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貧しいのは本人のせい? エリート階級に広がる「自己責任論」、乗り越えるには 格差問題の専門家に聞く

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2019年07月10日 07:10  ウィズニュース

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写真参院選が公示された。貧困をめぐる自己責任論とどう向き合うか、この機会に改めて考えたい=東京都内、西畑志朗撮影=朝日新聞
参院選が公示された。貧困をめぐる自己責任論とどう向き合うか、この機会に改めて考えたい=東京都内、西畑志朗撮影=朝日新聞

生活が苦しい人のための政策を考えるとき、必ずと言っていいほどネックになるのが「自己責任論」です。“貧しいのは本人の責任”、“努力しなかった本人が悪い”。日本に広く行き渡ってしまった考え方ですが、格差問題に詳しい社会学者の橋本健二・早稲田大学教授によると、特に高学歴・高収入の人はこう考える傾向が強いそうです。どうすれば自己責任論を乗り越え、本格的な貧困対策に取り組めるのか。橋本さんに聞きました。(朝日新聞記者・牧内昇平)

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貧困は自己責任じゃない
――世の中に「貧困」を「自己責任」とする考え方が広まっているようで、残念です。

ものごとを選択する余地がある場合に限り、人びとは責任を問われるべきです。たとえば、パート主婦や専門・管理職をのぞいた非正規労働者をわたしはアンダークラスと呼んでいます。収入が低く、雇用が不安定な人たちです。アンダークラスの人びとに自己責任論は成立しません。低賃金で不安定な仕事を社会的に強制されているのです。

貧しい人びとが自己責任論に陥ってしまう理由
――でも、生活が苦しい人たちの中にも、自己責任論を受け入れる人たちがいますよね。

たしかに、自己責任論はアンダークラスの人びとにもある程度まで浸透しています。「貧乏な自分」という現実がある中で、「自分は努力している」「自分には能力がある」と思い続けるのは難しいことです。矛盾と葛藤を抱え込むことになるからです。

しかし「自分は努力しなかったし能力がないんだからしかたがない」と考えてしまえば、現実を静かに受け入れることが可能になります。そのように自分を納得させてしまう人々が、アンダークラスの中に一定程度いるのは事実でしょう。

ーーアンダークラスの人びとがすすんで自己責任論に賛成している訳ではない。むしろ貧困の現状に折り合いをつけるため、「自己責任だ」と考えざるを得ない人びとがいる、ということですね。

そうです。一方で、「自分は努力している」「自分には能力がある」と思い続けるなら、「社会が間違っている」という認識にたどり着く可能性が大きくなります。

哲学者のジョン・ロールズが書いた『正義論』で一番のポイントは「自尊」(セルフリスペクト)です。これがすべての人に保障されるべき最も重要な基本財であると、ロールズは書いています。アンダークラスの人びとにいま必要なのは、このセルフリスペクトだと思います。

エリート階級に浸透する「自己責任論」
ーー貧しい人びとが自己責任論に陥っていることを指摘するよりも、セルフリスペクトの精神を培ってもらうことの方が、有意義だと感じます。

さらに言えば、ほかの階級の人びとと比べれば、アンダークラスへの自己責任論の浸透度は低いと言えます。わたしを中心とした研究グループが2016年に首都圏で行った調査では、格差に対する意識を聞いています。「貧困になったのは努力しなかったからだ」という設問に対し、「ややそう思う」「あまりそう思わない」などと答えるものです。

階級別にみていくと、企業の経営者や役員などの「資本家階級」や、会社の専門職や上級事務職など、わたしが「新中間階級」と呼ぶ人々のあいだで、「貧困になったのは努力しなかったからだ」と考える人の割合が多かったのです。

――資本家階級に自己責任論が広がるのはうなずけますが、新中間階級の人びとにも同じ傾向があるのですね。そもそも新中間階級とはどのような人たちですか。

企業などで働く専門職、管理職、上級事務職。学歴が高く、情報機器を使いこなし、高い収入を得ている、つまり恵まれた豊かな生活を送っている人たちです。

2000年代に入ってその傾向は強まった
――この層の人々に自己責任論が広がっているのですか。

新中間階級に自己責任論の傾向が強まっていったのは、ここ20年のことだと思います。先ほどとは別の調査によると、1995年まではかろうじて、新中間階級はリベラルだった。不公平がこの世の中にあることをはっきり認識していた人が多くて、富裕層から貧しい人にお金を回す「所得再分配」にも割と好意的でした。

ところが2005年からアレっという結果が出るようになりました。

――なぜ、2000年代から新中間階級に自己責任論者が増えてきたのでしょうか?

戦後民主主義の成果と言えるのか分からないですが、これまでは弱者との連帯、弱者への共感という心性があったのかもしれません。そうしたものの見方が、高学歴な高所得者から急激に失われてきたと感じています。

なぜ自己責任論が容認されるのか?
――資本家階級に自己責任論が広がっているのはうなずけますが、なぜ新中間階級で目立つのでしょうか?

自己責任論には表と裏、プラスとマイナスのふたつの側面があります。プラスは「自分が恵まれているのは自分のおかげだ」、「自分が努力し、能力があったからだ」という側面です。これがマイナスにはたらくと、「自分が貧乏なのは自分のせいだ」となります。これは表裏一体の関係です。


新中間階級はこれまで勉強や仕事で成功してきた人たちです。この人たちはまず、自身の成功をプラスの側面で考える。「自分の地位や財産は自分で築いたものだ」という見方です。

そしてこの層の人々は論理的にものを考えますから、必然的に「貧しいのは本人の責任だ」となる。そうしておかないと論理整合性がとれないのです。こうして、強固な自己責任論が成り立ちます。

自己責任論から脱却するには
――「論理」を大事にする人々に自己責任論から脱却し、貧困対策に積極的になってもらうには、どうすればいいですか?

正義感とか倫理観だけで多くの人が一斉に動くとは考えられない。わたしは「自分の利益にもなりますよ」と伝えることが必要だと思っています。

いまは恵まれた新中間階級でも、子どもがアンダークラスに入る可能性は十分あります。大学を出てもいい仕事に就けるとは限りません。だとしたら、アンダークラスが生まれないような社会の方がいいし、仮にアンダークラスになったとしても、最低賃金で1500円もらえる社会の方がいいわけですよね。1500円だったら子どもがフリーターになってもそんなに絶望する必要はない。

また、子どもだけでなく、いま新中間階級の人たち自身が老後に転落する可能性もあります。退職金は減っているし、年金の水準も下がっていきます。よほどの大企業に定年まで勤めた人でなければアンダークラスに転落する可能性があります。いくらか貯金があっても大きな病気をしたら1千万円くらい簡単になくなります。

格差の大きい社会は不健康な社会
――新中間階級の人びともいつ生活が苦しくなるか分からない、ということですね。

もう一つ言いたいのは、格差の大きい社会とは不健康な社会であるということです。貧困に直面している人々だけでなく、それ以外の人びとにもさまざまな悪影響がある。

格差の大きい社会ではストレスが高まり、病気になる確率が増える。犯罪に追いつめられる人が多いので、犯罪被害にあう確率も高まる。社会全体から連帯感が失われていき、助け合いによって問題解決する雰囲気がなくなります。

遅すぎた「就職氷河期世代」支援
――そんな不健康な社会がいいとは思えません。政府の格差対策についてはどう評価しますか? 最近では、正社員への道が険しかった「就職氷河期世代」への支援策をまとめましたが。

まず、遅すぎます。いわゆる就職氷河期世代の人々はもうすでに40代です。生涯未婚とか、生涯子どもなしとか、そういう人生にすでに突入した頃になってようやく支援と言い出す。この鈍感さは問題です。


支援策の内容は資格取得の支援とか、とにかく支援してやるから頑張って働け、頑張ってスキルを身につけて働け、と言っているようなものです。待遇の改善については見通しがありません。本当にこれらの人々の生活を支えたいと思うなら、時給1500円を保証するのがいちばん実効性のある政策でしょう。

あくまでも、就職すること、まともな賃金を得ることは基本的には自己責任であるということを堅持したうえでの支援策です。自己責任論の範囲でしか取り組もうとしていない。だから、実効性のある対策は出てこない。

――自己責任論は政治の世界ではいつから広がったのですか?

たとえば1990年代の末に小渕恵三内閣のもとで開かれた「経済戦略会議」の答申です。私なりにかみ砕けば、この答申は「今まで日本は平等すぎて活力がなくなった。だから自己責任の社会にしよう」と宣言したものです。

本当はまさしくこの時期に、すごい速度で格差が拡大していたのですが。この傾向が今でも続いています。格差対策を進めたいなら、まずは自己責任論を頭から追い出さないとダメです。

このニュースに関するつぶやき

  • 自己全責任は間違いだとは思うけど、自己全無責任は違うと思うの。
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  • 最近の、勉強したくない、学校に行きたくないから行かない、それの何が悪い?自由であるべきだ!みたいなのが貧困になるのは紛れもなく自己責任と思う https://mixi.at/abs2DLS
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