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“アイデア出しまくるAI”を開発、博報堂が考える「創造力の限界突破」

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2019年07月05日 07:12  ITmedia NEWS

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 人間がAI(人工知能)よりも優れているのは「創造力」である――そのような考えを持つ人もいますが、果たして本当でしょうか。



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 例えば2017年4月に行われた、将棋の「電王戦」。プロ棋士の佐藤天彦叡王(当時)と将棋ソフト「PONANZA」(ポナンザ)の対局で、先攻のポナンザは、いきなり「3八金」というあまり見慣れない手を打ちました。しかし、その後に「中住まい」と呼ばれる強固な守りを築き、結果的に自然な展開になっていったのです。この打ち筋を想定できていた人はどれだけいたでしょうか。



 こうした「常識では思いつかない発想」は、将棋に限らずさまざまな領域に広がってきています。例えば、ビジネスの現場でも私たちは日々「斬新なアイデア」を求められます。「そんなに毎日新しいビジネスアイデアなんて思いつかないよ。それこそ、代わりにAIが考えてくれよ」と思ったことは一度や二度ではありません。



 AIと創造性をめぐる議論は、この連載でも何度か取り上げてきましたが、電通のAIコピーライター「AICO」などは、コピーライターの仕事をサポートするクリエイティブツールの1つです。



 最近では博報堂とシステム開発のTISが、企画担当者のアイデア出しを支援するサービス「AIブレストスパーク」を共同開発しました。博報堂が培った知見を基に、アイデアやコンセプトのきっかけとなるワードやフレーズを大量に自動生成してくれます。



 「発想する」「アイデアを出す」という領域は人間にしかできないように思いますが、AIはどのように人間をサポートしてくれるのでしょうか。AIブレストスパークの開発担当者に話を聞きました。



●「AIブレストスパーク」開発担当者



・元博報堂の赤松範麿さん(そもそもデザイン推進体 ファシリテーター)



・博報堂の八幡功一さん(クリエイティブセンター エグゼクティブクリエイティブディレクター)



・TISの小林賢一郎さん(サービス事業統括本部 AI&ロボティクスビジネスユニット AI&ロボティクスサービス部 シニアエキスパート)



・TISの園田健太郎さん(同 上級主任)



●「AIの創造力」を試してみた



 日本中のオフィスの会議室で、日々ブレスト会議が行われているのではないでしょうか。しかし、良いアイデアが浮かばず誰も発言しなくなったり、自分が提案したアイデアが他の人からダメだしされたりすると、その場は重苦しい空気に包まれてしまいます。



 博報堂の八幡さんは「人間だけでたくさんアイデアを出すのは難しいですが、AIを使えば人間では思い浮かばない切り口やヒントを大量に見つけてくれます」と説明します。



 AIブレストスパークでは、博報堂のクリエイターが打ち合わせで使っている発想プロセスをアルゴリズムに落とし込む「博報堂発想支援メソッド」を実装しています。AIが、入力したキーワードに関連する単語をネットから探してきて、幅広い単語を網羅できるよう視覚的に表現します。



 八幡さんは「ブレストの鉄則は“拡散と混沌なくして跳躍なし”」と強調します。アイデア出しを続けると、「いま、何の議論をしてるんだっけ」「本当にこれで良いのかな」と、場が混沌とする時間が来ます。そこまで混沌とすれば、違う尺度やモノの見方に気づけるという考え方ですが、AIを使ってその跳躍への近道をしようというわけです。



 AIブレストスパークの実力を試すべく、取材中に頭に浮かんだ「洗剤」というキーワードを入力してみました。すると、ネット上の情報を収集・整理した後に「洗剤」に関連する「キッチン」「浄水器」「容器」「サイズ」「香り」といった言葉が、クモの巣のように張り巡らされた状態で表示されました。



 人間が考えても思い付きそうな内容ではありますが、ホワイドボードに1つ1つ単語を書き記すよりは、はるかに効率が良さそうです。ここから「香り」を起点に「数量限定」「詰め替える」「カゴ」という言葉が登場し、さらに「カゴ」を起点に……と関連単語が広がっていくので、やがて意外な単語に出合えるようになります。



 辞書が搭載されているので、意外すぎてつながりが浮かばない単語は、その場で出典元を調べられます。また、「カゴ」で生活シーンを調べたいときのためにテレビ番組のデータベースも用意されていて、「カゴ」にまつわるシーンを調べられるようになっていました。1つのお題に対して、いったん情報を俯瞰(ふかん)し、いろいろな角度で吟味できるのはツールを使う強みといえるでしょう。



●教師データは「プロのコピーライター」



 では、AIは洗剤の共起語(ある単語が出現したときに、一緒に利用される単語)をどのように洗い出しているのでしょうか。



 TISの小林賢一郎さんは「コピーライター出身の八幡さんにどのような言葉があったら面白いかを考えてもらいました。それをAIで再現できるよう、かなり細かくチューニングしています」と話します。単なる「共起のロジック」でアルゴリズムをつくると平凡になってしまうため、プロのコピーライターを教師データにしたのです。



 しかし、AIが「量」で人間を圧倒するのは理解できますが、「質」はどうなのでしょうか。アイデア出しに正解はないようにも思います。



 「出てきた言葉が正解かどうかは、シチュエーションで変わると思います」と小林さんはいいます。「将来的にはシチュエーション単位で、どういうゴールに収束させるかを見なければならないでしょう。現在は、同じ単語やフレーズができるだけ出ないようにし、日本語として文法的に最低限おかしくないものを生成する、といった仕組みをつくっています」(小林さん)



 AIが表示した結果を解釈し、言葉を選びとるのは人間の仕事です。例えば単語同士を結合する機能を使えば、「洗剤ビフォーアフター」「マニア級洗剤」「洗剤と体調」など、いろいろな切り口のフレーズが生成されます。八幡さんは「うちのコピーライターに使わせると、言葉の乱れが刺激になって気持ちいいと言っていましたね」と笑います。



●開発のキッカケ



 AIブレストスパークは、博報堂の若手社員が「クリエイティブとAIを掛け合わせると面白いのでは?」と考えたことから開発が始まったそうです。



 元博報堂の赤松範麿さんは、「普通の人は、たくさんアイデアを考えてと言われても、似たような案を3つくらいしか出せません。しかし、プロのコピーライターなら固定観念にとらわれず100案くらい出せてしまう」と話します。そうしたプロの考え方や発想方法をシステム化できないかと考え、AIブレストスパークが生まれました。



 システム開発を担ったTISの場合は、クリエイティブな活動をする人の「働き方改革」を念頭に置いていました。



 「良いアイデアを出すには、時間がかかります。AIを使うことで、短い時間で質の高い議論をしてほしいと考えています」(小林さん)



 博報堂グループでは50〜60人のクリエイターがAIブレストスパークを使っているそうです。会議に参加するメンバーに忖度(そんたく)せずにアイデアを出せるのも、AIならではのメリットでしょう。



 八幡さんは「俯瞰して情報を見渡せるメリットが大きい」と強調します。「人間の発想を端から端まで見渡すことはプロの人間でもできません。私たちは情報をインプットしていったんそれを寝かせたりしますが、AIは人間が何回も会議しないと出ないような情報をすぐ出してくれるのです」(八幡さん)



 確かに、ジェームス・W・ヤングも著書「アイデアのつくり方」の中で、何も思いつかない状態になったら一度アイデアを放置することを推奨しています。思考を手放している最中に、アイデアは突然降りてくるものだというわけです。もしそんな偶然に頼らざるを得ない状況から解放されるなら、大勢の人の働き方が変わるでしょう。



 これまで多くのメディアや有識者が「AIと人間の対立」構図をあおってきました。しかし、今回のようなツールは「AIと人間の共創」を促すものといえます。AIが人間の創造的な仕事を奪うのではなく、人間が思い浮かばない想像の穴をAIが埋めていくという捉え方です。



 小林さんもこの考えに賛同します。「スティーブ・ジョブズがマッキントッシュを作ったとき、いまと同じようにコンピュータが人間の仕事を奪うなんていわれていました。ジョブズは“コンピュータは知の自転車だ”と表現しましたが、人間だけでは出せない能力を発揮できる道具という意味ではAIも自転車も同じです」(小林さん)



●「本当の創造性」は選ぶ能力



 では、発想やひらめきとは、そもそも何なのでしょうか。赤松さんは「アイデアだけでは意味がないんです」と指摘します。



 例えばトロフィーの色は金・銀・銅の3色しかありませんが、「他にも色があると良いよね」と誰かが発言したとします。一見新しいことを言っているように聞こえますが、赤松さんは「この時点では実際は何もひらめいてないんです」と一蹴します。



 「例えば、金銀銅のトロフィーは成績上位の人を褒めるためのものですよね。だったら、カラフルなものを用意していろんな褒め方をしよう、とまで説明できればすごく良いアイデアに聞こえます。世の中の課題を解決する具体的な内容になって初めてひらめきになるんです」(赤松さん)



 われわれが普段何気なく行っていることは、「創造力」「創造性」という言葉でひとくくりにできないのかもしれません。



 赤松さんは創造性について、次のように述べます。



 「本当の創造性は、アイデアを出す能力ではなく、良いアイデアを選ぶ能力なんです。選ぶ作業に時間を使った方がいいから、作るのはAIに任せてもいいんですよ」(赤松さん)



 良い悪いを判断するには、センスが求められます。筆者は現職のデコムで消費者のインサイトを発見する業務をしており、そこではバイアスや思い込みからの脱却が重要になってきます。いかに人間が偏った視点で価値判断をしているかを日々痛感しているのです。



 では、選ぶ能力を磨くにはどうすればいいのでしょうか。赤松さんは「プロのクリエイターは“いちゃもん”をつけるのが得意なんですよ」と笑います。良い“いちゃもん”をつけることで、常識が分かるようになり、やがてその常識から離れた着想が生まれるそうです。



 しかし、人間に対していちゃもんをつけるのは勇気がいるものです。「人のアイデアにダメだししていいのかな?」と尻込みする人もいるはずです。そこで、AIがダメだしする良き相手役になってくれるのです。



 「AIはどんどん案を出してくれるので、人間側でダメだと思ったものはどんどん切り捨ててください。そのうち『あれ、何でダメなんだっけ?』と、探しているアイデアや切り口との差分を感じ取れるようになります。良いヒントがあれば良い内容が思い浮かぶものなので、より方向性や到着点がはっきりすると思いますよ」(八幡さん)



●取材後記



 人間は、人間が思っている以上に、人間について分かっていない。特に、人間が当たり前のようにできてしまう領域は、当たり前すぎて「なぜ」を説明できない――AIに関する取材をする中で、こんなことを感じていました。



 クリエイティブの領域は、言語化や明文化が難しいジャンルの筆頭でしょう。今回の取材を通して、「作る」はAIに任せた方がいい作業なのではないかと思うようになりました。



 「考える(フリをする)」という仕事はAIに手伝ってもらい、私たち人間は何らかの価値を生み出すことに集中しなければならないのかもしれません。


このニュースに関するつぶやき

  • 「共感=多数決」ってのがAIの限界だと思うんだ。つまり、感動や笑いのツボを理解することは不可能。
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  • その程度のことが「広告代理店で要求される想像力」ってことは、あの業種は本質的になにもしていないのとおなじってことだな…よし!なにもしたないなら、潰そう!����ʴ򤷤�����
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