業界は、やっぱり“人々の情熱が支えている”と感じた。情熱を込めてなされた仕事が誇りとなり、その誇りは必ず効いてくるときが来る。また、最後はそれが「世界を救う」原動力となる。ディレイソンさんの言葉が、何よりの証左だった。



○阿部川久広(Hisahiro Go Abekawa)



アイティメディア グローバルビジネス担当シニアヴァイスプレジデント兼エグゼクティブプロデューサー、ライター、レポーター



コンサルタントを経て、アップル、ディズニーなどでマーケティングの要職を歴任。大学在学時より通訳、翻訳なども行い、CNNニュースキャスターを2年間務めた。現在は英語やコミュニケーション、プレゼンテーションのトレーナーとして講座、講演を行うほか、作家として執筆、翻訳も行っている。


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