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問題発生時は「事後対応」を基本に――データ通信の「ゼロレーティング」 ルール作りが本格化

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2019年07月14日 07:12  ITmedia Mobile

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写真「ゼロレーティングサービスに関するルール検討ワーキンググループ」の第1回会合の開始直後
「ゼロレーティングサービスに関するルール検討ワーキンググループ」の第1回会合の開始直後

 携帯電話のデータ(パケット)通信のうち、特定のアプリやサービスに関するものの課金を免除(無料)とする「ゼロレーティング」サービス。日本でもこのサービスに対応するプランやオプションを提供する通信事業者が増えている。



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 しかし、日本ではゼロレーティングについて法令上の整理がなされていない。そこで総務省は「ネットワーク中立性に関する研究会」において議論を実施。ゼロレーティングに関するルールを検討すべく同研究会傘下に「ゼロレーティングサービスに関するルール検討ワーキンググループ」を設置した。



 ゼロレーティングサービスのメリットと課題はどこにあるのか。そしてその法令上のルールはどのような方向性となるのか。分かりやすく解説する。



(特に断りのない限り、この記事では大手キャリア(MNO)とMVNOをまとめて「キャリア」と呼ぶ)



●ゼロレーティングサービスの現状とメリット



 先述の通り、ゼロレーティングサービスは特定のアプリやサービスに関するデータ通信に課金をしないことが特徴だ。



 日本では2015年、NTTコミュニケーションズがMVNOサービス「OCN モバイル ONE」においてゼロレーティングサービスを導入。この時は自社で提供する一部のサービスが対象だったが、2018年4月から一部の音楽ストリーミングサービスもゼロレーティングに加えるオプションサービスを試験提供。8月からは事前申し込みの必要な無償オプションとして本サービスに格上げされた。



 現在では、他の一部MVNOでもSNSや音楽・動画ストリーミングサービスをゼロレーティングとするプランやオプションを提供している。さらに、MNOでも、2018年9月にソフトバンク、2019年6月にau(KDDIと沖縄セルラー電話)がゼロレーティング対応プランの提供を開始した。



 ある意味で、ゼロレーティングサービスがキャリアの“差別化要素”の1つとなっているのだ。



 スマホのスペック向上と通信ネットワークの高度化、音楽・動画ストリーミングサービスの発達に伴い、データの総通信量(トラフィック)は「幾何級数的に増加」(総務省資料:PDF形式)を遂げている。特にモバイル通信は、固定通信よりも増加ペースが速くなっている。



 当然、トラフィックが増えているということはユーザー1人当たりのデータ通信量も増えている。1カ月単位で割り当てられた容量を使い切る、いわゆる「パケ死」に直面するユーザーも少なくない。



 パケ死を避けるには、より上位のデータ容量を持つプランの変更(アップセル)も有効だが、上限があることには変わりない。データ通信を頻繁に行うアプリやサービスが明確なら、当該アプリ・サービスを対象に含むゼロレーティングサービスを契約した方が、出費をより抑制できる可能性もある。



 個々の事情次第な面もあるが、ゼロレーティングサービスはユーザーにもメリットがあるのだ。



 しかし、ゼロレーティングサービスには課題もある。



●ゼロレーティングサービスの課題



 ゼロレーティングサービスには、大きく「通信の秘密」「ネットワーク中立性」において課題があるとされる。この点はワーキンググループやその母体となった研究会でも指摘されている。



 しかし、研究会の構成員からはこれら2つに加えて、他にも考えるべき点があるという指摘があった。まとめて解説する。



課題1:通信の秘密



 ゼロレーティングサービスを提供する場合、キャリアは何らかの方法で契約者のデータ通信内容を把握しなくてはならない。手法は複数考えられるが、主立ったものを挙げると以下のものがある。



・IPアドレスやポート番号(通信先)をチェックする



・パケット通信の冒頭(ヘッダ)の内容をチェックする



・やりとりしているデータの中身をチェックする



 程度に差はあるが、いずれの手法もキャリア側で通信内容をチェックする必要がある。そのため、このサービスを提供すること自体が、日本国憲法や電気通信事業法上の「通信の秘密」を侵害する可能性がある。



 現状でゼロレーティングサービスを提供している事業者の多くは、このサービスを「正当業務行為」とみなすか、あるいは通信の秘密を侵害される当事者(契約者)から個別に明確な同意を取得した上で提供している。一方で「ゼロレーティングは正当業務行為と見なすのは困難」「契約者から個別に明確な同意を取るのは難しい」という立場からゼロレーティングサービス自体に否定的なキャリアもある。



 端的にいえば、ゼロレーティングサービスと「通信の秘密」の法的な整理がなされていない状態なのだ。



●「正当業務行為」とは?



 本来は違法行為に相当するが、業務を遂行する上でやむを得ないものは違法性がないものとみなし、処罰されないという考え方。



課題2:ネットワーク中立性



 特定のアプリやサービス“のみ”無料とすることは、対象外となるアプリやサービスを“不公平”に扱うということにもなる。



 “不公平”と聞くと真っ先に思い浮かぶのが「対象サービスだけ優遇する」ということ。ゼロレーティングサービスは対象サービスの通信量をカウントしないため、ある意味で確かに優遇を受けることになる。



 しかし、この“不公平”は「対象サービスが不遇を受ける」という形で表れる可能性もある。例えば「対象サービスはゼロレーティングだけれど、通信速度(あるいは音声や動画の品質)は制限する」ということは、現実的にあり得る。



 インターネットには、全ての通信やサービスを公平に扱う「ネットワーク中立性」という考え方がある。その観点からすると、ゼロレーティングサービスはネット中立性を阻害する可能性がある。



 少し視点を変えてみよう。アプリやサービスの提供者(コンテンツプロバイダー、以下「CP」)からすると、通信サービスで自社のアプリやサービスに関する通信が優遇されれば、ユーザーや収益を増やすチャンスでもある。一方で、キャリアにとってはCPから通信ネットワークの運用費用の一部を捻出してもらえれば、願ってもないことである。



 そこで出てくるのが「スポンサードデータ」という考え方。特定のアプリやサービスに関する通信料の一部または全部をCPが負担するという仕組みだ。筆者の知る限り、日本ではこのサービスを提供するキャリアはないが、海外では実際に運用しているキャリアも存在する。



 アプリやサービスの提供者はプロモーションの一環で通信料金を負担する。ユーザーは当該アプリ、サービスの通信料を減らせる。そしてキャリアは通信料収入を確実に増やせる――ある意味で“Win-win-win”なサービスといえる。



 しかし、広義でのゼロレーティングサービスともみなせるスポンサードデータは、同一キャリアのネットワークにおいて、資金力のあるCPと資金力の乏しいCPとの間でネットワーク中立性が損なわれる可能性は否定できない。



 要するに、広義でも狭義でも「ゼロレーティング」と「ネットワーク中立性」の関係はしっかりと整理する必要があるのだ。



課題3:ゼロレーティングの「透明性」「正確性」確保、広告表示



 大きく、ゼロレーティングサービスを提供する上での課題は「通信の秘密」と「ネットワーク中立性」の2つに集約される。だが、総務省のワーキンググループの構成員である東京大学大学院の中尾彰宏教授は、ゼロレーティングサービスには技術面でも課題があるという。



 あるMVNOサービスのゼロレーティングについて、中尾教授の研究室が実際の課金状況を調べた所、本来はゼロレーティング対象となるはずのアプリ(匿名)のほぼ全通信がカウント(課金)されてしまっている事例を確認できたという。



 また、2つのMVNOサービスでゼロレーティングの状況を調べてみた所、対象アプリであっても特定のサーバと接続した場合にカウントされてしまう事象も確認できたそうだ。



 通常、大規模なSNSや配信サービスでは、負荷軽減を目的としてコンテンツサーバを分散して多数設置している。同じデータを読み込む際にも、接続先サーバが都度変わる可能性もある。当然、設備の状況次第でサーバは増設されたり削減されたりすることもある。



 つまり、どちらの「誤カウント」事例も、課金ゲートウェイが新設されたサーバを「対象外通信先」とみなしてしまったことが原因と思われる。ゼロレーティング対象のアプリやサービスであっても、その仕様が変わると課金されてしまう可能性があるのだ。



 ユーザー側から見た場合、普通はデータの配信を受けるサーバが変わったことを検知するすべはない。ましてや、接続先のサーバが新しすぎてゼロレーティング対象外と見なされたなんて分かりようがない。



 このような現状から、中尾教授は「ゼロレーティングの正確性を高める取り組みと共に、適切な広告表示についても考えていく必要がある」とする。



 このような「誤カウント」について、一部のキャリアでは「対象サービスでも仕様変更で対象外と認識されてしまう場合がある」旨の注意喚起を行っている。



 しかし、ワーキンググループの構成員である英知法律事務所の森亮二弁護士は「(中尾教授の)資料の通りだとすると、誤差が生じうる旨が規約(約款)に書いてあっても、これだけ(誤差が)大きいと『優良誤認』とみなされる可能性が高い」と指摘する。



 優良誤認は、その名の通り商品が実際よりも優れていると誤認させてしまう表示や説明のことで、景品表示法第5条第1号で禁じられている。ゼロレーティングの宣伝方法も大きな課題といえる。



課題4:プラン選択の合理性確保



 中尾教授は「プラン選択の合理性確保」も重要だと語る。



 繰り返しだが、ゼロレーティングサービスは特定のアプリやサービスに関するデータ通信に課金をしないことが特徴……なのだが、プランとして提供される場合は通常の料金プランよりも月額料金が高めに設定される傾向にある。オプションサービスとしての提供であっても、有料提供であれば合計の月額料金は通常より高くなる。



 この時、「総データ通信量」と「ゼロレーティング対象通信量」を見比べることができれば「この通信量ならゼロレーティングプラン(オプション)じゃなくてもいいかな」とか「ここまで通信するならゼロレーティングプラン(オプション)にした方がお得だ」といった判断がしやすい。しかし、このような通信量の確認システムが全てのゼロレーティングサービスに用意されているわけではない。



 また、しっかりデータ通信量の見比べができる場合であっても、ゼロレーティングサービスを使わない場合の“有効な”選択肢を用意されてないと意味がない。オプションサービスとして提供されている場合はそれを解約すれば済むが、プランとして提供している場合、それに代わる“有効な”選択肢がなければ割高なゼロレーティングプランを半ば強制的に契約させられる状態になってしまう。



 ゼロレーティングプラン(オプション)をどうするべきか判断しやすく、不要な場合の有効な選択肢をどう用意させるのかも重要といえる。



●日本では「事後対応」による対応を原則とする



 ワーキンググループの母体となった研究会では、ゼロレーティングサービスの抱える問題について以下のような整理を行っている。



・ゼロレーティングサービスは萌芽(ほうが)的なサービスである



・一律に禁止するのではなく、予見性確保の観点から一定の判断基準を示す



・ケースバイケースで事例を検証・分析する



・問題が発生した場合は事後的に対応する





 この整理に基づきルール作りが進むと、EU(ヨーロッパ連合)における「オープンインターネット規則」「ネットワーク中立性ガイドライン」に近いものが策定される可能性が高い。



 ワーキンググループでは今後、ゼロレーティングサービスを提供しているキャリア、CP、消費者団体などからヒアリングを実施する予定となっている。



 その後、2019年内に電気通信事業法などの関連法令に対する基本的解釈と具体的ケースをとりまとめる予定となっている。



 日本でゼロレーティングサービスが始まって約4年。ようやくルール作りが本格化することになった。



 ユーザーの利便性や選択肢と、通信の秘密やネットワーク中立性をどう両立していくのか、議論の動向に注目したい。


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