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野田女児虐待死事件の背景に「マインドコントロール」 DV被害者に働く心理とは?

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2019年07月05日 08:00  AERA dot.

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写真わが子が虐待を受けていても、夫と別れられないと話す女性(43)。夫にマインドコントロールされている自覚はあると言い、夫について「私には必要な人です」と繰り返す(撮影/鈴木芳果)
わが子が虐待を受けていても、夫と別れられないと話す女性(43)。夫にマインドコントロールされている自覚はあると言い、夫について「私には必要な人です」と繰り返す(撮影/鈴木芳果)
 千葉県野田市で起きた女児虐待死事件で、母親に執行猶予判決が出た。虐待する夫に支配され、逆らうことが難しかったと認定された。DVにおけるマインドコントロールとは、何か。

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*  *  *
 相手を洗脳して、思考を乗っ取る。夫から妻への「マインドコントロール」は徐々に浸透していった。

「愛しているから、お前によくなってほしいからと言われると、これだけ私のことを好きになってくれるのはこの人以外にいないと思って。わかっていても離れられないです」

 関東地方に暮らす女性(43)は、同じような言葉を何度も口にした。20年近く会社員の夫(43)から日常的に殴られ、ドメスティックバイオレンス(DV)を受けてきた。中学生の長男と小学生の長女も暴力を振るわれてきたが、夫と別れることはできないと言う。

 女性は20歳の時、友人の友だちだった今の夫と交際を始めた。最初は優しく、前の彼氏のことで落ち込む女性を慰めてくれた。しかし、やがて言葉の暴力、そして身体への暴力が始まった。

 部屋が片づいていない、ものを忘れた、料理の水加減が悪い……。理由はいろいろ。そのたびに夫は、

「お前の考えることはすべて間違っているから、俺の言うことを聞いて俺の言う通りにやればいいんだ。お前は人間としても失格」

 と声を張り上げ、女性が反論すると殴りかかってきた。夫はこうも言った。

「言っても直さないんだったら、痛い思いをしなければわからないだろ」

 殴られ続けても女性はこう思った。

「私はダメな人間だから、この人の言うことを聞かなくちゃ。正してくれるのはこの人だけ。ついていかなきゃ」

 26歳で結婚。やがて長男が、3年後に長女が生まれると、DVの矛先は子どもたちにも向かった。「しつけ」と称した暴力が始まったのだ。おもちゃを片づけていなかったり呼ばれても返事をしなかったりすると、夫は子どもたちに手を上げた。止めに入ると、今度は自分が殴られた。女性はあざが絶えず、長女には自傷行為や噛みつきといった問題行動が見られるように。それでも女性は、こう思い続けた。

「やっぱり私がだめなんだ。直さなきゃ、変わらなきゃいけないんだ」

 マインドコントロール。今年1月、千葉県野田市で起きた栗原心愛(みあ)さん(当時10)が自宅浴室で死亡した虐待事件で関心を集めている。

 傷害幇助(ほうじょ)罪に問われた母親のなぎさ被告(32)は、夫の勇一郎被告(41)との夫婦の力関係について「自分は支配下にあった」と供述。「虐待をする勇一郎被告の支配的言動に逆らうことは難しかった」として、保護観察付き執行猶予となった。虐待が長期間にわたる中、マインドコントロールされていたのではないかと捜査関係者は見ている。

 DVにおけるマインドコントロールとはどういうことか。

 多くの加害者や被害者を支援してきた横浜市のNPO法人「女性・人権支援センター ステップ」の栗原加代美理事長(73)は、「あらゆることが相手の言いなりになっていくこと」と説明する。

「DVの場合、加害者が夫で被害者は妻という場合が圧倒的に多い。マインドコントロールにかかると、妻は自分の考えを言うことも考えることもやめていく。そして、夫の考えだけが自分の中に入っていきます」

 背景にあるのが、恐怖による「支配と服従」だ。例えば、コーヒーに砂糖を入れると夫から「普通は砂糖なんて入れない」と否定される。それでも入れ続けると、「俺の言うことが聞けないのか」と身体的暴力も受けるようになる。そうしたことが何日も続くと、妻は恐怖から思考が止まり、支配と服従の関係にならされていくという。

「わが子が虐待されているのを見ても止められないのも同じ。止めると怒られ、暴力を振るわれる。わが身を守るために身体が動かなくなります」

 こうした状況は、なぎさ被告にも見られた。捜査関係者は、勇一郎被告による心愛さんへの虐待がエスカレートするなか、なぎさ被告は心愛さんへの暴力がなくなれば今度は自分に矛先が向くと考え、止めることができなくなったのではないかと見る。

 栗原理事長によれば、マインドコントロールにかかりやすい人には特徴があるという。

「素直で従順な人。中でも、夫に従うのが妻の美徳だという価値観を持っている人です。それは、家庭は男が支配していい、稼いでいる者が支配者だという意識があるからです」

 冒頭の女性は、子どものころ父親が母親を怒鳴り散らすのをいつも見てきた。その結果、「女は耐えるべきだ」と刷り込まれていったのではないかと話す。

 なぜ、逃げないのか──。DV被害者にしばしば投げかけられる疑問だ。しかし、逃げないのではない、逃げられないのだ。

 実は、女性は8年ほど前に1度、子どもたちを連れてシェルターに逃げ、同時に離婚もしている。当時5歳になった長男が「僕、死にたい」と漏らしたからだ。この時、女性は初めて夫と別れなければだめだと気づき、長男と長女を連れてシェルターに避難した。だが、夜になると長男が「お父さんに会いたい」と泣き、シェルターのスタッフからも「1度戻るのも間違いではない」と言われ、1週間もしないうちに夫の元に戻り、再婚した。

 女性は戻る際、次に暴力があったら今度こそ別れると夫に伝えた。そのこともあって夫のDVはしばらく鳴りを潜めていたが、3年近くすると再び始まった。しつけを名目とした子どもたちへの暴力、それを止めに入った女性への暴力。その都度、夫は言った。

「こいつらのためにやっているのに、何で止めに入るんだ」

 昨年夏、ようやく女性は市役所の子ども支援課に足を運んだ。その翌日、市から通報を受けた児童相談所(児相)が長女を一時保護した。児相からの提案で、女性は子どもたちを連れ、夫と別居。同時に夫に「変わってほしい」という思いもあり、DV加害者更生プログラムを受けるよう提案した。

 いま、夫は定期的に更生プログラムに通っている。そのおかげもあり、DVはずいぶん減ったが、いつどうなるかわからない不安は残る。言葉のDVはまだあるからだ。それでも夫と別れられないという女性は、こう話した。

「私は、ずっとこういう人生を送るのかなという気持ちもあります」

 マインドコントロールを解くには、どうすればいいのか。

 栗原理事長は、「不健全な価値観を変えていくことが必要」と言う。ステップでは月2回、心理学における「選択理論」を使い、DV被害者のケアプログラムを行っている。

「例えば、夫が『死ね』と言ってもそれは夫の考えで、自分はどう思うかを考える。夫の考えと自分の考えを区別し、自分で考えられるようにケアしていく。するとやがて、夫と自分の考えが違ってもいいと境界線を引けるようになります」(栗原理事長)

(編集部・野村昌二)

※AERA 2019年7月8日号より抜粋

このニュースに関するつぶやき

  • 野田の事件はS●Xに弱いのもあると思う……快楽に勝てるものはないからね
    • イイネ!1
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  • そう、DVの被害者は「逃げない」のでは無く、「逃げられない」んだよね。暴力を伴った一種の洗脳状態に置かれるからだ。 https://mixi.at/abn4N0T
    • イイネ!57
    • コメント 2件

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