父が息子を「刺殺」という最悪の結末も――中学受験で「子どもの人生を乗っ取る」親の愚かさ

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2019年07月14日 19:02  サイゾーウーマン

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サイゾーウーマン

Photo by mrhayata from Flickr

“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。

 日本人は儒教の影響もあり、昔から「家」や「家族」というものを重要視する傾向にあると言われている。そのため、家族は連帯責任という有形無形の圧力をかけられてしまいがちだ。

 その良い例が、有名芸能人の子どもの不祥事である。芸能人自身が起こした不祥事ではなく、しかも成人している子どもの罪なのに、世間という名の不特定多数に向けて、謝罪しなければ許されない状況に追い込まれていく現状がある。こういう謝罪会見を、私たちはもう何度目にしたことだろう。有名芸能人ばかりではない。警察官に重傷を負わせて、拳銃を奪った犯人の親が責任を取って、自らの職を辞したのは記憶に新しい。

 これらの出来事は欧米をはじめとした「個人主義」が当たり前とされている国々では驚きをもって受け止められているという。「子どもの人生と親の人生はまったく別物」という社会的コンセンサスがある国々では、成人年齢を遥かに超えている人間に対しても、親が延々と責任を取らなければならないという社会的圧力は、奇異に感じるものなのだろう。

 そういう風潮があるせいで、私たちはともすると「子どもの人生」と「親の人生」を混同しがちになるという危険性を孕んでいるのではないだろうか。成人している子であっても、親の責任を問うてくる世の中である。ましてや、未成年である子を育てている親は、余程注意深く、自身の言動を顧みていなければ、子どもの人生を乗っ取ってしまう可能性が大なのだ。

 中学受験ではその「可能性」が高まるということを親は肝に銘じておかなければならない。先日も「自分の母校に子どもを行かせたい」という理由で始めた中学受験で、結果、息子を刺し殺してしまった父親の裁判が始まったと、ニュースが報じられた。この父親は、息子に勉強させようと日常的に暴力を振るっていたそうだが、彼もまた自分の人生と子どもの人生を混同し、支配しようとしていたように見える。

 子どもの未来を応援するための中学受験で、最悪の結果になってしまったケースがこれであるが、殺人まではいかないにしても、中学受験において、子どもの心を壊してしまう例は枚挙にいとまがない。たとえ親が学校の先生といった専門家でも、我が子の勉強の面倒はみられないという話もよく耳にする。なぜなら、我が子ゆえに冷静にはなれず、「キレ」てしまうからだそうだ。両親どちらであっても、言葉も含め暴力は言語道断。子どもに取り返しがつかないダメージを与えてしまうので、絶対にやめていただきたい。

 以前、小学校5年生の克己君(仮名)の母親・リエさん(仮名)から、「夫が息子の勉強をみるにあたって、殴る蹴るの暴力を振るっている。どうすればいいだろうか?」という相談が筆者の元に入った。 聞けば、夫の茂さん(仮名)は高学歴であり、一流企業で働いているものの、仕事的にはうまくいっていない状況だという。

「夫はまるで、仕事でうまくいかないというストレスを息子にぶつけているかのようです。息子がため息をついただけでもビンタをしていますし、教えたところを間違えようものなら、もう……」

 リエさんは、「夫にとっては、私も克己も“所有物”でしかない」と感じていたそうだ。解決策として、筆者はまず離婚か別居を勧めたが、経済力がないという理由で二の足を踏んでいるということだった。であれば、とりあえずの手段として、父能研(父親が受験指導するという意味のスラッグ)を止めて、指導力が高い個別塾に、克己君を“緊急避難”させるように伝えた。塾に行っている時間を引き延ばすことで、父親との物理的接触を減らそうとしたのだ。

 そして同時に、塾の老練な先生に、茂さんを指導してもらうようにした。茂さんのようなタイプは、今の中学受験の実態並びに傾向と対策を論理的に筋道立てて教えられると、意外にもプロの言いなりになる場合がある。

 茂さんは見事にそれにハマってくれたのだ。その塾の先生は「茂さんの気持ちは解る」と共感した上で「古来より、優れた子にするためには、他人を師と仰ぐ方が効果的」という話をし、「お子さんを私に預けなさい」「預けたからには口出し無用」と説得したようだ。

 一方で、筆者はリエさんに、もっと強くなることと精神的・経済的自立を助言した。そんなこんなで3カ月ほどがたった頃、これはたまたまなのだが、茂さんに辞令が下りて海外赴任をすることになったのだ。リエさんは頑なに同行を拒否。こうして、晴れて、リエさんは克己君と弟の3人暮らしになった。

 リエさんは今まで、茂さんからの暴力を結果的に止められなかった非を心から克己君に詫びたそうだ。そして、「克己、ママはこれから強くなって、どんなことがあっても克己を守る。約束する。でも、克己の人生は自分のものなのだから、自分の好きなように生きなさい」とも伝え、受験をやめるように提案したという。

 しかし、克己君の答えはこうだった。

「このままやめたら、アイツ(茂さん)に殴られ損だろう?」

 克己君はそれから、なぜかスイッチが入ったが如く勉強に取り組みだし、結果、見事にS学園の特待生として合格した。将来の夢は、克己君を救ってくれた塾の先生のようになることだそうだ。

 リエさんは、もともと持っていた資格を生かして、再就職。さらにステップアップするために勉強中である。現在も海外にいる茂さんとは将来的には離婚するという意志を固めている。

 中学受験は親主導の受験ではあるが、やるのは子どもだ。自分の人生の1ページをどう描くのかは子ども自身が決めていくということは、中学受験も変わらない。親の役割は「安心安全な環境」での「見守り」だけだ。これが途切れた時に、中学受験は「家庭崩壊」を簡単に招いてしまうものであることだけは、お伝えしておきたい。
(鳥居りんこ)

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  • 「中学受験は親主導の受験」→5年生の終わりに関東に引っ越す際、父に「私立中を出てないと将来ホームレスになる」と脅されて受験させられたけど、父のイライラが本当にストレスだった���ä���
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